東京新聞が3回シリーズで、<学ぼう!ワクチン 新型コロナと闘う>(上)~(下)を掲載しましたので紹介します。
記事中の図解やグラフは省略しました。ご覧になる場合はURLから原記事にアクセスしてください。
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<学ぼう!ワクチン 新型コロナと闘う>(上)
なんで打つの? 感染の予行演習 免疫を付ける
https://www.tokyo-np.co.jp/article/87642
東京新聞 2021年2月23日
医療従事者を対象に十七日から接種が始まった新型コロナウイルス感染症のワクチン。四月以降は高齢者らへの接種も始まるが「打つ」「打たない」は自分で決めないといけない。判断するには、仕組みや効果、安全性についてしっかり理解することが必要だ。そこで「今さら聞けない」といった内容も含め、全三回で解説するのが、この連載。初回のテーマは「そもそもワクチンって何?」。 (植木創太)
「ワクチンは何のために打つのか」。答えは「免疫を付けるため」だ。
免疫とは、細菌やウイルスといった病原体を取り除こうと働く防衛機能。日本ワクチン学会理事で、藤田医科大教授の吉川哲史さん(59)によると、大きく分けてもとから体に備わっている自然免疫と、獲得免疫の二つがある。
病原体が体内に入ると、まず働くのは自然免疫。病原体を食べたり分解したりする。続いて活躍するのが獲得免疫だ。自然免疫を担う細胞から受け取った情報を基に、病原体を見分け、武器となる「抗体」をつくったり、感染した細胞を殺すリンパ球をこしらえて戦ったりする。次に入ってきたときに素早く攻撃できるよう、病原体の特徴を覚えておく機能もある。
病原体や、その一部を体内に入れ、二つの免疫が働きやすいようにするのがワクチンだ。「あらかじめ戦い方を覚えさせる」という吉川さんの説明が分かりやすい。
大まかに二種類あり、一つは弱毒化した病原体を体内に入れ、軽く感染させる「生ワクチン」。麻疹や風疹を防ぐMRワクチンなどがこのタイプだ。もう一つが毒性を失わせるなどした病原体やその成分を接種し、記憶させる「不活化ワクチン」で、日本脳炎、肺炎球菌を予防するワクチンなどが当てはまる。インフルエンザは両方のタイプがあるが、日本で承認されているのは不活化だけだ。
一方、国内で医療従事者に接種が続く米ファイザー製は、世界で初めて実用化された技術を採っている。ウイルスの設計図である遺伝物質「メッセンジャーRNA(mRNA)」を人工的に合成。非常に壊れやすいため脂質の膜に包んで接種、細胞に取り込ませることでウイルスの成分を体内でつくらせる。その結果、抗体ができ、感染に備えて戦い方を記憶させられるわけだ。変異に対応した作り替えも容易という。
世界の感染者数の累計は二十一日現在、一億一千万人。死者は約二百四十六万人にも。特効薬がない中、この一年、感染を収束させることができた国・地域は世界中どこにもない。自然感染によって感染が広がりにくくなる「集団免疫」の状態にするのは時間がかかる上、その間も死者や重症者は増え続ける。
吉川さんによると、ワクチンで免疫を付けるメリットが大きいのは、医療従事者に続いて接種が始まる高齢者だ。発症してしまうと重症化する確率が高いためで、三十代を「1」として国内の重症化率を比較すると、六十代は二十五倍。七十代は四十七倍、八十代では七十一倍にもなる。
「収束への切り札」の期待が高いワクチン。次回二十四日は、見込まれる具体的な効果、反対に現時点では分からないことなどを整理する。
<学ぼう!ワクチン 新型コロナと闘う>(中)
ファイザー製、効果は? 発症率95%減 重症予防も期待
https://www.tokyo-np.co.jp/article/87789
東京新聞 2021年2月24日
「発症を予防する効果は95%」。国内で医療従事者への接種が行われている米ファイザー社製の新型コロナウイルスワクチンを巡ってよく聞くフレーズだ。
接種した百人のうち、九十五人で発熱やせきといったコロナの症状が出なかったということ? それは間違い。
同社の臨床試験では、参加者約四万四千人を無作為に分け、ほぼ半数にワクチンを、半数に生理食塩水の偽薬を打った。偽薬を使うのは、心理的な影響などで起きた反応を取り除き、何がワクチンの成分で起きた反応かを明らかにするためだ。
ワクチンは、接種したかどうかで効果の有無を測ることはできない。病気やけがの場合は、投与されて良くなれば効いたと実感できる。しかし、健康な人に接種するワクチンは、打たなくても発症しない人がいる。
ファイザー製は三週間の間隔を空け、計二回打つのが基本だ。二回目の接種から七日目以降に発症した人数を見ると、偽薬で百六十二人、ワクチンを打った人で八人。発症リスクは二十分の一、言い換えると百分の五に減ったといえる。これが「発症を予防する効果は95%」の意味だ。名鉄病院(名古屋市)の予防接種センター長、菊池均さん(57)は「他の病気のワクチンと比べ、有効性はかなり高い」と話す。インフルエンザワクチンの発症予防効果は年によって違うが、20〜60%程度だ。
