五十嵐仁氏が「総選挙の結果をどう見るか」についてブログを書いていますので紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2014年総選挙の結果をどう見るか
五十嵐仁の転成仁語 2014年12月15日
昨日、注目された2014年衆院選の投開票が実施されました。その結果は以下のようになっています。これを、どう見たらよいのでしょうか。
自民 民主 維新 公明 共産 次世代 生活 社民 改革 無所属 合計
291 73 41 35 21 2 2 2 0 8 475
-2 +11 -1 +4 +13 -17 -3 ±0 ±0 -7
公示前 293 62 42 31 8 19 5 2 0 17 479
第1に、自民党は予想されていたような300議席突破はならず、当選前の293議席より2議席減らして291議席となりました。選挙中盤の予測によって「揺れ戻し」が生じたようで、選挙前よりも議席を減らしたわけですから勝利したわけではありません。
同時に、単独での安定多数を維持していますから、依然として強権的で強引な国会運営を行う基盤を得たことになります。「信任を得た」と言い張ってスピードアップする危険性もあり、これまで暴走してきた安倍首相にガソリンを注入するような形になってしまったかもしれません。
しかし、安倍首相は景気回復の一点に争点を絞って支持を求めており、今回の自民党への投票は「アベノミクスで景気が良くなるなら、もう少し様子を見てみよう」というもので、一種の「執行猶予」による支持であったと思われます。それを勘違いして、集団的自衛権や原発再稼働などで新たな「暴走」を始めれば、その時こそ大きなしっぺ返しを食らい、自民が全滅した沖縄の小選挙区のようなことになるでしょう。
第2に、公明党は選挙前の31議席から4議席増やして35議席になりました。その結果、与党では2議席増の326議席で衆院議席の3分の2を超え、参院で否決された法案の再可決が可能な勢力を維持しています。
与党としての勢力にほとんど変化はありませんが、その内部で公明党の比重が増えたことには意味があります。これまでの安倍首相の暴走に不安を感じた国民の一部が、「ブレーキ役」としての期待をかけたのでしょう。
しかし、それは錆びついていて十分に作動するとは限らないということは集団的自衛権の閣議決定に至る過程で示されており、関連法の改定でどれだけ効くかは不明です。消費再増税に際しての「軽減税率導入」という約束とともに、今後の対応が試されることになるでしょう。
第3に、民主党は選挙前の65議席から11議席増やして73議席になりましたが、予想されていたほどには議席回復がなりませんでした。党内には敗北感が漂い、小選挙区で当選できなかったばかりか比例で復活もできずに議席を失った海江田万里代表は辞意を表明しています。
有権者の期待を裏切って失望を買った民主党政権の後遺症を癒すにも、野党の再編や選挙協力を進めるためにも、2年間は短かすぎたということでしょうか。この点では、安倍首相による「今のうち解散」という戦術にまんまとはまってしまったということができます。
加えて、消費増税や原発再稼働、TPP参加などの政策には民主党も反対しているわけではなく、改憲についての党内の意見も割れており、安倍首相の暴走に対してブレーキなのかアクセルなのか不明だという曖昧さがあります。海江田代表のキャラクターもあって支持は盛り上がらず、維新の党から批判されるなど選挙協力は不発で、十分な結果を生むには至らなかったということでしょう。
第4に、このようななかで、一人気を吐いたのが日本共産党です。共産党は公示前の議席を倍増させただけでなく、小選挙区の1議席を含めて13議席も増やして21議席となり議案提案権を獲得しました。
今回の選挙で最も議席を増やしたのが共産党であったということからすれば、勝ったのは共産党で、今度の選挙は共産党のための選挙だったということができます。アベノミクスなど安倍首相が進もうとしている「この道」に対して、「もう少しやらせてみよう」と思った有権者は自民党に、「あまり行き過ぎては困る」という有権者は公明党や民主党に、「ブレーキをかけて止めてもらいたい」と考えた有権者は共産党に入れたということでしょう。
これまでも政策的には「自共対決」と言うべき構造が存在していましたが、今回の選挙での有権者の投票行動においても、これからの国会での勢力分野としても、一段と「自共対決」の構図が鮮明になってきたということができます。しかも、与野党の力関係はあまり変わらなかった一方で、野党内では「自民党野党支部」のような次世代の党が19議席から17議席も減らして2議席となるなど様変わりしており、共産党が活躍できる余地は格段に高まったと言えるでしょう。
与党で現状維持を達成したものの、自民党の議席を減らしてしまった安倍首相にとっては、「めでたさも中くらいなり」という心境かもしれません。それとも、野党内での応援団を減らして手ごわい強敵を増やしてしまったわけですから、「こんなはずじゃなかった」と思っているでしょうか。
選挙前にあった「何のための解散なのか」という疑問は、「何のための解散だったのか」という不満となって自民党内に高まるかもしれません。今回の選挙で自民党は議席を減らす一方で、逆に議席を増やしたのは共産党(13議席増)と民主党(11議席増)、それに公明党(3議席増)だけだったのですから……。