従軍慰安婦制度への旧日本軍や官憲の関与を認めて謝罪した河野洋平官房長官談話(1993年)について、石原信雄元官房副長官が、談話のもとになった元慰安婦とされる女性の証言の裏付け調査は行わなかったと明らかにしたことを捉えて、安倍内閣は「韓国人慰安婦証言の再調査」を行うことを決めました。
韓国側はそれに対して、「歴代内閣の歴史認識を継承すると言っていたのに、河野談話を見直そうというのか」と猛反発しました。当然のことです。
その後安倍首相はオバマ大統領から強硬に言われたために、「河野談話を見直すつもりはない」と軌道修正しましたが、第一次安倍内閣の時代から、軍が女性たちの強制連行を指示した文書は見つかっていないとか、韓国慰安婦の証言には矛盾があることなどを強調していました。
どうも韓国人慰安婦の証言を検証することは安倍氏の悲願のようなのですが、その検証のよって仮に信憑性に欠ける部分が出てきたとしても、従軍慰安婦が監禁されて性奴隷のような苦役を強制されていた「非人道性」という全体構造が、覆されるなどとということはあり得ません。従って慰安婦証言の再調査は、韓国民の感情を逆撫でするだけで百害あって一利もありません。
「河野談話」が出されてからも、学者や市民の努力によって数多くの新たな資料が発見され、多数の被害者からの聞き取りも行われて、研究が深められています。安倍首相は、そうしたことには全く目を瞑り、オランダの女性たちを強制連行し慰安婦にしたことを裁いた「バタビア軍法会議記録」さえも、軍部の強制性を示す資料ではないと強弁するありさまです。事実=真理に対する誠実性の欠如は愧ずべきことです。
3月8日に出された学者声明:「河野談話の維持・発展を求める学者の共同声明」への、賛同署名が1617人に達したことを、事務局の林博史教授らが31日、記者会見で明らかにしました。以下に記者会見の記事と声明文を紹介します。
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「河野談話」維持求める学者声明 1617人が賛同
しんぶん赤旗 2014年4月1日
日本軍「慰安婦」問題について「河野談話」を維持すべきだという点で一致する学者が同「声明」を企画した事務局の林博史関東学院大学教授らが31日、東京・学士会館で記者会見し明らかにしました。
林氏は、「『河野談話』の『見直し』『検証』は、中国や韓国のみならず、米国を含めた国際社会との関係でも深刻な緊張を引き起こす」と述べました。
「河野談話」は「慰安婦」制度が日本軍の関与の下、多くの女性の名誉と尊厳を深く傷つけたことを認めわびています。声明は同談話は、「同じ過ちをけっして繰り返さないという日本政府の決意を示したもの」だと指摘。「談話」で示された精神を具体化し、「被害女性の名誉と尊厳を回復することは、韓国や中国はもとより、普遍的な人権の保障を共通の価値とする欧米やアジア諸国との友好的な関係を維持発展させる」と指摘しています。
「声明」の呼びかけ人16人のうち、上野千鶴子立命館大学特別招聘(しょうへい)教授、岡野八代同志社大学教授、中野敏男東京外国語大学教授、和田春樹東京大学名誉教授が出席しました。
【声明文】 河野談話の維持・発展を求める学者の共同声明
この間、いわゆる日本軍「慰安婦」問題に関する1993年の「河野談話」を見直そうという動きが起きています。「河野談話」は「慰安婦」問題は日本軍の関与の下に多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけたものであることを認め、同じ過ちをけっして繰り返さないという日本政府の決意を示したものであり、これまで20年余にわたって継承されてきました。
「河野談話」が出されてからも、学者や市民の努力によって数多くの新たな資料が発見され、多数の被害者からの聞き取りも行われて、研究が深められてきました。 「慰安婦」の募集には強制的なものがあったこと、慰安所で女性は逃げ出すことができない状態で繰り返し性行為を強要されていたケースが多いこと、日本軍による多様な形態の性暴力被害がアジア太平洋の各地で広範に発生していること、当時の日本軍や政府はこれらを真剣に取り締まらなかったこと、など多くの女性への深刻な人権侵害があったことが明らかになっています。こうした日本軍による性暴力被害が、日本の裁判所によって事実認定されているものも少なくありま せん。
被害者の女性は、戦争を生き延びたとしても、戦後も心身の傷と社会的偏見の中で、大変過酷な人生を歩まざるを得なかった方がほとんどです。
「河野談話」で示された精神を具現化し、高齢となっている被害女性の名誉と尊厳を回復することは、韓国や中国はもとより、普遍的な人権の保障を共通の価値とする欧米やアジア等の諸国との友好的な関係を維持発展させるためにも必須だといえます。
私たちは、「河野談話」とその後の研究の中で明らかになった成果を尊重し、日本政府が「河野談話」を今後も継承し、日本の政府と社会はその精神をさらに発展させていくべきであると考え、ここに声明を発表します。
2014年3月8日
呼びかけ人(アイウエオ順)
阿部浩己 (神奈川大学教授・国際法)
荒井信一 (茨城大学名誉教授・歴史学)
伊藤公雄 (京都大学教授・社会学)
石田米子 (岡山大学名誉教授・歴史学)
上野千鶴子(立命館大学特別招聘教授・社会学)
内海愛子 (恵泉女学園大学名誉教授・日本-アジア関係論)
岡野八代 (同志社大学教員・西洋政治思想史)
小浜正子 (日本大学教授・歴史学)
小森陽一 (東京大学教授・日本近代文学)
坂本義和 (東京大学名誉教授・国際政治、平和研究)
高橋哲哉 (東京大学教授・哲学)
中野敏男 (東京外国語大学教授・社会理論・社会思想)
羽場久美子(青山学院大学教授・国際関係論、国際政治学)
林 博史 (関東学院大学教授・平和学)
吉見義明 (中央大学・日本現代史)
和田春樹 (東京大学名誉教授・歴史学)