世に倦む日々氏が掲題の記事を出しました。
英国防相のウォレスは7月12日、ウクライナ側からの武器供給要請リストを見て、「英国はアマゾンではない」と述べました。英国のウクライナ軍支援には自ずから財政的限度があるという意味でしょう。
ウクライナの情勢を逆転させると期待された6月のウクライナ反転攻勢は失敗したようです。これによって先が見通せなくなったというよりも、ウクライナ戦争を終結させないことにはもはや色々な意味でNATO主要国家の身が持たなくなっています。
停戦に関してはNATOの幹部が8月15日に「ウクライナが領土の一部を諦め、その代わりにNATOに加盟するという解決策もあり得る」と述べました。ウクライナが猛反発したため直ぐに取り消されましたが、その一方でストルテンベルグNATO事務総長は、「彼のメッセージは私のメッセージであり、NATOのメッセージでもある」と明らかにしました。
これは昨年春、ウクライナが停戦に傾いた際にそれを強権で阻止した米英が、いまさら言い出せないことを事務総長が代弁したのかも知れません。
それはともかく「領土的に原点に戻らないことには停戦はあり得ない」と主張するのは、「聖戦を敢行すべき」ということとも全く同じで、不幸で不毛な現状をこのまま継続することを意味します。人道的にそれが正しいと本当に言い切れるのでしょうか。
世に倦む日々氏は、「今、眼前で起きている出来事は、NATOの軍事的敗北が近いという将来を予感させる。アメリカはどこかでこの戦争の泥沼から手を引かざるを得ず、ベトナム戦争と同様、それはアメリカ(NATO)の敗北である。アメリカが手を引けば、残りの欧州諸国が束になってもロシアには軍事的に勝てない。その展望は得られない。自ずと、ロシアと関係修復しようという動きになる。矢野義昭が言うように、ドイツ・フランス・イタリア・スペイン・ギリシャは、確実にその方向を模索し、戦争前の(2014年以前の)原状に回帰しようとするだろう。アメリカ抜きのNATO体制などあり得ず、論理的に行き着くところ、NATOは破綻、崩壊の運命となる」と述べます。
同氏はまた、元々NATOは対ソ連の反共軍事同盟は冷戦の遺物であり、一方のワルシャワ条約機構は1991年のソ連崩壊に伴って廃絶されているとして、もしも米国がウクライナから手を引けば、NATOは破綻し、新しい欧州の安保体制を構築することになると見ています。
「冷戦の異物」を至高の組織と考えている岸田首相はこの点でも決定的にズレています。
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NATOの敗北と崩壊 - 西側の憲法が書き換えられる!?
世に倦む日日 2023年8月21日
8/17 のワシントン・ポストは、ウクライナ軍によるメリトポリ奪還作戦は目標を達成できないだろうという米情報機関の分析を報じている。米情報機関すなわちCIAが、反転攻勢について悲観的に観測している事実をワシントンポストに流して記事配信させている。ロシア軍が敷いた防衛線が強固で地雷原を突破できず、当初に描いた目論見どおりの成果が期待できない苦戦の内情を認めている。また、8/15 の読売新聞は、ウクライナ副首相イリナ・ベレシュチュクの発言を載せ、「戦闘の越年も視野」「終戦は来春以降との見通し」と書き、反転攻勢の不首尾をウクライナ政府が自ら認めざるを得ない現状を伝えている。さらに、8/15 にはもっとショッキングな事件が出来した。
NATOの要職にある幹部が、「ウクライナが領土を諦め、その代わりに加盟するという解決策もあり得る」と発言したのである。ウクライナ側が猛反発し、翌 8/16 に撤回して遺憾表明したが、事件の影響は小さくない。この失言騒動を惹き起こしたのは、ストルテンベルグの補佐役でNATO事務総長秘書室長のスティアン・イェンセンという男だ。45歳と若く、ストルテンベルグと同じノルウェー人で、まさにストルテンベルグの側近中の側近、右腕の人物である。ストルテンベルグが自らの後継と見込んで育てている若手で、バイデンとブリンケンの関係を彷彿とさせる。これは只事ではない。ウクライナ側の猛反発は伝えられているが、英米をはじめ西側政府の関係者からの批判は報道されていない。
