韓国の文大統領は10日の会見で、NHK記者の質問に答え、「日本政府はもう少し謙虚な立場をとり、政治の争点とすることなく、解決のために互いが知恵を絞るべきだ」、「日本も韓国も三権分立の国だ。韓国政府は司法の判決を尊重しなければならない。日本政府も判決内容に不満はあっても、『どうすることもできない』という認識を持ってもらう必要がある」と、日本政府に冷静な対応を求めました。
徴用工問題に関しては、日韓両国の政府と最高裁は「請求権協定の下でも個人の請求権は消滅していない」との認識で一致しています。個人の請求権が消滅していない以上、その実現、救済の問題は残されているわけで、判決を「協定違反」とみなすことは勿論できません。
そうしたことを踏まえれば、日本にとって多少耳が痛くても文大統領の言うことは筋が通っているし、何よりも、そこには日本に対する悪意は感じられません。つまり文大統領は、いつでも両国が正常な関係に戻れる余地を残しているのですが、一方の安倍政権には、記事で明らかにされているとおりそんな配慮は全く見られません。
安倍政権、安倍チェルドレン、ネトウヨたちはいま文発言に対して怒りを沸騰させています。菅官房長官は11日の会見で、「徴用工問題で韓国側の責任を日本側に転嫁しようというものであり、極めて遺憾だ」と批判しました。チェルドレンやネトウヨたちの批判はここに引用するのも憚られるほど異常です。
異常といえば日本のメディアが日本政府と同じ論調で韓国に批判的であることで、これでは韓国批判は拡大の一途をたどることになりかねません。
かつて軍部が中国で「事変」を起こすたびに、マスコミが「国威の発揚」とばかりに軍事行動を煽り立て、ついには日米開戦に追いやったことへの反省はないのでしょうか。
LITERAは、こうした世情を批判もせず煽り続けるマスコミと、煽られるがままに踊る国民を、このまま誰も止めなければ、本当に取り返しのつかないことになると警告しています。
安倍政権・マスコミの反韓扇動を批判するLITERAの正論を紹介します。
しんぶん赤旗の正論も併せて紹介します。
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安倍政権の反韓煽動が酷い!
安倍チルドレン議員は「何をされるかわからない」「韓国へ渡航禁止」とヘイト主張
LITERA 2019年1月12日
韓国の文在寅大統領が10日に行なった年頭の記者会見を受け、日本政府と右派政治家、そしてネトウヨたちが猛烈な勢いでバッシングを展開している。
周知のように、文大統領は会見で、徴用工問題などによる日韓関係の悪化について「日本の政治家が政治争点化し、拡散させていることは賢明な態度ではない」「日本政府はもう少し謙虚な態度を示すべきだ」などと述べたのだが、これに対して「責任転嫁だ」「判決を言い訳にするな」、あげく「韓国への渡航をやめるべき」などの声が一斉に噴き上がっているのだ。
たとえば、菅義偉官房長官は11日の会見で、「(徴用工問題で)韓国側の責任を日本側に転嫁しようというものであり、極めて遺憾だ」と猛批判。佐藤正久外務副大臣も〈協定の手続きに基づき、協議要請中なのに、その回答をしないばかりか、この発言とは。事実を事実として見ない発言の繰り返しだ〉とTwitterに投稿した。
だが、なかでもヤバいのは、安倍首相の覚えもめでたい自民党の長尾敬衆院議員。長尾議員といえば、これまで散々メディア圧力発言やデマを連発してきた問題の人物だが、その“ネトウヨ議員”が11日、こんなツイートをぶちまけたのだ。
〈一般論として、内戦などで危険な国へは渡航制限がなされます。
今の韓国の様に、常軌を逸した国へ渡航した場合、日本人が何をされるかわかりません。
感情だけで理が通じない。協議や法の支配、倫理、道徳も通用するとは思えない。
先ずは、日本人の韓国への渡航を控えるなど出来る事はある筈です。〉
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「常軌を逸している」のはアンタの方だろう。国会議員が憲法の「海外渡航の自由」を無視して“韓国へ行くな”と呼びかけたのも信じられないが、本当にたまげるのは、韓国人を一緒くたにして、まるで日本人を見かけしだい襲ってくるかのような口ぶり。明らかにヘイトスピーチだ。これがそこらへんのネトウヨではなく、与党の政治家、内閣府政務官の言葉なのだから、心底呆れざるを得ない。
