先週衆院憲法審査会で今国会で初めての審議が行われ、「緊急事態条項」を憲法に設けるかどうかなどをめぐって意見が交わされたのを受けて、23日、緊急事態が起きた際に、『国会議員の任期を延長する特例を憲法に盛り込むべきかどうか』に限定して、3人の専門家から意見を聞く参考人質疑が行われました。
これについて、NHKは開催の趣旨を伝えたのみで内容には踏み込まず、しんぶん赤旗以外の各紙のデジタル版は大体10行程度の短い記事になっていました。その中で産経新聞がやや長い記事を出していますので、NHK、しんぶん赤旗、産経新聞の記事を紹介します。
安倍政権は、大規模災害に対応するためを口実にして憲法に「緊急事態条項」を盛り込むことを画策していますが、災害時の対応は既成の災害対策基本法などで十分であるとされていて、東日本大震災を経験した知事や住民たちからもそうした要求はなく、逆に大規模災害時には地方自治体への権限移譲が必要とされています。
緊急事態条項はそれを政府が宣言することでいわゆる「戒厳令」下の状況を作ることができるもので、人権を制限するほか政府が臨時に立法権も得るため、9条の改憲よりももっと危険であるといわれています。今回のテーマである「緊急事態時に国会議員の任期を延長」するのは、多数を占める与党がそれを根拠にして緊急事態宣言を取り下げるまで(いつまでも)その勢力を維持できるなどの問題が生じます。
どういう場合に緊急事態宣言を出せるのかが曖昧なことを含めて、自民党改憲案の「緊急事態条項」は隅から隅まで国民の権利圧殺で満ち満ちています。
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緊急事態で任期は? 衆院憲法審査会で参考人質疑
NHK NEWS WEB 2017年3月23日
衆議院憲法審査会で参考人質疑が行われ、大規模災害などに対応するための緊急事態条項のうち、緊急事態が起きた際に、国会議員の任期を延長する特例を憲法に盛り込むべきかどうかなどについて、3人の専門家から意見を聞きました。
衆議院憲法審査会では、先週、今の国会で初めての審議が行われ、大規模災害やテロなどに対応するため、政府の権限や国会のルールを定める緊急事態条項を憲法に設けるかどうかなどをめぐって、意見が交わされました。
23日の審査会では参考人質疑が行われ、首都大学東京教授の木村草太氏、弁護士の永井幸寿氏、防衛大学校教授の松浦一夫氏の3人が出席しました。
そして、緊急事態が起きた際に、国会議員の任期を延長することができる特例を憲法に盛り込むべきかどうかや、衆議院の解散権の在り方などについて意見を聞きました。
衆議院憲法審査会では、次の審査会の日程は決まっておらず、今後、与野党の幹事が協議を行うことにしています。
「任期延長は危険」緊急事態条項 大平議員に回答 参考人質疑
しんぶん赤旗 2017年3月24日
衆議院憲法審査会は23日、「参政権の保障をめぐる諸問題」をテーマに参考人質疑を行いました。永井幸寿弁護士、木村草太首都大学東京教授、松浦一夫防衛大学校教授が意見陳述しました。
自民党が改憲草案に盛り込んでいる「緊急事態条項」について、永井氏は戦争や大規模災害時に国に権力を集中させ「人権保障と権力分立を停止する」ものであり、「その危険性から日本国憲法にあえて設けていない」と説明。災害対処に必要なのは法律の運用による事前の準備と市町村の裁量を認めることであり、政府への権限集中ではないと述べ、「『災害をだしに憲法を変えるな』というのが被災者の思いだ」と強調しました。木村氏も「乱用の恐れがある」と述べました。
日本共産党の大平喜信議員は「国会議員の任期延長は国民主権の侵害ではないか」と質問。永井氏は「任期延長が国民の選挙に関する権限を奪う」「戦前、戦時体制(の推進)に任期延長が大きく寄与した教訓からも、任期延長は大変危険」と指摘しました。また、自民党などが被災地のために任期延長が必要と求めているのに対し、永井氏は「災害発生後の議員を選出し、被災地住民の意思を反映するべきだ」と述べました。
民進党や公明党の議員も「緊急事態条項」について、内閣に権限を集中することの危険性を指摘しました。
自民党の中谷元議員は、緊急事態に対応するために内閣の権限強化や任期延長などの規定が必要だと主張。永井氏は「想定外のために制度を設けても、その先にさらに想定外が生まれる。それを繰り返せば、結局は権限が強くなり、危険だ」と否定しました。
