2019年1月15日火曜日

ゴーン前会長の妻「過酷な扱い」を人権団体に訴え ゴーン氏は容疑を全否定

 ゴーン前会長の妻国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチに書簡を送り、東京地検によるゴーン氏の「過酷な扱い」を訴えました。日本の検察特捜部は、容疑を否認した被疑者はいつまでも勾留し続けるという、国際的に悪名高い「人質司法」という手法をとることを常としています。ゴーン氏の件を機会に、そうした手法が国際的に批判を浴びることで改善に向かうのであれば喜ばしいことです。
 
 ゴーン前日産会長は昨年11月19日、役員報酬の過少記載や会社資金の不正利用など「重大な不正行為」があったとして逮捕されましが、その後、検察が「隠蔽」したという報酬は、退任後に支払われると約束されたものであることが明らかになり、「報酬の過少記載」の疑いは根底から崩れました。
 検察は特別背任容疑で再逮捕するなどしていますが見苦しいといえます。
 なお、ゴーン氏は8日、裁判長に対して意見陳述をしました。そこでは根拠を示しつつ検察の主張を明確に否定しています(NHKによる翻訳文を転載します)。
 
 この事案については、弁護士の郷原信郎氏が検察側のいわば「横暴」を徹底的に追及するブログを公表しています。興味のあるかたは是非お読みください。
 
                     (郷原信郎 12月9日)     ゴーン氏「直近3年分」再逮捕で検察は西川社長を逮捕するのか
                     (郷原信郎 12月21日)   ゴーン氏特別背任逮捕は、追い込まれた検察の「暴発」か
                (郷原信郎 1月11日)    ゴーン氏、早期保釈の可能性~「罪証隠滅の現実的可能性」はない  
             (郷原信郎 1月13日)    私が検察の正義」を疑う理由
 
追記)郷原氏は東大理学部出身という異色の経歴を持ち、東京地検特捜部に勤務した後、弁護士として独立しました。彼が「検察」に対して徹底的な不信感を持っている理由については、1月13日付の「私が『検察の正義』を疑う理由」にその一端が示されています。
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ゴーン前会長の妻、「過酷な扱い」を人権団体に訴え
BBC ニュースジャパン 2019年1月14日
金融商品取引法違反などの罪で勾留されている日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告(64)の妻、キャロル・ゴーンさんが、ゴーン前会長が日本の拘置所で「過酷な扱い」を受けているとして、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチに書簡を提出した。
 
ゴーン前会長は11月19日に逮捕されて以来、2カ月近くにわたって勾留されている。勾留はさらに続く見込みで、日本の司法制度に対する批判の声が出ている。
書簡の中でキャロルさんは、取り調べが絶え間なく続く様子を説明し、人権団体に支援を呼びかけた
 
キャロルさんは、「検察は毎日数時間にわたり、弁護士不在の状況で夫から、自白を引き出そうと尋問し、威圧し、叱りつけ、非難している」と書いている。
日本では、検察が起訴前の容疑者を取り調べる期間、容疑者の勾留が認められる。起訴されれば、さらに長期間の勾留が続くこともある
日本の検察当局は、キャロル夫人の書簡にコメントしていない。
 
ゴーン前会長は昨年11月19日、役員報酬の過少記載や会社資金の不正利用など「重大な不正行為」があったとして、金融商品取引法違反容疑で逮捕された。
その後、別の時期の金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)容疑および会社法違反(特別背任)の疑いで2回再逮捕された。2010~2014年度の虚偽記載について12月10日に起訴されたほか、今月11日には特別背任罪で追起訴された。
 
今年1月8日に東京地裁で開かれた勾留理由開示手続きで、多田裕一裁判官は、前会長には国外逃亡と罪証隠滅を図る恐れがあったとして、勾留は正当なものだと認めた。
一方、ゴーン前会長は無罪を主張している。
AFP通信によると、ゴーン前会長が日本語で自白文書に署名を強要されたと一部で報道されたが、前会長の弁護団はこれを否定している。
 
「厳格で過酷な」司法制度
ヒューマン・ライツ・ウォッチに宛てた書簡でキャロルさんは、ゴーン前会長の勾留の状況を説明した。
それによると、前会長は暖房のない小さな独房に収容され、常用薬を飲ませてもらえない。また、収容後に体重が落ち、食事は米と麦が中心だという。
勾留理由開示手続きで逮捕後に初めて公の場に姿を現したゴーン会長は、目に見えてやせていた。
書簡でキャロルさんは、「ヒューマン・ライツ・ウォッチには夫の事件に光を当ててもらい、(中略)公判前勾留と尋問が行われるこの厳格で過酷な司法制度を変えるよう、日本政府に圧力をかけてほしい」と訴えた。
「夫が毎日直面するような扱いを我慢させられるなど、あってはならない。ましてや日本のような先進国、世界第3位の経済大国で」
ゴーン前会長の弁護団によると、前会長は初公判までさらに6カ月、勾留される可能性がある。
 
 
カルロス・ゴーン 意見陳述書 (NHK翻訳版1月11日より転載)
2019年1月8日
意見陳述書
裁判長殿
本公判廷で発言をする機会を許していただき感謝しております。私が捜査機関からかけられている容疑がいわれのないものであることを明らかにしたいと考えております。
最初にお話しておきたいのですが、私は日産に対し心からの親愛と感謝の気持ちを持っております。私は、日産のために、全力を尽くして、また、公明正大かつ合法的に、そして社内の所管部署から必要な承認を得た上で業務を進めてきました。
私は、日産を強化推進し続け、日本で最も優れており、最も尊敬される企業の地位を回復させることを、ひたすらに目指してきたものでした。
それでは、私にかけられている容疑について、説明させていただきます。
 
