衆知のとおり、憲法9条第1項では、「国権の発動たる戦争と武力の行使は、『国際紛争』を解決する手段としては永久に放棄する」(要旨抜粋)と謳われています。
安倍首相の私的懇談会である「安保法制懇」は、ここでいう『国際紛争』は全ての紛争ではなくて、『日本が当事者となる場合に限定される』とする、新たな解釈を政府に求める方針を固めたということです。
要するに『日本が当事者でない(=日本の領土問題などが絡まない)紛争であれば自由に武力が行使できる(=海外であれば自由に戦争できる)』という、驚くべき主張です。
これが日本人300万人余、東南アジアだけでも2000万人余の犠牲者を出した、太平洋戦争のあの惨禍を深甚に反省して生まれた戦争放棄の9条だったのでしょうか。あれだけ真摯に討議して制定した9条が、そんなヘンチクリンなものである筈がありません。
いったい「安保法制懇」は真面目さを持った組織なのかと疑われます。
真面目に取り上げることも馬鹿馬鹿しいような話ですが、無視して放置しておくというわけにも行きません。高知新聞が16日の社説で取り上げました。
一方、当の安倍政権は、解釈改憲の閣議決定に先立って策定する「政府方針」で、『日本と安全保障上、密接な関係にある国が攻撃を受けた場合』に、集団的自衛権が行使出来る、とする方向で調整に入ったということです。
そもそも戦争というのは一方だけが攻撃するということはあり得ず、当然反撃もされる=攻撃を受けるものです。そこで『密接な関係にある国』を予めオーストラリアや東南アジア諸国などに広げておけば、これまた自由に戦争に参加することが出来ることになります。
タネも仕掛けもありません。「安保法制懇」と同様、これほど「9条」から離れ世論から乖離した主張もありません。
「私的懇談会」にしても安倍内閣にしても一応は著名人の集団です。よくもこうした荒唐無稽な妄論を恥ずかしげもなく口に出来るものです。
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(社説)「紛争の解釈改憲」9条の空洞化がまた進む
高知新聞 2014年04月16日
安倍首相が設置した有識者による「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)が、憲法9条の新たな解釈変更を打ち出した。
9条が武力行使を禁じる「国際紛争」とは全ての紛争ではなく、日本が当事者となる場合に限定するという。そうなると、自衛隊の海外派遣に関する歯止めがなくなる恐れがある。
5月にも首相に提出する報告書に盛り込む方針だが、集団的自衛権の行使容認と同様、解釈改憲による9条の空洞化を進めることは認められない。
武力の行使について憲法9条1項は「国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と定める。
一方で自衛隊は、国連平和維持活動(PKO)やイラク戦争を機に海外での活動範囲を広げてきた。ただし、その際も「非戦闘地域」で活動し、「各国軍隊の武力行使と一体化しない」「武器使用も正当防衛などに限る」といった歯止めがあった。
憲法の平和主義との間で、ぎりぎりの調整を図ってきたといえる。
では「国際紛争」を限定するとどうなるか。
日本の領土問題が絡まない紛争に対処する国連軍などにも、憲法上の制約を受けずに自衛隊が参加できるようになる。その場合、他国軍の武力行使と一体化しないといった制約も消え、後方支援のみならず前線での活動も可能となろう。
むろん日本の領土が絡む紛争は従来通り、個別的自衛権の適用範囲だ。つまり極端に言えば、自衛隊は日本が当事者であるなしにかかわらず全ての紛争で武力を行使できることになる。
これはもう9条の解釈変更などではなく全否定ではないのか。
安保法制懇の考え方は、自民党の憲法改正草案に通じるものがある。
草案は9条1項が禁じるのは、国際法で一般的に違法とされる戦争と侵略目的による武力行使とする。それ以外の自衛権の行使や、国際機関による制裁措置は容認している。
こちらも自衛隊の国連軍への参加などを視野に入れていよう。武力による紛争解決は目指さないという9条の理念は変質すると言わざるを得ない。
国際紛争の限定化も集団的自衛権の行使容認も、日本の安全保障政策の大転換だ。それを解釈改憲で行う姑息(こそく)なやり方は許されない。国会での徹底論議を求める。
集団的自衛権「密接国攻撃」も 政府、防衛出動要件緩和へ
東京新聞 2014年4月16日
安倍政権は、集団的自衛権行使を容認する憲法解釈変更の閣議決定に先立って策定する「政府方針」で、「日本と安全保障上、密接な関係にある国が攻撃を受けた場合」とする条件を盛り込む方向で調整に入った。武力攻撃に対処する自衛隊の防衛出動要件も緩和する方向だ。安全保障担当の礒崎陽輔首相補佐官が16日、共同通信のインタビューで明らかにした。
行使を共にする相手国の条件を抽象的な表現にとどめ、オーストラリアや東南アジア諸国など、米国以外との連携にも含みを持たせた。防衛出動の要件は、日本への攻撃に限定せず、密接な関係の国が攻撃されたケースに自衛隊が出動できるよう改める。(共同)
安保法制懇、国際紛争の解釈限定 憲法制約、無実化も
共同通信 2014年4月12日
安倍晋三首相が設置した有識者による「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)は、憲法9条が武力行使を禁じる「国際紛争」について全ての紛争ではなく、日本が当事者となる場合に限定する新たな解釈を政府に求める方針を固めた。日本の領土問題などが絡まない紛争に対処する国連の集団安全保障は憲法上の制約を受けず、自衛隊の参加が可能となる。海外派遣に関する歯止めが有名無実化する恐れがある。
複数の安保法制懇メンバーが12日明らかにした。5月にも首相に提出する報告書に盛り込む。ただ国際紛争の新解釈は安全保障政策の大転換となるため政府は慎重に対応する考えだ。