志位委員長による「N高政治部」特別講義 紙上再現シリーズの5回目です。
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「N高政治部」 志位委員長の特別講義(5)
日本の危険性、可能性 共闘、連帯にこそ希望がある
しんぶん赤旗 2021年2月25日
続いてBグループの生徒からの質問に、志位委員長が答えました。
生徒 Bグループからは次の質問をさせていただきます。日本で一番長い政党である共産党から見て、今の日本はどのような可能性、または危険性を持っていると思いますか。私が生きているよりも長い間、委員長を務めていらっしゃいますが、その経験を踏まえて今後10年の日本はどうなると思いますか。
「危険性」――安保法制強行と立憲主義の破壊は、独裁政治に道を開く
志位 「危険性」という点で、私が一番危ないと思っているのは、さきほどお話しした安保法制の動きです。どういうことかというと、立憲主義という国の土台が壊されてきているということです。
立憲主義というのは、個人の人権を守るために、「憲法によって権力をしばっていく」という考え方です。どんな権力も、勝手なふるまいをしてはならない、憲法は守らなければならないという考え方です。その立憲主義が安保法制を大きな契機にして壊されてきています。
「憲法9条のもとでは集団的自衛権は行使できない」というのは、戦後半世紀以上の政府の一貫した憲法解釈でした。この憲法解釈は、時々の総理大臣によって国会の場で何度も答弁で示されてきた憲法解釈でした。ところが、安倍政権は、内閣法制局長官の首をかえて、一夜にしてこの解釈を変え、2014年7月の「閣議決定」で「集団的自衛権は合憲」としてしまいました。翌年9月には、この「閣議決定」をもとに、安保法制が強行されました。
憲法で「国権の最高機関」(41条)と定められている国会の場で、歴代政府が半世紀以上も繰り返し述べてきた憲法解釈というのは、たいへんに重いものです。それを一内閣が一片の「閣議決定」によってぼろくずのように捨てることが許されるならば、「憲法によって権力をしばっていく」――立憲主義は、大本から崩されてしまいます。
この出来事を一つの大きなきっかけにして、「権力は憲法を守る」というごく当たり前の政治ルールが壊され、いま日本の政治はたいへん危ういことになっています。
最近の出来事でも、菅首相によって、日本学術会議への任命拒否という問題が起こりました。憲法23条が保障した「学問の自由」に反するという強い批判が広がっていますが、権力が憲法を破っても平気な状況が日常化してしまったら、次に待っているのは専制政治、独裁政治への転落です。日本の前途にとってとても危ないことです。
ですから、いま野党は、一致して、集団的自衛権行使容認の「閣議決定」を撤回し、安保法制を廃止して、立憲主義・民主主義・平和主義をとりもどそうと訴えています。
「危険性」という点で、私が一番感じているのは、この問題です。
「可能性」――社会的連帯で新しい未来をつくるさまざまな運動が
志位 それから「可能性」という点では、そういう危険な流れのもとで、社会的連帯のいろいろな取り組みが広がってきたということです。
いまお話しした安保法制の強行のときにも、学生、労働者、女性、学者など、何万人という多くの市民のみなさんが、毎日のように国会を取り囲んで、「安保法制(戦争法)反対」「憲法守れ」というコールをみんなでやった。そのなかから「野党は共闘」というコールが出てきました。
私たち日本共産党は、そういう市民のみなさんの声に背中を押されて、「市民と野党の共闘で日本の政治を変える」という野党共闘の路線に変えました。私たちは、この5年半、野党共闘に取り組み、3回の国政選挙を共闘でたたかってきましたが、私の実感としても、みんなで力を合わせて新しい政治をつくるというこの道にこそ、希望があると感じています。
それから切実な願いを掲げてのいろいろな市民の運動が起こっています。性暴力の根絶を求めるフラワーデモが、全国各地で毎月11日に行われています。私も何度か参加しましたが、本当につらい経験を話すなかで、いまの社会を変えていかなくちゃという訴えを、多くの方々がされていることに、強く心を動かされました。
それから、コロナで学生がたいへんな困窮に追い込まれているもとで、全国で「食料支援プロジェクト」というのが行われて、ボランティアのみなさんが学生への食料支援に取り組み、支援された学生がいっしょに参加する運動になっています。
気候危機の問題でも、「Friday for Future」(未来のための金曜日)という運動――スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんの運動に連帯する運動が、若い人たちを中心に日本でも起こってきています。
