2019年1月26日土曜日

「賃金が21年ぶりに高水準」は全くのデタラメ

 厚労省の「毎月勤労統計」の不正問題で、特別監察委員会が僅か1週間で「組織的隠蔽はなかった」というお手盛り報告書をまとめたことを受け、根本厚労相は22日、事務次官を訓告、担当部署の幹部を減給処分にし、それでケリをつけたい意向のようですが、そんなきれいごとでは済まされません。
 根本厚労相は「第三者の目でしっかり調査してもらった」と強調しましたが、監察委の樋口美雄委員長は、厚労省が所管する“天下り団体”の理事長で、いわば厚労省の子会社の社長なので、親会社の仕事を厳正に批判するのは所詮無理な話です。
 
 28日の通常国会開会前に何とかケリをつけたいという政府の要望に沿って、監察を終了したという「アリバイ作り」をしたに過ぎないもので、果たして、監察委は延べ69人の職員・元職員へのヒアリングをしたと公表しましたが、24日の国会審査ではその実数は37人で、対象の1/3は厚労省職員がヒアリングを代行したことが明らかにされました。
 その結果、厚労省は異例のヒアリングのやり直しに追い込まれました。不正調査の責任をすべて根本厚労相に負わせるのは酷ですが、この期に及んでキチンとした総括が出来ないのであればその責めは負うべきです。
 
 実は2004年から行われるようになった不正賃金調査は、社会保障費の抑制を謳った小泉政権時代に、役人が賃金レベルを低く出すための調査方法を案出したもので、明らかに意図的なものでした。
 2015年には、安倍政権はGDPの計算方法を変え、GDPを約32兆円上昇させました。GDPアップの偽装に他なりません。
 そして今度はアベノミクスの成果を偽装すべく、厚労省は昨年1月、急遽、賃金調査の結果を「正値」に戻すようにデータを操作しました。その結果、見掛け上前年比で大幅な賃金上昇となりました。しかし生活実感と異なる数値が出されても、そんなものは誰も信用せず、計算方法を変えた結果だと指摘されたのがオチでした。
 
 LITERAが、アベノミクスの成果を偽装するために「毎月勤労統計の不正」がどのように利用されたかに関する記事を出しました。
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「勤労統計不正」でアベノミクスの嘘が! 
「21年ぶりの高水準」喧伝も実はマイナス…安倍と麻生の関与説も
LITERA 2019.01.24.
 これは賃金偽装、アベノミクス偽装だ──。厚生労働省による「毎月勤労統計」の不正データ問題について、本日おこなわれた衆参厚生労働委員会の閉会中審査では次々に問題点があきらかになった。
 まず、23日に厚労省は特別監査委員会の調査報告書を公表したが、調査期間はわずか1週間、たった2回の非公式会合しかおこなわれていないにもかかわらず組織的隠蔽を否定するという「お手盛り」報告だった。しかも、監察委員会の樋口美雄委員長は厚労省が所管する「独立行政法人労働政策研究・研修機構」(JILPT)の理事長であり、「とても第三者委員会とは呼べない」という批判も上がっていた。
 だが、きょうの閉会中審査では、監察委員会と監査チームからヒアリングを受けた職員・元職員は「延べ69名」と公表されていたが、実人数を問いただすと37名にすぎなかったことが判明。その上、聞き取りの一部は厚労省の職員がおこなっていたこともわかったのだ。
 
 組織的関与・隠蔽の有無や原因究明をおこなうはずが、調査人数をごまかしていた上に“内輪”で調査していた……。まさに安倍政権の“隠蔽・改ざん体質”がここでもあきらかになったかたちだが、しかし、不正データ問題でもっとも注目すべきは、「アベノミクス偽装」の疑いが濃厚である点だ。
 昨日、発表された「毎月勤労統計」の再集計の結果、2018年1月〜11月の名目賃金を示す「現金給与総額(名目賃金)」は下方修正され、「賃金伸び 21年5カ月ぶりの高水準」「アベノミクスの成果」などと大々的に報じられた昨年6月の「33%増」も、「28%増」と修正された。
 だが、この28%というのも、実態を反映した数字とはほど遠く、実際はその半分、14%だというのだ。
 実際、きょうの閉会中審査で、総務省大臣官房審議官は、こう答弁した。
「統計委員会の見解としては、伸び率については(再集計値の28%ではなく)14%で見るべきだと、そういう見解であります」
 この数字は極めて重大だ。というのも、国民民主党の山井和則議員の指摘によると、この統計委員会の見解に従って適切に算出すれば、昨年の賃金伸び率はプラスではなくマイナスになるというからだ。
 
