北朝鮮のミサイル発射試験に対し安倍政権はいつもの通り強く反応しています。
日刊ゲンダイが、軍事評論家 田岡俊次氏の「北朝鮮への“敵基地攻撃論”はタカ派の空論」とする論文を掲載しました。
北朝鮮は遂に「日本の米軍基地は標的」と述べるに至りました。安倍政権がこれまで極めて敵対的な反応を繰り返してきたことの反映です。しかし日本の米軍基地を攻撃すれば、米本土や出先の潜水艦からのミサイル攻撃を受けて北朝鮮は壊滅するのでそれはあり得ないことです。
6日のミサイル発射で日本の船舶に注意報が出されたのは発射の13分後でした。北朝鮮から日本に向けてミサイルを発射した場合は発射から約7分で着弾するといわれているので、日本のミサイル防衛は全く対応できません(仮に間に合ったとしてもミサイルはまず撃ち落とせません)。これまでにミサイル防衛費として1兆8000億円を投じてきたということですが、それは何に対してどう使おうというのでしょうか。
それで勢い「敵基地攻撃能力保有論」が出てくるのですが、そもそも弾道ミサイル発射基地は移動するので正確な位置が分かりようがないし、仮に分かったとしてもそのミサイルをどこに向けて撃つのかは事前には全く分かりません。仮に敵基地の一部が判明してそれを攻撃したとしても、残った発射基地から反撃されるので何の意味もありません。
敵基地攻撃論は空論に過ぎないという訳です。
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田岡俊次氏 「北朝鮮への“敵基地攻撃論”はタカ派の空論」
日刊ゲンダイ 2017年3月20日
北朝鮮は6日「スカッドER」とみられる弾道ミサイル4発を秋田、能登半島沖に同時発射、ミサイル開発の進展を誇示した。
これに対し日本で船舶に対する注意報が出たのは発射の13分後。ミサイルの飛翔時間は10分以下だから弾着の後だった。
菅官房長官は「事前通告なしに発射されたから、どこに飛ぶか察知は困難」と弁明したが、実戦で相手が発射を事前通告してくれることはない。日本のミサイル防衛費はすでに1兆8000億円に達するが、その効果が疑わしいことを示した。1発ずつ発射されるなら、迎撃の可能性もなくはないが、核弾頭付きと火薬弾頭付きをまぜて多数を一斉発射すれば突破される公算大だ。
このため「弾道ミサイルは発射前に破壊すべきだ」との「敵基地攻撃能力保有論」が政界に高まり、2月23日に発足した自民党の「弾道ミサイル防衛に関する検討チーム」でも、それが焦点となっている
だが、攻撃しようにも弾道ミサイルの精密な位置が分からない。偵察衛星は時速約2万7000キロで地球を南北方向に周回、地球は東西に自転するから、各地の上空を1日約1回、北朝鮮上空は1分ほどで通過する。飛行場や宇宙センターなどの固定目標の撮影はできるが、移動目標や隠された目標の監視は不可能だ。
静止衛星は赤道上空約3万6000キロの高度で周回するから、地球の自転の速度と釣り合って止まっているように見える。だが、地球の直径の2・8倍もの距離だけにミサイルは見えず、その発射時に出る大量の赤外線(熱)を感知できるだけだ。
日本が購入する米国製無人偵察機「グローバルホーク」(3機と地上機材で計約1500億円)はジェットエンジン付きのグライダーで、最大高度約2万メートルで約35時間飛行できる。これを北朝鮮上空で常に旋回させておけば、ミサイルを載せた自走発射機がトンネルから出るのを発見することも可能だろう。
■時間的に間に合わない公算が高い
だが、領空侵犯をすれば旧式のソ連製対空ミサイル「SA2」(最大射高2万5000メートル)でも容易に撃墜される。公海上空だけを飛ぶなら、主に北朝鮮北部の山岳地帯にひそむ弾道ミサイルは発見できない。
仮に発射機が出てきて弾道ミサイルを立てる光景を撮影できたとしても、それが日常の点検や訓練か、海に向け試射するのか、日本に発射するのか、他国を狙うのかは分からない。こちらが他の情報と突き合わせて分析したのち攻撃を決意しても、攻撃機の発進には15分はかかり、目標地点への飛行時間は1時間近い。
旧式の「ノドン」で発射準備に1時間、新型の「ムスダン」は10分程度とされる。日本海上の潜水艦から巡航ミサイル「トマホーク」(時速880キロ)を発射するとしても、目標の発見から命令までに時間を要するうえ、発射から弾着まで20分はかかるから間に合わない公算が高い。
また攻撃するなら、ほぼ同時にすべてのミサイルを破壊しないと相手は残った核ミサイルで反撃してくることも考えねばならない。
「敵基地攻撃論」は戦争を現実的、具体的に考えない「平和ボケのタカ派」の空論と言うしかない。
(3月15日・記)