国連人権理事会の特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏が共謀罪法案に懸念を示す「報告書」を安倍首相に送ったのは5月18日でした。日本政府はその翌日、「感情的で中身の全くない反論」をしましたが、それをケナタッチ氏から手厳しく批判されると、以後3週間、日本政府は何の対応も出来ずに「回答書」が示される気配はありません。
また同氏が要求している法案の英訳文も提出されていません。
日弁連のシンポジウムに9日、国際電話によって参加したジョセフ・ケナタッチ氏は、プライバシー保護の視点から「共謀罪」法案に懸念を示した報告書を日本政府が「感情的に」批判したことに対して徹底的に反論しました。
その概要は以下の通りです。(朝日新聞より要約)
①「懸念は他国にも向けられなければならない」(日本政府)
ケナタッチ氏:「プライバシー権に関する国連特別報告者の役職は2015年7月にでき、自分が初めての担当。今後、フランスや英国、ドイツ、米国に対しても、日本同様に観察していく。共謀罪法案にプライバシー保護の規定を盛り込んでも、条約締結は可能」
②「手続きは極めて不公正」(菅義偉官房長官)
ケナタッチ氏:「他国ではプライバシー侵害の恐れがある法案を作る場合、時には1年以上にわたって特別報告者と内容を協議する。日本政府が通常のプロセスを経ないので、日本国民の利益を守るには、公開書簡(報告書)を送ることだと考えた」
③「著しくバランスを欠き、客観的である専門家の振るまいとは言いがたい」(安倍晋三首相)
ケナタッチ氏:「自分は日本についての関心が高く30年以上プライバシーの動向を観察してきた。書簡(報告書)は5人の弁護士から別々に意見を聴いて作成した。日本の政党とは何の関わりも持っていない。あくまで学術的な見地で行った」
④「英訳については追って対応する」(岸外務副大臣)
ケナタッチ氏:「法案が成立してもそれで終わりではない。日本を良い国にする手伝いができればと思っている。場合によっては永続的に辛抱強く対処する。」
日刊ゲンダイは、日本政府からいまだに回答書が示されていないのは、ケナタッチ氏が指摘するプライバシーへの配慮が共謀罪法案には一切織り込まれていないので回答が出来ないのであり、仮に中身のない回答をしてもケナタッチ氏からキッチリ反論されてしまうからだとしています。
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「共謀罪」懸念の国連報告書を無視する安倍政権の魂胆
日刊ゲンダイ 2017年6月10日
〈法律の広範な適用範囲によって、プライバシーに関する権利と表現の自由への過度の制限につながる可能性がある〉――。国連人権理事会の特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏が共謀罪法案に懸念を示す「報告書」を安倍首相に送ってから3週間。受け取った菅官房長官は「一方的」「不適切」と色をなして反論し、岸田外相も参院法務委で「(ケナタッチ氏に)正式な回答を用意している。用意が出来次第、回答する」と気色ばんでいた。ところが、いつまで経っても日本政府の「回答書」が示される気配がない。
「精査している」。8日の参院法務委で、「回答書」について問われた岸外務副大臣はこう答えるのが精いっぱいだった。だが、ケナタッチ氏の報告書はたった5枚のリポートだ。「精査」にいったいどれだけ時間がかかっているのか。このままだと国会が閉会してしまう。外務省に回答時期を問い合わせたが、「政府が答弁している通りです」(報道課)と木で鼻をくくったような答えだった。
「ケナタッチ氏の指摘に完全論破された安倍政権は、下手に反論すればますます批判が高まると思ったのでしょう。この際、報告書の指摘は無視して、一刻も早く共謀罪法案を強行成立するつもりなのだと思います」(外務省担当記者)
共謀罪に詳しい小口幸人弁護士が言う。
「時間がかかっているのは、回答できないからです。ケナタッチ氏が指摘するプライバシーへの配慮は、共謀罪の法制度には一切織り込まれていない。だから政府は “ちゃんと運用する” としか言えない。そんな “空っぽの回答” を共謀罪成立前に示してしまうと、ケナタッチ氏からキッチリ反論されてしまう。わざとモタモタしているのでしょう」
つまり、共謀罪法案の中身がそれだけヒドイということ。ケナタッチ氏も呆れているに違いない。