次期米大統領のトランプ氏がTPP反対を表明しているのは彼の信念に基づいていると見るべきであって、安倍首相が「日本は批准しましたから…」などと「説得」を試みたところでどうなるものでもありません。そうした判断力を持たない人間であればそのこと自体で相手から軽蔑されることでしょう。まして売国の協定であることの自覚がないのであれば尚更です。
いま安倍首相が心がけるべきことはそんな無意味・有害な「説得」ではなくて、トランプ氏が注力すると宣言してる日米二国間貿易協定において、日本が不利になる度合いを如何にして少なくするかということです。専念すべきはそのことに尽きます。
その点においていま安倍首相が目指しているTPP協定の批准こそは、二国間協定において日本の逃げ道をなくすものに他なりません。なぜなら「批准すること」はTPP協定に列挙されているすべての権利放棄を日本が認めることになるので、二国間協議でもそのラインを超える日本側の権利を主張できなくなるからです(⇒ グローバル企業の海外における専横を保障するために各国のガードの権利・機能を除去するのがTPPの本来の狙いです)。
大学教員の会が先に出した「TPPの国会承認手続きを中止し、TPP協定からの離脱を要求する」という声明文が、TPPを批准すれば「TPPが日米二国間協議の場で、協議のスタートラインとされる恐れが多分にある」と指摘しているのはその意味です。
そういうことを全く理解しないで、安倍首相がTPPの批准に向けて軽挙妄動しているのは、声明が指摘している通り「危険で愚かな行為」です。
しんぶん赤旗の「主張」を紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(主張) 首相のTPP固執 批准して交渉は無責任で危険
しんぶん赤旗 2016年12月4日
会期を延長した国会での環太平洋連携協定(TPP)承認案と関連法案の審議が再開され、そのなかで安倍晋三首相は、トランプ次期米大統領の「離脱」発言で発効が難しくなったことを認めつつ、日本がTPPを批准してアメリカなどと交渉していくとの発言を繰り返しています。自らの外交的失態や経済失政は認めようともしないものですが、日本が批准してトランプ氏が求める「2国間交渉」などに取り組むというのでは、TPPの内容を前提にした交渉にしかなりません。交渉するとはいっても日本の譲歩しかないような交渉は、それこそ危険です。
譲歩迫られるだけの交渉
TPPは参加12カ国のうちアメリカと日本がともに批准しなければ発効しない仕組みで、トランプ次期大統領の「離脱」表明で発効が事実上不可能になったのは明白です。国内の反対世論を踏みにじってTPPに合意し、自らの「成長戦略」の柱とまでいってきた首相の失政の責任は重大です。
安倍首相は、TPPの発効が難しくなったことは認めつつ、あくまでアメリカが参加しないTPPは「意味がない」として、日本が率先して批准し、アメリカと交渉していくとしています。いったいどんな「秘策」が安倍首相にあるとでもいうのか。むしろこうした態度は、農業をはじめ「国の在り方」を変えるとまでいわれるTPPをあくまでも国民に押し付ける点でも、TPPを批准した後でその内容を前提に交渉すればさらに譲歩を招く危険がある点でも、国民を二重三重に裏切るものです。
TPPが日本の農業や「食の安全」、医療や雇用などを破壊し、アメリカなど輸出大国と多国籍大企業の利益を最優先したものであることは、これまでの国会審議でも明らかです。コメなど重要農産物は除外するという国会決議さえ踏みにじった協定が、安倍首相がどんなにごまかそうとも批准すべきものでないのは明白です。
安倍首相はTPPが発効しなければ保護主義が台頭し自由貿易が守れないなどといって、日本が批准し、アメリカのトランプ政権と交渉するといいますが、批准を強行したTPPを前提にした交渉では、さらに譲歩を迫られるものにしかなりません。実際、TPPへの交渉参加にあたっても、日本は農業や自動車などの分野でアメリカとの並行協議を求められ、高い「入場料」を支払わされました。TPPに盛り込まれた関税や貿易障壁の撤廃を原則にした交渉では、一層の譲歩が迫られるのは確実です。国民の利益を守ろうとするなら、TPPは批准の強行ではなく撤回するしかありません。
批准断念し平等互恵こそ
TPP参加交渉が始まって以来、即時脱退を主張してきた大学教員の会は11月末、「TPPの国会承認手続きを中止し、TPP協定からの離脱を要求する」という声明を発表しました。アメリカの離脱が確定的になった以上、日本の批准は「危険で愚かな行為」だと批判し、「(TPPが)日米2国間協議の場で、協議のスタートラインとされる恐れが多分にある」と指摘していることは重大です。
発効の見通しがないTPP批准は無責任なだけでなく危険です。批准は断念し、協定承認案は撤回して、平等・互恵の貿易・経済関係の確立にこそ向かうべきです。