1.為替スワッフ契約について
私は、約20年前、日産に入って日本に赴任した際、米ドルでの報酬の支払いを要望しましたが、それはできないと言われ、報酬は日本円で支払うという雇用契約を結ばされました。その時からずっと、私は、米ドルに対する円の変動に懸念を抱いてきました。
私自身は、米ドル建ての生活を基本としております。私の子供たちは米国に住んでおりますし、私自身、米ドルとの固定為替レート制をとるレバノンと強い結びつきを持っています。そこで、私は、自分の家族を養うために、ドル建てでの収入が変動しないようにしたいと考えていました。
そこで、私は、日産に入ってしばらくした2002年以降、為替スワップ契約を締結していました。現在私にかけられている容疑では、2つの為替スワップ契約が問題となっています。
一つは2006年に締結したもので、当時日産の株価は約1500円で、円・ドルの為替レートは約118円でした。もう―つは2007年に締結したもので、当時日産の株価は約1400円で、円・ドルの為替レートは約114円でした。
ところが、2008年から2009年にかけての金融危機により、日産の株価は2008年10月に400円、2009年2月に250円にまで急落し(ピーク時に比べ80%超の下落)、円・ドルの為替レートは80円以下にまでドルが下がりました。これは誰も想像しなかった最悪の事態でした。
銀行業界全体の仕組みが機能しなくなり、私が為替スワップ契約を締結していた銀行は、契約上必要となる金額の担保を直ちに差し入れるように要求してきましたが、私自身ではその銀行の要求に答えることができませんでした。
 
それで、私は2つの厳しい選択肢を迫られたのです。
 1.日産を退任して、退職慰労金を受領して、これを銀行に担保として差し入れるということです。しかし、私には日産への道義的な責任があり、この重大な局面で退任することはできませんでした。船長は、嵐の最中に船から逃げ出すようなことはできないのです。
 2.私が他の知人などから担保を用意するまでの間、日産に金銭的な損失を負わせない限りにおいて、一時的に担保を提供してもらうように要請することです。
結局、私は第2の選択肢を選びました。そして、しばらくして、上記の二つの為替スワップ契約の主体を再び私に戻しましたが、この間、日産に一切損害を与えておりません
 
2.E氏について
E氏は長年にわたって日産の支援者であり、パートナーでもあります。日産が大変困難な状況にあった時期に、D社は、日産の資金調達を支援してくれましたし、日産が、地元の販売代理店との間で紛争になったとき、この解決のために支援してくれました。
実際、E氏は、湾岸地域全域で、業績不振に陥っていた販売代理店を日産が再編成することを支援してくれ、日産が、販売力の優るトヨタなどの競合他社に競り勝てるようにしてくれました。
E氏は、また、日産がサウジアラビアに自動車工場を建設できるように交渉を支援してくれ、サウジ当局とのハイレベルの面談等を設定してくれました。
E氏の会社は、このように日産に対して極めて重要な業務を推進してくれましたので、日産は、同氏の会社からの請求に基づき、関係部署の承認に基づいて、相応の金額の対価を支払いました
 
3.金融商品取引法違反について
私は、日産のCEOを務めている間、フォード、ゼネラルモーターズなど4つの大手自動車メーカーから招聘の申し出を受けました。フォードはビル・フォードから、ゼネラルモーターズは、オバマ政権当時、自動車の帝王と呼ばれたスティーブ・ラトナーかから申し出を受けました。彼らは極めて高待遇の条件を申し出てくれましたが、私たちの日産は会社再建の真っただであり、私は、道義上、日産を見放すわけにいきませんでした。日産は、私にとって非常に大事な日本の象徴的な会社だからです。
このように私は他の自動車メーカーに移ることはしませんでしたが、これらの自動車メーカーが招聘の条件として提示してきた私の市場価値、すなわち報酬金額について記録をつけていくことにしました。これは、将来の参考のために私が残していた個人的なベンチマークであり、法的な効力のあるものではありませんでした。他の取締役らに話したことも一切ありませんでしたし、法的な効力のあるものでも全くありませんでした。
実際、取締役らが作成していた私に関する退職後の競業避止や顧問業務についての様々な提案がありますが、それは、私がつけていた上記の金額を反映していません。このことからも、私のつけていた金額が法的な効力のあるものではないことがわかると思います。
 
検察による訴追は全く誤っています。私は、開示されていない報酬を日産から受け取ったことはありませんし、日産との間で、開示されていない確定額の報酬の支払いを受けるという法的な効力のある契約を締結したことも一切ありません。
また、私は、退職後の報酬にかかる提案書のドラフトについてはすべて、社内外の弁護士により検討し承認されていると理解していました。このことからも、私に金融商品取引法に違反する意図がなかったことをわかっていただけると思います
このことを理解していただくためのテストとして、「死亡テスト」と言われているものがよいと思います。つまり、私が今日死んだとしたら、私の相続人が日産に対して、私の退職慰労金以外の金員の支払いを求めることができるかということです。答えは明白に「いいえ」であるからです。
 
4.日産への貢献
(省 略)
 
5.結び
裁判長殿、私にかけられている容疑は無実です。私は常に誠実に行動してきており、数十年にわたるキヤリアにおいて不正行為により追及されたことは一度もありません。私は、確証も根拠もなく容疑をかけられ、不当に勾留されています。
裁判長殿、ご傾聴いただき感謝いたします。以上