2019年1月12日土曜日

12- 勤労統計不正による保険過少支給額は537億円 対象延べ1973万人

 賃金や労働時間の動向を把握する厚労省の「毎月勤労統計」、従業員5百人以上の事業所は全て調べるのがルールですが、なぜか2004年以降、東京都内で該当する約1400業所のうち3分の程度しか調べていませんでした。
 賃金水準が相対的に高い東京の分を3分の1しか採らなかった結果、適正に調査した場合に比べ平均給与額が低く算出され、それによって雇用保険の失業給付や労災保険など過少支給された対象者は延べ1973万人で、総額は5375千万円(朝日新聞では567億5千万円)に上ったことが明らかになりました。
 国は、過少支給された全ての対象者に今後不足分を追加給付します
 
 これについて根本匠厚労相は「極めて遺憾で、国民の皆さまに心からおわび申し上げる」と謝罪したものの、組織的な隠蔽は否定しました。しかし正しく調べたように見せかけるソフトも作成されているので、組織ぐるみの疑い拭えません。
 
 東京新聞の記事と神戸新聞の社説を紹介します。
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保険過少支給、537億円 勤労統計不正 対象延べ1973万人
東京新聞 2019年1月11日
 賃金や労働時間の動向を把握する厚生労働省の「毎月勤労統計」の不適切調査問題で、厚労省は十一日、雇用保険の失業給付や労災保険などの過少支給の対象者は延べ千九百七十三万人で、総額は五百三十七億五千万円に上ったと明らかにした。担当職員らは不適切な調査と認識しながら、組織全体で情報を共有していなかった。過少支給のあった全ての対象者に不足分を追加給付する。
 
 根本匠厚労相は記者会見し「極めて遺憾で、国民の皆さまに心からおわび申し上げる」と謝罪した。事実関係を調査した上で関係者の処分を含めて対応したいと述べた。組織的な隠蔽(いんぺい)は否定した。勤労統計は労災保険の算定基準や政府の経済指標などに幅広く用いられる「基幹統計」。信頼性が根本から揺らいでいる。
 
 過少支給の内訳は、雇用保険が延べ約千九百万人、金額は約二百八十億円。労災保険は年金給付が延べ約二十七万人で約二百四十億円、休業補償が延べ約四十五万人で約一億五千万円。船員保険は約一万人で約十六億円だった。さらに、事業主に支払う雇用調整助成金でも過少支給が約三十万件、約三十億円分あった。
 
 勤労統計は厚労省が都道府県を通じて行い、従業員五百人以上の事業所は全て調べるのがルールだ。しかし東京都内で該当する約千四百事業所のうち三分の一程度しか調べていなかった。こうした調査手法は〇四年から始まり、適正に調査した場合に比べ平均給与額が低く算出されていた
 さらに、少なくとも一九九六年からは調査対象として公表していた全事業所数より約一割少ない事業所数しか調べていなかった。
 
◆説明のポイント
▽雇用保険の失業給付や労災保険などの過少支給の対象者は延べ1973万人。総額は537億5000万円。
▽担当職員らは不適切な調査と認識しながら、組織全体で情報を共有していなかった。
▽過少支給のあった全ての対象者に不足分を追加給付する。
▽不適切調査は1996年から始まり、2004~17年までの14年間は平均給与額が低く算出されていた。
 
 
ずさんな統計/民主主義の根幹に関わる  
  神戸新聞 2019年1月11日
 賃金などの労働実態を把握する厚生労働省の「毎月勤労統計調査」で、調査対象のうち東京都内の約1400事業所について、実際は約3分の1しか調べていなかったことがわかった。
 このところ、政府統計の不祥事が相次いでいる。統計の信頼性が揺らげば政策立案に影響するだけでなく、政策が効果を上げているかの検証も難しくなる。民主主義の根幹にも関わるゆゆしき事態といえる。
 
 政府は問題の深刻さを認識してすべての省庁で点検し、問題が見つかれば対策を講じなければならない。
 勤労統計のずさんな調査は2004年に始まり、担当者間で引き継がれてきた可能性がある。正しく調べたように見せかけるソフトも作成しており、組織ぐるみの疑いが拭えない
 信じがたいのは、問題発覚後も厚労省が同じ方法で調査を続けている点だ。結果は失業給付や、労災時の休業補償の支給額算定にも使われ、国民生活への影響は大きい。過少支給は数百億円規模に上るという。政府は来年度予算案の組み替えをせざるを得ない状況だ。
 直ちに規定通りの調査に改めるとともに、過去の調査も再検討する必要がある。
 
 厚労省は昨年、裁量労働の労働時間は一般の労働者より短いとのデータを国会に提出した。しかし不適切な処理や異常値などが発覚し、政府は裁量制の対象拡大を断念した。法をつかさどる法務省までも、入管難民法改正の審議で技能実習生の過酷な実態を偽るデータを示した。
 いずれも、安倍政権の重要政策に関わる内容だ。正確な実態把握より、政権への忖度(そんたく)を重視したとの疑念すら抱く。
 
 政府は2年前、統計業務の効率化を目指した統計改革推進会議で、データの精度を高めて政策判断に役立てる方針を打ち出した。そのためには客観的で検証可能な形でデータを集め、結果を分かりやすく国民に示すことが欠かせない。
 日本の省庁では統計に関する予算や人員が欧米より少ないとされる。十分でないなら、拡充を検討するべきだ。だがそれ以上に重要なのは、政府統計が国民のために存在するという原点に立ち返ることだろう。