2017年6月17日土曜日

各紙が共謀罪強行成立を批判する社説

  16日、各紙は一斉に共謀罪法強行成立を批判する社説を掲げました。
 西日本新聞、琉球新報、熊本日日新聞の社説を紹介します。
 
「共謀罪」法成立 憲政史上に汚点残す暴挙      西日本新聞 2017年06月16日
「共謀罪」法成立 民主主義の破壊許さず        琉球新報 2017年6月16日
「共謀罪」法成立 頂点に達した政権の横暴       熊本日日新聞  2017年06月16日  
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「共謀罪」法成立 憲政史上に汚点残す暴挙
西日本新聞 2017年06月16日
 市民社会を脅かしかねない法律が十分な審議を経ないまま、奇策に類する手段によって成立した。これを暴挙と言わずに何と言うのか。議会制民主主義の放棄、国民無視も甚だしい。自民、公明の与党は憲政史上、取り返しのつかない汚点を残したといえよう。
 「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法がきのう、参院本会議で与党と日本維新の会などの賛成多数で可決、成立した。与党は「中間報告」という手続きで参院法務委員会の採決を省き、本会議の採決を強行した。
 
●「禁じ手」の中間報告
 国会は委員会の審議と採決を経て本会議に議案を付すのが原則だ。委員会が専門的に審議し、論点を深めるのが狙いである。例外として国会法は、衆参各院が特に必要とするときは委員長らに審議の中間報告を求め、それを受ける形で本会議の審議を認めている。
 臓器移植法やその改正法で、ほとんどの党が死生観に関わるとして党議拘束を外したため、本会議で議員個々の判断に任せようと中間報告をしたのが代表例だ。
 今回は特別の事情などない。与党は改正処罰法を成立させて国会を早く閉じたいだけだ。文部科学省の再調査で「総理のご意向」文書が確認され、安倍晋三首相が矢面に立つ学校法人「加計(かけ)学園」の獣医学部新設問題で野党の追及を避けたかったのだろう
 
 公明党が重視する東京都議選の告示も23日に迫っており、18日に会期末を迎える今国会は延長せず閉じるに越したことはない。いわば「禁じ手」の中間報告による採決強行は、首相と与党の事情を優先した結果である。
 衆参両院で単独過半数を占める巨大与党の「自民1強」に支えられ、首相の在任日数が戦後3位(第1次政権を含む)になった長期政権だからこそ成し得た強権的な政治ともいえるだろう。
 今回の「共謀罪」法成立が、いわば1強政治の頂点となるのか、それとも、首相が悲願とする憲法改正へつながる潮流となるかは、なお予断を許さない。
 
 政府は「東京五輪に備えたテロ対策」「組織犯罪防止の国際条約締結のため」と主張した。テロ対策や国際条約と言えば国民の理解が得やすいと考えたのだろう。
 対象犯罪は277もあり、テロと無関係と思われる森林法や商標法などを含む。条約はマフィアなどの経済犯罪防止が目的で、現行法で締結可能との指摘もある。
 結局、政府から明解な説明はなかった。いくら「テロ対策」と力説したところで改正法は実質的に国民や野党の反発を浴びて過去3回も廃案になった共謀罪の焼き直しにすぎなかったことを物語る。
 
 多くの人は「テロや組織犯罪とは無関係な市民に影響はない」と考えるだろう。だが金田勝年法相らは「一般の団体が組織的犯罪集団に一変した場合に構成員は一般の方々でなくなる」と答弁した。
 一般の団体がいつ組織的犯罪集団に変わるか、捜査当局の市民監視は強化されるだろう。しかも組織的犯罪集団の定義は明確でない。法相は「組織的犯罪集団の構成員でないと、犯罪が成立しないわけではない」とも語った。捜査対象は当局の恣意(しい)的判断でいくらでも拡大する。
 