「緊急事態条項」は必要だと述べた松浦氏は、大平氏の質問に対し、「ドイツの基本法(憲法)は、自然災害には基本的には(連邦政府ではなく)ラント(州)が対応することになっている」と説明。永井氏は「ドイツの制度は、日本では法律で実現している」と述べました。
緊急事態条項など参考人質疑 衆院憲法審査会
産経新聞 2017年3月23日
衆院憲法審査会は23日午前、与野党6党が参考人質疑を行い、大規模災害と国政選挙が重なった場合の国会議員任期延長など、緊急事態条項と首相の衆院解散権をめぐり議論した。
議題は「参政権の保障を巡る諸問題」で、参考人は3人。
木村草太首都大学東京教授は、首相の解散権に関し「党利党略での解散を抑制するため何らかの制限をかけることが合理的」と述べ、解散手続きを定める法整備か、憲法改正による解散条件の明文化を提案した。
永井幸寿弁護士は、大規模災害対応を理由にした緊急事態条項の創設に反対。国政選挙が大規模災害と重なっても、衆院解散中に認められる参院の緊急集会や繰り延べ選挙で対処でき、国会議員の任期延長は必要ないと指摘した。
一方、松浦一夫防衛大教授は緊急事態条項を創設して任期延長を認め、衆院解散権を制限すべきだと強調。「緊急事態でも衆参両院が機能を維持し、国会が政府を監視するほうが安全ではないのか」と語った。
その後、各党の代表者が参考人に質問した。衆院憲法審の開催は今国会で2回目。参院では与野党間の調整が進まず、いまだ開催できていない
緊急事態条項に賛否 憲法審査会の参考人質疑
朝日新聞 2017年3月23日
衆院憲法審査会は23日午前、参政権の保障をテーマに参考人質疑を行った。緊急事態条項を新たに憲法に創設するかどうかで、参考人で賛否が割れた。
永井幸寿(こうじゅ)弁護士は、創設に反対を表明。前回の審査会で議論になった緊急時の国会議員の任期延長については、衆院の解散中に開かれる参院の緊急集会が憲法に規定されていることなどを理由に不要とした。その上で、「災害対策の法律は平常時から国会で整備しておくべきだ」と述べた。
一方、松浦一夫・防衛大教授は「日本ほど大災害が多発する国はまれ。諸外国にない災害緊急事態条項は必要だ」と主張。「大災害の場合、想定外の事態が生じる」として、参院の緊急集会や平常時の法律整備だけでは対応できないことを指摘した。
また、木村草太(そうた)・首都大学東京教授は「(災害時でも)任期の延長は非常に乱用されやすい制度になると指摘される。どのように歯止めをかけるかという議論も、併せて行って頂きたい」と述べた。
緊急事態条項、有識者の賛否割れる 衆院審が参考人質疑
日経新聞 2017/3/23
衆院憲法審査会は23日、「参政権の保障をめぐる諸問題」をテーマに参考人招致を実施した。自然災害やテロなどの緊急時に国会議員の任期延長を認める緊急事態条項の創設について、有識者3人の賛否は割れた。参考人質疑は2015年6月以来。
防衛大教授の松浦一夫氏は「賛成」と明言。南海トラフ地震や首都直下地震の発生が予測されていることを踏まえ「日本ほど災害が発生する国はまれだ。緊急事態条項の必要性が認められる」とした。
弁護士の永井幸寿氏は議員任期の延長に「反対」との立場を示した。衆院の解散中も参院が国会の機能を代行できる「緊急集会」で対応できると訴えたうえで「任期延長は国民の選挙の権限を奪う」と語った。首都大学東京教授の木村草太氏は、任期延長の期間について「内閣が好きに決定できれば乱用の危険が大きい」と指摘した。
憲法審、緊急事態条項創設に賛否 参考人質疑で専門家
中日新聞 2017年3月23日
衆院憲法審査会は23日「参政権の保障を巡る諸問題」をテーマに参考人質疑を実施した。憲法を改正し、大規模災害時に国会議員の任期延長を認める緊急事態条項を新設することについて専門家3人の賛否は割れた。首相の解散権の在り方についても意見聴取した。衆院憲法審での参考人質疑は2015年6月以来。
緊急事態条項の新設に関し、松浦一夫防衛大教授は「日本ほど大規模災害が多発する国はまれで、諸外国にはない災害緊急事態条項が必要だ」と訴えた。これに対し、永井幸寿弁護士は「災害対策で最も大切なことは現場だ。災害をだしにして憲法を変えてはいけない」と反対する意向を表明した。(共同)