しかも、長尾議員はその後、〈これが私の一貫した主張です〉として、わざわざ〈レーダー照射といい、偽徴用工問題といい、明確な敵対行為として認識すべきです。もはや友好国としてお相手出来る国家ではない、いや、国家としての体もなしていない。何を仕掛けて来るかわかりません。渡航制限等の措置や、経済的措置も検討されるべきです〉という4日の自らの投稿をリツイートまでしている。ようは確信犯的に「韓国は敵国」と煽りまくっているのだ。
いや、ヤバいのは長尾議員だけではない。報道によれば、11日、自民党が行った外交部会・外交調査会の合同会議では、出席した議員から「韓国人に対する就労ビザの制限」や「駐韓大使の帰国」「経済制裁」などを求める声が相次いだという。しかも、この会議での意見を外務省幹部は河野太郎外相に伝える考えを示したというのである。まったくクラクラしてくるではないか。
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しかし、冷静に恐ろしいのは、マスコミのほうかもしれない。こうした右派政治家のトンデモ発言を批判しないだけでなく、それどころかいま、新聞もテレビも完全に一緒になって「韓国は異常」なる大合唱を展開しているからだ。
新聞は「日韓断交」見出し、小松靖アナはネトウヨ嫌韓ぶり全開で陰謀論
実際、11日の大手紙社説では〈何ら解決策を示さず責任を転嫁した〉(産経)、〈国内の司法判断を理由に、国家間の取り決めに基づく義務を逃れることは許されない〉(読売)と強い調子で韓国を非難した。リベラル寄りの新聞も〈(韓国政府は)問題解決に正面から向き合っていないと言わざるを得ない〉(毎日)、〈いままず求められているのは、この問題に関する韓国政府の明確な態度を示すことである〉などと韓国批判。ちなみに、夕刊フジは「責任逃れ会見 日韓断交」なる大見出しを掲げるなど、すでに歯止めが効かないレベルになっている。
もっとわかりやすいのがテレビだ。フジテレビの平井文夫解説委員が〈これはもうゲームオーバーだ〉(「FNN PRIME」)と絶縁宣言したかと思えば、11日の『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)ではMCの小松靖アナウンサーが徴用工・慰安婦問題は「解決済み」などと強弁し、「(文大統領には支持率以外に)北と繋がる別の理由があるのではないか」なるネトウヨそっくりの陰謀論をまくし立てる始末である。ほかにも、ワイドショーを中心に例のレーダー問題などをあげつらう“嫌韓エンタメ報道”が大量に流されていることはいうまでもない。
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このマスコミの現状はもはや「敵国」の人々を“鬼畜”などと呼んで大衆を煽った戦前・戦中さながらではないか。ようは、日本政府とメディアがまったく同じ論調で「韓国は異常」「文大統領が日韓関係を破綻させた」とがなりたて、韓国政府だけでなく韓国人への憎悪を扇動しているのである。
しかし、いや、だからこそ、冷静に考えてもらいたい。政治家とメディアが声をあわせて、日本国民の「韓国憎し」の劣情を掻き立て、あらゆるところで「韓国とは断交すべき」なる声が氾濫している状況が、いったい何を生むのかということを。
ヒステリーを起こす前に「徴用工問題」の歴史を振り返る
そもそも、「日韓関係を破綻させている」のは、本当に韓国政府や文大統領なのだろうか。文大統領の言葉は、菅官房長官が言うように、徴用工問題で「韓国側の責任を日本側に転嫁」するものだったのか。
そうではないだろう。実際、文大統領は年頭会見で「韓国政府がつくり出した問題ではなく、不幸な歴史によってつくられた問題だ」としたうえで、「日本政府はもう少し謙虚な立場をとり、政治の争点とすることなく、解決のために互いが知恵を絞るべきだ」と呼びかけていた。あきらかに、“日韓関係をこれ以上悪化させたくはない”という意図だ。
