2023年8月3日木曜日

03- 集中企画・マイナ狂騒(26)~(28)

 日刊ゲンダイの連載記事「集中企画・マイナ狂騒(26)~(28)」を紹介します。

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集中企画・マイナ狂騒(26)
保険証廃止がますます意味不明に…「資格確認書」発行で234億円コスト増の仰天!
                          日刊ゲンダイ 2023/07/29
「健康保険証と比較すると、(コストは)減少できると期待している」──。26日に開かれた参院地方創生・デジタル特別委員会の閉会中審査。「マイナ保険証」を持たない国民に交付される「資格確認書」について、厚労省は「コスト削減」につながるとの期待感を示した。
 しかし、本当にそうなのか。毎年更新が必要な資格確認書は現行の保険証に比べ、発行の手間とコストが増える可能性があると指摘されてきた。
 興味深いのが、参院特別委の前日(25日)に開かれた立憲民主党の国対ヒアリングの資料だ。山井和則衆院議員の事務所が、現行の保険証と資格確認書の事務負担とコストについて比較、試算した

健康保険証の廃止でコスト増の恐れが一目瞭然
 試算では、現行の保険証と資格確認書の発行手数料を各500円、マイナ保険証の利用者が人口の半分程度と仮定。自営業者などが加入する国民健康保険、会社員や家族が加入する被用者保険、75歳以上の高齢者が加入する後期高齢者医療制度について、現行の保険証と資格確認書の発行にかかるコストを比較した。
 試算によれば、現行の保険証と比べ、資格確認書の発行コストは年間、国保で23億1200万円増、被用者保険で241億5900万円増、後期高齢者医療制度で30億7020万円。新たに資格確認書を発行する方が圧倒的にコストがかさむ計算だ。改めて山井議員に聞いた。
「極めて粗い試算ではありますが、健康保険証の廃止によってコスト増の恐れがあることは一目瞭然です。後期高齢者医療制度ではコスト減になっていますが、マイナ保険証へ切り替えると、今まで自動的に新しい保険証が手元に送られてきたのに、マイナ保険証の利用に必要な電子証明書を5年に1回更新しなければならない。1人暮らしや認知症の高齢者には、大きな負担です」
 資格確認書の発行コスト増が念頭にあるのか、政府は資格確認書の有効期限について「発行から1年以内」の方針を転換。有効期限を一律に定めない検討を始めた。新たな有効期限は、現行の各保険証に準じる方向で調整する見通しだ。
「『1年更新』の手間がなくなれば、いよいよ現行の保険証と変わらない。資格確認書の利便性を高めて『国民の不安』を払拭するつもりのようですが、それなら、健康保険証を残せばいいだけの話です。ますます保険証を廃止する意味が不明になってきました」(山井氏)
 政府の迷走はいつまで続くのか。


集中企画・マイナ狂騒(27)
露骨なマイナ格差政策に国民激怒! カード普及がんばった自治体に地方交付税“ご褒美”優遇
                          日刊ゲンダイ 2023/07/31
 総務省は28日、各地方自治体に配分する2023年度の地方交付税の額を決定した。
 配分総額は前年度比1.7%増の17兆2594億円。1688自治体に配られる。
 驚くことに、このうち500億円は、住民のマイナカード保有率(5月末時点)が73.25%を超える572市町村に“優遇”する形で配分される。全自治体の3分の1にあたる。
 カードを使った住民サービスの充実を後押しするためと説明するが、政府の言いつけを守り、普及をがんばった自治体への“ご褒美”に他ならない
 さすがに、マイナンバーのトラブルが相次ぐ中でのマイナ優遇策にネット上は大炎上だ。
《この期に及んでマイナごり押しかよ。先にシステム見直しが先やろ》《どこかのブラック企業みたい。営業成績上げないとカネやらん的な》《任意のカードなのに、国民の税金が原資の交付税を優遇配分するのはおかしい》

