日刊ゲンダイの連載記事「集中企画・マイナ狂騒(32)~(34)」を紹介します。
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集中企画・マイナ狂騒(32)
マイナ総点検は政府のアリバイ作り 河野デジタル相が企む「国民に丸投げ自己責任」の姑息
日刊ゲンダイ 2023/08/08
政府は8日午後、マイナンバー情報総点検本部を開き、「マイナ総点検」の中間報告と再発防止策を公表。岸田首相はトラブルの原因を徹底究明し、対策を打ち出すことで国民の不安払拭を図るつもりだが、不発に終わる公算が大きい。待っているのは総点検の責任放棄と国民丸投げ。何でもカンでも自己責任だ。
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総点検は「マイナポータル」で閲覧できる健康保険証、年金、税など29項目が対象。自治体や健保組合などが本人確認やひも付けに誤りがないかをチェックし、11月をめどに完了させる予定だ。
しかし、これだけ手間をかけても、マイナトラブルの解決に有効なのかは極めて怪しい。マイナンバー問題に詳しい自治体情報政策研究所の黒田充代表は自身のSNSで〈そもそも何が正しく、何が間違っているかを本人以外の第三者が判断すること自体が困難なのです。ですから政府のいう総点検などあてになりません〉と指摘している。
今月5、6日に実施したJNN(TBS系)の世論調査によると、マイナ総点検で「トラブルは解決しない」と考える人は82%に上る。実に8割以上が総点検に期待していないのだ。
「河野デジタル相も総点検で問題がクリアできるとは考えていない節がある。狙いは国民に総点検を丸投げすること。そのためにまず政府が総点検を主導し、“アリバイ”をつくっている格好です」(霞が関関係者)
ちゃっかり“予防線”「カードで確認を」
実際、河野氏は既にその布石を打っている。7月の閉会中審査では“予防線”をいくつも張っていた。
「自らの情報の正確性に不安がある方は、むしろマイナカードを利用して確認していただきたい」(5日の衆院特別委)
「マイナポータルから、ひも付けの誤りがあるかどうかを本人が確認することもできる。そうしたことを丁寧に周知していきたい」(26日の参院特別委)
ひも付けられた情報に誤りがないかどうかの確認は利用者に丸投げ。大臣としての責任を放棄し、「どうぞ皆さんで総点検を」と言わんばかりである。情報漏れやなりすましなど有事が起きれば、点検を怠った利用者の自己責任ということか。
「本人がマイナポータルで誤情報を見つけた時点で、他人の情報が漏れていることになり、すでに事故。河野氏の答弁は『事故が起きたら気づいてね』と言っているようなもので、時すでに遅し。マイナンバー制度が未然に事故を防げない“ポンコツ”であることを政府が認めたに等しい」(「共通番号いらないネット」事務局の宮崎俊郎氏)
それでも河野氏は立ち止まるどころか、ポンコツシステムをゴリ押しするつもりだ。
「本来、こういう危険がある以上、マイナカードに運転免許証や母子手帳などの機能を持たせる『利用拡大』にブレーキをかけるべきです。ところが、河野大臣は逆にカードの普及を進め、誤情報の不安を煽るだけ煽る。たとえ、利用者がカードを自主返納したくても、ひも付けが解除されない以上、誤りを点検するには、マイナポータルで確認するしかない。そのためだけに結局、カードの保有を続けなければならないのです。やり方が汚いと言わざるを得ません」(宮崎俊郎氏)
総点検丸投げの自己責任を国民は受け入れるのか。
集中企画・マイナ狂騒(33)
資格確認書コスト増は10年591億円! 岸田首相「減る」は眉ツバ…マイナ保険証に拭えぬ不安
日刊ゲンダイ 2023/08/09
案の定、マイナンバーの紐づけトラブルが続出だ。政府は8日、「マイナンバー情報総点検本部」を開催。中間報告をまとめ、健康保険証・共済年金の紐づけ誤りの点検結果を公表した。新たなミス発覚を受け、政府は再発防止策としてマイナンバー登録のガイドラインを作成する方針を打ち出したが、現行の保険証廃止は既定路線。岸田首相は「現行の保険証の廃止は国民の不安払拭が大前提」と繰り返すものの、一向に不安は解消されない。
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中間報告では、マイナ保険証と医療情報の紐づけミスが新たに1069件判明。うち5件は薬剤情報などが他人から閲覧されていた。公務員の年金情報も紐づけ誤りが118件判明し、障害者手帳情報の紐づけについても、都道府県や市区町村など237自治体のうち50の自治体で不適切な紐づけ手順が確認された。
政府は今後、生活保護や介護保険、住民税などの個別データを点検する。岸田首相は8日の総点検本部で「原則として11月末までに個別データの点検を実施して欲しい」と関係閣僚に指示した。
総点検のさなかでも、政府がマイナ保険証の利用促進を止める気配はない。むしろ強化する方針だ。
■河野デジタル相は普及活動に必死
河野デジタル相は8日の会見で「マイナ保険証登録の際の画面遷移を載せたビラや動画を活用する」と表明。マイナ保険証を読み込むカードリーダーのデモ機を活用するとして、「あす(9日)から(神奈川県)茅ケ崎市役所を皮切りに、デモ体験をやっていきたい」と“普及活動”への意気込みを語った。ちなみに、茅ケ崎市は河野氏の地元だ。
