2017年3月23日木曜日

23- 共謀罪の閣議決定に各紙が批判の社説

 かつて3度廃案になっている「共謀罪」法案が21日、新たにテロ対策の法案として化粧直しされたとして閣議決定されました。当初の安倍首相の説明に整合させるために無理矢理「テロ対策」の文言を盛り込ませましたが、法案の実態は別にそうではないのでまさに付け焼刃そのものです。
 
  朝日新聞は、化粧直しのポイントは(1)取り締まる団体を「組織的犯罪集団」に限定する(2)処罰できるのは、重大犯罪を実行するための「準備行為」があった場合に限る(3)対象犯罪を組織的犯罪集団のかかわりが想定される277に絞る、の3点であるものの、(1)は別に新たな制約ではないし、(2)の「準備行為」も何をさすのかが明確でなく既に重大犯罪には「予備をした者」を罰する規定があるがれと「準備行為」はどこがどう違うのか準備行為を把握するにはそれまでにどんな捜査が想定されるのかも不明だとしています。そして(3)については、これまで条約の解釈上600超の犯罪に一律に導入しないと条件を満たせないといってきたのに、今回一転して277に半減させるというのはご都合主義に他ならないとしています。
 
 そうした化粧を落としてしまえば、過去3度廃案になった旧態依然の悪法である「共謀罪」ということになります。安倍政権は「平成の治安維持法」と言われる「共謀罪」を、今度こそ多数をもって強行成立させようと企んでいます。
 
 東京新聞、しんぶん赤旗、新潟日報の社説を紹介します。
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【社説】「共謀罪」閣議決定 刑法の原則が覆る怖さ
 東京新聞 2017年3月22日
 政府が閣議決定した組織犯罪処罰法改正案の本質は「共謀罪」だ。二百七十七もの罪を準備段階で処罰できる。刑事法の原則を覆す法案には反対する。
 盗みを働こうと企(たくら)む二人組がいたとしよう。だが、人間というのは犯罪を共謀したからといって、必ず実行に移すとは限らない。現場を下見に行ったとしても、良心が働いて「やっぱり悪いことだからやめよう」と断念する、そんなことはいくらでもある。
 共謀罪が恐ろしいのは、話し合い合意するだけで罰せられることだ。この二人組の場合は共謀し、下見をした段階で処罰される。そんな法案なのだ。何も盗んではいないのに…。
 
◆当局の解釈次第では
 今回の法案では二人以上の計画と準備行為の段階で摘発できる。準備行為とは「資金または物品の手配、関係場所の下見その他」と書いてある。ずいぶん漠然としてはいないか「その他」の文字が入っているから、捜査当局にどのように解釈されるか分からない心配もある。
 犯行資金をATMで下ろすことが準備行為に該当すると政府は例示するが、お金を引き出すというのはごく日常的な行為である。それが犯罪なのか。どう証明するのか。疑問は尽きない。
 共謀罪の考え方は、日本の刑事法の体系と全く相いれない。日本では既遂を処罰する、これが原則である。心の中で考えただけではむろん犯罪たり得ない。犯罪を実行して初めて処罰される。未遂や予備、陰謀などで処罰するのは、重大事件の例外としてである。
 だから、この法案は刑事法の原則を根本からゆがめる。しかも、二百七十七もの罪に共謀罪をかぶせるというのは、対象犯罪を丸暗記していない限り、何が罰せられ、何が罰せられないか、国民には理解不能になるだろう。
 