引責とか罷免という事態にも至っていない。翌々日の 8/17、上司のストルテンベルグが釈明の口を開き、「彼のメッセージは私のメッセージであり、NATOのメッセージでもある」と言った。これは、政治の言葉として普通に聞けば、イェンセンの擁護でありエンドースの示唆である。つまり、自分の代わりに腹心の部下に言わせたという意味だ。誰もがそう解釈するだろう。NATOとして正式には要求できないが、ウクライナにはそろそろ妥協の覚悟を準備してもらいたい、東部南部4州の領土は断念をお願いすると、そう打診しているように聞こえる。ストルテンベルクが部下を使ってNATOの意向を伝達している。イェンセン発言は地元ノルウェーの会議の場で投擲されていて、何やら周到に布石された政治の気配が漂う。
1か月以上前の 7/12 のニュースだが、英国防相のウォレスが、ウクライナ側からの武器供給要請リストを見て、「英国はアマゾンではない」と不満を伝えた一件があった。ちょうどこの直前、7/10 にビリニュスでNATO首脳会議が開催されていた。日本では、トルコがウクライナのNATO加盟を支持した情報ばかりが喧伝され、NATOのお祭りイベントを奉祝報道していたが、実際の現地は冷ややかな空気が流れていたと言われている。ゼレンスキーが期待したところの、ウクライナのNATO加盟の道筋発表をNATOが見送り、蚊帳の外にされたゼレンスキーの失望感が会場で露わになっていたからである。ウォレスの発言とNATOの冷淡な態度とは符牒が合う。これは、6月からの反転攻勢が躓いた結果の反映に違いない。
NATO首脳部は、6月の反転攻勢が成功した前提で、7月のビリニュスの会議での「ウクライナ将来加盟」の発表を予定していたのだろう。5月のG20広島サミット、6月の反転攻勢、7月のNATO首脳会議は、工程表としてプログラムされた政治戦略だったはずだ。すべてが思惑どおり運ぶと想定していたところ、6月の反転攻勢が挫折となり、7月のNATO首脳会議も内容を変更せざるを得なかったのだ。現在はそこから1か月が経過した状況にあり、ほとんどの西側メディアが、反転攻勢の停滞と越年見通しを伝える局面となっている。シナリオは崩れた。10月には泥濘期に入る。NATOは弾薬の備蓄に不安がある。アメリカではウクライナへの支援に反対する世論が高まっている。イェンセンの「舌禍」はこうした情勢下で起きた。
反転攻勢はなぜ頓挫したのか。スプートニクの 8/16 の記事を見ると、豪州の退役少将が豪州テレビの取材に答えて二つの理由を指摘している。一つは、ロシア軍の戦場監視システムの精度が向上したこと、もう一つは、火力支援のデジタル制御が向上したことである。このロシア軍の情報技術向上は、チャンネル桜の動画で用田和仁も言及していて、反転攻勢の阻止を奏功させた要因として挙げていた。監視および攻撃での電子情報戦における劣位は、この1年間、NATO軍(もうウクライナ軍とは言わない)と比較してのロシア軍の特徴だった。その典型的な一つとしてスターリンク(⇒宇宙ベンチャーのスペースX社が提供している衛星インターネットサービス)が説明されてきた。最近では、ロシア軍はスターリンクを無力化する技術を応用しているという話も聞く。戦場での経験は兵器のイノベーションを促し、戦況の逆転を導く。
第2次大戦時のソ連軍のT-34戦車の改良がそうだった。カラシニコフ銃の開発もそうだ。6月の反転攻勢が始まり、2週間で2割のNATO側兵器が損壊したという報道が出たとき、私もにわかに信じられず、ロシア側の「情報戦」ではないかと疑ったが、実際に、ロシア軍はNATOが防衛線突破に投入したレオパルトやチャレンジャーやブラッドレーを主力とする機甲部隊を撃破していたのである。NATO軍の行動を正確に探知捕捉し、迅速なドローン攻撃で殲滅していた。電子情報戦のテクノロジーの進化がないと、この戦果は得られない。矢野義昭の解説では、ロシア軍はNATO軍機甲部隊を前進させ、防衛線に接近させたところで上空から背後に地雷を撒き、前方と後方を地雷で挟み撃ちにして、退却に動いた戦車・装甲車を全滅させたと言う。
