2017年10月21日土曜日

株高も求人増もアベノミクスの成果ではない 実質賃金は5%も低下

 安倍首相選挙演説で盛んにアベノミクスの「成果」と称し細かな経済指標を並べています。
 とりわけ強調する株価の21年ぶりの高値について、経済学者の高橋乗宣氏は、株高は世界の株式市場が活況となり、米、独、韓など各国の主要株式指標が相次ぎ過去最高値を更新していることの反映で、むしろ官製株高の日本は出遅れていると指摘しています。
 また有効求人倍率の高水準は、若者の人口が減り、定年後嘱託などで働いていた「団塊の世代」65歳を越え続々リタイアし、1565歳の「生産年齢人口」急減した結果であって、いずれもアベノミクスの成果などではないとしています。

 同じく経済学者である植草一秀氏は、安倍首相が強調する
 ・雇用が増えた ・企業収益が増えた ・株価が上がった ・名目GDPが増えた
はウソではないが、それらの数値は「日本経済が全体として良くなった」ことを意味するものではなく、景気回復という事実」は存在しないと述べています。
 経済全体を評価する最も重要な指標である実質経済成長率の実績は、民主党政権時代の実質GDP成長率(四半期毎、前期比年率)平均値+18%だったのに対して、第2次安倍政権発足後の成長率平均値は+14%と落ちていることを指摘し、この比較を示さないで、細かな部分で「良くなったと言える部分」だを強調するのは「イカサマ」であるとしています。

 労働者にとっての最重要の経済指標である「実質賃金指数」は、厚生労働省が発表している従業人5人以上の企業すべてについての現金給与総額統計を見るのが一番公正であり、その推移を見ると、民主党政権時代にはほぼ横ばいで推移したものが、第2次安倍政権発足後は5%も落ちていることを指摘しています。要するに雇用者は増えたが、それ以上に一人当たりの実質賃金が落ちているということです。
(植草一秀氏のブログには詳しいグラフが添えられているので、詳細は原文をご覧ください)

 そして経済全体が悪くなるなかで、日本の法人企業数400万社の01%にも満たない大企業の利益だけが史上最高を更新していることは、それ以外のところの所得、労働者の所得と中小企業の所得が悪化していることを意味しているにすぎないとしています

 高橋乗宣氏と植草一秀氏の二つの記事を紹介します。
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 日本経済一歩先の真相
自画自賛の笑止 株高も求人増もアベノミクス成果にあらず
高橋乗宣 日刊ゲンダイ 2017年10月20日
 安倍首相が連日、選挙の応援演説でアベノミクスの「成果」と称し、細かな経済統計を並べている。とりわけ強調したがるのは、株価の21年ぶりの高値圏と有効求人倍率のバブル期超の高水準だ。はたして、これらが「成果」と言えるのか。

 まず株高は日本に限った現象ではない。世界の株式市場が活況に沸き、米、独、韓など各国の主要株式指標が相次ぎ過去最高値を更新。先進国で更新していないのは、日本ぐらいなものだ。
 米MSCI算出の世界株価指数が今年に入って2割上昇したのに対し、日本株の上昇率は11%にとどまる。むしろ、日本は世界同時株高に出遅れているのだし、日銀や年金資金などに支えられた「官製株高」であることも忘れてはいけない。とても、アベノミクスの「成果」と胸を張れる状況ではない。

 8月の有効求人倍率は1・52倍。43年ぶりの高水準は少子高齢化が招いた深刻な人手不足を反映している。若者の人口が減り、定年後も嘱託などで働いていた「団塊の世代」も65歳を越え、続々リタイア。15~65歳の「生産年齢人口」は急減している。それこそ安倍首相が解散表明で語った「国難」の一つが表面化した数字で、自慢して回っている場合ではない。

 毎月の現金給与総額は横ばいで、賞与は減っている。正社員の求人倍率が1倍を超えても、非正規雇用は安倍政権の5年弱で250万人近く増えた。安倍首相は「経済成長の流れを中小企業に広げる」と力説するが、中小企業の収益力はマイナス続きだ。

 どこにも自画自賛できる材料はないのに、街頭演説で安倍首相はこれ見よがしの態度だ。本来なら「頑張っているけど、効果はまだ」と言うべきところを、「民主党政権時代には成し得なかった」と誇らしげである。アベノミクスの幻の成果という煙幕を張り、もり・かけ疑惑から逃げ回る。安倍首相の嫌な本性が表れているが、自民が大勝すれば「みそぎ」ムードになりそうで、つくづく腹立たしい。

 かような経済状況では消費税率を上げる前に、国債依存度を減らすべきだが、安倍政権は日銀に国債を買わせまくり。国債発行残高は政権発足直後から来年度末には160兆円も増える見込みだ。そのうえ、首相は消費税アップの増収分の使途を借金返済から子育て支援に変えるというから、日銀の異次元緩和も財政健全化も出口は遠のくばかりである。

 今年4~6月期のGDPの成長率は、速報値の年率換算4%から改定値で2・5%へと大幅に下方修正された。まさか、選挙前に役人が政権側におもねり、数字をごまかしたわけではあるまい。ただ、アベノミクスが総括されず自民が大勝すれば、必ず今以上に「忖度の嵐」が吹き荒れるのは間違いない。