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一方、いま安倍政権の政治家とメディアが共謀して作り上げている、日本国内の空気はどうか。ひたすらファナティック(狂信的)に「韓国が悪い」と叫びたてるだけだ。たしかに徴用工問題などでの対立によって、両国間は近年でもっとも険悪なムードになっているが、客観的にみて、もはや「解決」を放棄しているのは安倍政権のほうだろう。
念のため振り返っておくが、そもそも徴用工問題は、戦中、日本が朝鮮半島の人々を労働力として強制動員したことが発端だ。戦中の日本で徴用工がいかに非人間的な扱いを受けたかは、本サイトでも詳細に解説したとおりである
昨年10月、韓国の大法院(最高裁)が元徴用工の求める損害賠償について新日鉄住金への支払命令を確定し、その直後に安倍首相は「ありえない判断」と猛批判した。しかし、元徴用工や遺族への補償問題は、1965年の日韓基本条約および請求権協定締結から両国政府に長年無視され続けてきた人権問題だった。それを忘れてはならない。
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とりわけ、請求権協定に「謝罪」や「賠償」の性質を一切認めず、「解決済み」と強弁し続けることで、その歴史を隠蔽しようとしたのは日本政府のほうだ。実際、これまで日本企業側が和解の姿勢を見せたにもかかわらず、安倍政権からの圧力でその方針を取りやめたケースも判明している。
もっとも、韓国政府も補償を十分に行ってこなかったことも事実ではある。しかし、それには1965年の締結当時の韓国が親米軍事政権であり、韓国国民が強く抑圧されていたことが大きく影響している。その後、民主化された韓国で、司法が侵略戦争に関する人権(判決では個人の慰謝料請求権として)の観点から、賠償を認めるのは当然のなりゆきだった。そしていま、民主主義国家の政権トップがその司法判断を尊重することは、三権分立の原則からも至極当たり前のこととしか言いようがない。
レーダー照射問題で防衛省の反対を押し切って動画を公開した安倍首相
現に、今回の会見で文大統領は、大法院判決について「日本を含む先進国と同じように韓国にも三権分立があり、韓国政府は司法判断を尊重する必要がある」と明言している。安倍首相らは韓国司法の判断の「ありえない判断」と批判するが、しかし、それは韓国大統領に「裁判所への政治介入をしろ」と告げているに等しいのだ。民主主義の理念として「ありえない」のはどちらか。
だいたい、国内を見渡しても、三権分立をないがしろにしているのは安倍首相のほうではないか。首相が国会で「私は立法府の長」と“言い間違え”を繰り返しているのは周知のとおりだが、司法に対しても、最高裁判事にあの加計学園の理事を任命したり、原発訴訟で国側に不利な判断を下した裁判官が事実上の“左遷”をくらったりと、安倍政権は日本の司法に対する介入をどんどん強めている。
むしろ、安倍首相は“三権分立など無視して当然”とでも思っているからこそ、平気で韓国に対しても「ありえない判断」などと圧力をかけるのだろう。
ようは、こういうことだ。先に「解決」の土台を破壊しておきながら、韓国だけを「悪者」に仕立てあげる。そして、その作り上げた「悪者」を真っ向から批判する姿勢を見せることで、国内の支持に繋げる。それが、トランプ米大統領のブレーンだったスティーブン・バノン氏をして「トランプ以前のトランプ」と言わしめた、安倍首相お得意の手法に他ならない。
実は、これは例のレーダー問題には同じことが言える。安倍政権とマスコミは「韓国けしからん」と声を揃えているが、この問題がここまでこじれてしまった最大のポイントは、防衛省が韓国側の不意をつくかたちで動画を公開してしまったことにある。動画公開によって、韓国国防省は追い込まれ、あの反論動画という不毛な応酬を招いた。そうして、両国政府の引っ込みがつかなくなる形で対立が激化したわけである。
しかし、本来ならば、この問題は担当部署での話し合いで、政治的妥結点を探っていくべき話だった。先月27日の実務協議で韓国が照射の事実を認めず物別れに終わったとはいえ、この国の政府が十分に成熟した政治観を持っていれば、その後も粘り強く当局間で調整を続けるという選択が妥当だったはずだ。
