26日の「櫻井ジャーナル」はアメリカにおける言論統制の強化について解説しています。
アメリカの体制側(支配層)は、第2次世界大戦が終わった直後から組織的に報道コントロールを目論んで来たと言われます。その結果いわゆるメディアへの言論統制はもう完成しているようなのですが、下院で11月30日、新たに政府や有力メディアが伝える「正しい報道」に反する「偽報道」を攻撃する手段になる法律を可決しました。その矛先は勿論インターネットの言論界にも向けられています。
「偽報道」を取り締まるのは当たり前ではないかということになりかねませんが、体制側が言う「偽報道」・「偽情報」というのは要するに自分たちにとって都合の悪い報道・情報のことで、いわば真実を暴露することを禁ずるというものです。そもそも何が真実で何が嘘なのかの見分けが困難だからこそ、言論の自由が認められているのではないでしょうか。
「ビル・クリントン政権、ジョージ・W・ブッシュ政権、バラク・オバマ政権、いずれも偽情報を流しながら世界に戦乱を広め、破壊と殺戮で人びとを苦しめてきた。その手先として偽報道を繰り返しているのが西側の有力メディアにほかならない」、「しかしその嘘が余りにも露骨になって信じる人が減少してきたので、言論統制を一段と強化することにしたのだ」と述べています。新しい法律を字句通りに守るべきは体制側の方でしょう。
言論弾圧の効果は戦前の日本で実証済みです。いまマッカーシズムを巻き起こしつつあるアメリカの体制側は、戦前の日本のような状況を目指すファシズム化にまっしぐらです。
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オバマ大統領は国防授権法の中に言論の自由を破壊する
条項を入れ、ファシズム体制を強化して去る
櫻井ジャーナル 2016年12月26日
バラク・オバマ大統領が12月23日に署名した2017年国防授権法(NDAA)には言論統制の強化を合法化する条項があり、アメリカはますますファシズム化が進むことになるだろう。アメリカ下院は政府や有力メディアが伝える「正しい報道」に反する「偽報道」を攻撃する手段になる法律を11月30日に可決、12月8日は上院が対偽情報プロパガンダ法を通過させている。ロシアや中国などからの「プロパガンダ」に対抗するアメリカの同盟国を助けることが上院を通過した法案の目的だが、それがNDAAに組み込まれたのだ。
本ブログでは繰り返し書いてきたが、アメリカでオバマ政権や有力メディアが宣伝している「偽情報」や「偽報道」とは、自分たちにとって都合の悪い情報を意味しているにすぎない。自分たちが発信してきた「偽情報」や「偽報道」の効果がないことに慌て、言論統制を強化しようとしているにすぎない。
1992年にネオコンは世界制覇のプロジェクトを作成、その翌年に大統領となったビル・クリントンはそのプロジェクトを始動させない。そこで有力メディアはユーゴスラビアを先制攻撃させるために偽情報を流しはじめ、99年にNATO軍はユーゴスラビアを全面攻撃した。その間、メディアはクリントン大統領をスキャンダルで攻撃している。
ユーゴスラビアに関する偽報道を広める上で活躍したひとりがニューズデイのボン支局長だったロイ・ガットマン。ボスニアで16歳の女性が3名のセルビア兵にレイプされたと1992年8月に書いているのだが、これは嘘だったことが判明している。この嘘を広めた功績で、後に彼はピューリッツァー賞を受賞した。
この人物、今年12月にも偽情報を記事にしている。ダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)を作ったのはシリア政府であり、「アル・カイダ」を操っているのはバシャール・アル・アサドだというのだ。この記事もすぐ嘘だとばれる代物だが、ピューリッツァー賞を信奉する人には効果があるかもしれない。
ところで、クリントン政権がユーゴスラビアを軍事介入する方向へ舵を切るのは1997年1月のこと。ズビグネフ・ブレジンスキーの教え子で、ファースト・レディだったヒラリー・クリントンと親しいマデリン・オルブライトが国務長官に就任してからだ。
イラクを先制攻撃する際に言われた大量破壊兵器が嘘だったことは後に発覚、その事実はジョージ・W・ブッシュ政権の閣僚も認めざるをえなくなっている。この時、イギリスのトニー・ブレア政権が侵略を正当化する偽情報の流布に果たした役割も判明している。
リビアやシリアへの軍事介入を正当化するために宣伝された民衆弾圧も嘘。シリアの場合、アメリカなど西側は当初、シリア系イギリス人のダニー・デイエムが使ってシリア政府の弾圧を宣伝していたが、彼のグループが「シリア軍の攻撃」を演出する様子を移した部分を含む映像がインターネット上に流出、嘘が発覚した。次に化学兵器の使用を西側は主張したが、これも嘘がすぐに発覚する。
ビル・クリントン政権、ジョージ・W・ブッシュ政権、バラク・オバマ政権、いずれも偽情報を流しながら世界に戦乱を広め、破壊と殺戮で人びとを苦しめてきた。その手先として偽報道を繰り返しているのが西側の有力メディアにほかならない。その嘘が余りにも露骨になって信じる人が減少、そこで言論統制の強化だ。
第2次世界大戦が終わった直後からアメリカの支配層が組織的な報道コントロールを目論んでいたことは本ブログでも紹介した。いわゆるモッキンバードだ。その中心人物は戦争中から破壊活動を指揮していたウォール街の弁護士でもあるアレン・ダレス、その側近でやはりウォール街の弁護士だったフランク・ウィズナー、ダレスの側近で後にCIA長官になるリチャード・ヘルムズ、そしてワシントン・ポスト紙の社主だったフィリップ・グラハムだ。(Deborah Davis, “Katharine The Great”, Sheridan Square Press, 1979)
日本ではウォーターゲート事件でリチャード・ニクソン大統領を辞任に追い込んだことから「言論の自由」を象徴するイコンとして崇められているワシントン・ポスト紙だが、情報操作に深く関与していたのだ。
ウォーターゲート事件の取材で中心的な役割を果たしたカール・バーンシュタイン記者は1977年に同紙を辞め、その直後に「CIAとメディア」というタイトルの記事をローリング・ストーン誌に書いている。それによると、400名以上のジャーナリストがCIAのために働き、1950年から66年にかけて、ニューヨーク・タイムズ紙は少なくとも10名の工作員に架空の肩書きを提供しているとCIAの高官は語ったという。(Carl Bernstein, “CIA and the Media”, Rolling Stone, October 20, 1977)
1970年代の有力メディアには気骨のある記者や編集者がまだいたが、それでも情報機関にかなり浸食されていた。現在では露骨なプロパガンダ機関にすぎないのだが、それでもイコンとして扱いたがる人がいる。日本のマスコミは駄目だが、アメリカのニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙はすばらしいというわけだ。そうした西側メディア信奉者は国際情勢に目を向けたがらない。結局、日本の支配層を操るアメリカの支配層が描く幻影を受け入れることになる。
言論統制の強化を後押しする記事をワシントン・ポスト紙が掲載したのは11月24日。政府や有力メディアが伝える「正しい報道」に反する「偽報道」を攻撃する手段になる法律が報道の2日前に下院へ提出され、30日に可決された。彼らはトランプを攻撃するだけでなく、巨大資本による支配システム、つまりファシズム化を実現するための体制を立て直そうとしている。そうした人びとが受け入れる幻影を流しているアメリカの有力メディアの「報道」に反する情報を封印しようというのが今回の法律だ。