●権力の暴走を許さず
 安倍政権は、国民の知る権利を侵害しかねない特定秘密保護法、憲法解釈の変更で集団的自衛権の行使を可能にした安全保障関連法に続いて、市民社会を萎縮させかねない今回の改正法も強引に押し通した。野党の反対、国民の不安、専門家の懸念を「数の力」で一蹴する政治手法は共通する。
 しかし、このまま市民が縮こまってしまってはいけない。国家権力や捜査当局がどんなことをしようとしているのか、逆に私たち市民は監視していく必要がある。
 2003年の鹿児島県議選で公選法違反に問われた12人全員の無罪が確定した志布志事件、16年の参院選で大分県警別府署員が野党の支援団体が入る建物の敷地に隠しカメラを設置した事件など不正捜査や冤罪(えんざい)事件は後を絶たない。
 国家権力や捜査当局の暴走を許してはならない。憲法の国民主権、平和主義、基本的人権の三大原理をよりどころに、物言う市民であり続けたい。また私たちは、そんな市民を支え、守るメディアであり続けたいと思う
 
 
<社説>「共謀罪」法成立 民主主義の破壊許さず
琉球新報 2017年6月16日
 数の力を借りた議会制民主主義の破壊は許されない。
 
 犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」法が参院本会議で成立した。自民、公明両党が参院法務委員会での審議を省略する「中間報告」と呼ばれる手続きで採決を強行し、与党と日本維新の会などの賛成多数で可決した。
 この法律は監視社会を招き、憲法が保障する「内心の自由」を侵害する。捜査機関の権限を大幅に拡大し、表現の自由、集会・結社の自由に重大な影響を及ぼす。
 衆院は十分な論議もなく法案を強行採決した。「良識の府」であるはずの参院も20時間足らずの審議で同様の暴挙を繰り返したことに強く抗議する。法案の成立は認められない。もはや国民に信を問うしかない
 中間報告は国会法が定める手続きだが、共謀罪法は熟議が必要であり、一方的に質疑を打ち切るのは国会軽視である。学校法人「加計学園」問題の追及を避けるためだとしたら本末転倒だ。
 政府は共謀罪法の必要性をテロ対策強化と説明し、罪名を「テロ等準備罪」に変更した。テロ対策を掲げて世論の賛同を得ようとしたが、同法なくしては批准できないとする国際組織犯罪防止条約(TOC条約)は、テロ対策を目的としていない。
 TOC条約の「立法ガイド」を執筆した米国の大学教授は「条約はテロ対策が目的ではない」と明言している。政府が強調する根拠は崩れている
 日本政府は共謀罪法を巡り、国連人権理事会のプライバシーの権利に関する特別報告者からも「プライバシーや表現の自由を制約する恐れがある」と指摘されている。だが、理事国である日本政府は国際社会の懸念に対して真剣に向き合っていない。
 共謀罪法は日本の刑法体系を大きく転換し、犯罪を計画した疑いがあれば捜査できるようになる。政府は当初「組織的犯罪集団」のみが対象であり一般人には関係がないと強調してきた。しかし参院で「組織的犯罪集団と関わりがある周辺者が処罰されることもあり得る」と答弁した。周辺者を入れれば一般人を含めて対象は拡大する。
 さらに人権団体、環境団体であっても当局の判断によって捜査の対象になると言い出した。辺野古新基地建設や原発再稼働、憲法改正に反対する市民団体などが日常的に監視される可能性がある。
 かつてナチス・ドイツは国会で全権委任法を成立させ、当時最も民主的と言われたワイマール憲法を葬った。戦前戦中に監視社会を招いた治安維持法も、議会制民主主義の下で成立した。
 共謀罪法は論議すればするほどほころびが出ていた。強行採決によって幕引きしたのは「言論の府」の責任放棄である。過去の過ちを繰り返した先にある独裁政治を許してはならない。
 
 
「共謀罪」法成立 頂点に達した政権の横暴
熊本日日新聞  2017年06月16日  
 国民のプライバシーと自由を脅かしかねない法律が、十分な説明もないまま数の力によって成立してしまった。いくら「安倍1強」の政権下にあるといっても、このような横暴がまかり通ってよいはずがない
 