ですから私は、一方で「危険性」はあるけれども、もう一方には社会的連帯で新しい未来をつくっていこうという「可能性」も広がっている、ぜひ力をあわせて未来ある流れを強めていきたいなと思っています。
「今後10年」――気候、格差、人類にとって正念場の10年に
志位 いまのご質問は最後のところで、「今後10年の日本はどうなると思いますか」とありますね。私は、ここは、「どうなるか」ではなくて、「どうすべきか」が大事だと思います。
いまお話しした社会的連帯で新しい未来をつくるいろいろな動きがおこっていますから、この動きを本当に日本全体の流れにして、新しい政治をつくる10年にしたいと考えています。これが一つです。
それから世界は、さきほど気候危機の話をしましたが、「2050年までに温室効果ガスをゼロ」にするためには、2030年までが正念場なんです。つまり、温室効果ガスを2030年までにまず半分にしなければならない。
半分にしようと思ったら、再生エネルギーへの大転換――エネルギー分野でのシステム移行はもちろん必要ですが、それだけじゃなくて、産業分野でのシステム移行、都市・インフラ分野でのシステム移行、土地利用分野でのシステム移行など、社会の全ての分野にわたる全面的なシステムチェンジを、この10年間に本格的に開始しなければなりません。
私は、世界でも日本でも、気候危機の打開と格差拡大の是正、この二大テーマがまさに正念場になってくると思います。人類にとって本当に正念場の10年になると考えています。
巨額の債務残高――「取るべきところ」から税金をきちんととる
生徒から今後10年の日本社会に関わって次の質問が出され、志位氏がこれに答えました。
生徒 最近、債務残高が他の国と比べてもGDP比でも2倍以上になっているなどと騒がれていますが、志位さんはどう考えていますか。かりに与党となった場合に債務残高を減らしていく考えなどはありますか。
志位 今はコロナのもとで、緊急の対策を行う場合に国債に頼るのはやむをえないことですが、国と地方の債務残高がGDP比で2倍以上でどんどん増えるという現状は、そのままにしてはおけない。債務残高の増大をどこかでピークアウトさせ、減らしていく方向に転じることを、責任もって追求しなくてはいけないというのが、私たちの立場です。
いろいろな方法がありますが、やはり基本は、国民の暮らしに役立たない無駄遣いをなくすとともに、富裕層や大企業にちゃんと税金を払ってもらうことにあります。
大企業が払っている法人税の実質負担率は、いろいろな優遇税制のおかげで10%ちょっとしかありません。一方、中小企業が払っている法人税の実質負担率は18~19%です。これは、おかしいでしょ。研究開発減税など大企業への優遇税制制度をただして、まずはせめて中小企業なみにきちんと税金を払ってもらうことが必要です。
優遇税制をなくすだけでなくて、法人税率そのものの引き上げも必要です。最近、面白い動きだなと思ったのは、バイデン米大統領が選挙戦の公約で、トランプ前大統領が35%から21%まで下げた法人税率を28%に戻すと主張していることです。これは、日本共産党の主張と同じだなと思いました。日本共産党は、選挙政策で、安倍政権のもとで28%から23%まで引き下げられた法人税率を28%に戻すことを提案してきましたから(中小企業は上げません)。日本共産党が先に言っていたのですが(笑い)、偶然にも一致してしまいました。
大企業への法人税率を国際協調――日米協調で元に戻していくということも追求していきたい。「取るべきところ」から税金を取っていかないといけないと思います。
さらに、「取るべきところ」という点では、こういう問題もあります。GAFA――グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルに代表される巨大IT企業が、いま巨額の利益をあげているわけですが、その巨額の利益を、税率の低い国やタックスヘイブン(租税回避地)に留保して、利益をあげている消費者がいる国には十分な税負担をしていない、という問題があります。
OECD(経済協力開発機構)の試算では、世界の法人税収の4~10%に相当する10兆円~24兆円もの税負担が回避されているとのことです。巨大IT企業というのは、世界でビジネスを行うさいに、利益をあげている消費者がいる国に支店をつくったり、工場を建てたりする必要がありません。そのために税負担を回避することが可能になっているのです。
こういうところにも国際的な協調でメスを入れて、税金をきちんと負担してもらうことも大切になっています。
そういう取り組みの全体を通じて、暮らしを良くする財源をつくりだしながら、長期債務を減らしていく方向を追求していなければいけないと考えています。(つづく)