2016年度の国の一般会計税収(確定)が前年度実績(56・3兆円)に比べ約1兆円減少し、55兆円台にとどまったことが分かりました。16年度前半の円高進行により法人税収が低迷したことが響きました。
税収が前年度実績を割り込むのは、リーマン・ショックがあった09年度以来、7年ぶりのことです。企業業績を回復させて税収を増やすというアベノミクスが完全に破綻したことの反映です(日刊ゲンダイ)。
経済学者の野口悠紀雄名誉教授が「現代ビジネス(6月28日)」に、日銀がいま行っている金融緩和政策から脱却した場合のケーススタディーを載せました。かねてからいわれていた異次元緩和からの脱却時に起きる衝撃に関するものです。
同氏によれば、仮に日銀の目標どおりに消費者物価上昇率が2%になった場合には、短期金利も2%以上になり、長期金利はそれより高く3%程度になる可能性があるので、仮に3%だとすれば、日銀保有国債の市場価格下落幅は69兆円になるということです。
日銀に泣いてもらえばいいという論理は勿論通じません。そうなれば日銀から政府への納付金(税金)がゼロになるので、直ちに国民の懐に打撃が来ます。
野口氏はそこまでで論考を終わっていますが、3%に上がった国債の利払いの問題や、国民年金の資金を投じて釣り上げてきた株価がどうなるのかも極めて深刻な問題です。
記事は、「2%のインフレ目標が達成できるとは考えにくい」ので、「このままズルズルと緩和政策が続けば想定される損失はさらに膨れ上がり、金融緩和からの脱却はさらに難しくなる。いま必要なのは、できるだけ早く脱却の準備を開始することだ」、と結ばれています。
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アベノミクス破綻「税収1兆円減」…7年ぶりに前年度割れ
日刊ゲンダイ 2017年6月29日
アベノミクスの限界がまたも露呈だ。2016年度の国の一般会計税収が前年度実績(56・3兆円)に比べ約1兆円減少し、55兆円台にとどまったことが分かった。16年度前半の円高進行により法人税収が低迷したことが響いた。税収が前年度実績を割り込むのは、リーマン・ショックの影響があった09年度以来、7年ぶり。
政府は16年度の当初予算で、税収見通しを57.6兆円としていたが、今年1月に成立した第3次補正予算では55.9兆円に下方修正。しかし、近く公表される16年度決算では、さらに0・4兆円前後下回る見込みだ。当初予算比では2兆円超も下回る上、税収が見込み額を下回るのは15年度に続き2年連続となる。
これは、企業業績を回復させて税収を増やすというアベノミクスが完全に破綻していることを示している。
それでも、安倍内閣はアベノミクスにしがみつき、17年度予算では16年度当初見込みより1000億円以上多い57・7兆円超もの税収を見込んでいる。大甘な税収見通しにより国の財政を膨らませる安倍内閣の罪は大きい。
異次元緩和の先に、日銀が「巨額債務超過」に陥る可能性
一刻も早く脱却を図るべし
野口 悠紀雄 現代ビジネス 2017年6月28日
(一橋大学名誉教授)
日本銀行が現在行っている金融緩和政策からの脱却が議論されるようになった。では、国債の購入を縮小(あるいは停止)し、マイナス金利の付加をやめ、そして長期金利のコントロールを行なわないこととすれば、緩和政策から脱却したことになるのか? 実はそうでなく、さまざまな障害が発生すると予想されるのである。以下では、この問題について検討しよう。
金融緩和終了時の日銀巨額損失
緩和政策からの脱却に当たっては、損失が発生することが予想され、これが障害になるという指摘がなされている。
なぜ損失が発生するのか? 現在、金利は日銀によって抑制されているが、金融緩和政策が終了すれば上昇する。金利と国債市場価格は逆比例の関係があるので、金利上昇は、国債市場価格の下落を意味する。
