米ソニーが製作した金正恩第1書記暗殺計画を描いたコメディー映画「ザ・インタビュー」は、同社などがハッカー攻撃を受けたとしていったんは上映見合わせを表明していましたが、急遽米国内の複数の劇場で公開されることになりました。
これについてオバマ大統領が「ハッキング犯は北朝鮮であり、アメリカは必ず報復する」と激越な調子で述べているニュースが、日本でも流されました。
FBIは金曜日(19日)に、北朝鮮がハッキング攻撃に関与していたと結論づけるのに十分な情報があるという声明を発表しましたが、北朝鮮がハッキングしたという主張を裏付ける事実も証拠も全く公開されませんでした。
オバマ大統領は、その日遅くの記者会見で、北朝鮮が行ったと責任をなすりつけながら、FBIの発表を引用したのみでした。
その後は米の各テレビ局は、ソニー攻撃に対する北朝鮮の責任は疑う余地のない事実だとして報じ、日本のテレビ局も勿論そのまま報じています。
それが米の「報復」によるものかどうかは不明ですが、今後北朝鮮に対して米がどのようなことも行いうる立場を「自ら」構築したことは事実です。
北朝鮮がハッキングしたということをアメリカ当局が特定した素早さには多くの専門家達が驚いているといいます。彼らはサイバー攻撃の源を特定する作業が如何に困難であるかを良く知っているからです。
たしか北朝鮮と特定した理由として、ハッキングのプログラムの中に北朝鮮特有の言語?が含まれていたと伝えられましたが、もしも北朝鮮が犯人であるならば、最も疑われることを自覚しているのにそんなヘマをする筈がありません。
ありえない話です。
Patrick Martin氏が“これはアメリカ帝国主義のプロパガンダのいつもの手口だ”とする記事をWSWS(「マスコミに載らない海外記事」が紹介)で発表しています。
その中で、直近のマレーシア航空機17便撃墜事件を含めてこれまで米が行ってきたプロパガンダの実例をあげて、米の自作自演乃至は北朝鮮への言われなき攻撃であることを示唆しています。
東京新聞、櫻井ジャーナルなど3つの記事を紹介します。
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米ソニー、北朝鮮映画一転公開へ 劇場限定、オバマ氏称賛
東京新聞 2014年12月24日
【ニューヨーク共同】ソニーの米映画子会社ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(SPE)は23日、北朝鮮の金正恩第1書記暗殺計画を描いてやゆし、いったんは上映見合わせを表明したコメディー映画「ザ・インタビュー」について、25日に米国内の複数の劇場で限定公開すると発表した。
SPEは自社へのサイバー攻撃や、クリスマスの25日からの上映を予定していた映画館へのテロ予告とみられる情報を踏まえ公開中止を発表したが、表現の自由を重視する観点などから批判が強かった。オバマ米大統領は23日、公開の判断を称賛した。
北朝鮮・ソニー事件、帝国主義プロパガンダのいつもの手口
マスコミに載らない海外記事 2014年12月24日
Patrick Martin (Wsws.org 2014年12月22日)
~ 間もなく皆様の身近な映画館で上映される『北朝鮮サイバー戦争』
アメリカ帝国主義プロパガンダ・ブロックバスター、ペンタゴン・エンタテインメントが参加し、アメリカ・メディア・パートナーとの協力で制作された、CIAピクチャー最新作『北朝鮮サイバー戦争』 ~
先週、主要新聞やテレビ局により無批判に再放送されている、引っ切りなしのアメリカ政府高官による全く根拠の無い主張に、アメリカ国民の注意を喚起するには、こういう惹句が有用だったろう。電撃攻撃の標的は、『インタビュー』の封切りを中止し、映画の公開も辞めることになった、ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントに対するハッキング攻撃を行ったとされた北朝鮮だ。
北朝鮮がハッキングしたという主張を裏付ける事実も証拠も全く公開されていない。孤立したスターリン主義政権は、CIAが、二人のアメリカ人ジャーナリスト(ジェームズ・フランコとセス・ローゲンが演じる)を雇い、金正恩が彼らのインタビュー受けることに同意した後、北朝鮮指導者金正恩を暗殺するというコメディーであるこの映画に対して、確かに敵対的だ。
