有志国連合による大々的なシリア空爆で始まったアメリカのシリア壊滅作戦は、ロシアの参入で逆にアメリカが後押しするIS(ダーイッシュ)勢力は殆ど排除されました。
しかしアメリカは、シリアのクルド勢力が支配している地域に既に10カ所以上の軍事基地を建設済みということで、いつでもシリアで大々的な内戦を起こす準備は出来ているということです。
戦争を止めることができないアメリカの宿命とはいえあまりにも身勝手なやり方です。
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シリアのクルド勢力は連邦を口にしはじめたが、その後ろ盾になっている米国は軍事基地を建設済み
櫻井ジャーナル 2017年10月29日
アメリカを後ろ盾とするシリアのクルド勢力は「独立」でなく「連邦」を望むと言い始めたようだ。イスラエルの支配下にあるイラクのクルドと合体し、油田地帯を押さえても独立を宣言すれば新たな戦争が始まり、周囲の敵は石油を運び出させないだろう。しかもロシア軍を相手に戦争で勝つことは至難の業だ。
現在、シリアではデリゾールの南東地域、ユーフラテス川沿いの油田地帯を制圧するためにクルド軍とシリア政府軍は争っている。言うまでもなくクルドの背後にはアメリカが存在し、やはりアメリカが動かしてきたダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)とは連携している。それに対し、政府軍にはロシアがついている。
アメリカ軍とロシア軍との関係が一気に緊迫化したのは9月20日のこと。13日からイドリブの州都に入ってパトロールしていたロシア軍憲兵29名の部隊をアル・カイダ系のアル・ヌスラが戦車なども使って攻撃、包囲したのだが、その作戦はアメリカの情報機関/特殊部隊が指揮していたと言われている。
戦闘は数時間続き、その間にロシア軍の特殊部隊スペツナズが救援に駆けつけ、Su-25も空爆、反政府軍の部隊は全滅、その戦闘員約850名が死亡したという。その際にアメリカの特殊部隊を壊滅させ、死亡した隊員をロシアの特殊部隊員が火葬にしたとも伝えられている。
ロシア兵を拘束し、プロパガンダや脅しに利用するつもりだったと見られているが、これはアメリカの少なくともCIAや特殊部隊はロシア軍を直接的なターゲットにしたことを意味している。
9月21日、シリアの北部でアメリカ主導軍の指揮下にある戦闘集団から再びシリア軍が攻撃されたなら反撃するとロシア軍は発表、22日には地中海からカリバル(巡航ミサイル)で反政府軍を攻撃した。
そうした状況の中、アメリカ軍とロシア軍の幹部との間で急遽話し合いが持たれたと伝えられている。アメリカ軍とロシア軍の直接的な交戦に発展する可能性が高まったことをアメリカ軍も懸念したのだろうが、CIAや特殊部隊はそれを望んだのだ。
ちなみに、アメリカ中央軍を指揮しているジョセフ・ボーテルは特殊部隊の出身。2016年7月にトルコでクーデター未遂があったが、その際にボーテルはジョン・キャンベルISAF司令官と共に黒幕だと指摘されていた。
そして9月24日、デリゾールでロシア軍事顧問団の幹部、バレリー・アサポフ中将が砲撃で死亡した。反政府軍による攻撃だが、それまでとは違って精度が高かったという。つまり正確な情報を事前に得ていた。その情報を提供したのはCIA/米特殊部隊だと見る人もいる。少なくともロシア側は、アメリカ側から機密情報がダーイッシュやアル・カイダ系武装集団へ漏れていると疑っていた。そのデリゾールにあるダーイッシュの拠点を地中海にいるロシア軍の潜水艦は10月5日、カリバル(巡航ミサイル)10機で攻撃して破壊している。
本ブログではすでに書いたことだが、ダーイッシュの支配地域にアメリカ軍の特殊部隊が使う装甲車や装備が展開していることを示す衛星写真をロシア国防省は9月24日に発表した。アメリカ軍は戦闘態勢になく、その地域をクルド系のSDF(シリア民主軍)を平和裏に通過していると説明している。ダーイッシュは自分たちが制圧していた石油関連施設へSDFが入ることを許しているとも伝えられている。そうした中、シリア政府軍はイラクとの国境に近い地域へ向かって進軍、イラク軍も連携して動いているという。北からはトルコ軍も入って来た。
すでにダーイッシュやアル・カイダ系武装勢力は壊滅に近い状態。アメリカ軍はそうした勢力の指揮官クラスや金庫番をヘリコプターで救出したきたが、ダーイッシュの幹部がアメリカが新たに編成する「穏健派」に参加しているとも指摘されている。
バラク・オバマ政権は特殊部隊をシリア北部にある7つの基地へ派遣、トルコ政府によると、アメリカはクルドが支配している地域に10カ所以上の軍事基地を建設済みだが、ラッカを制圧した後、アメリカ軍はSDFを強化するためにそこで戦闘員を養成するための軍事訓練も行っている。イラクからイラン軍は出て行けとアメリカ政府は言っているが、アメリカ軍はイラクやシリアに居座るつもりだ。
ところで、過去にアメリカ支配層は似たようなことをしている。第2次世界大戦でアメリカやイギリスの支配層はドイツ軍がソ連に攻め込む様子を眺めていた。ドイツ軍は1941年6月に東へ向かって進撃を開始、7月にドイツ軍はレニングラード(現在のサンクトペテルブルク)を包囲、9月にはモスクワまで80キロメートルの地点まで迫り、その一方でドイツ軍はカスピ海周辺の油田地帯へも軍隊を進める。そして1942年8月にドイツ軍はスターリングラード市内へ突入して市街戦が始まった。
ここまではドイツ軍が圧倒的に優勢だったが、1942年11月にソ連軍が猛反撃を開始、ドイツ軍25万人を完全に包囲して43年1月に生き残ったドイツの将兵9万1000名は降伏してドイツの敗北は決定的。慌てた米英両国は1943年5月にワシントンDCで会談して善後策を協議、7月にアメリカ軍はイギリス軍と共にシチリア島に上陸した。9月にはイタリア本土を占領、ハリウッド映画で有名になったオーバーロード(ノルマンディー上陸)作戦は1944年6月になってからのこと。この上陸作戦の相手はソ連だったと言うべきだろう。
ドイツ軍がソ連へ攻め込んだバルバロッサ作戦の際、ドイツ軍の首脳は西部戦線防衛のために大軍を配備するべきだと主張したが、アドルフ・ヒトラーがそれを退けたとされている。ヒトラーは西からドイツが攻められないことを知っていた可能性がある。ちなみに、1941年5月10日、ヒトラーの側近だったルドルフ・ヘスは単身、飛行機でスコットランドへ飛んでいる。