◆現行法でも締結可能
 この法案は「キメラ」のようでもある。キメラとはギリシャ神話に登場する怪物だ。一つの体に獅子とヤギと蛇が組み合わさった姿をしている。目的である本体は国連のマフィア対策の条約締結だ。その体に「共謀罪」がくっつき、政府が強調する「テロ防止」がくっついている。
 安倍晋三首相は国会答弁で「東京五輪のために必要な法案だ」という趣旨の発言をした。これは明らかな詭弁(きべん)というべきである。そもそも日本はテロに対して無防備ではない。テロ防止に関する十三もの国際条約を日本は締結している。ハイジャック防止条約、人質行為防止条約、爆弾テロ防止条約、テロ資金供与防止条約、核テロリズム防止条約…。同時に国内法も整備している。
 例えば爆発物に関しては脅迫、教唆、扇動、共謀の段階で既に処罰できる。サリンなど化学物質などでも同じである。
 むしろ、政府は当初、「テロ等準備罪」の看板を掲げながら、条文の中にテロの定義も文字もなかった。批判を受けて、あわてて法案の中に「テロリズム集団」という文字を入れ込んだ。本質がテロ対策でない証左といえよう。
 「五輪が開けない」とは国民に対する明白な誤導である。本質は共謀罪の創設なのだ。
 確かに国連の国際組織犯罪防止条約の締約国は百八十七カ国・地域にのぼる。だが、そのために共謀罪を新設した国はノルウェーやブルガリアなどだけだ。むしろ国連は「国内法の基本原則に従って必要な措置をとる」ことを求めている。「共謀罪がなくとも条約の締結は可能だ」とする日弁連の意見に賛同する。
 
 そもそもこの条約は国境を越えて行われるマフィアの犯罪がターゲットだ。麻薬やマネーロンダリング(資金洗浄)、人身売買などで、テロ対策の条約ではない。少なくともこの条約締結のために、刑事法の大原則を覆してしまうのは本末転倒である。
 危惧するのは、この法案の行く末である。犯罪組織の重大犯罪を取り締まるならともかく、政府は普通の市民団体でも性質を変えた場合には適用するとしている。米軍基地建設の反対運動、反原発運動、政府批判のデモなどが摘発対象にならないか懸念する。
 
◆行く末は監視社会か
 専門家によれば、英米法系の国ではかつて、共謀罪が労働組合や市民運動の弾圧に使われたという。市民団体の何かの計画が共謀罪に問われたら…。全員のスマートフォンやパソコンが押収され一網打尽となってしまう。もはや悪夢というべきである。
 実は捜査当局が犯行前の共謀や準備行為を摘発するには国民を監視するしかない。通信傍受や密告が横行しよう。行き着く先は自由が奪われた「監視社会」なのではなかろうか。
 
 
主張「共謀罪」閣議決定 刑法原則に反する法案阻止を
しんぶん赤旗 2017年3月22日
 安倍晋三内閣は、国民の批判が日に日に高まっている「共謀罪」を導入する法案を、「テロ等準備罪」に名称を変えるなどして閣議決定しました。政府・与党は「対象犯罪を減らした」「条文のなかにテロの文言を入れた」「準備行為を要件とした」「組織的犯罪集団だけが対象」などの「手直し」をしたとしていますが、危険な本質は変わっていません。
 
人権侵害の「大網」かける
 今度の法案に「共謀」の言葉はありません。しかし、法案の「(犯罪の)遂行を2人以上で計画した者」との文言は、法律的には「犯罪を共謀した者」と全く同じ意味です。政府のいう「手直し」も、単なるイメージ戦略で、何の限定にもなっていません。十数年前に国会に提出され廃案になった当初の法案と本質は少しも違わず、まぎれもない共謀罪法案です。
 
 政府は、共謀罪法案は、国境を越えた物質的利益(金銭など)を目的とした犯罪集団の犯罪を防止するための条約(TOC条約)の批准が目的といいます。その批准には今回のような法律は必要ないのに、条約の文言を利用し、あらゆる重大犯罪の共謀をすべて処罰するという大きな網をかけ、国民の基本的人権を侵し、日本の刑法の考え方に真っ向から反する法律をつくろうというのです。
 共謀の処罰は、国家権力から個人を守る歴史に逆らうものです。近代的な刑法が確立する以前は、思想や信仰が処罰の対象になり、恣意(しい)的な刑罰が横行しました。日本でも、現行憲法が成立する以前は、思想・信条や言論が処罰され、また犯罪の恐れがあるとして、何もしていないのに「予防検束」をする制度までありました。
 
 これに対し現代の刑法は、犯罪が実際に行われた場合に逮捕したり、処罰したりするのが原則です。日本の現在の刑事法では、犯行に着手しても未遂であれば処罰されないものもあります。一部の重大な犯罪についてだけは、準備行為や予備行為などが処罰対象になります。共謀も、その「共謀した犯罪」が実際に行われた時に初めて処罰の対象になるわけです。しかし、“犯罪の相談をしているのだから予防のために検挙し、処罰してもいい”という、今度の共謀罪は、これらと全く異なります。
 