しかし平壌は、対ソニー・ハッキング攻撃におけるいかなる役割も声高に否定し、土曜には、“でっち上げで、わが国を犯人にしようとする連中は誰であれ、具体的証拠を提示すべきだ。”と主張し、攻撃源の捜査で、アメリカ政府に協力すると提案した。この申し出は、いかなる証拠も提示していないワシントンにより、即座にはねつけられた。
FBIは金曜日に、北朝鮮がハッキング攻撃に関与していたと結論づけるのに十分な情報があると言う声明を発表したが、詳細説明はない。オバマ大統領は、その日遅くの記者会見で、北朝鮮が行ったと責任をなすりつけながら、FBI発表のみ引用した。
由来、アメリカ・マスコミでは、極めてわずかな例外を除き、出来事を、“初めての大規模な国家が支援する、アメリカ本土に対する破壊的コンピューター・ネットワーク攻撃”(ニューヨーク・タイムズ) あるいは“北朝鮮の、ソニー・ピクチャー・サイバー攻撃” (ウオール・ストリート・ジャーナル)として決まったように報じられている。各テレビ局は、ソニー攻撃に対する北朝鮮の責任は疑う余地のない事実として報じている。
破壊工作ソフト中に、朝鮮語コードが存在していることや、中国や台湾のサーバー利用は、多くの言語の複数ソースから断片的なコードを流用し、どこであれ見つけられた脆弱なサーバーを利用するハッカーにとって珍しいことではないという趣旨の、シリコン・バレーの安全対策専門家による発言を注意書きのように引用するのは、クリスチャン・サイエンス・モニターの自己裁量となった。
“ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントへのハッキングに対する北朝鮮の関与を、アメリカ当局が特定した素早さは、サイバー攻撃の源を特定する作業の大変な困難さを良く理解している多くの専門家達を驚かせた”とオンライン新聞は報じている。
平壌は、北朝鮮政府を不安定化させる狙いで、ワシントンから委託された挑発だとして、ソニーの映画を非難したが、この主張は、WSWSが土曜に触れた通り、おおむね事実だ。
映画公開中止直前に行われた、ニューヨーク・タイムズの注目に値するインタビューで、共同監督のセス・ローゲンは、軍・諜報機関と協力して映画を制作したことを認めていた。“このプロセスにおいて、我々は政府でコンサルタントとして働いている一部の人々と関係を作ったが、彼らはCIAの人々だと思います。”とローゲンは述べた。
北朝鮮-ソニー事件は、アメリカの軍事・外交政策を支持する行為なり、あるいは今回の場合、そうらしく思えるが、軍-諜報機関が、国民の関心を、自らの犯罪の暴露(先週の上院情報委員会によるCIA拷問に関する報告)から逸らしたいと思った場合、世論を操作する為に、アメリカ帝国主義が決まったように利用している挑発の最新例に過ぎない。
5カ月前、アメリカ政府とアメリカ・マスコミは、声をそろえて、298人が亡くなった、東部ウクライナ上空でのマレーシア航空機17便撃墜は、ロシア政府、あるいはロシアから武器を与えられた分離主義者の仕業だと主張した。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、大量虐殺に対する道徳上の責任者だという主張が、全力をあげてのプロパガンダ・キャンペーンの基礎となっている。だが大半の犠牲者の祖国オランダによって行われているMH-17惨事の公式調査は、航空機撃墜にロシアが関与した証拠を提示できるまい。
一年前、バシャール・アル-アサド大統領政権は、ダマスカス郊外でのアメリカが支援する“反政府”軍に対する神経ガス攻撃とされるものに責任があるとして、アメリカ政府とアメリカ・マスコミは同様な対シリア・キャンペーンをしかけた。オバマ政権は、アサドが越えてはならない一線を越えたと宣言し、対シリア空爆を命じたが、同盟諸国内の分裂、特に議会がそのような攻撃を支持しない投票をしたイギリスのおかげで、撤回せざるを得なかった。数カ月後、調査ジャーナリストのセイモア・ハーシュが、ガス攻撃はアメリカ介入の口実を作り出す為“反政府派”自身が仕組んだものだという証拠を暴露した。
