安倍政権の成長戦略はすべて失敗していて、唯一、円安でこれまでは貿易黒字を維持して来ましたが、その円がじわじわ上昇し、昨年末に1ドル110円を切り先週末は一時107円台に突入しました。
昨年10月以降貿易収支は赤字に転落し、11月は速報ベースで5591億円の赤字です。
3月に日米FTA交渉が始まれば、自動車分野を中心とした対米の貿易黒字は大幅に縮小し、全体の貿易赤字は更に拡大します。
この先株価が1万8000円まで暴落すれば、これまで株価を支えるためにETFを爆買いし巨額の株を保有している日銀は、あってはならないとされる「債務超過」に陥ります。
金子勝教授は「日本経済はもはや後がないところまで来ている」と述べています。
併せて、高野孟氏による「小規模・家族経営を潰す安倍政権の時代錯誤な“新自由主義”」を紹介します。
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金子勝の「天下の逆襲」
産業衰退どん詰まりに襲い掛かる円高・貿易赤字拡大の悪夢
日刊ゲンダイ 2019年1月16日
世界経済の変調とともに、円がじわじわ上昇してきた。ドル円相場は昨年末に110円を切り、先週末は一時107円台に突入した。懸念されるのは貿易赤字の継続だ。
2008年のリーマン・ショックで急激な円高に見舞われ、日本は貿易赤字に陥った。その後、円は110円台に回復したが、貿易黒字は07年の約14兆円から17年には約5兆円へと3分の1に減った。そして、昨年10月以降、再び赤字に転落し、11月は速報ベースで5591億円の赤字だ。
ここまで貿易黒字は、対米輸出を中心とした自動車分野がその7割を占め、中国市場への中堅・中小企業が作る設備備品が支えてきた。それが米中貿易戦争や日米FTA交渉によって危うくなる。実際、昨年7~9月期は米中貿易戦争の影響で輸出が1.8%減り、実質GDP成長率はマイナスに転落した。円安・株高依存でようやくもっている実態が露呈したが、円安になっても、石油・ガス価格が上昇すれば、たちまち貿易赤字に陥るほどもろくなっている。
安倍政権の成長戦略はすべて失敗している。官民ファンドは赤字だらけ。日立のイギリス原発輸出中断で原発輸出外交は完全破綻。世界で進む、化石燃料依存を減らす再生可能エネルギーへのエネルギー転換でも日本は原発再稼働で遅れるばかり。残った自動車も、20年代後半に中国市場で電気自動車への転換が一気に進めば、自動車輸出に黄信号がともる。
習い性で日本はまだ何とかなると考える人が少なくないが、幻想だろう。日銀信用を悪用したアベノミクスで日本は衰退が加速するばかりだからだ。
日銀はマイナス金利で額面より高い価格で国債を買い入れ、政府の財政赤字を肩代わりする。その額は10兆円。世界でバブルが崩壊して株価が暴落すれば、ETFを爆買いしてきた日銀は債務超過に陥る。賃金低下や少子高齢化で国内貯蓄が減少する中、貿易黒字縮小も重なれば、国内で国債を消化できない。外国人投資家が国債を持ち、格付け次第で国債が暴落するリスクが出てくる。
日本経済はもはや後がないところまで来ている。安倍首相の延命を許せば、この国は破綻に向かっていく。
永田町の裏を読む
小規模・家族経営を潰す安倍政権の時代錯誤な“新自由主義”
高野孟 日刊ゲンダイ 2019年1月17日
世界の潮流は「スモール・イズ・ビューティフル」に向かっているが、日本はその逆を行っている。マスコミがほとんど報道しないので誰も知らないし、知ったとしてもそれほど多くの人が関心を持たないのかもしれないが、昨年12月8日に70年ぶりに「漁業法」の改正案が、与党プラス維新の賛成で強行的に可決された。
1949年の漁業法は、大企業や地域ボスに握られていた漁業権とその運用権限を、地元の漁業者や漁協に優先的に与えようとするものだったが、今回の改正で第1条「目的」から「漁業の民主化」という根本趣旨そのものが削除された。さらに、その漁業権やそれに基づく漁場の割り当てを企業などに対して金銭譲渡してもいいということになった。
60年には70万人いた漁師が2017年に15万人強にまで減り、しかしその8割までが小規模・家族経営の沿岸・地先沖合操業で生計を立てている零細漁師であるけれども、それを「効率化」とか「大規模化」とかの生産性優先原理に基づいて切り捨てていくのがこの法改正である。
これにはデジャビュがあって、61年の旧農業基本法が99年に「食料・農業・農村基本法」に改正され、その時に「耕地面積30ヘクタール以下、年間販売額50万円以下」は農家ではないという過酷な足切りを行った。それによって放り出されたジジババが露地栽培の野菜を直売所に持ち込んで売るようになり、今では直売所は全国2万4000カ所、総売り上げ1兆円を超す一大産業となった。
同じ問題が林業を巡っても起きている。これまたほとんど誰も知らないと思うけれども、昨年5月に「森林経営管理法」という法律が成立していて、これは「林業経営の意欲の低い小規模零細な森林所有者の経営を、意欲と能力のある〔大規模〕林業経営者につなぐことで集積・集約化を図る」というものである。つまり、農業ばかりか漁業も林業も、地域末端の小規模・家族経営の非効率を叩き潰すというのが安倍政権の新自由主義で、その推進力となっているのは竹中平蔵の「規制緩和」イデオロギーである。
国連は昨秋の総会で「小農と農村で働く人々の権利に関する宣言」を採択し、今年から10年間を「家族農業の10年」と定めてキャンペーンを展開し始めている。こういう世界潮流に逆らって「ラージ・イズ・ビューティフル」をいまだに追い求めているのが安倍政権である。
高野孟 ジャーナリスト
1944年生まれ。「インサイダー」編集長、「ザ・ジャーナル」主幹。02年より早稲田大学客員教授。主な著書に「ジャーナリスティックな地図」(池上彰らと共著)、「沖縄に海兵隊は要らない!」、「いま、なぜ東アジア共同体なのか」(孫崎享らと共著」など。メルマガ「高野孟のザ・ジャーナル」を配信中。