2016年12月31日土曜日

31- ISDS条項で米企業は莫大な収奪 日米FTAでは防御できるのか

 ISDS条項は、海外進出企業が相手先の国の制度によって、本来得られるべき利益が阻害された時に、国際仲裁機関によって裁定してもらうという取り決めです。しかしTPP条約の批准について審議する過程でこの条項に関して開示された資料は、ほとんどが真っ黒に塗りつぶされていたということです。
 それによって協定の公平性が保障される条項である筈なのに何故開示しないのでしょうか。それは公平とは縁もゆかりもないものだからです。
 
 この仲裁の概要は以下のようだといわれています。
 仲裁は1審制で控訴の制度はありません。仲裁委員は通常3人の弁護士で構成され、提訴側と被提訴側が1人ずつ選び、残る1人は両者が合意できる人を選びます。当然合意が成立することはまずないので、その場合は世界銀行(米国傘下)が1人を選びます。ということは米国が絡む提訴では常に米国側の弁護士が2人になるので必ず勝つことになります。事実これまで米国は連戦連勝で負けたことはありません(賠償金を値切るための和解は米企業側勝利の一形態であって、決して「引き分け」ではありません)。
 
 ISDS条項の非合理性は仲裁機関の制度に留まりません。相手国が自国民の健康を守るために定めた法的措置であっても、それによって進出企業が損害を被った場合には賠償命令が出されるという非道性を持っています。
 それは仲裁の視点がいわゆる非関税障壁が当事国にとって合理的なものであるか否かではなくて、企業側が損害を蒙ったか否かのみを判断すると明記されているからです。
 たとえばカナダでは、ある神経性物質の燃料への添加を禁止していました(同様の規制は、ヨーロッパや米国のほとんどの州にあります)が、米国の燃料会社がその規制によって不利益を被ったとして、ISD条項に基づいてカナダ政府を訴えたところ、審査の結果カナダ政府が敗訴し、巨額の賠償金を支払うことになりました。当然その規制は維持できないので撤廃しました。
 
 以前TVであるコメンテーターが「提訴されたら闘えばいい」と述べていましたが、無知に加えて無責任もいいところです。 国会論戦を聞いている限りでは安倍首相や石原担当相の認識もそれと似たり寄ったりです。まことに情けないことです。
 TPP協定はトランプ氏の登場によって当面成立する可能性はありませんが、同氏が狙っている日米FTA協定には必ずISDS条項を盛り込もうとする筈です。その時にきちんとした反対ができるかですが、TPPでは認めたことになるISDSをFTAでは拒否することが果たしてできるのかどうか、国を思うのであれば内閣は総辞職すべきでしょう。
 
 共産党の大門実紀史参院議員が外務省に資料を要求したところ、各種の貿易・投資協定に盛り込まれたISDS条項に基づく国際仲裁手続きの結果、被提訴国が賠償を命じられた金額の累計が2015年末現在、被提訴件数上位11カ国の合計だけで約7兆円なることが分かりました。しかし被提訴件数と賠償総額には何の相関関係もないので、合計額がどれほどになるのか想像がつきません。いずれにしても莫大な額であることは間違いなく、多国籍企業にとっては何とも堪まらない話です。
 しんぶん赤旗の記事を紹介します。 
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ISDS条項で賠償 総額68兆円にも 上位11カ国だけで
しんぶん赤旗 2016年12月30日
 各種の貿易・投資協定に盛り込まれた投資家対国家紛争解決(ISDS)条項に基づく国際仲裁手続きの結果、被提訴国が賠償を命じられた金額の累計が2015年末現在、上位11カ国の合計だけで582億4434万ドル(約6兆8146億円)にのぼることが、日本共産党の大門実紀史参院議員が提出を求めた外務省資料で分かりました。
 
 ISDS条項は、進出先の国の制度や政策の変更によって損害を受けたと主張する外国企業が、その国の政府を相手取り、損害賠償を求めて提訴できるという取り決めです。環太平洋連携協定(TPP)にも盛り込まれています。
 
 資料によると、米国企業など外国企業から訴えられた件数は、アルゼンチンが53件で最多。支払いを命じられた金額では、ロシアが500億6610万ドルで最多。ただ、実際に支払った金額については、仲裁判断が出た後に紛争当事者が和解する事例もあり、統計が存在していません。
 
 ISDS条項に基づく訴訟では、敗訴すれば賠償金支払いを命じられるのはもちろん、勝訴したとしても多額の裁判費用がかかります。そのため、各国政府がISDS条項の対象にされる恐れのある施策を抑制する“萎縮効果”が指摘されています。
 
ISDS条項に基づく被提訴件数と賠償命令総額
 
 
 
 
     
 
順位
被訴訟国
件数
単位:100万ドル
単位:億 
 
1
アルゼンチン
53
1,612.99
1,887.2 
 
2
ベネズエラ
36
3,766.20
4,406.5 
 
3
  
33
305.20
357.0 
 
4
スペイン
29
30.00
35.1 
 
5
エジプト
26
84.75
99.6 
 
6
  
25
18.16
21.5 
 
7
メキシコ
23
242.94
284.4 
 
8
エクアドル
22
1,963.20
2,296.4 
 
9
  
21
50,066.10
58,577.4 
 
10
ポーランド
20
22.90
26.9 
 
11
ウクライナ
19
131.90
154.2 
 
 
合   計
307
58,244.34
68,14.8 
     (注 表中の青字部分は、1ドル=117円ベースで換算して作成しました。・・・事務局)