東北新社勤務の首相の長男から違法接待を受けた疑惑を国会で追及されている総務省幹部4人は、これまで「国家公務員倫理審査会による調査が行われている」ことを理由に説明を拒んできました。しかし野党から「調査の間は国会に説明してはいけないという規定があるのか。人事院がそう指導しているのか」と聞かれた人事院の同審査会事務局員が、「対外的に発言することを禁止した規定はないし、審査会が指導したこともない」と明確に否定すると、答弁拒否の口実がなくなった官僚たちは、今度は「記憶にない」を連発しているということです。しぶといとも言えますが、これまで菅氏の意に反する言動をすると容赦なく左遷させられる現実を見て来たのですから、むしろ哀れと見るべきかも知れません。
実際に日刊ゲンダイは、原則を明示することによって「審査中だから」という口実を否定した審査会事務局員の今後の身の上を心配する記事を出しました。自分の意に沿わない質問をしたとしてNHKの有馬キャスターを、衆人環視のなかで平然と降板させる人間であれば、当の担当者にもどんな災難が降りかかることか予断を許しません。
総務省は12日の衆院予算委で、同省幹部4人が首相の長男と延べ12回にわたって会食し、直近の会食ではタクシー券や手土産を受け取ったことを明らかにしました。国家公務員倫理規程に違反し処分対象となる可能性があります。
立民の後藤祐一議員は、長男の勤務先の関連会社が衛星放送の認定を受けた18年当時、情報流通行政局長だった山田真貴子内閣広報官が長男と会食したか調査するよう求めました。 山田真貴子氏は菅政権発足時に内閣広報官に登用された菅氏お気に入りの官僚で、NHKの有馬キャスターの降板に関与したと見られています。
この件については13日付のLITERAが取り上げています。やや長文のため、興味のある人は下記から原記事にアクセスしてください。
⇒(LITERA 2月13日)“違法接待”菅首相の長男のCS放送を総務省が特別扱い! 当時の総務省責任者はNHKに圧力、有馬キャスターを降板させた山田内閣広報官
東京新聞の記事を紹介します。
併せて日刊ゲンダイの記事「菅首相長男めぐる疑惑で人事院“調査中で拒否NG”断言の波紋」を紹介します。
そこでもやはり「本当のことを言えば飛ばされる」として、「今回も『調査中の発言は禁止されていない』という人事院の見解が修正されるのかどうか。政治家と官僚の矜持が問われている」と述べています。
ところで菅首相は好きな作家としてマキャベリを挙げたと言われています*。「君主論」を著わし俗に権謀術数の人として知られる人物を公然と挙げるのは大いに珍しいことです。
*(20.10.21)菅首相のベトナムでのスピーチが恥ずかしすぎる(LITERA)
その流儀に染まり切っていて何の違和感も持たなかったとすれば尚更驚きで、いずれにしても良識からは遠い話です。
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<首相長男の接待問題>
総務省幹部4人 会食12回、タクシーチケットと手土産受け取りも認める
東京新聞 2021年2月12日
総務省は12日の衆院予算委員会で、同省幹部4人が放送事業会社に勤める菅義偉首相の長男と延べ12回にわたって会食し、直近の会食ではタクシー券や手土産を受け取ったことを明らかにした。国家公務員倫理規程に違反し処分対象となる可能性がある。原邦彰官房長が立憲民主党の森山浩行氏の質問に答えた。(上野実輝彦)
原氏によると、首相の長男との会食は、これまで政府が認めた秋本芳徳情報流通行政局長と湯本博信官房審議官のほか、谷脇康彦、吉田真人両総務審議官も行っていた。4氏は会食の費用負担について「精査中」とした。直近の昨年10~12月の会食でのタクシー券や手土産の受領は認めた。それ以前は「記憶がない」などとした。
吉田、秋本、湯本3氏が会食した昨年12月は、長男の勤務先が手がける衛星放送の認定の更新時期だった。国家公務員倫理審査会事務局の担当者は本紙の取材に、秋本、湯本両氏が、国家公務員に利害関係者との癒着を禁じた倫理規程に違反する可能性が高いと指摘。谷脇、吉田両氏も業務内容が放送と関連していれば、違反に当たり得るとした。
立民の後藤祐一氏は、首相長男の勤務先の関連会社が衛星放送の認定を受けた2018年当時、情報流通行政局長だった山田真貴子内閣広報官が長男と会食したか調査するよう求めた。武田良太総務相は「多くの疑念を招きおわび申し上げる。正確な事実が確認できたものから(国会に)提出する」と語った。
菅首相長男めぐる疑惑で人事院“調査中で拒否NG”断言の波紋
日刊ゲンダイ 2021/02/13
国会では、放送事業会社に勤める菅首相の長男が、許認可権を握る総務省の幹部4人に違法な接待を重ねていた疑惑で新展開だ。
現在、この問題が国家公務員倫理法に抵触するかどうか、人事院の国家公務員倫理審査会による調査が行われている。それを理由に、総務省幹部らは国会での説明を拒んできた。参考人として呼ばれても、「調査中なので回答は控える」と繰り返してきたのだ。
ところが、この言い訳が崩れた。10日の衆院予算委員会で、野党から「調査の間は国会に説明してはいけないという規定があるのか。人事院がそう指導しているのか」と質問されると、人事院・国家公務員倫理審査会の事務局長は「対外的に発言することを禁止した規定はないし、審査会が指導したこともない」と明確に否定。役人が「調査中」を盾に回答を拒否してきたのはデタラメで、何の根拠もないことがハッキリしたのだ。これがアリの一穴になり、疑惑解明は進むのか。
「安倍前政権から、調査中や捜査中を理由に説明を拒む事例が続出していますが、国会は憲法が定める国権の最高機関であり、国政調査権を持っている。自身が起訴されているならともかく、行政の調査を盾に説明や資料提出を拒否する正当性はどこにもありません。回答拒否は審議妨害と言っていい。政府・与党と官僚が一緒になって国会の機能を形骸化させ、行政のやりたい放題を許している現状は、民主主義にとって深刻な事態です」(立正大名誉教授の金子勝氏=憲法)
10日の予算委で、「調査中」が使えなくなると、総務省幹部は「記憶にない」を連発。菅首相に対する忖度なのか、長男との会食回数や放送事業の認定更新が話題になったかなどについて、結局マトモに答えようとしなかった。
本当のことを言うと飛ばされる?
そうなると、気になるのが人事院の担当者の処遇だ。事務局長はごく当たり前の原則を明示しただけなのだが、それで菅首相の怒りを買い、飛ばされないか心配になる。
昨年、検察官の定年延長問題で「検察官に国家公務員法の定年制は適用されない」と当たり前の回答をした人事院の松尾恵美子給与局長(当時)は、その後、安倍前首相の答弁に合わせて、「つい言い間違えた」と発言を撤回・修正。そのご褒美なのか、今年1月の人事で女性初の事務総長に昇進している。
今回も、「調査中の発言は禁止されていない」という人事院の見解が修正されるのかどうか。政治家と官僚の矜持が問われている。