2023年8月7日月曜日

07- 集中企画・マイナ狂騒(29)~(31)

 日刊ゲンダイの連載記事「集中企画・マイナ狂騒(29)~(31)」を紹介します。
           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
集中企画・マイナ狂騒(29)
河野大臣には“白旗辞任”説…岸田首相もくろむ「保険証廃止延期」で政府内が大モメの醜悪
                          日刊ゲンダイ 2023/08/02
 欠陥だらけのマイナ保険証をめぐって岸田内閣が迷走している。予定していた関係閣僚会議も中止してしまった。閣内の意見が真っ二つに割れているという。河野デジタル担当相の“白旗辞任”説も流れている。
                ◇  ◇  ◇
 1日、予定されていた関係閣僚会議は31日夜、急きょ取りやめとなった。異例のドタキャンに追い込まれたのは、現行の「健康保険証」を予定通り、来秋に廃止すべきかどうか、それだけ政府内が揉めているという表れだ。
「岸田首相は廃止時期を1年間、延期する案を軸に検討したいようです。それくらいやらないと支持率の下げ止まりは期待できないからでしょう。しかし、河野デジタル相と加藤厚労相は、来秋の廃止を変更するつもりはない。保険証は予定通り廃止するが、『資格確認書』の有効期限を1年と定めないことで、お茶を濁したいようです。岸田首相は、1日に方針を決定し、2日に会見したかったようですが、意見はまとまりそうになかったのでしょう」(霞が関関係者)
 31日に木原官房副長官と面談した加藤厚労相は、来秋の廃止は維持し、資格確認書の有効期限を見直す案が望ましいとの意向を伝えたとみられる。
 河野デジタル相も1日の会見で、来秋の廃止方針を堅持する考えを繰り返し、「厚労省、総務省とも相談の上、首相の了解も得て決めたことだ」とまで言い放った。来秋の保険証廃止は譲らないつもりだ。
「河野大臣は“首相の了解”を強調し、延期論を牽制した格好です。資格確認書の有効期限の見直しとは違い、保険証廃止の延期は法改正も必要となり、政府方針の核心部分を変えることになる。どんなに批判を浴びようとも、来秋の廃止を貫いてきた河野大臣にとって廃止を後ろ倒しにするのは大きな敗北を意味します。延期するなら河野大臣の引責辞任が避けられないとの見方も浮上しています」(政界関係者)

綱渡りの政権運営
 6月の参院特別委員会で河野大臣は、相次ぐマイナトラブルについて「当然、責任は大臣たる私にある。何らかの形で私に対する処分をやらなければいけないだろう」と漏らしている。保険証の廃止延期の決定をきっかけに、自ら申し出る“白旗辞任”の可能性は否定できない。
 岸田首相は8日にマイナンバー情報の総点検の中間報告を関係閣僚から受けた後、記者会見で新たな対応策を発表する方向だ。延期論をめぐっては公明の山口代表も1日、「今、それ(延期)を決める理由が全く分かりません」とズバリ。河野大臣と加藤厚労相に加え、山口代表まで説き伏せて、延期まで持っていくのは至難の業と言える。
 かといって、7割を超える反対世論を無視し、来秋に保険証の廃止を強行すれば、支持率は低迷したままだろう。
 マイナカードへの不信は国民に浸透しつつある。日本財団が17~19歳に実施した意識調査によると、マイナカードを保有または申請中の43%が「今のところ返納したくはないが、状況により返納する可能性がある」と答えた。ITに強い若年層でも“返納予備軍”が多数いるということだ。
 マイナ対応を一歩間違えば、内閣支持率はさらにガタ落ちだ。


