「日米同盟が外交の基軸」、これはもう聞き飽きている言葉ですが、体制側の政治家、役人、評論家たちはひとしく「発言時の枕詞」にしています。それによって初めて意見を言うことができると言わんばかりにです。それにもかかわらずその「日米同盟」というのはまやかしであって、正しくは「対米従属」です。実際に「対米従属こそが最良の戦略」だと口にした(元)官僚もいました。
確かに米国の軍事力は桁はずれなのですが、同時に史上空前の侵略国家であり謀略国家でもあるというダーティーさを持っています。そんな国への無条件の追随がどうしてそんなに大事なのでしょうか。日本が国連の常任理事国に立候補したときに明らかになったことは、日本は世界から「米国の腰巾着」だと見られているということでした。
toriiyoshiki氏のツイートが、「保守派と見做される西部邁氏と共産党の小池晃氏の見解がほとんどの部分で一致したというのが面白い」のタイトルで情報サイト:「晴耕雨読」に載りました。
そこでは、『ちょっと古くなるが、中島岳志さんの論壇時評。保守派と見做される西部邁氏と共産党の小池晃氏の見解がほとんどの部分で一致したというのが面白い。右だの左だの(あるいは中道だの)という政治的立ち位置によるレッテル貼りはもはや意味を失っている』と前置きして、中島氏の時評のURLを紹介しています。
安倍首相の「戦後レジームからの脱却」が「戦前回帰」の意味であったのは噴飯ものですが、トランプの登場を機に日本はいまこそ真の意味での「戦後レジームからの脱却」を図るべきです。
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【論壇時評】岐路に立つ「同盟依存」トランプ政権と日本・・・中島岳志
東京新聞 2016年11月29日
日本時間の九日夕方、アメリカ大統領選挙でトランプの勝利が確実になった。この直後からさまざまな分析や見通しが語られたが、中でも興味深かったのが翌十日にBSフジ「プライムニュース」が放送した「脱 “アメリカ属国” 論」だった。出演者は保守思想家の西部邁(すすむ)と日本共産党の小池晃。一見すると立場が真逆に見える二人の見解は、ほとんどの点で一致していた。
二人が声をそろえて主張したのが、対米従属からの脱却と新自由主義への批判である。トランプは選挙中に、日本における駐留米軍の撤退をにおわせる発言を行ったが、二人はその方向性を歓迎する。もちろんTPPにも反対。アメリカのいびつな格差社会を問題視し、新自由主義やグローバリズムを批判する。
西部が顧問を務める『表現者』67号では、「日本共産党とは何ものか」という特集を組み、西部、小池、西田昌司(しょうじ)、富岡幸一郎による座談会「日本共産党に思想と政策を問う」を掲載している。この中で西部は、日本共産党がその首尾一貫性において「断トツに優れている」と評価し、「グローバリズム反対」や「日本の中小企業や農業への保護」、「マーケットにおける利潤最大化のみを追求する資本主義への批判」などを高く評価する。
一方で、小池も「対米従属の根源にある日米安全保障体制は打破しなければならない」と述べ、これこそが真の意味での「戦後レジーム」からの脱却であると主張する。そして、保守思想への敬意を示しつつ、「死者の叡智(えいち)も含めてしっかり受け継ぐ政治でなければならないというのが、我々の基本的な考え」と述べる。
もちろん対立点は存在する。憲法九条の改正を主張する西部に対し、小池は護憲の立場を貫く。ただ、小池は自衛隊をいきなりなくすべきだと論じているわけではない。「急迫不正の侵害から日本の国土と国民を断固として守るのは当たり前」であり、個別的自衛権は否定しない。憲法九条は「未来の世界が進むべき一つの理想的方向性を示し」ており、現実政治によって実現に向けて努力して行くことが重要だと説く。
保守と共産党。防衛論における齟齬(そご)が存在するものの、自公政権が親米・新自由主義へと傾斜する中、それに抵抗する両者の立ち位置は限りなく接近している。自民党の西田は、「共産党が言っていることは光り輝いている」とエールを送り、西部は「自共連合政権を実現させてくださいよ」と、半ば冗談交じりに迫る。西部も西田も、現時点においては自民党よりも共産党の方が保守思想に近い政策を説いていることを認め、率直な評価を表明しているのだ。
これは、現在進行中の野党共闘に重要な示唆を与える。民進党の中には、共産党と手を組むことによって保守層の支持が離れていくことを恐れる向きがあるが、むしろ共産党の政策を取り込むことによってこそ、本来の保守へと接近するという逆説が存在する。トランプ政権誕生は、世界各地で思想の地殻変動を加速させるだろう。もはや「左」と「右」という二分法はリアリティーを持たなくなっている。日本においては、野党共闘による合意形成こそが、ネオコン・新自由主義勢力に対するオルタナティブ(代案)な選択肢となるはずだ。
『週刊東洋経済』11月12日号では、対米従属論をめぐって、対立する見解を掲載している。白井聡「自分の論理を構築して対米従属から脱却せよ」は、対米従属が自己目的化する日本外交を厳しく批判し、「自分の論理を構築していくこと」を要求する。
一方、中山俊宏「日米同盟がベスト 属国の議論は筋違い」では、対米不信を表明する論者に対して「現実味がない」と批判する。中山は「想定しうるオプションを一つずつ考えていくと、最終的に残るのはやはり日米同盟」と述べ、価値観を共有できるアメリカとの同盟関係こそが最善の選択肢とする。ただし、中山は単なる現状維持を主張しているのではない。「今重要なのは、どうして米国が必要なのかをあらためてきちんと考えたうえで、日米同盟を再選択すること」と述べる。
いずれにせよ、トランプ大統領の誕生を目前に、日米同盟に依存してきた戦後日本は、大きな岐路に立たされている。国際政治においては、安全保障上の空白が生じると、それを埋めようとする力学が必ず働く。アメリカのリバランス(再均衡)政策に何らかの変更が生じれば、ロシアや中国の動向を正確に見極め、行動する必要がある。この変化にいかに対応すべきか。日本の未来を見通す思想と構想力が問われている。
(なかじま・たけし=東京工業大教授)