2016年12月16日金曜日

見えた 勝利の方程式(その1)(五十嵐仁氏)

 安倍首相は、来年1月の衆院解散を見送る方針を固め、次期衆院選は秋以降にずれ込むということです
 これまでは民進党の姿勢が定まらず野党の選挙協力体制が整わないでいる年明けに解散総選挙を打つ積りでいたのですが、諸々の情勢を分析した結果、現状で衆院選を実施すれば自公両党で3分の2超を有する現有議席を割り込む公算が大きいと判明したようです。
 
 当初、プーチン大統領の来日を機に何らかの進展があることを期待していた北方領土問題も、結局何の進展もありませんでした。
 北方領土の一部が返還されたとき日米同盟に基づいてそこに米軍基地が置かれる可能性を否定することもできず、現に対ロシア経済制裁に加わっている日本が、その問題でロシアに譲歩を期待する方が土台無理な話でした。
 
 「アベノミクス」もとっくに失敗しています。アベノミクスの主軸政策は、異次元金融緩和により円をジャブジャブと市場に流し人為的にインフレを起こし(=リフレーション) 年率2%の物価上昇を達成するというものです。しかし既に3年半が経っていますが、一向にその効果は出ていません。
 それを提唱したのは浜田宏一米エール大名誉教授ですが、彼はいまは「量的金融緩和が効かなくなっている」と失敗を認めているということです。経済学は科学とは言い切れない面があって、経済現象をあとから分析することはできるものの、ある仮説に基づいて経済政策を実行しても求める結果が得られないことがいくらでもあります。
 物価上昇率を指標にするというのも、それが経済・消費活動の旺盛化によるものであれば意味はありますが、年々国民の所得が下がっているのに物価だけを人為的に上げるというのは不健全な話です。
 政府が失敗を認めて今後軌道を修正するのはいいのですが、巨大な後遺症についての方策を持っているのでしょうか。
 
 五十嵐仁氏が、「見えた 勝利の方程式」と題した記事を発表しました。2回の連載になるということです。
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見えた 勝利の方程式(その1)
五十嵐仁の転成仁語 2016年12月16日 
〔以下のインタビュー記事は、『女性のひろば』No.455、2017年1月号、に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕
 
 安倍首相は絶頂期にあるように見えます。彼の心境は藤原道長が詠んだ「この世をば我が世とぞ思ふ望月の欠けたることもなしと思へば」というところでしょう。与党で衆院の3分の2、参院では自民1党で過半数の議席を有して党内に刃向かう者はおらず一強体制を確立。総裁の任期を延長し、史上最長政権をめざして向かうところ敵なしです。
 
満ちれば欠けるのは世の習い
 しかし、月のように満ちれば欠けるのが世の習い。遅からずその陰りは明瞭になっていくでしょう。
 陰りその1は、経済政策の失敗です。11月1日、日本銀行の黒田東彦総裁は「2%インフレ目標」を任期中に達成できないことを初めて認めました。事実上の異次元金融緩和敗北宣言です。アベノミクスの第1の矢として、2年間で2%の物価上昇目標を達成し、デフレから脱却すると宣言してから3年半。現実には「アベノミクス不況」がいよいよ深刻になっています。
 陰りその2は、全面的な運用段階に入った安保法制です。日本の安全保障環境を改善するとして無理やり強行採決した2015年9月以降、果たして日本の安全は高まったでしょうか。否。北朝鮮の核開発やミサイル発射実験の増加など、以前より悪化しています。
 日本はアメリカの仲間だと宣言したともいえる安保法制。成立直後の昨年10月、バングラデシュで日本人男性が殺害されました(ISの現地支部が犯行声明)。そして今年7月、再びバングラデシュでJICA(国際協力機構)の日本人7人がISに殺害されました。そのうえ、南スーダンPKOで派遣されている自衛隊の任務拡大にともなって、発足以来初めて自衛隊員が「殺し殺される」危険性が高まっています。
 陰りその3は、原発再稼働を強行しようとしている政権に、国民の不安と懸念が強まっていることです。新潟県知事選では「柏崎刈羽原発の再稼働は認めない」という大義の旗を立てた野党統一候補・米山隆一さんが自公推薦候補に圧勝しました。
 新潟県は福島県と隣り合い、原発事故で避難されている方も多い地域です。私も新潟県出身ですからよく分かります。農業県の新潟で事故が起こったらいったいどれほどの被害を蒙ることになるのか。しかも、新潟は中越地震など地震多発地帯です。県民の意志は明確でした。
 陰りその4は、国会承認を強行しようとしているTPP(環太平洋連携協定)です。農業をはじめ食の安全、医療、金融、雇用などあらゆる分野で国民の暮らしを破壊するTPPへの不安と批判が広がっています。今年7月の参院選でTPPは争点の一つでした。秋田を除き東北と甲信越で与党は全敗しています。そして改憲、沖縄米軍基地問題―-。安倍政権が掲げてきた課題が立ちゆかなくなっていく可能性は高い。まさに月が欠け始めているのです。