佐藤武嗣氏が「コロナ禍で上がる指導者の支持 例外は日本のなぜ」とする記事を出しました。
コロナ禍という緊急事態下で各国のまともなトップは軒並み支持率を上げています。それは、危機にある国家では指導者の下に結束しようという力学が働くからと見られています。
世界の指導者たちの中での例外が日本の安倍首相と菅首相で、どちらも支持率をどんどん下げました。
野口悠紀雄・一橋大名誉教授は、「危機下では政治家としての信念と自分の言葉、その両方とも必要だ」と具体的に語ります。それがなかったからでしょう。
記事中にハーバード大教授らが政治指導者のコロナ対応を分析し、危機下での悪しきリーダーの「本能的振る舞い」と、よきリーダーの「危機管理の素質」を「四つの教訓」にまとめたものが載っています(下記)。
《本能的な振る舞い》 《危機に必要な振る舞い》
① 追加情報を待ち、決定が遅い ⇔ 緊急(迅速)に行動する
② 脅威を軽視し悪いニュースを伏せる ⇔ 透明性をもってメッセージを伝える
③ 自分の行動の弁明に躍起になる ⇔ 自ら責任を負い、問題解決に集中する
④ 現状維持の姿勢 ⇔ 常に対応をアップデートする
菅首相の現状と対比すると実に良く理解でき、目からウロコの思いです。
やや長い記事のため一部を省略しました。全文(原文)には記載のURLからアクセスしてください。
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コロナ禍で上がる指導者の支持 例外は日本のなぜ
https://ml.asahi.com/p/000004c215/9100/body/pc.html
佐藤武嗣 朝日新聞 2021年1月31日
日本の外交・安全保障政策を立体的に捉える
国家が危機に見舞われた時、政治指導者はいかに国民の生命・財産を断固守る気構えを示し、国民に協力と団結を促すことができるか、その資質と力量が試される――。世界的に新型コロナウイルス感染症が猛威を振るうなか、世界の指導者はどう振る舞い、国民にどんなメッセージを届け、そして国民はそのリーダーにどのような視線を向けているのでしょうか。感染拡大への不安と、相次ぐ行動制限で、さぞ国民の不満がうっ積しているのかと思いきや、欧州など主要国の指導者の支持率は軒並み上昇しています。ところが、その例外が、日本です。その差はどこから生まれるのでしょうか。主要国の支持率データを調べ、その背景を外国の友人や日本の専門家に聞いてみました。危機下におけるリーダーの資質を見極める四つの教訓も紹介します。
(中 略)
米調査会社「モーニング・コンサルト」は、独自のオンライン調査で世界の主要国の大統領や首相の支持率を記録し、分析しています。世界保健機関(WHO)がコロナを「パンデミック(世界的大流行)」と認定した昨年3月11日から同月末まで、「コロナ初期」の9カ国の首脳の支持率を分析したところでは、英国、ドイツ、カナダ、豪州、フランスで首相の支持率は軒並み上昇。米国のトランプ大統領やメキシコのオブラドール大統領も微増しています。支持が下落したのは、日本の安倍晋三首相と、「ちょっとした風邪」などとコロナ対応を露骨に軽視したブラジルのボルソナロ大統領だけでした。同社の報告書では、日本は感染拡大が比較的抑え込まれていたのに「安倍首相の地位が悪化している」と、他国リーダーとの傾向の違いを特筆しています。
(中 略)
コロナ感染拡大の初期段階はともかく、昨秋には各国で感染拡大が深刻化し、死者も増大。ロックダウン(都市封鎖)などでお店の経営や市民生活が制限され、生活にも大きな影響を与えました。そうした昨秋以降の最近の支持動向はどうでしょうか。このメールの冒頭にあるグラフをご覧ください。調査対象国を13カ国に拡大した米「モーニング・コンサルト」の昨秋以降の調査では、それでも大半の国では支持率は横ばいです。韓国の文在寅、ブラジルのボルソナロ両大統領はやや下降。これまた例外は、9月に政権の座についた菅義偉首相の支持率でした。「支持率」から「不支持率」を引いた数値では、首相就任直後の昨年9月22日には、+34(支持56%、不支持22%)でしたが、今年1月21日段階で-35(支持27%、不支持62%)に急降下しています。
高支持率の指導者 どんなメッセージ
感染拡大は人々を不安に陥れ、行動や経済活動で不自由を強いられ、個人の生活までも破壊されかねない。いまだ大半の国がコロナと格闘中なのに、支持率が上昇・維持している国で指導者はいったいどんなメッセージを国民に出しているのでしょうか。不思議に思って、東京に滞在していたこともある豪州の友人で、政治学者(安全保障)のベン・シュリーア・マッコーリ大教授に連絡して聞いてみました。豪州のモリソン首相は、米モーニング・コンサルトの調査で、昨年2月には支持率32%と低迷していましたが、3カ月後に支持率は67%に急上昇。いまも高支持率を維持しています。
シュリーアさんによると、モリソン首相はコロナ前、豪州で拡大した森林火災への対応で有権者の不評を買い、支持が低迷。しかし、コロナ対応では「初期段階から、ウイルスの深刻さや慎重な対応が必要だと、明確でぶれのないメッセージを出した」。WHOによるパンデミック宣言直後に、戦時内閣のように、首相と左派・右派が入り交じる州の首相らによる初の「国家内閣」(National Cabinet)を立ち上げ、コロナ対策を徹底させるために、国と地方自治体の連携を強化。中道右派のモリソン首相ですが、頻繁に記者会見を開き、「(この危機下では)ブルーチームもレッドチームもない。労働組合も、経営者もない。いまはみなオーストラリア人で、大事なのはそれだけだ」と会見で訴え、党派を超えた連携と団結の必要性を強調。首相は「宿敵」の労働組合トップと会談し、経済的な救済策を協議しました。シュリーアさんは「(日本の)自民党の対応と異なり、党派を超えたコロナ対応の枠組みをつくることができた。豪州のビジネス界も、医療制度を圧迫するコロナは豪州経済を破壊しかねず、容認することはできないと早急に(政府対応に)理解を示し、主要野党の労働党も連邦政府の対応に反対しなかった」と解説してくれました。