「共通番号いらないネット」事務局の宮崎俊郎氏が言う。
「地方交付税は地方の固有財源ですが、自治体間の収入の格差を是正するために、国が地方に代わって徴収し、配分する仕組みです。格差是正のための制度を使って、マイナカードの普及に応じて配分格差をつけるのは、交付税の精神に反します。国にそんな権限があるのでしょうか」
 29日付の信濃毎日新聞は、長野県内の自治体の声を報じた。保有率が県内で最低の60.6%だった下水内郡栄村の宮川幹雄村長は、高齢者の多い村ではカードを不要と考えている人もいると指摘し、「保有率に応じて交付額に差をつけること自体、あってはならない」と語っている。

政府はいつもの“アメとムチ”のノリ
 マイナ普及のために政府は“アメとムチ”を繰り返してきた。マイナポイント付与は“アメ”だったが、マイナ保険証を使ったオンライン資格確認に参加しない医療機関には保険医の取り消しをチラつかせるという“ムチ”もあった。
「政府はこれまでのアメとムチ政策のノリで交付金に格差をつけ、普及を狙ったのでしょうが、これだけマイナ問題が炎上しているのに、そうしたやり方に自治体や住民は納得するのか。カードの普及どころか、マイナンバー制度への不信はさらに拡大すると思います」(宮崎俊郎氏)
 31日の日経新聞の世論調査によると、マイナカードのトラブルへの政府対応について72%が「評価しない」と回答している。
 交付税格差のようなやり方は、評価されるはずはない。


集中企画・マイナ狂騒28
岸田首相は保険証廃止「延期」のマッチポンプ 自民党総裁再選と天秤にかけた保身の醜悪
                            日刊ゲンダイ 2023/8/2
 特技と自称する「聞く力」を演出する見え透いた支持率回復シナリオだ。現行の健康保険証を来年秋に原則廃止し、マイナカードに一体化する政府方針について、岸田首相は1日、廃止期限の延期を視野に新たな対応策を関係閣僚と協議する予定だったが、急きょ延期された。早ければ2日にも岸田首相が記者会見で自ら説明することにしていたが、これも来週以降に変更の見通しだ。

「聞く力」アピールの布石は打ってきた。7月27日に岸田首相は視察先の福岡市内で「医療関係者の意見を含め、現場の意見をうかがいながら対応を考えていきたい」と語り、翌28日は東京都内の介護施設を訪問。施設が入所者から預かる現行保険証の管理状況を確認した。
 その後、記者団に保険証廃止を延期する可能性を問われると、「現場の声や意見は大切にしなければならない」と強調。連日の視察で「現場の声を聞いた」というポーズを整えたつもりだろう
「岸田首相に近い政権幹部も保険証廃止の延期を具申したと言われています」(自民党関係者)
 現場の意見を聞いた上での決断にすれば格好はつくが、岸田首相の行動原理は来年秋の自民党総裁選での再選が全て。底なしのマイナトラブルでライバルの河野デジタル相は脱落したものの、支持率下落は止まらない。自民党幹部からも、保険証廃止の延期を求める声が公然と上がり、この問題を乗り切らなければ、取り沙汰される今秋の衆院解散・総選挙どころではない。ましてや廃止の時期は来年9月の総裁選のタイミングと丸かぶり──。

「撤廃」望む声には「聞く」力なし
 廃止延期は総裁再選戦略と天秤にかけた保身の結果で、マイナカードに関する国民の不安は二の次、三の次。岸田はサッサとマイナ問題という“爆弾”を手放したいだけ。国民の多くが望むのは保険証廃止の「延期」ではなく、「撤廃」だ。その声に本気で聞く力を発揮しないから、検討中の新たな対応も愚にもつかない弥縫策ばかりだ。
「延期以外にも、保険証に代わる『資格確認書』の有効期限(1年間)の撤廃が浮上していますが、ますます保険証を廃止する意義がなくなります」(政府関係者)
 しょせん岸田首相の「聞く力」アピールはマイナカード普及を急がせ、トラブルに火をつけた政権のマッチポンプ。ダマされてはいけない。