2016年12月17日土曜日

17- 南スーダンで民間人を襲っているのは政府軍兵士 (三浦英之氏)

 南スーダンにしばらく駐在し、帰国したばかりの三浦英之氏(朝日新聞アフリカ特派員)の生々しい報告です。
 はじめに西部ワウの状況、後半が首都ジュバの状況について語られていて、それぞれが悲惨・凄惨な状況にあります。
 文中、「多数派民族ディンカ人」がいわゆる政府軍兵士に当たり、彼らに迫害されている10余りの少数民族が反政府勢力になっています。
 衝撃的な報告ですが南スーダンの驚くべき実情を窺い知ることができます。
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ジュバでもワウでも民間人を襲っているのは政府軍兵士なのだ
三浦英之氏 ツイッター 集約サイト:「晴耕雨読」より転載
三浦英之氏 ツイッター 2016年12月14日
南スーダン西部から先日戻った。
現地の状況は凄惨だ。
人々は政府軍兵士により虐殺され、家族の前でレイプされ、家を燃やされている。
国連が表現した「民族浄化」といった言葉が決して大げさじゃなく響く。
同国西部の状況を伝える
 
自衛隊のいる首都ジュバから国連機で1時間半。
西部ワウ。
砂嵐が吹き荒れる街を政府軍兵士を満載したトラックや国連装甲車が行き交う。
同行した国連職員は「ジュバとは状況が違う。非常に危険なので国連施設外では兵士を刺激しないよう絶対にカメラを出さないでくれ」
 
私がワウに飛んだのは、7月の戦闘で反政府勢力が駆逐されたジュバでは、南スーダンで今起きていることが見えないから。
国内を視察した国連調査団は1日、「集団レイプや村の焼きうちといった民族浄化が進行している」と警告した。
その現実をこの目で確かめる必要があった
 
ワウでは6月、最大民族ディンカによる少数民族への虐殺が起きた。
死者数十~数百人と言われ、7万人が住む場所を追われた。
避難民保護区では今も、戦闘を逃れてきた約4万人が砂まみれのテントで避難生活を強いられている
 
「夫を多数派民族ディンカに殺された。私もディンカを殺したい」。
少数派民族の女性(29)は泣き叫んだ。
夫はディンカの政府軍兵士に足を撃たれ、拘束。
軍施設に監禁されて餓死させられた
 
少数派民族の女性(20)もディンカの政府軍兵士に自宅を襲われ兄を銃殺された。
ここでは憎悪が渦巻いている。
ホテル従業員は「いつ虐殺が起きても不思議ではない状況。私はディンカだが、人が次々と殺されていくのを見たくはない」
 
南スーダンは今、深刻な食糧危機にさらされている。
保健施設の前では子どもの栄養状態を心配する母親が列を作っていた。
上腕にバンドを巻き栄養状態を測定。
ラップの芯ほどの太さしかない子どもが次々と「重度の急性栄養不良」と判定され、治療施設へと運ばれていく
 
母親(27)は「1歳の娘がぐったりとしたので連れてきた。もう3日間も何も食べていない」。
看護師は「現在、253人が重度、1023人が中度の急性栄養不良。どんどん増えてる。少しでも回復させないと取り返しのつかない状況になる」
 
南スーダンでは今、人口の3割の360万人が深刻な食糧不足に。
戦闘拡大で収穫時期に農作業ができなかったことが原因。
来年初頭には460万人に膨れあがる。
ユニセフによると、推定36万人の5歳未満児が「重度の急性栄養不良」に。
人々は戦闘におびえ、食べることさえできないでいる
 
子どもたちの受難は食糧だけじゃない。
ジュバではユニセフ現地事務所代表にインタビュー。
「ここでは内戦状態に陥った13年末以降、推定約1万6千人の子どもが武装勢力に徴用された」
「16年だけでも推定800人以上が徴用された」。
戦闘員にさせられたり、森で荷物運びをさせられたりしている
 
今回の取材で私が伝えたかったこと。
それは南スーダンの状況が極度に悪化しているという事実。
そしてもう一つ、私たちには武力を使って行う「支援」以外にも、実は南スーダンを支える手段が十分に残されているということだ。
食糧機関への送金でも、児童機関への貢献でもいい。
道は無数に開かれている
 
でも日本からのニュースを見る限り、国会で議論されるのは「駆け付け警護」のことばかり。
政府は駆け付け警護さえ付与すれば、南スーダンの平和に寄与できるかのように錯覚させている。
でもそれは噓。
正直に記せば、この状況で駆け付け警護が付与されても自衛隊にできることはほとんどない
 
次の証言動画を見て欲しい。
ジュバの惨劇。
AP通信は伝える。
「政府軍兵士は外国人女性に銃を向け、俺とセックスするか、ここにいるすべての男にお前をレイプさせてから頭を撃ち抜く。女性は15人にレイプされた」
https://youtu.be/tYoIRwm8iX8  @YouTubeさんから 
 
ジュバで7月に大規模戦闘が起きたときに、国連施設近くのホテルを襲ったのは80人以上の政府軍兵士
ジュバでもワウでも民間人を襲っているのは政府軍兵士なのだ。
憲法で国の交戦権が禁じられている自衛隊では手も足も出せない
現政権がやりたいことは、日本から遠く離れたアフリカの国家を救うことではなく、自衛隊の海外における武器使用基準を拡大させたい、その一点ではないのか。
それはまさしく、私たちが長年守り抜いてきた憲法9条が厳格に禁じていること
 
現場を取材する者としてあえて強く書く。
現政権は南スーダンの現状を利用して、それを事実上達成したい、つまり前例を作り上げてしまいたいだけではないのか。
もしそうであるならば、私はあまりに貧しいこの国にいて、我を失う。
南スーダンをそのきっかけ作りに使わせてはならない
 
一つ、現場で感じたことを書く。
国連職員は今、南スーダン政府や政府軍に非常に気を遣っている。
本当のことが言いにくい状況。
国連機関がこの地で活動を行うためには、南スーダン政府の同意が必要。
大声で事実を伝えれば、組織上の問題になりかねない。
ここにはそんな難しさがある
 
もう一つ、これは国連職員の言葉。
今ジェノサイドが起きたとしても、多分PKOは防げない。
ルワンダのように撤退はしないかもしれないが、ジェノサイドは防ぐことができない。
彼は正直だったと思う。
PKOは抑止力にはなっても、一度起きてしまったら、それ自体を食い止めることは難しい
 
自衛隊派遣の根拠となっているPKO5原則は完全に崩壊している。
駆け付け警護は誰が見たって憲法違反だ。
もしそれを本当にやりたいのであれば、国民に正式に問うた上で、正式にPKO5原則や憲法を変更した上で実施するのが筋ではないのか
 
それを南スーダンの救済という「偽り」の理由を楯に取り、都合の良い「解釈」で己の目的のために強引に押し通そうとすれば、どこかで無理が生じて必ず「事故」が起こる。
その時、私たちは自衛隊員の尊い命と同時に、戦後ずっと守り抜いていた「大切なもの」を失う
 
私たちは今、どこにいるのだろう。
南スーダンも、そして私の祖国日本も。
ワウでは町にヘイトスピーチがあふれていた。
国連は「ジェノサイドが起こってしまう」と警告している。
私は歴史の目撃者になんてなりたくはない(終)