「日米地位協定」は1960年に調印されたまま、改定されることなく現在に至っています。地位協定の前身は1952年に調印された「日米行政協定」ですが、それは米軍占領下での日米の力関係をほぼそのままに文書化したものなので、独立国家日本のあるべき姿からほど遠いものであるのは論を俟ちません。
本質的な改定が何もなく推移している日米地位協定は、調印後も改定協議の中で自国の権利を拡大させてきたドイツ、イタリアあるいは韓国などの地位協定とは、大違いのものになっています。
それなのに安倍首相は2013年の参院予算委で「他国との地位協定との比較においても、日米地位協定が日本に特に不利なものとなっているとは考えていない」と大ウソの答弁をしています。
昨夏、全国知事会は地位協定におけるドイツ、イタリアでの前進を認め、日米地位協定の抜本改定を含む「米軍基地負担に関する提言」を全会一致で採択し、政府に提出しましたが「なしのつぶて」状態です。
ウソといえば、政府はこれまで、「一般国際法上、外国軍隊には特別の取り決めがない限り、接受国の法令は適用されない」と説明してきました。要するに在日米軍の“特権”が日米地位協定に起因するのではなく、あくまで国際法の一般原則であると強弁してきたのですが、「国際法」には実のところそんな規定などありません(日弁連による「日米地位協定に関する意見書」(2014年)では、「外国軍隊を受入国の国内法令の適用から免除する一般国際法の規則は存在しない」と指摘しています)。
それで外務省の「ホームページ」に掲載されていた記事から、こっそりと「一般国際法上」の文言が削除されたということです。まことに、政府は国民を丸め込もうと長年にわたって驚くべき欺瞞を通してきたわけです。
LITERAが「 ~ 日米地位協定のウソ説明をコッソリ修正! 改憲を叫ぶ一方、日米地位協定を放置する安倍政権の欺瞞」とする記事を出しました。
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外務省が日米地位協定のウソ説明をコッソリ修正!
改憲を叫ぶ一方、日米地位協定を放置する安倍政権の欺瞞
LITERA 2019年1月16日
日本国内での米軍の権限等を定めた日米地位協定。沖縄の在日米軍基地問題で、安倍政権が辺野古新基地建設を強行するなか、その地位協定に関する“政府見解”がコッソリ変えられた。朝日新聞が14日朝刊の1面・3面で報じた。
政府はこれまで、〈一般国際法上、外国軍隊には特別の取り決めがない限り、接受国の法令は適用されない〉と説明してきたのだが、11日になって、外務省のホームページに記されていた同様の記述から、「一般国際法」に関するくだり下りをカットするなどの修正が行われたのだ。現在、外務省HPの「日米地位協定Q &A」では、〈米軍には日本の法律が適用されないのですか〉との問いに対して、このような回答に“修正”されている。
〈一般に、受入国の同意を得て当該受入国内にある外国軍隊及びその構成員等は、個別の取決めがない限り、軍隊の性質に鑑み、その滞在目的の範囲内で行う公務について、受入国の法令の執行や裁判権等から免除されると考えられています。すなわち、当該外国軍隊及びその構成員等の公務執行中の行為には、派遣国と受入国の間で個別の取決めがない限り、受入国の法令は適用されません。以上は、日本に駐留する米軍についても同様です。〉
相変わらず、在日米軍については原則、日本国の法令が適用されないと説明しているが、以前の「国際法」にその根拠を求める記述がなくなっていることがわかる。日本政府が今回こうした“修正”を行なったのはなぜか。
その理由の前に、地位協定の問題を再確認しておく必要があるだろう。そもそも、現実として、在日米軍および関係者が事故や犯罪などを犯した際、日米地位協定によって日本の国内法が適用されず、当局が捜査すら行えないという事態が相次いできた。
たとえば、2004年の沖縄国際大学への米軍ヘリ墜落事故では、米軍は地位協定を盾に日本側の検証を拒み、周辺住人やマスコミを現場からシャットアウト。2016年、名護市安部沿岸部でのオスプレイ墜落事故でも、米軍は機体を回収し、日本の当局の捜査を認めなかった。2017年に宜野湾市の保育園などにヘリの部品が落下した事件も同様で、米軍が関連を否定したため沖縄県警は捜査がままならず立件できていない。
