2014年4月10日木曜日

首相が高村説を完全踏襲 BSテレビで 公明党は否定的

 安倍首相は8日のBSテレビ番組で、1959年の砂川事件最高裁判決の「(国の)存立を全うするために必要な自衛のための措置」には集団的自衛権も含まれるとの高村説を、完全に踏襲する発言を行いました。
 
 高村副総裁の説については、青井美帆・学習院大教授「集団的自衛権の行使を認めない政府見解は1959年の砂川判決が出た後に固まった。いまさら砂川判決を持ち出して理解を求めるやり方には、相当な無理がある」※1し、長谷部恭男前東大法科大学院長「私が存じ上げるような学者の方でそういう議論をしている人はいない」、「集団的自衛権が憲法9条の下で否定されているというのは、実は砂川判決からも出てくる話」※2と、それぞれ完全に否定しています。
※1 2014年4月5日集団自衛権解釈変更 首相も砂川判決に言及
※2 2014年4月7日高村氏の主張は砂川判決をゆがめたもの+
 
 安倍首相が、既に否定しつくされた感じのある高村説をあえて持ち出したのは、安倍氏の私的懇談会がいずれそういう結論を出すのを見越して、その道ならしをしたのかも知れません(そもそも高村説自体が、懇談会の結論と連動したものである可能性もあります)。いずれにしてもその私的懇談会は、随分と時間をかけながら何んとも説得力のない議論を進めているものです。
 
 ところで安倍首相や高村氏が、その延長線上にある「集団的自衛権の限定的行使」を受入れさせようとしている与党公明党では、高村説は否定される一方であり、9日に行われた党内の勉強会でも高村氏に同調する意見は全く出ていないようです。
 
 東京新聞、NHKニュース、時事通信の記事を紹介します。
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55年前の砂川判決 首相「集団的自衛権含む」
東京新聞 2014年4月9日
 安倍晋三首相は八日の民放BS番組で、歴代政権が憲法九条の下で行使を禁じてきた集団的自衛権をめぐり、最高裁による一九五九年の砂川判決の解釈について「個別(的自衛権)も集団も入っている。両方にかかっているのが当然だ」と述べ、判決が認めた「(国の)存立を全うするために必要な自衛のための措置」には集団的自衛権も含まれるとの認識を示した。砂川判決を行使容認の根拠に、自民党内を意見集約したい高村正彦副総裁に歩調を合わせた発言で、自らが言及することで議論を加速させる狙いがあるとみられる。 
 
 砂川判決は自衛権の区別をしていないが首相は番組で「集団的自衛権を否定していないことは、はっきりしている」と指摘。「必要最小限の中に含まれる集団的自衛権もあるのではないかと(の議論が自らの私的諮問機関の)有識者懇談会でも主流的になりつつある。政府としては必要最小限の行使と考えている」と述べた。
 しかし、砂川判決は、集団的自衛権は行使できないという政府の憲法解釈が確定するより、はるか前に出されている。その判決を根拠に集団的自衛権は認められるとの論法には無理があるとの見方が野党や与党・公明党内には根強い。安倍政権が解釈改憲に前のめりになっていることを裏付ける発言だ。公明党の山口那津男代表は「判決は個別的自衛権を認めたものだ。集団的自衛権を視野に入れて出されたと思っていない」と主張。これに対し首相は番組で「裁判長の頭の中に(集団的自衛権の)概念があったのかは分からないところがあるということを(山口氏は)言いたかったと想像する」と述べた。
<砂川事件> 
1957年、東京都砂川町(現立川市)の米軍立川基地拡張に反対するデモ隊の一部が基地内に立ち入り、7人が日米安全保障条約に基づく刑事特別法違反の罪で起訴された事件。東京地裁は「米軍駐留は憲法9条違反で罰則は不条理」と無罪を言い渡した。検察側の跳躍上告を受け、最高裁は59年に一審判決を破棄し「わが国が、存立を全うするために必要な自衛のための措置をとり得ることは国家固有の権能の行使として当然」との解釈を示した。
 