アメリカをはじめとして諸外国の金利が上昇しているので、日本も金利が上昇する可能性は高い。また、物価との関係でもそうだ。仮に日銀の目標どおりに消費者物価上昇率が2%になったとしよう。その場合、名目金利が上昇しなければ、実質金利(名目金利から物価上昇率を差し引いた指標)がマイナスになってしまい、さまざまの問題が生じる。
物価上昇に合わせて金利が上昇するとしたら、具体的にどの程度の損失が発生するか? これは、国債保有額、償還までの残存期間、そして、金利上昇幅によって大きく異なる値となる。
日銀の黒田東彦総裁は、5月10日の衆議院財務金融委員会で、民進党の前原誠司氏の質問に答えて、「長期金利が1%上昇した場合、日銀が保有する国債の評価損が23兆円程度に達する」とした。金利上昇幅が2%であれば、46兆円ということになる。
仮に日銀の目標どおりに消費者物価上昇率が2%になった場合には、短期金利も2%以上になるだろう。長期金利はそれより高くなるので、3%程度になる可能性が十分ある。仮に3%だとすれば、日銀保有国債の市場価格下落幅は69兆円になる。
ただし、以上で述べたのは、保有国債の価格下落だ。実際に売却すれば現実の損失となるが、国債を保有し続ければ含み損に留まる。なお、保有国債を売却すれば、市場に売り圧力が加わり、国債市場価格はさらに下落する可能性が高い。したがって、損失がこの値よりも拡大する可能性もある。
国債を保有し続けても、ほぼ同額の損失
そこで、日銀は「満期落ち」、つまり償還されるまで国債を保有し続けることになる可能性が高い。
ただし、そうであっても、損失を免れるわけではない。
第一に、日銀当座預金(金融機関が日銀に預ける当座預金)に金利をつける必要がある。この当座預金の超過準備に対して日銀がつける金利を「付利」と呼ぶ。先に、金利が上昇しないと、実質金利がマイナスになると述べた。物価が上昇している局面で実質金利がマイナスになると、土地などに対する投機を引き起こしてしまう。だから、短期金利も最低2%程度に引き上げる必要がある。
短期金利を2%にするためには、現在のマイナス金利を解除するだけでなく、超過準備に対して最低2%の金利をつける、つまり付利を2%にする必要がある。なぜなら、金利が低いままだと、当座預金が取り崩されて貸し出しに回されてしまい、投機資金を供給することになるからだ。
そこで、当座預金への付利を2%にしたとしよう。他方で、保有国債の利回りは不変だ。日銀の16年度決算によれば、保有長期国債の運用利回りは、0・38%だ。だから、1・62 %だけ逆ザヤになってしまう。これに当座預金残高約340兆円をかけると、年間約5・5兆円の赤字となる。
この場合、時間が経つにつれて 償還が進み、国債残高が減り、当座預金残高も減少する(政府が国債償還の財源調達のため、市場で借換債を発行し、借換債を購入した民間銀行は、日銀当座預金口座を介して政府と代金決済を行うため、当座預金が減少する)。この過程で先に述べた当座預金金利と保有国債利回りの逆ザヤが発生する。
現在の日銀保有国債がすべて償還されるのに要する期間は、
値下がり額=保有国債額×平均残存期間×金利上昇幅
という公式と、先に示した「金利1%上昇で23兆円の損失」という日銀総裁の言明から逆算すると、7年程度ということになる。
いま簡単化のため、国債は平均である7年で一挙に償還されるとしよう。すると、逆ザヤの総額は5・5兆円×7年=38兆円となる。
国債の高値購入による損失
しかし、損失はこれでとどまらない。なぜなら、国債の償還期限まで保有しても、購入時の価格が額面より高い国債があり、その差額が損失として発生するからだ。
「日本銀行が保有する国債の銘柄別残高」という統計には、額面ベースの数字がある。この額は、380兆円(6月2日)だ。それに対して、「営業毎旬報告」には、簿価が記載されている。この額は、390兆円だ(5月31日)。両者の差は10兆円だ。
だから、償還まで保有すると10兆円の損失が発生する。これは、確実に発生する損失だ。
実は、この差は2013末では2・7兆円に過ぎなかった。追加緩和が実施された後の15年末でも5・9兆円だった。マイナス金利の導入後に、額面を上回る購入が増えて急拡大したのだ。