それだけではない。昨年12月には、米空軍の男が米軍嘉手納基地から拳銃を所持したまま脱走するという事件が起きた。男は読谷村の住宅地周辺で米軍に逮捕されが、地元紙・沖縄タイムスが問い合わせるまで沖縄防衛局には連絡すらされず周辺自治体にも情報が伝わっていなかった。
日米地位協定において、犯罪を犯した米軍兵が「公務中」であれば、その裁判権は米国側にわたる。このケースでは沖縄県警は「公務外」とみなして銃刀法違反容疑で捜査に乗り出したのだが、米軍が拘束している男の事情聴取ができなかった。
このように、米軍の犯罪に対して、日本の「主権」が及ばないケースが頻発している。これらの根本は日米地位協定が米軍に与える“特権性”にある。簡単に言えば、裁判優先権や損害補償の免責のみならず、米軍が望めば日本国内の施設や区域を提供せねばならないこと、米国の航空機などが自由に移動できる権利すら与えられているのだ。米軍機が事故を起こせば、機密保持を名目に区域が封鎖され、事実上の“治外法権化”するのも地位協定の特性だ。
日米地位協定をめぐる日本政府・外務省の欺瞞
これら明らかな「主権」の欠落を、日本政府はどのように正当化してきたか。前述のとおり、国会の政府側答弁でも「一般国際法上、駐留を認められた外国軍隊には特別の取決めがない限り接受国の法令は適用されません」(2008年4月18日参院決算委員会、高村正彦外務相)との説明が繰り返されており、外務省HPにおける説明もこれを踏襲するものだった。
〈一般国際法上、駐留を認められた外国軍隊には特別の取決めがない限り接受国の法令は適用されず、このことは、日本に駐留する米軍についても同様です。このため、米軍の行為や、米軍という組織を構成する個々の米軍人や軍属の公務執行中の行為には日本の法律は原則として適用されませんが、これは日米地位協定がそのように規定しているからではなく、国際法の原則によるものです。〉(“修正前”の文言)
読んでのとおり、外国軍(在日米軍)の“特権”が日米地位協定に起因するのではなく、あくまで国際法の一般原則であると強弁してきたわけだ。
ところが、この政府側が根拠とする「国際法」には、実のところ、そんな規定などないことがすでに明らかになっている。
たとえば日弁連による意見書(「日米地位協定に関する意見書」2014年)では、〈外国軍隊を受入国の国内法令の適用から免除する一般国際法の規則は存在しない〉〈領域主権の原則からして、米軍等に対しても日本法令の適用があるのが原則であって、その適用の制限はその旨の地位協定等の条約・合意及び日本法令の規定が存在する場合に,その限りで認められるものであり、しかもその例外は限定的に解釈されるべきものである〉と指摘されている。
さらに、米国の連邦諮問委員会のひとつである国際安全保障諮問委員会の報告書(「日米地位協定(SOFA)に関する報告」2015年)でも、〈一般的には、その国が自国の裁判権についてある種の制限を設けることに同意していない限り、その国にいる人はその国の法律が適用されることが国際法上のルールであることが認められている〉とはっきり記されている。同報告はこう続く。
〈地位協定は、受入国の政府が、この協定を締結することによって派遣国のために、特定の裁判権及び別途受入国が保有するその他の権利を放棄することに同意しているという理由から、両当事者の合意に則った前述の国際法上の規則の例外を規定している。〉
すなわち、日本政府のいうように「在日米軍に日本国の法令が適用されない」のは「一般国際法」の原則から導きだされるのではなく、むしろ真逆で、他ならぬ日米地位協定に依存した「例外」の規定であって、しかもそれを米国側が認識しているのである。
安倍首相「日米地位協定は他国に比べ不利じゃない」は大嘘
また、ジャーナリストの布施祐仁氏が、外務省に「一般国際法上、駐留外国軍隊に国内法が適用されない」という日本政府の見解の根拠となる文書を情報公開請求したところ、「不存在」という回答だったという(布施氏の15日のツイートより)。布施氏は〈そんな根拠はどこにもないから示せるわけがないのである。こんな嘘が40年近くまかり通ってきたことが衝撃である〉と投稿しているが、まさにその通りとしか言いようがない。
