政府は、南スーダンの情勢が安定しているというニセの情報を流しつつ、自衛隊に「駆け付け警護」と「宿営地の共同防衛」という新任務を付与して11月に現地に派遣しました。
ところが現代ビジネスが、「国連南スーダン派遣団(UNMISS)」には、事務総長特別代表と司令官がともに不在であることをスクープしました。
会社で言えば社長と専務がいない状態で、副代表と軍司令官代理によって運営されているわけです。国連が「事態はカオス(混沌)」の状況にあるとする南スーダンに派遣されているUNMISSがそんな状態でいい筈はありません。
11月30日に退任したロイ前代表の当初の任期は8月末だったそうで、その後任がいまだに決まっていないというのは極めて異常です。
南スーダンの情勢があまりに悪化しているため、後任が見つからないということだと思われます。
国連が11月にまとめた現地情勢についての報告書を見ても、代表になることに躊躇するのは当然のことに思われます。
またケニア出身の司令官は、国連要員や民間人の救援に出動しなかった非を指摘されて解任されたということですが、航空機や戦車を使った戦闘で且つ政府軍の兵士たちが民間人を攻撃しているときに、彼らと戦闘を交えることを躊躇するのはごく自然のことです。司令官についても後任になり手がいないのは当然のことに思われます。
現代ビジネスのレポートは、事実をゴマカシて派遣された自衛隊員たちが、「偽りの状況判断しかしない政府の犠牲者になる事態だけは避けなければならない」と結んでいます。
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【スクープ】南スーダン「国連PKO代表」が不在の異常事態!
自衛隊は、本当に無事でいられるのか?
半田 滋 現代ビジネス 2016年12月3日
自衛隊が国連平和維持活動(PKO)を行うために派遣されている「国連南スーダン派遣団(UNMISS)」。その代表を務めたエレン・ロイ事務総長特別代表(デンマーク)が11月30日付で退任し、今月1日から代表の座が空席となっていることがわかった。11月には軍事部門のオンディエキ司令官(ケニア)が更迭され、やはり空席となっている。
会社でいえば、社長と専務がいない状態だ。決断し、実行を命じるトップが不在では会社は成り立たない。UNMISSには副代表や軍司令官代理がいるものの、それでコト足りるなら、最初から代表や軍司令官は不要ということになる。やはりこれは異常事態と見るべきだ。
そんな中、陸上自衛隊第9師団(青森)を主力とする部隊は数次に分けて南スーダンへ出発した。UNMISSの指揮命令系統のトップ不在という異常事態下で、武器使用を拡大した「駆け付け警護」「宿営地の共同防衛」という新任務に12日から就くことになる。
日本政府は派遣期間を延長した10月25日の閣議決定、新任務付与を命じた先月15日の閣議決定で、それぞれ「基本的な考え方」を発表し、南スーダン情勢や新任務について踏み込んだ説明をしているが、UNMISS代表が不在となることには触れていない。自衛隊が派遣される首都ジュバを10月8日に訪問してロイ代表と面会した稲田朋美防衛相は自身の進退を含めた「今後のUNMISS」について説明を受けなかったのだろうか。
なぜ後任が決まらないのか
退任したロイ代表は、チェコスロバキア大使、国連代表、イスラエル大使などを歴任したベテラン外交官。2014年7月7日、UNMISS代表を11年7月から務めたヒルデ・ジョンソン女史(ノルウェー)と交代した。今月28日、UNMISSであったロイ代表の退任会見で報道官が「ロイ代表の任期は今年8月末だったが、7月危機(ジュバであった武力衝突)を受けて、事態が落ち着くまで残ることを選んだ」と説明した。
予定の退任が8月末だったとすれば、なぜ12月になっても後任が着任しないのかPKOを担当する日本の外務省国際平和協力室に尋ねると、「まだ決まっていないのです」という。後任については「ふつう退任時期が決まっていれば、円満に交代するため後任を選ぶのは当然。これは推測でしかありませんが、何かの都合で内定者が辞退したなどが考えられる」と説明するが、客観的にみれば、南スーダンの情勢があまりに悪化しているため、後任が見つからない、ということではないのか。
UNMISS代表は事務総長特別代表という肩書が示すように、当該PKOについて、人事権はもとより、任務の決定、予算の執行などあらゆる面で絶大な権限を持っている。UNMISSは国連加盟の約60カ国から軍事部門13058人、文民部門769人を集め、地元スタッフを加えれば15000人以上になる巨大な国連組織だ。
そんな組織のリーダーが不在となった現在、二人いる副代表が役割を分担して補完しているようだ。いつ代表が決まるのか、外務省国際平和協力室は「何も聞いていません」と答えるのみ。いつになれば代表不在という異常事態が終息するのか、見通しはまったくたっていないという。
ロイ代表より先に更迭されたオンディエキ軍司令官は、7月に起きた武力衝突で、指導力の欠如、準備不足、指揮命令の混乱などの責任を問われた。国連の報告書によると、ジュバの政府軍と反政府勢力の間で武力衝突が発生した際、避難民が生活するUNMISSの保護施設も襲撃を受け、7月の3日間で20人以上の避難民を含めて73人が亡くなった。
