高村副総裁が自民党議員の勉強会の講師をつとめた際に、1959年の砂川事件の最高裁判決(以下「砂川判決」と略称)を取り上げて、「この判決が私が知る限り最高裁が自衛権に触れた唯一無二の判決で、個別的、集団的を区別せずに自衛権を認めている(要旨)」という説明をしました。
砂川判決では「これ(=憲法9条)によりわが国が主権国として持つ固有の自衛権は何ら否定されたものではなく、わが憲法の平和主義は決して無防備、無抵抗を定めたものではない」としていますが、9条の規定にかかわらず、国に固有の自衛権があることが否定されないという考え方は、憲法制定のときから認められてきたものです。
従って「最高裁が自衛権に触れた唯一無二の判決」と持ち上げるようなものではないし、ましてその当時、集団的自衛権にまで自衛権の解釈を広げようという発想がなかったために触れなかったに過ぎないものを、「個別的、集団的を区別せずに自衛権を認めている」と拡大解釈されるべきものでもありません。
その点は与党の公明党幹部たちが「集団的自衛権も視野に入れた判決と思った人はいない」と反論しているとおりです。
砂川判決が集団的自衛権の解釈に影響を持ち得るかについては、青井美帆・学習院大教授の「集団的自衛権の行使を認めない政府見解は1959年の砂川判決が出た後に固まった。いまさら砂川判決を持ち出して理解を求めるやり方には、相当な無理がある」という解説に尽きています。
4日の国会で安倍首相が早速砂川判決に言及し、「政府も、このような見解を従来取ってきた」と強調したということですが、何んとも浅はかな話で、「従来取ってきた政府見解」に言及するのであれば、「集団的自衛権の行使は9条に違反する」となる筈です。
京都新聞は4日の社説で、高村氏の発言に対して「集団的自衛権の議論は、平和国家日本の歩みにとって、重大な岐路である。自説に都合のよい部分だけを過去の文章から切り出しては、混迷を深くするばかりだ。憲法の根幹にかかる問題だけに、文脈を読み違えてはなるまい」と、警告しています。
追記) 砂川判決(最高裁大法廷 田中耕太郎裁判長)については、日本政府とアメリカ大使の強い要求に、当時の田中耕太郎最高裁長官が応じる形でなされたものであったことが、近年公開されたアメリカ側の文書の中から明らかにされ、「司法権の独立を揺るがすもの」「現実政治追随」「対米追従」と批判されました。この最高裁の判決は、一審「伊達判決」の対極にあるものでした。
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集団自衛権、解釈変更で対応=砂川判決に言及-安倍首相
時事通信 2014年4月4日
安倍晋三首相は4日午前の参院本会議で、集団的自衛権の行使を可能にする憲法解釈の変更に関し、政府の有識者会議で「適切な形で新しい解釈を明らかにすることで可能であり、憲法改正が必要だとの指摘は当たらない」との意見が出ていることを紹介した上で、「法的安定性を損なうとは考えていない」と述べ、あくまで解釈変更の閣議決定で対応する決意を強調した。民主党の北沢俊美氏への答弁。
首相は、自国の存立に必要な自衛措置は認められるとした1959年の最高裁判決(砂川判決)に言及し、「政府も、このような見解を従来取ってきた」と強調した。砂川判決をめぐっては、自民党の高村正彦副総裁がこれを根拠に集団的自衛権行使の限定容認論を主張しており、自民党内に賛成論が拡大している。共産党の井上哲士氏への答弁。
先に閣議決定した武器輸出三原則に代わる防衛装備移転三原則については「積極的に武器輸出する方針に転換したものではない」と強調。「個別案件ごとに厳正かつ慎重に(移転の適否に関して)対処するとともに、しっかりと情報公開を図っていく」との方針を示した。公明党の石川博崇氏らへの答弁。
このほか、首相は冷え込んでいる中韓両国との関係に関し、「互いに努力していくことが重要だ」と述べ、歩み寄りを求めた。石川氏らへの答弁。
