「9条の2」を新設する自民党の改憲案は以下のとおりです。
9条の2
1項 前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。
2項 自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
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なんとも持って回ったようなゴツゴツした表現になっていますが、清水雅彦教授(憲法学 日体大)によれば、一つひとつの字句に9条の精神を破壊する恐ろしい狙いが込められているということです。
東京新聞が、自民党改憲案を逐語的に点検した結果を報じました。
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自民案 自衛隊明記「9条の2」逐語点検 平和主義骨抜き表現だらけ
東京新聞 2019年1月7日
安倍晋三首相が、今年も改憲論議を国会に促していく姿勢を繰り返し示している。首相が国会への提示を目指す四項目の自民党改憲条文案のうち、首相が特に重視するのが、自衛隊の存在を明記する「九条の二」の新設。短い文章の中に、憲法の平和主義を骨抜きにする表現が驚くほど多く盛り込まれていると専門家は危ぐする。日本体育大の清水雅彦教授(憲法学)の指摘を基に「逐語点検」した。(清水俊介)
自民党案は、戦争放棄をうたった現行の九条一項と、戦力不保持を定めた二項を維持した上で、九条の二の一項、二項を加える内容。一読すると、平和を守るため自衛隊を保持し、国会が統制するとだけ書いてあるように読めるが、清水教授は「非常に巧妙にできている条文」と注意を促す。
一つは「国及び国民の安全を保つため」。自衛隊の任務を「国の安全を保つため」とした自衛隊法三条と違い、「国民」が加わっているのがミソ。清水教授は「海外にいる国民の安全を保つためにも使える組織ということ。海外派遣しやすくなる」と懸念を示す。
さらに危ういのは「自衛の措置」。清水教授は、自民党憲法改正推進本部の資料に「自衛の措置(自衛権)」という説明があることに触れ「集団的自衛権も入っていると解釈できる」と指摘。他国を武力で守る集団的自衛権を巡り、安倍政権は安全保障関連法で「存立危機事態」に限って行使できるとしたが、自民党の条文案は限定しておらず「フルスペック(全面的)の集団的自衛権行使が憲法上可能」という。
「実力組織」に関しても、自民党内の議論では当初「必要最小限度の実力組織」とする案もあったが、採用されなかった。「自衛隊の活動に歯止めがなくなる」と清水教授。仮に今後、他党との調整で復活することがあっても、何が最小限度なのかそもそも曖昧と首をひねる。
自衛隊の最高の指揮監督者としての首相を「内閣の首長」と修飾したのも、自民党の意図が隠されているという。清水教授によると、首相が「内閣を代表して」自衛隊を指揮監督するとした自衛隊法七条は、閣議決定を前提とした表現。自民党の条文案は首相の権限を強化し、閣議決定を経ずに「首相の判断一つで自衛隊を動かせる」という。
自衛隊が「国会の承認その他の統制に服する」と定めた二項についても、国会承認は例示にすぎないと問題視。「行政側の組織による統制だとしたら、ほとんど意味がない」という。国会承認にしても、事前承認が原則になっていない。
清水教授は、自衛隊を憲法に明記すること自体「自衛隊が公共性を帯び『徴用』がやりやすくなる」とも懸念。有事に国が民間の技術者や運輸業者を動員し、自衛隊や米軍に従うよう命じやすくなるとしている。
自民党の改憲条文案「9条の2」
(注 この個所は原文は写真版で、転載できなかったので、事務局でテキスト版に書き直しました)
現行の条文
憲法9条
1項 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永ズにこれを放棄する。
2項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
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自民党案で追加する条文
9条の2
1項 前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために
① ②
必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところ
➂ ① ④
により、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。
⑤
2項 自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
⑥ ⑦
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逐語解説(清水教授の指摘を基に作成)
①戦力不保持を定めた現行の9条2項を無効化する例外規定
②海外にいる国民も含まれるため、自衛隊を海外派遣しやすくなる
➂自民党の資料は「自衛の措置(自衛権)」と説明。集団的自衛権も全面的に行使できると解釈可能
④検討段階であった「必要最小限度」が外れた。自衛隊の活動に歯止めがかからなくなる恐れ
⑤首相の権限を強化する意図。閣議を踏まえず、首相の判断だけで自衛隊を動かせる
⑥実力組織の自衛隊を統制するなら憲法に書くべき。国会の過半数で変えられる法律任せは危険
⑦国会は一例にすぎないように読める。行政組織が統制するなら非常に緩い。国会承認としても事前承認が原則でない