本当かどうか分からないが、航空優勢をロシア軍が握っていて、電子情報戦技術でイーブンならば、あり得る話だと思われる。こういう戦局状況だと、NATO軍は怖くて前進できないだろう。ここでなぜ敢えてウクライナ軍ではなくNATO軍と書くかというと、機甲部隊で精鋭戦車を操縦しているのがNATO軍の士官だという説があるからである。報道では、ウクライナ軍の兵士を何か月か教育訓練し、レオパルトなどを縦横に動かせる搭乗兵に養成して反転攻勢の戦地に送り込んでいるという話になっている。が、一部の専門家は、それでは訓練の時間が足りず、熟練して自在に操縦できるまでには至らないと疑問を上げていた。2月のロイターの報道では、ポーランド軍がウクライナ兵へのレオパルト2の訓練期間を10週間から5週間に短縮したとある。
実際には、NATO軍士官が搭乗し操縦しているのではないか。だから、2週間で2割損壊という想定外の打撃を受けた後、尻込みして機甲部隊での突進をやめ、(命惜しさゆえに)後方に下げて待機状態になったのではないか。2割損壊の失態の後、NATO軍は戦車を使わず、ロシア軍防衛線(地雷原)への前進攻撃をウクライナ軍歩兵小部隊による人海戦術に切り替えている。その作戦変更の理由づけとして、ウクライナ兵の人命は軽いからと堂々と言っていると、用田和仁がNATOを批判していた。結局、NATOは作戦を変え、事実上、今夏のロシア軍防衛線突破すなわち反転攻勢を諦めた状態になっている。それに対して、高橋杉雄や渡部悦和ら主戦派は、ATACMS(⇒米国製地対地ミサイルの1つ)を供与すれば勝てると言っていて、同様の主戦派が英米の中にもいるのだろう。
が、ロシア軍の航空優勢は動かない条件であり、NATOがNATOのパイロットを編成してF-16を投入する作戦展開は難しい。ワシントン・ポストは、これからウクライナ兵に英語教育して、操縦訓練が完了するのは来年夏以降にずれ込むと書いている。つまり、NATO(というか米軍)は、航空戦力をウクライナに投入する意思はないという意味のリークだ。である以上、レオパルトもチャレンジャーもエイブラハムも地雷原突破に役に立たず、宝の持ち腐れのままという軍事的意味になる。そして、東部戦線で両軍地上兵が押し合いをしている間にNATOの砲弾備蓄は減って行く。戦争が越年するという意味は、年内のロシア軍掃討を諦めざるを得ないという意味であり、4州占領のまま停戦交渉に入らざるを得ないという意味だ。NATOにロシア軍を壊滅させる能力がない。
チャンネル桜の動画では、出演者たちがNATOの敗北と崩壊の予想を語っていた。NATOの崩壊。これまで一度も想像したことがない図だが、今、眼前で起きている出来事は、NATOの軍事的敗北が近いという将来を予感させる。アメリカはどこかでこの戦争の泥沼から手を引かざるを得ず、ベトナム戦争と同様、それはアメリカ(NATO)の敗北である。アメリカが手を引けば、残りの欧州諸国が束になってもロシアには軍事的に勝てない。その展望は得られない。自ずと、ロシアと関係修復しようという動きになる。矢野義昭が言うように、ドイツ・フランス・イタリア・スペイン・ギリシャは、確実にその方向を模索し、戦争前の(2014年以前の)原状に回帰しようとするだろう。アメリカ抜きのNATO体制などあり得ず、論理的に行き着くところ、NATOは破綻、崩壊の運命となる。
思えば、NATOは対ソ連の反共軍事同盟であり、ソ連を封じ込める目的で設立された冷戦の遺物だった。一方のワルシャワ条約機構は1991年に解体・廃絶されている。そこから遅れること32年を経て、ようやく片方の遺物のNATOも崩壊という地平に到達した。現時点ではバーチャルな想像だが、アメリカがウクライナから手を引けば、現実にNATOは破綻する。新しい欧州の安保体制を構築せざるを得ない。その意義を、長谷部恭男がルソーの『戦争法原理』から講釈したセオリーから説明するとどうなるか。政治学的な原理の問題だが、興味深い結論が導出されてしまう。長谷部恭男は、戦争は相手国家の体制原理を打倒するものだとルソーを引いて教説し、冷戦は西側の自由と民主主義が勝利し、ソ連の共産主義が敗北し打倒されたのだと総括した。権威の立場でフクヤマみたいな愚論を垂れた。
NATOが崩壊した暁に、長谷部恭男に再び登場してもらって、ルソーの『戦争法原理』から今回の戦争の意義を講論してもらおう。
「湯の町湯沢平和の輪」は、2004年6月10日に井上 ひさし氏、梅原 猛氏、大江 健三郎氏ら9人からの「『九条の会』アピール」を受けて組織された、新潟県南魚沼郡湯沢町版の「九条の会」です。