それでは、「世界の例外」として、日本の指導者の支持率が危機下で下落するのはなぜなのでしょうか。一橋大名誉教授(経済学)の野口悠紀雄さん(80)にウェブでインタビューしました。野口さんは、危機下では「政治家としての信念と自分の言葉、リーダーには、その両方とも必要だ」と語ります。強調したのが、ドイツのメルケル首相と日本の安倍・菅首相の比較でした。メルケル首相の演説は「国民には危機と恐怖に耐え抜いてほしい、自分も全力を尽くすという、非常に感動的なメッセージだった」。メルケル首相の演説は、ドイツ以外でも多くの国でニュースとしてとりあげられました。
WHOのパンデミック宣言からわずか1週間後のテレビ演説で、「事態は深刻です。皆さんも深刻に捉えていただきたい。ドイツ統一、いや第2次世界大戦以来、我が国における社会全体の結束した行動が、ここまで試された試練はありませんでした」と訴えました。さらに、国民や事業者に不自由を強いることについて、「日常生活における制約が、いかに生活や民主主義に対する重大な介入であるかも承知している。民主主義においては、決して(こうした介入は)安易に決めてはならず、決めるのであれば、あくまでも一時的なものにとどめるべきです。しかし、今は命を救うためには避けられないことなのです」と理解を求めました。
(中 略)
ひるがえって日本のリーダーはどうでしょうか。野口さんは、安倍前首相がSNSに投稿した、犬と戯れ、コーヒーを口にする「うちで踊ろう」の動画に愕然(がくぜん)としたと言います。「あの動画からは、コロナ感染で入院もできない国民の不安を理解しているとは到底思えない」と語りました。菅義偉首相は当初、「移動だけでは感染しない」と強弁していましたが、昨年12月に観光支援事業「Go Toトラベル」の全国一時停止を表明。しかし、その夜に8人で都内のステーキ店で会食。日本医師会の中川俊男会長から「緊急事態宣言下においては、全国会議員の夜の会食を人数にかかわらず、全面自粛してはどうか」と諭されました。
「メルケル首相は自ら信念を持ち、それを自分の言葉で語るのでメッセージが伝わる。日本の安倍さんや菅さんは、その対応策を見ても、信念がどこにあるのか分からず、自分の言葉でも語れない。会見でもペーパーを読み上げているだけでは伝わらない」と手厳しく批判します。
よきリーダーとあしきリーダー 四つの教訓
旧大蔵省出身の野口さんは政府のコロナの経済対策にも苦言を呈します。安倍政権での「アベノマスク」配布や一人一律10万円の特別定額給付金について「本当は救済が必要な人たちに集中的につぎ込むべきなのに、全国民対象に巨額の給付金を出す必要があったのか」といぶかります。菅政権でのGo Toトラベルも「飲食や宿泊の零細が経営で困っているのに、Go Toで恩恵を受けるのは主に大企業。その利用者も、生活に余裕があって旅行に行ける人。そういう人々に補助を与えている」。「困窮する人を救済するというより、一部の利益団体への支援と国民の人気取り。人気取りを狙っているのに、支持率が下がるというのは、皮肉なことです」と語りました。
米ハーバード・ビジネス・レビュー誌電子版に昨年4月に掲載された、ハーバード大教授らの「What Good Leadership Looks Like During This Pandemic(コロナ禍でのよきリーダーシップとはどんなものか)」という分析記事があります。「新型コロナ感染症は世界で猛威を振るい、いまだに先の見えない状況が続いている。事態悪化を防ぐために、リーダーには慎重かつ大胆な決断が求められるが、それを実践できる人とできない人は何が違うのか」。そんな問いに答えるべく、政治指導者のコロナ対応を分析し、危機下でのあしきリーダーの「本能的振る舞い」と、よきリーダーの「危機管理の素質」を、下記のように、それぞれ「四つの教訓」としてあげています。これを日本の政治指導者にあてはめるとどうでしょうか。
《本能的な振る舞い》 《危機に必要な振る舞い》
① 追加情報を待ち、決定が遅い ⇔ 緊急(迅速)に行動する
② 脅威を軽視し悪いニュースを伏せる ⇔ 透明性をもってメッセージを伝える
③ 自分の行動の弁明に躍起になる ⇔ 自ら責任を負い、問題解決に集中する
④ 現状維持の姿勢 ⇔ 常に対応をアップデートする
コロナは指導者の弱点をあぶりだしているのかもしれません。発生当初は、安倍前首相が「日本モデルの力を示した」と胸を張っていました。そこには世間体や規律を重んじる日本人の国民性があったのかもしれません。ただ、いまではそれも崩壊し、「日本モデル」という言葉も聞かなくなりました。コロナ克服には、政治指導者と国民の「一体感」がカギを握っているように思えます。その溝が大きいなかで、自らは範も示さず、後手後手、ちぐはぐな対策を繰り返す。自らの対応のまずさを棚にあげ、新型コロナウイルス対策の特別措置法の改正では、国民や事業者に「罰則」を課そうとしている。「一体感」どころか、ますます「溝」が広がり、コロナ克服の先行きが一層見えなくなる気がします。