何としてもマイナ保険証の利用率を上げたい河野氏の思いとは裏腹に、総人口に対するマイナ保険証の所持率は依然として約5割にとどまる。このまま来秋の保険証廃止を迎えれば、人口の半分が保険証に代わる「資格確認書」の交付対象となる。問題は、資格確認書の発行に伴うコスト増の可能性があることだ。
資格確認書の有効期限は当初、1年程度と想定されていたが、岸田首相が4日の会見で「最長5年の期限延長」を発表。資格確認書の発行コストや事務負担について「減少する」と断言していた。しかし、そう言い切れるのか。
マイナ保険証との併用を認めるべき
参考となるのが、9日の立憲民主党の国対ヒアリングのための資料だ。山井和則衆院議員の事務所が、現行の保険証と資格確認書の事務負担とコストについて比較・試算した。資格確認書の有効期限を最長5年とし、現行の保険証と資格確認書の発行をそれぞれ1件500円と仮定。10年間の発行コストを比較したところ、マイナ保険証の利用率が5割の場合、資格確認書の発行コストは現行の保険証よりも55億円増になったという。
改めて山井氏に聞いた。
「資格確認書が繰り返し交付されるという前提に立ち、単年度だけではなく中長期的なコストを試算しました。極めて粗い試算ですが、マイナ保険証の利用率が3割にとどまった場合、10年間のコストは資格確認書が現行の保険証に比べて591億円増となりました。マイナ保険証の利用率が上がれば、相対的にコストは下がっていきますが、足元の利用率は1割程度にとどまっています。マイナカードと保険証の紐づけ解除を可能にする措置も政府内で検討されており、利用率が今後、増えていくのか疑問です。デジタル化を推進すべきだとは思いますが、やはり保険証廃止はいったん延期して、マイナ保険証との併用を認めるべきです。そうして国民の不安を和らげつつ、マイナ保険証の利便性を訴えていく方が、国民に『マイナ保険証か、資格確認書か』の二者択一を迫るよりも有効ではないか」
現行の保険証を廃止され、手間もコストも増えるとあっては、国民は大迷惑だ。今からでも遅くない。岸田首相は廃止延期を再考すべきだ。
集中企画・マイナ狂騒(34)
「マイナ保険証」登録後に解除可能へ…ゴリ押し河野デジタル相に厚労省が“NO”のクーデター
日刊ゲンダイ 2023/08/12
厚労省良識派のクーデターなのか──。8日に開催された「マイナンバー情報総点検本部」の会議でマイナ保険証を巡ってアッと驚く方針転換があった。健康保険証を人質にマイナカードの普及をゴリ押ししてきた河野デジタル相に、厚労省が「ノー」を突きつけた格好だ。
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現行のルールでは、いったんマイナカードに健康保険証の利用登録をすると解除できない。ところが、総点検本部の資料では〈一度登録した後も、マイナ保険証の利用登録の解除を可能とし、資格確認書を交付〉とある。厚労省に聞いた。
「いろいろな指摘をいただき変更することにしました。もともとマイナ保険証の利用登録は任意である以上、登録を外したい方は解除できるようにすべきと考えました。いったん解除した後、再び利用登録をすることも可能です」(医療介護連携政策課・保険データ企画室)
任意なのに一度入ると抜け出せないといういびつな運用を改め、脱出できるようにしたのだ。
「マイナンバーカードを普及させたいデジタル庁や総務省と異なり、厚労省の中には、人質のように健康保険証がカード普及に利用されていると思う官僚も少なくない。昨年秋に河野大臣がいきなり現行保険証の廃止をブチ上げたことも尾を引いている。そうした厚労省良識派の不満もあり、『任意だから解除も可能』という正論が通った格好です」(厚労省関係者)
マイナンバーカードが手元からなくなる自主返納でなく、カードを持ったまま保険証登録だけを解除したり、再登録できるのはありがたい。
デジタル庁の公開データによると7月30日時点のマイナ保険証の利用登録は約6500万人。現行保険証が廃止される来秋以降、「マイナ保険証vs資格確認書」の勝敗が数値で見えることになる。はたして、どちらを選ぶ国民が多いのか。
「マイナ保険証は発行から5年ごとの有効期限に合わせて市町村の窓口に行って更新する必要があるうえ、受診ごとに提示が求められます。蓄積された診療・薬剤情報を活用できる利点がありますが、実際にはデータの更新が遅く、使い物にならない。薬剤情報がタイムリーにわかる電子処方箋の普及はわずか2%程度です。一方、資格確認書の期限は最長5年ですが、マイナ保険証と違って更新時の申請は不要。自動的に送られてきます。それに、現行保険証と同様に月1度の提示で済む可能性が高い。マイナ保険証への不安や不信が払拭され、利便性が認められるようになるまでは、資格確認書に人気が集まりそうです」(医療関係者)
河野大臣は9日、神奈川県の茅ケ崎市役所でマイナ保険証の体験会を視察。健康保険証の廃止については「法律で決まっていること」。廃止に疑問を持つ医療関係者もいると問われると、「お医者さんがどう思うかではなく、きちんとやるべきことはやっていただかなければならない」と国民の怒りに火をつけるような発言を連発した。来秋以降、マイナ保険証の利用登録がみるみる減ったら、河野大臣はどんな顔をするのか。