報告書は「(オンディエキ軍司令官ら)幹部の指導力不足により、無秩序で非効果的な対応となった。予兆があったのに、十分な警戒態勢もとらなかった」と指摘。政府軍兵士がホテル滞在者らに残虐行為をした事件についても、報告書は「政府軍兵士が略奪を始めた際、市民がUNMISSに通報したにもかかわらず、複数の部隊が出動要請を拒絶して市民らが殺人や威嚇、性的暴力などの重大な人権侵害にさらされた」としている。
要するにUNMISSの軍事部門は武力衝突の予兆を察知しながら、何の準備もせず、市民に被害が及んでいるのに見て見ぬをふりを決め込んだというのである。
ケニア政府も撤退を決めた「危険地帯」
誤解があると困るのであえて書くが、自衛隊は施設部隊であり、治安維持を担う歩兵部隊ではないので、出動要請そのものがなかった。自衛隊は活動を休止し、宿営地に避難していた。それにしても軍事部門はUNMISSの主目的である「文民保護」をあえて無視しているのだろうか、それとも任務遂行のための能力に欠けているのだろうか。
問題はオンディエキ軍司令官の更迭を受けて、ケニア政府がUNMISSに派遣していた1000人の歩兵部隊を撤収させることを決め、 近く全員が南スーダンから消えることにある。ケニア軍が治安維持を担っていたのは北部のワウ、アウェイル、カジョクの三都市でいずれも州都にあたる。
ワウでは中国の工兵部隊がケニア軍に守られて道路補修を続けており、さぞかし心細い思いをしているに違いない。UNMISSはジュバを守る歩兵部隊を削って三都市に移動させ、治安維持を担わせる方針と伝えられる。
「ケニア軍が撤収するとなると自衛隊の宿営地があるジュバが治安悪化した場合、対応できないのでは、という不安が出てくる」というのは陸上自衛隊幹部。「駆け付け警護」「宿営地の共同防衛」という新任務が追加されたとはいえ、主任務は道路補修などの施設復旧であることに変わりなく、部隊編成もこれまで通りという。銃の扱いが得意な普通科(歩兵)部隊も増員されなかった。
治安状況を安定させようと、国連安全保障理事会は8月12日、ルワンダ、ケニア、エチオピアの近隣3カ国で構成される4000人の「地域防護部隊」の追加派遣を決めた。当初は「介入軍」とみなして反対していた南スーダン政府も受け入れを閣議決定している。
ところが、こちらもケニアが不参加を表明したことで4000人のやり繰りが暗礁に乗り上げ、地域防護部隊は現状では一人も派遣されていない。
UNMISS代表と軍司令官の不在、ケニアの撤収、追加部隊の着任遅れという三重苦の中で、日本政府は撤収するどころか、逆に武器使用の範囲を拡大させる新任務を自衛隊に命じたのである。
平穏な状況であれば、国際貢献でもあるPKOへの参加に問題があろうはずもない。だが、13年12月に最初の武力衝突が発生して以降、市街地で行う道路補修でさえ防弾チョッキに小銃を持った隊員に守られて活動しなければならないのが自衛隊の実情なのである。政府が活動継続の条件とした「隊員の安全確保」「意義のある活動」は風前の灯火となっている。
ところが政府はそうは考えていないようだ。先月15日に新任務を閣議決定した際、政府が発表した「基本的な考え方」にはこうある。
「こうした厳しい状況においても、南スーダンには世界のあらゆる地域から60カ国以上が部隊等を派遣している。現時点で、現地の治安情勢を理由とし部隊の撤収を検討している国があるとは承知していない」
ケニアは国連の対応が不満で撤収するのだから、確かに「治安情勢を理由」にはしていない。だが、問題は撤収の理由ではない。部隊撤収によって治安が不安定化しかねないこと自体が大問題なのだが、その点には触れていない。
国連と食い違う日本政府の見解
また「部隊の撤収」にのみ着目しているが、UNMISSへの参加には「部隊参加」、要員のみを派遣する「個人参加」の二通りあり、7月の武力衝突で警察を育成する文民警察部門に「個人参加」していたドイツ、英国、スウェーデンはいずれも要員を引き揚げている。都合の悪い情報は伏せて、都合よいことばかりを強調する。官僚の悪しき得意技が、この発表文から透けて見える。
政府の評価が我田引水なのは、治安状況についても同様だ。去る10月にジュバを視察した稲田防衛相は、ジュバの状況は「比較的、落ち着いている」と断定し、新任務付与の閣議決定につながった。しかし、稲田氏がジュバにいたのはわずか7時間、しかも7月に戦闘があった地域は避けて通った。
国連が8月12日から10月25日まで2カ月以上に及ぶ情勢をまとめた報告書によると、ジュバとその周辺の治安情勢について「『volatile(不安定な、流動的な)』状態が続いている」とし、「国全体の治安は悪化しており、とりわけ政府軍が反政府勢力の追跡を続けている中央エクアトリア州の悪化が著しい」と明記した。同州にはジュバが含まれるのである。
また国連人道問題調整事務所(OCHA)のジョン・ギング業務局長は11月16日、国連本部で南スーダンを視察した状況を報告、昨年の同時期より100万人多い、推定370万人が深刻な食糧危機に直面しているとして「食糧不足が今ほど悪化したことはなく、さらに悪化する情勢にある」と述べた。
なぜこれほど日本政府と国連の見方が違うのか。安全保障関連法が成立して1年以上、また同法が施行されて半年以上が経過した。自衛隊を活用する「積極的平和主義」を掲げ、成立を急いだ安保法がいつまでも適用されないようでは説明がつかない、というのが安倍晋三首相の本音ではないのか。
日々悪化する現地情勢に加え、PKO代表不在という不安。そのような中で、自衛隊が曇った目でしか状況判断しない政府の犠牲者になる事態だけは避けなければならない。