衆院選では、次世代の党が壊滅的に激減し、維新の党、自民党などが現状維持乃至微減するなかで、共産党が躍進し、公明党が議席増を遂げました。
東洋経済オンラインが、「共産党と公明党が今回の総選挙の勝者だ」とする記事を載せ、その勝因を分析し今後の展開を展望しました。
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共産党と公明党が今回の総選挙の勝者だ
共産党の大躍進、公明党の議席増が持つ意味
安積 明子 東洋経済オンライン 2014年12月15日
(ジャーナリスト)
この度の衆院選で勝利を収めたのは、改選前議席を上回った自公政権ということになる。が、個別政党として勝者と呼べるのは、日本共産党と公明党だ。
共産党は議席数を8から21に激増させ、18年ぶりの小選挙区での当選と、念願の同党単独での法案提出権を手に入れた。また公明党も議席数を31から35まで増やしている。自民党が議席を減らしているため、与党は公明党のおかげで改選前議席を上回った計算になる。
ではなぜ、共産党と公明党が勝者になったのか。これは戦後最低といわれる52.67%の投票率(推定)のおかげもある。必ず一定の票数をひねりだす組織政党は、低投票率ほど有利になるからだ。しかしそればかりではない。戦略のうまさが見てとれる。
雇用不安に脅える若者を取り込み
衆院選の最終日である12月13日。最後の取材を新宿東口に選んだ。共産党が最後の街宣を行うことになっていたからだ。ちなみに昨年の参院選で、共産党の吉良よし子氏がマイク収めを行ったのと同じ場所だ。派手なドラムの音と支持者の応援する声が大きく鳴り響いていたことを覚えている。
予定時刻の午後7時半に新宿駅東口からロータリーに出ると、2~3名の若い男性がビラを配っていた。ブラック企業に関するチラシだ。その先を見ると、道路の脇に停められた街宣車の上で、志位和夫委員長が元気よく演説している。「私たち共産党がブラック企業規制法案を国会に提出したら、厚労省がさっそく5000社以上の立ち入り調査を行ってくれた」と、実績をアピールしていた。
雇用不安におびえる若者をターゲットにした共産党。その戦略は成功している。昨年の参院選で共産党は、東京選挙区で当時30歳の吉良よし子氏、大阪選挙区では当時36歳の辰巳孝太郎氏を擁立し、2人とも当選させている。これまでの共産党のイメージとは異なる、ビジュアル要素を取り入れた戦略だ。
その甲斐あってか、2014年5月から7月までの「躍進月間」には5100名が新規に入党し、その3割が39歳以下だった。雇用問題で悩む若年層をうまく取り込んだ結果だろう。
ちなみに雇用に関しては、民主党も重視している政策だが、そのアピールがうまくなかった。衆院選中に「夢は正社員になること!」というCMを作成したが、これが不評だった。民主党の主眼が支持母体である連合に置かれ、一般の若者の感覚と大きくずれてしまったのがその理由だろう。
それに比べて共産党は、若者の取り込み方が非常にうまい。まずは候補者にわかりやすくキャラ付けする。
「吉良はアイドル系だけど、池内はロック系。好きなバンドはスミスだ」。共産党関係者がいち押しするのは、東京12区から出馬した池内沙織氏だ。メガネをかけ、特にはパンク風に髪を逆立てるのは、同じ年齢の吉良氏と差別化しているところか。また既婚者なので、当選後に吉良氏のように男性問題で週刊誌ネタになる心配はない。
池内氏が当選したのは、今回の衆院選で共産党が東京ブロックで3議席獲得したためだ。アンチ公明票を青木愛氏と田母神俊雄氏が奪い合ったため、2位に躍進したことも話題になった。池内氏自身の票は共産党の組織票ばかりで、太田氏の半分程度。だが今後、太田氏を脅かすことになるかもしれない。
不破元委員長が9年ぶりに街宣
共産党は、若者ばかりでなく"老人パワー"もうまく活用した。12月10日、不破哲三元共産党議長が京都市四条河原町で演説したのである。
「いてもたってもいられなくなった」。84歳の不破氏が街宣でマイクを握るのは、実に9年ぶりだ。現役時代より白髪が増え、眉も白くなった。だがその声は張りがあり、話す内容によどみがない。安倍晋三首相の歴史認識を強く批判し、高らかに自共対決を宣言。そんな不破氏を一目見ようと、5200人もの聴衆が集まったという。現場の政治にはない「本物」を、有権者は求めているのか。
もう一方の勝者が公明党だ。今回、4議席も増やしたことは、公明党自身にとっても驚きだったに違いない。当初は議席減も予想されていたからだ。
「北海道10区の稲津久氏が危ない」。選挙戦の最中、常にそのように囁かれていた。苦戦の時は1面の記事に取り上げられることが慣例の公明新聞には連日、稲津氏の悲壮な表情が大きく掲載されていた。
実際に9名擁立した小選挙区の候補のうち、稲津氏の当選が決まったのは最後だった。背後のボードに掲げられた稲津氏のプレートに赤い花を付ける時、まだ比例区で3議席ほど決まっていなかったが、山口那津男同党代表の顔がほっとゆるんだのが窺えた。公明党にとって、決して楽な戦いではなかったのだ。
公明党は憲法改正への歯止め役に
「自民党がひとり勝ちするのは、我々にとって都合が悪い」。選挙戦の最中に公明党関係者と話した時、何名かは眉をしかめてこう言った。理由は自民党が公明党の数に頼らなくなり、憲法改正などに突き進むからだという。
またこんな声も聞いた。「自民党と選挙協力しても、ほとんど自民党の得になるだけ。我々の具体的メリットはあまりない」。要するに、自民党は選挙では協力者になりえないという意味だ。
一方で、自公連立によって自民党が受けるメリットは大きい。295選挙区の中に一定数存在する公明票だ。多くて数万、少なくて数千のその票は、もし公明党を敵にまわしたら、自民党の小選挙区の半分が壊滅するほどの破壊力を持っている。
そういう意味で、今回の4議席増は、公明党にとって思わぬボーナスになったに違いない。
事後に無所属の井上貴博氏(福岡1区)を追加公認して291議席を得た自民党は、「現状維持」と見るべきだ。ただし国民の目は2年前のような暖かいものではなくなった。しかも内閣支持率は下落気味で、不支持率は上昇傾向だ。いつ逆転するかわからない。
大きく議席を伸ばした共産党がどのように安倍政権を追い込んでいくのか、そして連立を組む公明党はどのようにサポートしていくのか。政局の目のつけどころは変わってくるのかもしれない。