 共謀とは、相談し、計画に合意することをいうので、その場の “雰囲気” “勢い” だけで実際に合意など成立しないことも多々あります。仮に「合意」しても翌日取り消されるかもしれません。
 当事者だけの話し合いだけで、外部への行動がない段階の捜査は、個人の思想や内心の自由に深刻にかかわってきます。電話盗聴や盗撮などの人権侵害のやり方が横行し、さらには最高裁で違法とされたGPS捜査に頼るしかなくなります。また、おとり捜査を含む密告の利用など基本的人権を侵す恐れの強い手段も使われれば、冤罪(えんざい)の発生の可能性は高まります。監視社会への道は許されません。
 
4度廃案に追い込むため
 TOC条約の批准でいえば、それに限った法的対応を取ることは十分可能です。そもそも条約の批准は、各国の国内法を尊重して対応することが認められており、政府の口実は成り立ちません。
 過去3度廃案に追い込んだ共謀罪法案を4度阻止するため、世論と運動を広げることが重要です。
 
 
社説 「共謀罪」法案 なぜ必要か疑問に答えよ
新潟日報 2017年3月22日
 一般の人が対象となることはないのか。強い危惧を覚える。
 政府は、犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の新設を柱とする組織犯罪処罰法改正案を閣議決定し、国会に提出した。
 成立すれば、実行後の処罰を原則としてきた日本の刑法体系は大きく変わることになる。
 共謀罪は過去に3度、廃案となっている。捜査機関による乱用の恐れなどがあるとして、世論が強く反対したためだ。
 今回の法案も実質的には従来とほとんど同じ内容と言える。
 ところが政府は、2020年の東京五輪・パラリンピックに向けテロを含む組織犯罪を未然に防ぐために必要だと強調する。
 国際組織犯罪防止条約の早期締結を目指したいが、条約は締結国に共謀罪の整備を求めているというのである。
 しかし、そもそもこの条約はテロを想定したものではない。マフィアなどによる経済的な犯罪の撲滅を目指したものだ。
 政府は2001年の米同時多発テロ以降、条約がテロ対策の性格を帯びたと主張する。
 ところが今国会で「テロ等準備罪」の呼称を使用したものの、条文に「テロ」の文言がなかった。
 批判を受け急きょ挿入することを決めている。改正法案成立を急ぐために国民が受け入れやすい「看板」にした疑念は拭えない。
 
 法案では適用対象を「組織的犯罪集団」に限定し、政府はテロ組織や暴力団、麻薬密売組織などを例示している。
 2人以上で犯罪を計画し、このうちの少なくとも1人が資金の手配や関係場所の下見などの「準備行為」をしたときに、計画に合意した全員が処罰されることとなる。
 日弁連などは、犯罪主体がテロ組織などに限定されているとは言えず、市民団体や労働組合にも適用される余地があるなどと批判している。
 
 政府は「立証には高いハードルがあり乱用する恐れはない」と強調するが、これまでの議論で懸念が払拭(ふっしょく)されたとは言い難い。
 政府は当初、条約の規定に基づいて676の犯罪を対象とする方針だったが、公明党などの批判を受け277に絞り込んだ。
 過去には「犯罪の内容によって選別できない」との答弁書を閣議決定しており、整合性も問われるのではないか。
 
 共同通信の世論調査では「共謀罪」について反対が45・5%で、賛成の33・0%を上回っている。
 県内では、県弁護士会が法案の国会提出に反対する会長声明を出していた。
 新発田市議会は国に慎重審議を要請する意見書の提出を求める陳情書を採択し、柏崎市議会も「共謀罪」に反対する議員発案の意見書を採択する予定となっている。
 
 テロを未然に防ぐ対策を政府が講じることは必要だろう。だが条約締結については、現行法のままでも可能だという指摘もある。
 なぜ「共謀罪」が必要なのか、政府には十分な説明が求められる。「数の力」で採決を強行するようなことがあってはならない。