(社説)集団的自衛権 砂川判例はそぐわない
京都新聞 2014年04月04日
集団的自衛権をめぐる論争が錯綜(さくそう)気味だ。各党でさまざまな言葉の解釈や見解が飛び交うが、議論の浅さを露呈していると言わざるを得ない。
自民党は集団的自衛権の行使容認に向け議論を本格化させたが、党内から憲法の解釈改憲に慎重な意見が出ている。
そこで執行部は1959年の砂川事件最高裁判決を持ち出し、説得を始めている。高村正彦副総裁は「自衛権について個別的、集団的を区別せずに、国の存立を守るための措置は当然取りうる」と、「必要最小限度」の自衛権に集団的自衛権の一部が含まれる論拠にした。
だが、砂川事件の最高裁判例をあたかも司法の「お墨付き」かのように語るのは、そぐわない。
砂川事件は、米軍基地に反対するデモ隊が基地内に入り、7人が刑事特別法違反罪で起訴された事件だ。一審は、駐留米軍が憲法9条違反にあたると無罪にし、最高裁が一審判決を破棄した。
裁判の争点は「外国軍駐留の違憲性」であって、判決は自衛隊にまったく触れてもいない。戦力を保持しないとの憲法9条2項については、「自衛のための戦力の保持をも禁じているか否かは別として」と、判断を避けている。
中東と結ぶシーレーン(海上交通路)防衛や、公海上の自衛艦の活動を想定しているという今の議論と砂川事件当時では、時代背景も議論の文脈も隔たりが大きい。
集団的自衛権の議論は、平和国家日本の歩みにとって、重大な岐路である。自説に都合のよい部分だけを過去の文章から切り出しては、混迷を深くするばかりだ。憲法の根幹にかかる問題だけに、文脈を読み違えてはなるまい。
行使容認に慎重な公明党の山口那津男代表が「集団的自衛権も視野に入れた判決と思った人はいない」と高村氏の論法に反論しているのは、当然だろう。
自民党内でも、中谷元・副幹事長が「憲法解釈変更で乗り越えるのは無理がある」と述べた。政府は、こうした与党内の慎重な声に配慮し、有識者懇談会が憲法解釈変更についての報告書を提出する時期を来月に先送りするという。
集団的自衛権を具体的に議論するほど解釈や根拠につじつまの合わない面が生じ、論点が拡散している印象を拭えない。「必要最小限度」という言葉もあいまいで、海外での自衛隊の活動範囲が、なし崩しに広がる懸念がある。
生煮えの議論のまま、憲法の解釈変更に踏み切るべきではない。
集団的自衛権、憲法解釈変更で自公協議開始
産経新聞 2014年4月4日
自民党の高村正彦副総裁と公明党の山口那津男代表ら与党幹部が3日、東京都内のホテルで会談し、安倍晋三首相が意欲を示す集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈変更について協議を始めた。両党は政府の有識者会議「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」が報告書を提出する5月の連休明け以降、本格的な調整を始めることで一致した。
自民党幹部によると、会談は約2時間行われ、高村氏は「国の存立のため必要最小限度の範囲内なら、集団的自衛権は認められる」と限定的に集団的自衛権を認める自民党の基本方針を説明した。山口氏は個別的自衛権や警察権の行使での対応は可能との認識を示し、丁寧な議論を求めた。
会談には自民党の石破茂、公明党の井上義久両幹事長のほか、自民党の中谷元・元防衛庁長官、公明党の北側一雄副代表が同席した。
高村氏は首相との2日夜の会談で、速やかに公明党との協議に入るよう指示されていた。3日の与党協議はこれを受けたもので、首相は夏に想定している憲法解釈変更の閣議決定をにらみ、早期に公明党の理解を得る必要があると判断したようだ。
一方、高村氏は3日、古賀誠元幹事長、野田毅税調会長と会談し、憲法解釈変更に理解を求めた。慎重派の古賀氏は「限定的であれば容認はやむを得ない」と、高村氏の考えを容認した。ただ、適用範囲をできる限り絞ることも求めた。