この手法は、政権から政権へと続いている。クリントンは、1999年のセルビア爆撃の口実として、コソボにおける残虐行為とされるものを利用した。ブッシュは、2003年のイラク侵略の口実として、“大量破壊兵器”とアルカイダとのつながりという偽りの主張を利用した。オバマは、2011年のアメリカ-NATOによるリビア爆撃、そしてムアマル・カダフィ殺害で終わったCIAが支援するイスラム教主義者反乱の口実として、ベンガジで差し迫る虐殺を挙げた。
ここでは、間違いなく、いつもの手口が機能中だ。こうしたキャンペーンのいずれにおいても、アメリカ政府は、アメリカ国民を欺く為のプロパガンダを送り出すのに進んで協力する全く無批判なパートナーとして、アメリカ・マスコミを頼りにしている。テクニックは、標的にした国の指導者を悪魔化することで、金正恩とて、スロボダン・ミロシェビッチから、サダム・フセイン、カダフィ、アサドやプーチンに至る長い行列の新人に過ぎない。
いくつかの結論が引き出せる。公式ウソの巣窟で、挑発と、世界中における軍事破壊の大本ワシントンから発せられるいかなることも、決して信じてはならない。アメリカ合州国ほど、公式ウソに対し、臆面もなく無批判なマスコミはないのだから、単にあらゆるアメリカ・マスコミが繰り返すからといって、そうした報道を信じてはならない。
朝鮮を攻撃する口実にしている映画の製作、監督、主役を務めた人物は筋金入りの親イスラエル派
櫻井ジャーナル 2014年12月23日
アメリカの支配層、特に好戦派にとって朝鮮は大切な存在である。アジア大陸の東側は彼らにとって警戒すべき潜在的なライバルであり、友好的な関係を深められてはたまらない。この地域を不安定化させる道具として朝鮮は重要な仕掛けだ。
ロシアとEUの接近を阻もうとしているように、アメリカの支配層は東アジアでも対立を煽っている。そのために利用されているのが差別意識を埋め込まれた日本と挑発に乗りやすい朝鮮。その挑発に乗りやすい朝鮮を挑発する映画をソニー・ピクチャーズエンタテインメント(PSE)が製作した。
その映画が金正恩第一書記の暗殺をテーマにした「ザ・インタビュー」。デイリー・ビースト(ニューズウィーク誌系)によると、少なくとも2名のアメリカ政府高官は映画のラフ・カットを、つまり編集の途中で見て、6月の終わりには映画を有効なプロパガンダだとして賞賛していたとも報道されている。つまり、この映画の製作にアメリカ政府が関与していた。CIAが関与、DVDを朝鮮へ密輸しようとしていた可能性も高い。
今回のハッキングに関し、朝鮮側は共同調査を提案しているが、勿論、アメリカ側は拒否している。アメリカ政府はハッキングを問題にしているのではなく、ハッキングを口実にして東アジアを不安定化させようとしているだけのことだ。ロシアや中国の存在感が高まっていることをバラク・オバマ政権は懸念しているだろう。
ところで、問題の映画をプロデュースしたのはセス・ローゲン、エバン・ゴールドバーグ、ジェームズ・ウィーバー、監督はセス・ローゲンとエバン・ゴールドバーグ、主役はセス・ローゲンとジェームズ・フランコ。映画の中心的な存在はセス・ローゲンだと言えるだろうが、この人物の両親はイスラエルのキブツで知り合ったという親イスラエル派。セス・ローゲン本人も筋金入りの親イスラエル派で、ジャーナリストのウェイン・マドセンによると、イスラエル軍がガザで行った虐殺を支持、もうひとりの主役であるジェームズ・フランコも親イスラエル派だという。
ネオコン/シオニストと同じ立場ということだろうが、このグループはイスラム世界で自立の道を歩み、アル・カイダのような武装集団と対立していた体制を暴力的に倒してきた。ウクライナでネオ・ナチを使ったクーデターを仕掛けたのもこの勢力だ。そして今、東アジアの軍事的な緊張を高めようとしている。
(中 略)
そうした中、出してきたのが朝鮮をテーマにした映画の問題。この騒動を宣伝に利用、プロパガンダの効果を高めて映画を公開するらしいが、思惑通りになるかどうかは疑問。すでに映画の背景が知られ始めている。