菊池さんは、ワクチンを接種したグループの累積発症者数が、一回目の接種後約二週間を境に、ほとんど増えていない点にも注目する=グラフ。「このタイミングで、ウイルスの増殖を妨げ再感染を防ぐ抗体ができ始める」と推測。それ以降、九十日以上がたっても、こうした傾向は続いており「獲得した免疫が短期間でなくなる可能性も低いと考えられる」と話す。
ワクチンの主な目的は、 感染しない ▽感染しても発症しない ▽発症しても重症化しないーの三つだが、ファイザー製の効果が臨床試験ではっきりしているのは、発症予防だけだ。ウイルスが呼吸器の粘膜細胞に入り込む感染を防ぐことも望まれるが、確実なデータはまだない。無症状での感染もあるため、二回の接種後、感染の有無を頻繁に確認する必要があり、立証が難しい。一方、重症化した参加者十人のうち九人は非接種者で、接種者は一人。「重症化予防の効果も期待できる」と菊池さんは言う。英国など既に接種が進む国からは、それを裏付けるような報告もある。
国内で接種対象となる十六歳以上が全員打ったとすると、何人が発症を免れる可能性があるのか。臨床試験のデータを基にすると、接種しなければ百六十二人が発症したところ、そこから八人を引いた百五十四人はワクチンが発症を防いだといえ、接種したグループに占める割合は1%未満。これを当てはめると答えは約七十八万人となる。
気になるのは安全性だ。二十五日の最終回では痛みや倦怠(けんたい)感といった「副反応」を含むリスクについて考える。
<学ぼう!ワクチン 新型コロナと闘う>(下)
副反応は? 因果関係が鍵 情報見極めて
https://www.tokyo-np.co.jp/article/87982?rct=life
東京新聞 2021年2月25日
ワクチンの接種翌日に脳卒中で倒れたら? それは、副反応か、それとも偶然か。
もしかすると持病があったかもしれないし、普段の薬を飲み忘れたのかもしれない。ここから言えるのは「副反応の疑いもある」ぐらいだ。
こうしたケースを含め、接種後に起きた好ましくない医療上の出来事は「有害事象」と呼ばれる。含まれる事例は、明らかに接種と因果関係があると見込まれる副反応より多い。新型コロナウイルスのワクチンについて考えるとき、有害事象と副反応をごちゃまぜにすると、正しい評価ができないため注意が必要だ。
ただ、病原体などを体に入れる以上、副反応のリスクがゼロのワクチンはない。二回の接種が基本の米ファイザー社製の臨床試験データでは、接種部位の痛みが84%、疲労感が63%、頭痛が55%の人に出たなどと報告された。発生率はインフルエンザのワクチンより高いが、多くが数日で治まっている。頻度は一回目より二回目の方が高い。
一方、昨年末から接種が始まった米国の疾病対策センター(CDC)によると、二十万回に一回の割合で急性の重いアレルギー反応「アナフィラキシー」が起きている。これも百万回に一回程度のインフルエンザワクチンに比べれば高いが、症状が出た人の80%は過去に何らかのアレルギーを指摘されていた。
新型コロナワクチンは、肩の辺りに注射針を垂直の角度で突き刺す筋肉注射だ。日本のワクチン接種は、斜め三〇度ほどの角度で皮膚に浅く針を刺す皮下注射がほとんど。筋肉注射は、皮下組織の下にある筋肉に投与する。
なじみが薄いだけに、不安から接種後に気分が悪くなるといった例もあり得る。名鉄病院(名古屋市)の予防接種センター長、菊池均さん(57)によると「針を刺した時の痛みは皮下注射と変わらない」。ただ、投与する液体の刺激などによって、強めに痛みを感じる場合もあるという。
非常にまれだが、新型コロナワクチンはできて間もないため、接種後、日にちがたってから現れるような副反応が後に判明する可能性はある。国は、ワクチンを打った人に副反応と疑われる症状が出れば随時、公表する。先行接種する医療従事者のうち、一万〜二万人を追跡調査した結果も明らかにする予定だ。
十九日現在、接種率が50%近いイスラエル。20%弱だった一月上旬には、一人が何人に感染させるかを示す実効再生産数が一・三台だったが、〇・七程度まで減った。感染者、死亡者も減り始めている。疫学が専門の名古屋市立大教授の鈴木貞夫さん(60)は、移動を制限する国全体のロックダウン効果にも触れた上で「ワクチンの効果を否定することは起きていない」と分析する。
「打つ」「打たない」は、国や自治体の情報などを見て自分で決める必要がある。感染を防ぐ効果が確実でない現状では、無症状のまま周囲にうつすことがないよう、接種後もマスク着用や三密回避などは欠かせない。日本ワクチン学会理事で藤田医科大教授の吉川哲史さん(59)は言う。「感染して重症化するリスクと副反応、そして感染拡大が生活や社会に与える影響をよく考えて判断してほしい」
(この連載は、植木創太が担当しました)