ところが、周知の通り、27日の安倍首相の“鶴の一声”で動画公開が強行された。12月28日の時事通信の報道によれば、防衛省は当初〈防衛当局間の関係を一層冷え込ませると慎重だったが、韓国にいら立ちを募らせる安倍晋三首相がトップダウンで押し切った〉〈複数の政府関係者によると、方針転換は27日、首相の「鶴の一声」で急きょ決まった〉という。
関係改善の糸口をつかませないようにしているのは安倍政権だ
韓国世論からの強烈な反発は避けられたはずなのに、あえて挑発し全面対立に持っていく。そして、メディアを“嫌韓ムード”一色に染めたうえで、毅然と立ち向かう姿を演出する。ほとんど“自作自演”ではないか。
その意味では、韓国の李洛淵首相が10日に「最近、日本の指導者らが国内政治的な目的で自国民の反韓感情を刺激し、利用しようとしているとの見方が韓国にある」と述べたのは、実際、そのとおりとしか言いようがないだろう。
重要なので繰り返すが、韓国政府側は明らかに日本とこれ以上の関係悪化を望んでいない。事実、文大統領も会見での「韓国にも三権分立がある」発言の後、「政治的な攻防のイシューとみなして未来志向的な関係まで損なうのは、非常に望ましくない」と呼びかけている。
むしろ、関係改善の糸口をつかませないようにしているのは安倍政権のほうなのだ。何度同じ手をくらったら、目がさめるのか。いい加減、マスコミもわたしたちも気がつくべきだろう。
先に触れた長尾敬議員の「韓国は常軌を逸した国」「渡航を控えよう」とのツイートは、単なるはねっかえりのネトウヨ議員の妄言ではない。安倍首相がこの間やってきた、自作自演じみた政治利用の手法の“エピゴーネン(亜流・踏襲)”なのである。それを批判もせず煽り続けるマスコミ。煽られるがままに踊る国民。このまま誰も止めなければ、本当に取り返しのつかないことになる。 (宮島みつや)
元徴用工問題、公正な解決への課題 菅氏の態度こそ責任転嫁
一方的非難では解決せず
しんぶん赤旗 2019年1月12日
菅義偉官房長官が韓国大法院判決は「日韓請求権協定違反」だとして、一方的に韓国側を非難したのは問題です。
日韓両国の政府と最高裁は「請求権協定の下でも個人の請求権は消滅していない」との認識で一致しています。この間も日本政府や与党内からは「個人の請求権が消滅したわけではない」(河野太郎外相、昨年11月14日、衆院外務委員会)、「個人の請求権については消滅していない」(自民党の額賀福志郎日韓議連会長、同12月14日の日韓議連代表団と文在寅大統領との会談)と認める発言が出ています。
個人の請求権が消滅していない以上、その実現、救済の問題は残されています。判決を「協定違反」とみなすことはできません。
日本側の責任を一切棚上げした菅長官の姿勢こそ、「責任転嫁」にほかなりません。
いま必要なのは、日韓両政府と新日鉄住金などの関係者が被害者の名誉と尊厳を回復し、公正な解決をはかるために努力を尽くすことです。そのために冷静な議論が求められていますが、安倍政権の対応は、それとは真逆の対応です。 (日隈広志)
日本政府は「謙虚」な姿勢を 強制動員被害者の裁判を長年弁護してきた
山本晴太弁護士
請求権協定など国家間の条約は確かに「司法府も含めた当事国全体を拘束する」ものです。しかし条約をどう解釈するか、その権限は司法府にあります。
韓国大法院判決は、請求権協定について、その交渉で日本が一貫して植民地支配の不法性を否認したことなどを挙げ、植民地支配と侵略戦争に直結した不法行為に対する慰謝料の請求権は同協定の適用範囲外だとみなし、請求権協定によって日韓両国の外交保護権も、個人の請求権も消えていないと解釈しました。
これは司法府として当然の条約の解釈権の行使であり、「協定違反」ではありません。文在寅大統領が「政府は司法の判決を重視しなければならない」と語ったことも三権分立の制度を持つ国として当然で、日本政府の非難は失礼極まります。韓国を対等な国として見ていないのではないかと感じます。
日本政府には過去の植民地支配を反省し、強制動員被害者を救済しようという姿勢が一貫して欠けています。朝鮮半島を植民地支配したのは日本政府であり、新日鉄住金などの日本企業もそれに直結した反人道的な不法行為を行ったのです。「韓国の責任転嫁だ」などと強弁する前に、日本の植民地支配とその下での人権侵害の責任に「謙虚」に向き合い、被害者の人権回復に向けた努力を尽くすべきです。