 高橋乗宣  エコノミスト
  1940年広島生まれ。崇徳学園高から東京教育大(現・筑波大)に進学。1970年、同大大学院博士課程を修了。大学講師を経て、73年に三菱総合研究所に入社。主席研究員、参与、研究理事など景気予測チームの主査を長く務める。バブル崩壊後の長期デフレを的確に言い当てるなど、景気予測の実績は多数。三菱総研顧問となった2000年より明海大学大学院教授。01年から崇徳学園理事長。05年から10年まで相愛大学学長を務めた。


植草一秀の「知られざる真実」 2017年10月19日
今回の総選挙の争点の一つとしてアベノミクスの評価が挙げられており、テレビでも取り上げられている。しかし、客観公正な報道がまったくなされていない。
専門家とされる人物がVTR出演するが、複数の人物が登場するのに、そのどちらもが政権にすり寄ったコメントを示す。テレビ局もこれを認識しながら放送していると思われる。
明らかな偏向報道であり、主権者を誤導するものだ。極めて許しがたい現実が広がっている。

「日本経済は数字の上では良くなっているが景気回復の実感がない」との表現が用いられているが、これは完全な間違いである。
「日本経済に数字の上で良くなっているように見える部分があるが、実は良くはなっておらず、景気回復の実感がないのではなく、景気回復という事実が存在しない」というのが客観公正な評価である。
このことを以下に示す。野党はこの事実を正確に主権者に知らせるべきである。

安倍首相が述べている、日本経済が良くなったという「部分」は以下の4点である。
雇用が増えた。
企業収益が増えた。
株価が上がった。
名目GDPが増えた。
これらはすべて事実である。安倍首相がウソを言っているわけではない。
しかし、これらの数値は、「日本経済が全体として良くなった」ことを意味していない。日本経済の「良くなった一部」を取り出して、これを強調しているだけだ。
雇用が増えたのは事実で、このことを悪いことだとは言わないが、重要なのは労働者の全体としての所得の推移なのだ。
経済全体を評価する、一番重要な指標は経済成長率である。その経済成長率が名目でなく、実質であることは当然のことだ。
インフレ率が100%、実質経済成長率が-50%の経済を考えればよく分かる。このとき、名目GDPは+50%だが、実質GDP成長率は-50%だ。
実質的に経済活動は50%ダウンで、これを自慢する馬や鹿はいない。100万円の所得が150万円になっても、物価が2倍になれば、実質所得は50%もダウンなのだ。

大企業の収益は史上最高を更新している。そして、株価も大幅に上昇している。これも事実だ。しかし、一番重要な経済指標は実質経済成長率であり、実質経済成長率の実績を見ると、民主党政権時代の実質GDP成長率(四半期毎、前期比年率)平均値は+18%だったが、第2次安倍政権発足後の成長率平均値は+14%である。
(グラフあり 添付省略)

民主党時代も経済はあまり良くなかったが、2012年の第2次安倍政権発足後の5年間の平均は、民主党政権時代よりかなり悪い。
これが、日本経済が良くなったか悪くなったかの、一番基礎の、基準になるデータだ。
この比較を示さないで、細かな部分で、「良くなったと言える部分」だを強調するのは「イカサマ」そのものだ。
安倍首相の行動は、学校受験に失敗してしまった学生が、「計算問題の第3問は解けた、漢字の書き取りの第5問は解けた」と負け惜しみを言っているようなものだ。

経済全体が悪くなるなかで、大企業の利益だけが史上最高を更新していることは、それ以外の所得、つまり、労働者の所得と中小企業の所得が悪化していることを意味しているにすぎない。株価が上がっているのは事実だが、日本の上場企業数は4000社弱。日本の法人企業数400万社の01%にも満たない
その01%の企業収益が史上最高を更新して、01%の企業の株価が上がっているだけなのだ。

労働者にとっての最重要の経済指標は、実質賃金指数だ。
アベノミクスを全体として評価する場合に取り上げるべき第一と第二の指標は実質GDP成長率労働者の実質賃金指数である。
厚生労働省が発表している実質賃金指数のなかで、従業人5人以上の企業すべて、固定給だけでなく時間外賃金、ボーナスを含めた現金給与総額統計を見るのが一番公正である。
(グラフあり 添付省略)

この推移を見ると、民主党政権時代にはほぼ横ばいで推移したものが、第2次安倍政権発足後は5%も落ちている。雇用者は増えたが、それ以上に一人当たりの実質賃金が落ちているのだ。
労働者全体の所得が減ったなかで、それを分け合う人数だけが増えた。これをアベノミクスの成果だとする感覚は正常とは言えない。
全体として、日本経済は安倍政権下で悪くなった。良くなったのは01%の大企業だけだ。一般労働者の賃金は減り、いままで労働しないで済んでいた人たちが労働に駆り出されただけである。
生産年齢のすべての国民を低賃金労働に駆り出す。これが安倍政権の「一億総活躍社会」であるが、その実態は「一億総低賃金強制労働」なのである
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