この額を先に計算した付利総額38兆円に加えれば、合計は約48兆円となる。これは、上で述べた現時点で一挙に売却する場合の損失と同程度の額だ。
当座預金への付利で通貨発行益もなくなる
このように、日銀に巨額の損失が発生すると予想されるが、「日銀は通貨発行益を得ることができるので問題ない」との意見がある。
以下では、この意見について検討しよう。まず、通貨発行益について説明しよう。
中央銀行は、銀行券を発行して国債や社債、手形などを購入することができ、国債、社債などからは運用収入を得られる。他方、銀行券の利子はゼロだ。だから、国債等の利子分だけの利益が発生する。これが通貨発行益(シニョリッジ)である。日銀決算によれば、2016年度の国債利子収入は約1兆円だ。
このように、中央銀行は、民間の企業のように営業活動を行って利益を上げる必要はない。マネーの発行によって利益を得られるのである。「いかに損失が発生しても大丈夫だ」という議論の論拠は、ここにある。
以上で述べたのは、日銀券の発行によって国債を購入した場合のことである。しかし、日銀は、実際には、当座預金を増やすことによって国債を購入している。そして、超過準備に対しては、これまで金利がつけられてきた(日銀当座預金の残高は、17年4月末現在で約356兆円だが、法定準備預金は約19兆円だ。残りの337兆円が超過準備だ)。
したがって、国債利子収入をうるためのコストはゼロではない。このコストを差し引いたものをシニョリッジと考えるべきだろう。
ただし、これまでは付利するといっても0・1%であったので、国債の利回りよりも低かった。しかも、当座預金残高もさほど大きくなかった。このため、利払い費の総額はわずかだった。12年度においては、315億円だった。
しかし、異次元緩和によって当座預金残高が増えたので、それに伴い、利払いも、13年度836億円、14年度1513億円、15年度2216億円と増えた。マイナス金利政策で減ったが、16年度で1873億円と、まだ大きい。
ところが、金融緩和政策から脱却すると、先に述べたように、プラスの付利を復活させる必要がある。2%という日銀のインフレ目標が達成されたとすると、付利と国債利回りは逆ザヤになり、シニョリッジはマイナスになってしまうのだ。
日銀に資本注入の必要?
予想される損失は、日銀の自己資本(=引当金勘定+資本金+準備金)約7・6兆円をはるかに上回っている。したがって、日銀は、数十兆円の規模の債務超過に陥る。
そうなると、日銀は政府への納付金を停止する。日銀納付金は税と同じようなものだから、これがゼロになるというのは、国民負担の増大だ。
それにとどまらず、資本注入が必要になるかもしれない。しかし、これには強い反対があるだろう。また、中央銀行が債務超過になった事例はないので、どうしたらよいのかの目安もない。
ところで、これまでに述べたことから分かるように、これらの問題は金利が上昇することによって生じる。ここでは、金利が2%になる場合を想定した。もし1%であれば、損失はその半分程度で済む。
いますぐに金融緩和から脱却すれば、インフレ率は低いままだから、金利もそれほど上がらない。当座預金の金利負担も少なくて済むだろう。
日銀は、6月16日の金融政策決定会合で、当面の金融政策を「現状維持」とすることを決めた。長期金利の操作目標は「ゼロ%程度」で変えず、当座預金付利もマイナス0・1%で据え置いた。国債購入のペースも従来通りの「年約80兆円をめど」とした。
そして2%のインフレ目標を変更していない。その目標が達成できるとは考えにくいので、このままズルズルと緩和政策が続き、当座預金残高が増えていくだろう。そして、国債の高値購入により、日銀保有国債の簿価と償還額(額面値)との差も拡大していくだろう。
そうなれば、想定される損失はさらに膨れ上がり、金融緩和からの脱却はさらに難しくなる。いま必要なのは、できるだけ早く脱却の準備を開始することだ。