 実態は多くの国民の生活は苦しいのに、なぜ「賃金は21年5カ月ぶりの高水準」などという虚偽の数字がはじき出されたのか──。
 そもそも、今回の問題は、「毎月勤労統計」の調査では従業員500人以上の事業所は全数調査することになっているにもかかわらず、2004年1月から東京都分は約3分の1しか調査しないという不正をつづけてきたというもの。東京都は賃金が高い大企業が集中しているため、平均給与額は実際より低く算出されてきた。
 しかし、なぜか昨年1月からは、東京都分を約3倍にして全数調査に近づけるデータ補正を開始した。しかも、調査対象事業所のうち30人以上の事業所については2~3年ごとに無作為抽出した事業所に総入れ替えしていたが、半数弱を入れ替える方式に変え、従来は総入れ替え時におこなっていた指数や増減率の遡及改訂を取りやめるなど、統計の作成手法自体を変更。これは〈大企業の比率を増やし中小企業を減らす形のデータ補正をしたにもかかわらず、その影響を考慮せずに伸び率を算出〉するものだった(東京新聞2018年9月29日付)。
 その結果、当然、賃金上昇率は一気に伸び、昨年6月には前年同月比で36%増を記録(確報は33%増)。このため、全国紙はこぞって「賃金伸び 21年5カ月ぶりの高水準」「アベノミクスの成果」などと報じたのである。
 
 つまり、この統計の作成手法の変更による影響を考慮していないため、「毎月勤労統計」再集計の結果による28%という賃金の伸び率は正確とは言えず、この変更による影響を除いて算出される「参考値」は14%にすぎない、というわけだ。
 あきらかに賃金が伸びたかのように見せるためとしか思えない統計の作成手法変更──。しかも、この変更を指示したのは、なんと麻生太郎財務相であり、その場には安倍首相も同席していたのである。
 
安倍首相と麻生財務相は「アベノミクス偽装」に関与していないのか?
 それは、2015年10月16日におこなわれた、安倍首相が議長を務める「経済財政諮問会議」でのこと。議事要旨を見ると、その席上で麻生財務相は、2%のインフレ目標のために「意識を変えていかなければならない」と述べ、そこで「私どもは気になっているのだが、統計についてである」と切り出し、問題の「毎月勤労統計」について、こう語ったのだ。
「毎月勤労統計については、企業サンプルの入替え時には変動があるということもよく指摘をされている」
「ぜひ具体的な改善方策を早急に検討していただきたいとお願いを申し上げる」
 じつは、統計のサンプル企業の入れ替えによって〈安倍政権が発足した12年12月以降の数字が下振れしてしまった〉(西日本新聞2018年9月29日付)という背景があった。つまり、麻生財務相は“下振れする変動をどうにかしろ”と言及したのである。
 
 そして、この麻生財務相の指示により、2018年1月から統計の作成手法は変更され、「アベノミクス偽装」は始まったのだ。
 果たして、安倍首相と麻生財務相はどこまでこの「偽装」に関与していたのか──。安倍首相は世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)の基調講演でも「私が総理在任中の6年間に、日本のGDPは109%伸びた」「子どもの相対貧困率が初めて大きく下がった」などと成果を誇ったが、いまやそれらの数字にも疑いの目は向けられている。事実、国内では総務省が56種類の基幹統計のうち22統計に手続き上の誤りがあったと発表したばかりだ。
 通常国会では、こうした安倍政権がつくり出した“嘘の数字”を、徹底的に暴いていくしかないだろう。(編集部)