ほかにも、この説明の矛盾については、昨年の国会でも野党が追及してきた。朝日新聞は、辺野古新基地建設での土砂投入で、県が地位協定の見直し議論を深めようとするなか、外務省が急ぎ足で説明を変更したと伝えているが、そういうことなのだろう。
一方で、〈外務省は説明の変更について「批判をふまえわかりやすくしたが、『原則不適用』の根拠となる国際法があるという見解は変えていない」とする〉(朝日新聞)という。つまり、安倍政権は文言だけこっそり変えて批判をかわしつつ、これからも「国際法が根拠である」との大嘘をつき続ける腹づもりらしい。
しかも、政府が国民についている“日米地位協定の嘘”はこれだけではない。たとえば、“他国間で締結されている協定と比べて、日米地位協定は優遇されている”という話だ。実際、安倍首相も2013年の参院予算員会で〈他国との地位協定との比較においても、日米地位協定が接受国側にとり特に不利なものとなっているとは考えておりません〉と答弁している。しかし、これも大嘘なのである。
前述の布施氏と東京外国大教授・伊勢崎賢治氏の共著『主権なき平和国家』を読めば、そのことがよくわかる。
たとえば、日本と同じく第二次世界大戦での敗戦国であるイタリアは「モデル実務取り決め」で米国軍の駐留条件等を定めている。これによれば、イタリアにおける駐留米軍の行動は、イタリアの法律と政府が許す範囲内でしか認められておらず、実際、米軍の飛行訓練の最低高度もイタリア側が決めている。一方、日本では日米地位協定に伴う特別の法律によって、米軍機の飛行は国内航空法の最低安全高度の適用外となっているのだ。また、米軍基地の管理権はイタリア側にあり、イタリア軍司令官が米軍の活動に介入する権限が認められているが、日米地位協定では日本側が米軍側の活動に介入することはできない。
改憲を叫ぶ一方、日米地位協定の改定には及び腰の安倍政権
ドイツがアメリカを中心とするNATO諸国と結んだ地位協定を補足する「ボン補足協定」(1993年に大幅改定)では、NATO諸国軍の基地の使用には原則ドイツの法律が適用されると明記された。また、基地の外でもドイツの法律に従って、国防大臣の承認を得ねばならないように変更された。この改定によってNATO諸国軍の低空飛行訓練は厳しく制限され、改定前と比べて大幅に減少したという。
日米地位協定のいったいどこが“他国の協定と比べて優遇”なのだろうか。安倍首相は日本国憲法を「米国から押し付けられたみっともない憲法」と攻撃し、9条への自衛隊明記などによる「自主憲法」制定を悲願としている。だがその一方、沖縄に米軍基地の負担を押し付けてばかりで、地位協定についても対米従属で思考停止しているとしか思えない。外務省がこっそり“政府見解”を修正しながら、相変わらず「根拠は地位協定でなく国際法」なる嘘をつき続けようという姿勢は、まさにその証左ではないのか。
前掲の『主権なき平和国家』は、序章で〈国論を二分する改憲論議をする前に、日本国民が力を合わせてやらなければいけないことがあります〉として〈日米地位協定の改定〉を訴えている。
〈なぜなら、現在の日本は形式的には「独立国」でも、日米地位協定によって主権が大きく損なわれているからです。
主権とは、国家が他国からの干渉を受けずに独自の意思決定を行う権利のことです。主権が損なわれた、つまり、自国のことを自分で決められない国が、どんなに立派な憲法をつくっても、それは「絵に描いた餅」になります。だから、憲法よりも、まずは日米地位協定を変える必要があるのです。日米地位協定を改定し、真の主権を取り戻してこそ、日本は憲法を自らの意思で実行していく力を持つことができます。〉
米軍の要請を丸のみした2015年の安保法制からも明らかなように、安倍首相による改憲は、日本を「普通の国」にするものではなく、ただ「戦争のできる国」として、いっそう米国の「属国」にしてしまうだけだろう。少なくとも、「普天間か辺野古か」と在沖米軍基地の固定化を迫り、「運用改善」との名目だけを掲げて地位協定の抜本改定に及び腰の安倍政権には、したり顔で「主権」を語る資格など微塵もないのである。(編集部)