政府の「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」は30日、3回目となる専門家へのヒアリングを行い16人全員からの聴取を終了しました。その結果は、条件付きも含め半数を超す9人が退位容認で、残る7人は反対または慎重な考えを示しました。
国民の9割が天皇のお気持ちに賛意を示しているのとは乖離していますが、これは日本会議系・神道系の人たちを豊富に含んだ人選だったからで、反対が多数にならなかったのを幸いとすべきでした。今後は有識者会議で結論を出すことになりますが、この人選も政府寄りになっているので政府が当初予定した通りに、特例法により一代限りの生前退位を可能にするものになると思われます。
それにしても、反対派の言い分は、
平川祐弘・東大名誉教授の「今の陛下は国民統合の象徴としての責務を国事行為だけではなく『旅』にあると表現され、・・・ご自分で拡大解釈した責務を果たせなくなるといけないから次に引き継ぎたいという個人的なお望みをテレビで発表されたのは異例・・・悪しき前例となり皇統が内側から崩れかねない」という驚くべき極めつけや、
渡部昇一・上智大名誉教授の「退位ではなく『摂政』で対応すべきだ。・・・陛下が摂政は好ましくないと述べられたのは、・・・宮中で国と国民のために祈ってくだされば十分だ。天皇の仕事は祈ることだ」、
また八木秀次・麗沢大教授氏の「自由意思による退位容認は、次代の即位拒否と短期間での退位を容認することになり、皇位の安定性を一気に揺るがす」
などという独断的なもので、それぞれが不思議で不可解な主張でした。それは現憲法の理念から逸脱した独自の皇室観からくるものとしか思えません。
また生前退位を認めると上皇や院政の弊害や恣意的な退位強制があり得るなどというのも、数百年も前の状況でなければあり得ないことです。
なぜ、「現行の終身在位制は広範囲にわたる公務の遂行とは両立しがたい」という事実を素直に認めることができないのでしょうか。そして今上天皇が熟慮の上で、摂政を望まれずまた一代限りの実施も望まれなかったということを・・・
二つのブログを紹介します。
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安倍晋三内閣は今上天皇の強いご要望よりも自分たちの都合を当たり前のように優先している
山崎 雅弘 晴耕雨読より転載 2016年12月1日
「一代限りの特例法で退位を認めることについて、天皇陛下の考えはどうなのか。長く親交のある友人には、『(退位は)自分だけの問題ではない。将来にわたって象徴天皇制のあり方がどうあるべきかが大切』との考えを示していたことがわかった。直接的な表現を避けながらも、特例法での対応に異を唱えたと受け取れる」
「この友人によると、陛下は過去の天皇が存命中に退位してきたことを挙げ、『天皇が元気なうちに譲位することは合理的。四六時中、象徴天皇としての活動ができないのであれば、若い世代にバトンタッチするのが当然』という趣旨の話をした。さらに「僕(天皇)がそういうことを言ったとしても、びっくりする話ではない』とも語ったという」
これは重要な証言だろう。
自分一代だけ良ければいいと、天皇が考えておられないことは、先のお言葉が明瞭に示している。
「天皇陛下が8月にビデオメッセージを公表する約20日前の7月、退位について恒久制度を望む思いを、学友の明石元紹氏(82)に電話で打ち明けていたことが、明石氏の証言で分かった」
「陛下は『将来を含めて譲位(退位)が可能な制度にしてほしい』と語られたという」
「私的な会話とはいえ、退位の在り方について陛下の具体的な考えが明らかになったのは初めて。父である昭和天皇の大正時代の経験を踏まえ、摂政設置によって混乱が生じることへの懸念も示したという」
朝日の記事では証言者がぼかされているが、西日本新聞は実名写真入りで報じている。
今上天皇と、天皇の意向や言葉を平然と無視する安倍政権および日本会議等の国家神道系勢力の「せめぎ合い」が繰り広げられている。
今、国民が傍観者でいいのか。天皇から直接投げられたボールを、国民はどうするのか。
「陛下は、退位の意向について切り出し、『過去に譲位は数え切れないほどあった。長い歴史を考えれば、びっくりすることではないんだ』と説明された」
「『摂政はよくない』との思いも示された」天皇陛下が退位の意向がにじむおことばを公表する直前の7月21日、恒久的な制度による退位を望む考えを学友に打ち明けられていたことが分かった。摂政に否定的な考えも明言したという(毎日) https://t.co/llEcHmSEzc
「学友は学習院の高等科まで陛下と同級生だった明石元紹氏(82)」
「陛下は退位について『ずいぶん前から考えていた』としたうえで、『日本の歴史は長いが、途中で(天皇が)代わった例はいくらもある。生きているうちに譲位をしてもびっくりすることでもない』と話したという。制度のあり方について、陛下は『国のための制度がある以上、合理的でいつも変わらない形にならないと意味がない』と、恒久制度を望む気持ちを打ち明けたという」