 犯罪を計画段階で罰する共謀罪の構成要件を取り込み「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法が15日、参院本会議で可決、成立した。法務委員会での審議を求める野党に対し、与党は委員会採決を省略して「中間報告」で済ませるという“禁じ手”を繰り出し、本会議での採決を強行した。
 安倍晋三首相は法案の可決に向けて、丁寧な審議や、分かりやすい説明に努めることを繰り返し約束していただけに、国会軽視のそしりを免れない。突然方針を転換し、なぜ横暴さが目立つ手法をあえて選んだのか。国民に明らかにするべきだ。
 
<テロを防げるのか>
 改正組織犯罪処罰法は、過去3度廃案となった共謀罪をテロ対策の名の下に復活させたものだ。「テロ等準備罪の『等』はテロ以外の組織犯罪」とし、対象はテロに限定されない。
 政府は、2020年東京五輪・パラリンピックを見据えたテロ対策のために、国際組織犯罪防止条約の早期締結が必要だと主張。条約締結には、共謀罪を処罰する国内法の制定が欠かせないと唱えてきた。首相も「条約を締結できなければ、東京五輪を開催できないと言っても過言ではない」と述べ法整備に理解を求めていた。
 しかし、条約の「立法ガイド」を執筆した米国の法学者によれば、この条約はテロ対策を目的としたものではないという。条約の締結に必要な予備罪や準備罪の立法措置は完了しており、共謀罪の新設は必要ないとの指摘もある。
 過去を振り返っても、共謀罪と五輪の招致・開催が結び付けて議論されたことはなかった。単独犯によるテロも世界を震撼[しんかん]させている中、同法がテロ防止にどの程度役立つのか不明瞭なままだ。
 
<不明確な適用対象>
 疑問はそれだけではない。適用対象も不明確なままだ。政府はテロ組織や暴力団など「組織的犯罪集団」に限定され、下見や資金の用意など「実行準備行為」がないと処罰できないから「一般人が対象になることはあり得ない」と繰り返したが、一方では、正当な活動を行っていた団体でも目的が「一変」した場合は処罰の対象になる、とも説明した。
 目的の「一変」を誰が見極めるのか。捜査機関の恣意[しい]的な判断が入りこむ余地はないのか。犯罪の計画を立てていない人が捜査対象として巻き込まれない保証はあるのか。市民の監視が強まる恐れはないのか…。次から次へと浮かぶ疑問に、政府も国会も明確な答えを示していない。政府はできるだけ幅広く網を掛けるために、意図的に分かりにくくしているように見える。
 反原発や反基地などの運動をする団体が捜査対象になるとの懸念も拭い切れない。適用犯罪の絞り込み方にも疑問がある。公権力を私物化する政治資金規正法違反や政党助成法違反など政治家にとって都合の悪い犯罪は、なぜ対象外となったのか。
 
<露骨な「加計隠し」>
 幾多の疑問を抱えながら成立を急いだ背景には、首相の友人が理事長を務める学校法人「加計学園」の獣医学部新設を巡る問題の幕引きを図りたいとの思惑が透ける。国会最終盤に入り、政権は野党の攻勢を受けて記録文書の再調査に追い込まれた。与党は改正法案の審議難航を受けて国会会期の小幅延長も検討していたが、延長すれば野党が勢いを増し、23日告示の東京都議選にも影響しかねない、との判断が働いたようだ。
 さらに、異例の中間報告で乗りきった背景には、参院の法務委員長を公明党の議員が務めていたことも影響しているようだ。野党議員の抗議を押しのけて委員会採決を強行することになれば、公明党への打撃は計り知れない。自民党にこうした忖度[そんたく]も働いたことは想像に難くない。
 政府、与党は早く国会を閉じてけむに巻くつもりかもしれないが、一連の動きは議会制民主主義の否定であり、安倍1強の横暴が頂点に達したことを物語る。強権的な手法を許してしまう野党の弱体化は嘆かわしい限りだが、以前なら自民党の中にも政権を批判する勢力がいたはずだ。
 国家による社会の監視強化が進むのは間違いない。自由に物を言える権利を奪われないために何をすべきか、何ができるか-。市民がそれぞれの立場で考え、恣意的な運用や捜査権限の膨張に歯止めをかけていく必要があろう。