 
公明 集団的自衛権巡る高村氏の認識を疑問視
NHK NEWS WEB 2014年4月9日
公明党の集団的自衛権に関する勉強会が開かれ、自民党の高村副総裁が、砂川事件の最高裁判所の判決を基に、必要最小限度の範囲に限定すれば、今の憲法の下でも集団的自衛権の行使は容認されるという認識を示していることに対し、疑問視する意見が出されました。
 
集団的自衛権の行使容認を巡っては、自民党の高村副総裁が、昭和34年に出された砂川事件の最高裁判決を引用して、「最高裁判所は『平和と安全、国の存立を全うするための自衛権の行使は、当然できる』と言っている」として、必要最小限度の範囲に限定すれば、今の憲法の下でも集団的自衛権の行使は容認されるという認識を示しています。
 
こうしたなか、公明党は9日夕方、国会内で集団的自衛権に関する勉強会を開き、砂川事件の最高裁判決などを巡って意見が交わされました。
この中で出席者からは「この判決を、今の憲法の下でも集団的自衛権の行使が認められているということの根拠にするのはいかがなものか」などと、疑問視する意見が出されました。
 
また、ほかの出席者が「判決では、集団的自衛権と個別的自衛権が区別されていないが、どう理解すればいいのか」と質問したのに対し、衆議院法制局の担当者は、「判決後に出されている政府の答弁などを踏まえれば、判決が言及しているのは個別的自衛権と解釈するのが一般的だ」と述べました。勉強会のあと北側副代表は記者団に対し、「砂川事件を巡って、最高裁判所で集団的自衛権の問題が論争になっていたわけではないので、判決で述べられている自衛権とは個別的自衛権のことだと理解している」と述べました。
 
西田氏 砂川判決は個別自衛権についての判断】
公明党の西田参議院幹事長はNHKの取材に対し、「砂川事件の最高裁判決は、確かに自衛権について集団的とも個別的とも書いていないが、これまで個別的自衛権についての判断だと解釈されてきた。また、『集団的自衛権の行使は、認められない』という政府答弁の積み重ねも重みを持っている。国家のありようを決めている憲法の3つの柱のうちの1つが恒久平和主義だが、その柱を短くしたり移動したりすると、家全体の形が変わってくるので、そこに住む国民に、きちんと理解してもらわないと大変だ」と述べました。
 
遠山氏 砂川判決以外にも積み重ね】
公明党の遠山衆議院議員はNHKの取材に対し、「砂川事件の最高裁判決には注目しているが、それ以外にもたくさんの議論の積み重ねがあるので、そういうところもしっかりと見ていかなければならない。いきなり集団的自衛権の行使が容認される必要最小限の範囲を議論することには、あまり意味がない」と述べました。
 
石井氏 個別的自衛権が主な論点】
公明党の石井政務調査会長は記者会見で、「確かに、砂川事件の最高裁判決では、自衛権を『個別的』と『集団的』とに分けては書いておらず、『自衛権に集団的自衛権が含まれない』とは言えない。ただ、当時は、自衛隊が発足して間がなく、存在そのものが違憲か合憲か議論されていて、個別的自衛権が主な論点だったと理解している」と述べました。
 
官房長官 報告書受け政府方針示す】
菅官房長官は記者会見で、集団的自衛権の行使を容認するための憲法解釈の変更について、政府の有識者懇談会から報告書が提出されたあと政府方針を示し、それに基づいて与党側と調整を行い理解が得られた段階で閣議決定したいという考えを示しました。
 (後 略)
 
朝鮮有事で米艦防護可能=井上公明幹事長
時事通信 2014年4月9日
 公明党の井上義久幹事長は8日夜のBS日テレの番組で、北朝鮮と交戦状態に入った韓国の救援に当たる米国の艦船が攻撃された場合、日本が防護することは現行の憲法解釈でも可能との認識を示した。
 井上氏は「周辺事態だと思う。放置すれば日本の安全保障に重大な影響を及ぼすのであれば、米艦が攻撃されるということは日本が攻撃をされるということと同じだ」と指摘。「個別的自衛権という観点で守ることは当然あると思う」として、集団的自衛権の行使には当たらないと強調した。