2014年12月22日月曜日

「米艦の邦人輸送」の事例はイタイほど空想的 あすわか

 なぜかメディアは衆院選の結果を自民党の「圧勝」と書きたて、安倍首相は選挙に勝利したという認識で、開票の直後に、憲法改正に向けて進めることや安保関連法の制定や日米ガイドラインの改訂を口にしました。
 
 明日の自由を守る若手弁護士の会は「こんな状況だからこそ、集団的自衛権とはどういうものか、どんな問題があるのか確認しておく必要があるとして、安倍首相がイラストで国民に訴えた「邦人を輸送する米艦」護衛の問題を取り上げ、それが如何に非現実的なものであるかを説明しています。
 
 安倍首相のこうしたイラストによる説明の手法を、柳沢協氏も「安倍政権の特徴は、米艦に乗った日本人の母子を守らなくていいのかというたぐいの、誰も反対できないシンボルを使った世論誘導だと批判しています。
※  12月14日 安倍政権のやり方では議論は深まらない 
 
 赤子を抱く母親やそれを見守る祖父母たちを助けることに反対することは勿論出来ませんが、「日本人の母子」は、民航機が飛んでいるうちに返すのが政策のあり方なのに、わざわざ攻撃を受けるおそれがある軍艦に乗せるまで手をこまねいていたことに、最大の問題があるという点が捨象されているというわけです。
 
 安倍首相が何のためらいもなくああしたイラストで国民に説明したということは、上述の認識を全く持っていなかったからにほかなりません。単にこれを見せれば国民は納得するということで飛びついたのでしょう。
 そうなると「狡猾」という以前に「あまりにも幼稚」と評するしかありません。しかしそんな風な「飛び 飛び」の認識で政治が行われていいわけがありません。
 
 明日の自由を守る若手弁護士の会は、この問題についてより具体的に説明しています。
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今さら人に聞けない集団的自衛権
<「米艦の邦人輸送」の事例がイタイほど空想なワケ> 
明日の自由を守る若手弁護士の会 2014年12月21日
安倍首相は、通常国会で安保関連法の成立をめざすと言ったり日米ガイドラインの改訂をすすめると言ったり、集団的自衛権を行使できるように法律を整えようとしています。
こんな状況だからこそ、集団的自衛権とはどういうものか、どんな問題があるのか、確認しておく必要がありますね。
 
 安倍首相が事あるごとに、「だから集団的自衛権は必要なんだ」と言っている事例があります。
 「近隣諸国で紛争が起こって、逃れようとする邦人を輸送する米国の船が襲われたとき、その船を守れなくていいのか」...
 
5月15日に安倍首相が記者会見したときに、大きなパネルを使って説明していたのを覚えている方も多いんじゃないでしょうか。
このパネルです(リンク先はPDF)。
でも、この事例、ほんとうに現実的なものなんでしょうか?
 
① そもそも戦争になってる段階で日本の民間人が大量に朝鮮半島に残っている、という想定自体がありえない。
 外交が決裂し、国と国との関係が悪化し、戦争に発展しそうになったとき。
 国は、自国民の命を守るために、情勢が悪化し始めた段階で渡航制限や帰国を促したりします。
 海外旅行に行く前に、外務省のHPで確認することもありますよね?
なので、朝鮮半島で実際に戦争が勃発した時点で、日本の民間人が(しかもパネルの絵にあるような子どもたちが)残っている、
という想定自体が、実はけっこう非現実的です。
 
② 戦闘機が飛び交う海を渡らせる?
それでも現地に残っている邦人はいるでしょう。
しかし、まずは戦況が落ち着くまでは身の安全を確保していてもらう、というのが軍事的に常識です。
 戦闘機が飛び交い、いつ撃沈されるか分からない中で戦火をかいくぐって船に乗せ、海を渡らせることなどするわけがありません。
 軍事的に、非常識です。
 
③ ついでにいうと、臨戦状態の軍艦には武器・兵器が詰め込まれています。
 民間人が乗るスペースはありません。
 
④ 米艦は邦人輸送を事実上しない、と事実上宣言されています。
 報道もされましたが、日米の「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)に基づく周辺事態法を作る際、
アメリカ側の強い意向で、避難する日本人を米軍が運ぶ「非戦闘員救出作戦」(NEO)は拒否されたのです。
 
それもそのはずで、米軍は海外の自国民らを救出・保護する際のルールを
自分で決めています。
そこにはハッキリと国籍による4段階の優先順位があります。
  第1順位 米国のパスポートを持つ者(米国籍)
  第2順位 米国の永住許可証(グリーンカード)を持つ者
  第3順位 英・加・豪・ニュージーランド国民
  第4順位 その他
 
 日本は「その他」、順序としては最後なのです。
 韓国に居住している米民間人は14万人いますから、戦争になるまでに減っているとはいえ、日本人が実際に運んでもらえる日が来るまでには戦争終わってるんじゃないか、というほど、事実上、「米軍は日本人を輸送しない」のです
 
このように、安倍首相が説明する「米艦の邦人輸送」の例はとっても非現実的です。
こんな非現実的な例で集団的自衛権の行使を(憲法も変えずに)できるようにするなど、
あっていいんでしょうか?