「杉田和博官房副長官は『一代限りの退位ならまとめることはできるが、恒久法という形は難しい』との考えを示したという」
天皇のご意向など平然と切り捨てる、官房副長官の居丈高な態度に驚かされる。
安倍晋三内閣は、今上天皇の強いご要望よりも自分たちの都合を当たり前のように優先しているが、そんな天皇愚弄に何の抵抗も感じないのか。
安倍晋三内閣や日本会議は、万世一系の天皇を戴く日本はスゴイと言いながら、今上天皇の強いご要望や、国民向けに明言されたお言葉の内容を、平然と足蹴にする。
各紙が報じる「電話で話した旧友」の証言で、天皇が「譲位」という言葉を使い、一人称で「僕」という言葉を使われているのも興味深い。
そして「摂政という制度は日本を政治的に二分した前例もあるのでよくない」と、過去の歴史を謙虚に客観視し反省する視点も。
摂政を主張する人間は天皇の側にいない。
「一代限りの特別法で対処」という解決法は、皇太子とそれ以後の代に関しては、今と同じ状況が再び生じても、今上天皇が「よくない」と考える「摂政」で対処するからそのつもりで、という、安倍晋三氏から天皇に対する冷酷な宣告に他ならない。
国家神道系勢力のせいで、天皇の懸念と心労は休まらない。
>高田健 何の民主主義的手続きも経ないで、官邸が恣意的に選抜した「会議」の人数比を出す意味がどこにあるのか。新聞の劣化を示すものだ。 https://t.co/99xHHlBxDv 「退位巡る有識者ヒアリング終了 賛成8人・反対7人に」
今発売中の『歴史群像』誌に寄稿した「レッドパージ」の原稿でも触れたが、敗戦直後にGHQが下した「人権指令」(1945年10月4日)には「日本国民が天皇について自由に考え、批判的視点も含めた形で客観視できるようにする」との趣旨も含まれていた。
今の日本人は、その自由を自覚しているか。
政治が退位問題に結論を出す前に新党憲法9条を実現したい
天木直人 2016年12月1日
天皇退位に関する有識者会議における有識者の意見がひととおり出そろったが意見は分かれたままだ。
それもそのはずである。
天皇陛下が提起された問題は、この国の天皇制についての核心的問題であるからだ。
天皇陛下が8月8日のお言葉で伝えたかったことは何か。
これまでの報道や、天皇陛下のご学友、側近、安倍首相は宮様たちの証言なども参考にして、私なりに要約すれば、次の如くだ。
天皇はかねてから生前退位のお気落ちをお持ちだった。
そしてこの天皇の生前退位は、決して初めての事ではなく、天皇制の長い歴史の中では、かつて行われたことがあった。
しかし、旧帝国憲法下で成立した皇室典範と、それを作った当時の為政者は、それを認めなかった。
戦後になって、民主憲法の成立とともに天皇の地位は象徴天皇として根本的に変わった。
それにも関わらず、皇室典範は明治の頃と同じものが引き継がれた。
天皇陛下は、決して公務を減らしたい為に退位を言い出したわけではない。
ましてや、早く退位したいから生前退位を言い出したのではない。
それどころか、象徴天皇としての公務は自分が在位するかぎりは天皇の手で遂行されるべきで、決して摂政などを置いて代行させるべきではないというお考えだ。
それが老齢とともに十分できなくなった。
象徴天皇のつとめを十分に遂行できない以上、後継天皇に天皇を譲ることによって、自分の求める象徴天皇の役割が継続されることを希望する。
だから、退位は自分限りの特別扱いであってはならない。
皇室典範を新憲法下で改正し、制度的なものとして認められるべきものだ。
以上が天皇陛下のお考えなのである。
これを要するに、退位は、新憲法下の象徴天皇制にふさわしい形で制度的に認められ、退位は、新憲法下の象徴天皇制にふさわしい皇室典範の改正によって実現してもらいたいということだ。
そしてこれはまさしく安倍首相にとって究極の難題なのだ。
しかし、安倍首相はこの難問でさえごまかして乗り切ろうとするだろう。
有識者の意見がまとまらない以上、最後は政治が決めるしかない。
しかし、さすがの安倍首相も、天皇の退位問題だけは、自分の考えで強行することははばかられる。
そこで、与野党を巻き込んだ政治の責任で退位問題を解決するつもりだ。
追い込まれるのは野党だ。
そもそも天皇制に反対する共産党は、野党共闘を優先して天皇制を棚上げしたから、議論に積極的に参加できない。
民進党は、皇室典範の改正を求めて特例法で逃げようとする安倍首相と対決姿勢を見せるだろうが、天皇の生前退位のご意向に逆らうのか、おことばの早期解決の足を引っ張るのか、と批判され、最後は安倍自民党と連携するしかない。
天皇陛下の公務負担軽減に同情的な国民は、おことばの早期解決を歓迎する。
かくて、特例法による、今上天皇限りの生前退位が、与野党一致で認められることになる。
天皇陛下の国民に対する渾身の呼びかけが、既存の政党、政治家によってあっさりうっちゃられる。
天皇陛下はなすすべなく沈黙するしかない。さぞかし無念だろう。
天皇陛下のお言葉に対して既存の政党、政治家が結論を出す前に、何としてでも憲法9条を国是とすることを公約に掲げる新党憲法9条実現し、その存在を天皇陛下に知らせることが私の悲願である(了)