集中企画・マイナ狂騒(30)
結局「保険証廃止」ゴリ押し…9月末ポイント付与終了でマイナ自主返納ラッシュが始まる
                          日刊ゲンダイ 2023/08/04
 すったもんだの挙げ句、結局、来秋の「健康保険証廃止」は維持されることになりそうだ。岸田首相は4日、記者会見を開き、「資格確認書」の有効期限の延長などでお茶を濁すつもりだ。これでは世論の怒りと不安は収まらないだろう。9月末のマイナポイント付与期間が終了したら、マイナカードの自主返納が加速する可能性がある。
                ◇  ◇  ◇
 デジタル庁の公表データによると、マイナ保険証の登録件数は約6500万件(7月23日時点)。週平均の登録数は5月73万件、6月42万件、7月23万件と減少傾向だ。
「トラブルが続出しても、一定数、登録者がいるのは、マイナポイントの付与期間なのが大きいでしょう」(霞が関関係者)
 今年2月末までにカードを申請していれば、カード取得、保険証の利用、公金受取口座の利用登録で計2万円分のポイントがもらえる。これらのポイント申請の締め切りが9月末までなのだ。
 福井市ではカードを申請済みでカードを受け取っていない人が8331人(7月26日時点)。市は「ポイント付与の期限である9月末に駆け込みで受け取りに来る人が想定され、混雑が予想される。早めの受け取りを呼びかけています」(市民課)と日刊ゲンダイの取材に答えた。一種の“ポイント特需”である。
 では、9月末にポイント付与期間が終了し、特需が過ぎ去ればどうなるのか

マイナ不信の意思表示
 カード普及の最大の原動力はポイント付与。政府が用意した“アメ玉”である。付与期間が終われば、カードは「用なし」となり、自主返納が増える可能性がある。
 加えて、返納を後押ししそうなのが資格確認書だ。「共通番号いらないネット」事務局の宮崎俊郎氏が言う。
「来秋の保険証廃止を堅持する代わりに、資格確認書の有効期限が延長され、現行の保険証とあまり変わらなくなります。マイナ保険証を持っていた人が資格確認書で十分と考え、カードそのものの返却に動いてもおかしくない。さらに、大きいのは国民のマイナ不信です。7割超の反対世論に耳を傾けず、来秋の保険証廃止をゴリ押しする岸田政権への抗議の意味も込めて、自主返納が拡大するのではないか」
 日本財団が17~19歳を対象にしたアンケート(7月14~17日実施=回答1000人)によると、カードを保有または申請中との回答者のうち、「今すぐ返納したい」が1.3%、「いつか返納したい」が4.3%、「今のところ、返納したくはないが、状況により返納する可能性がある」が43.9%いた。デジタル好きの若年層でも半数が“返納予備軍”なのだ。
 7月23日時点のカード交付枚数は9300万件。ポイント付与の終了と、資格確認書の期限延長を受けて、現在の交付枚数からジリジリ減少に転じれば、岸田首相は真っ青だろう。秋の自主返納ラッシュは起きるのか。


集中企画・マイナ狂騒31
岸田首相ドヤ顔で「資格確認書」運用見直し表明も…一時しのぎ策で国民皆保険は崩壊寸前
                           日刊ゲンダイ 2023/8/5
「マイナ保険証を持たない方もこれまで通り保険医療を受けられる」──。4日の会見で岸田首相はそう強調し、資格確認書の運用を見直す対応策を自信満々で打ち出した。しかし、そんな弥縫(びほう)策で保険医療は行き届くのか。医療関係者からは確認書交付漏れや無保険扱いを懸念する声が上がる
                ◇  ◇  ◇
【有効期限最長5年】
 確認書の有効期限は1年程度から、最長5年に延長するというが、7700万人が加入する雇用者保険は健康保険証の期限を設けないケースがほとんどだ。このため、入社時の交付のみで済んでいた。保険証が廃止されて確認書に置き換われば、従業員それぞれの入社タイミングに応じて再交付が必要だ。膨大な事務作業が新たに発生する可能性がある。
 岸田首相は「従来の健康保険証に比べ、発行コストや保険者の事務負担は減少する」と胸を張ったが、雇用者保険で起こりそうな負担増はちゃんと見えているのか。

【全件交付】
 確認書は本人の申請に基づく交付とされていたが、申請をしなくてもマイナ保険証を持たないすべての人に職権で交付するという。埼玉県保険医協会の担当者は首をかしげる。
「すべての被保険者に交付する保険証に関する業務といっしょくたにされては困ります。確認書の交付対象である『マイナ保険証を持たない人』をタイムリーに把握するのは難しい。保険証と同じようには運用できません」
 マイナ保険証がひも付いたマイナカードを返納した場合、ひも付けが自動的に解除されるわけではない。健保組合が「マイナ保険証を保有している」と仕分け、確認書を送付しない事態が起こり得る。こうしたリスクについて、厚労省の保険課長は立憲民主党のヒアリングで「まさにその通りで、今後対応を考える」と答えている。
「マイナ保険証か資格確認書かと二者択一にするから、交付の漏れや遅れのリスクが生じてしまう。これまで通り、被保険者全員に健康保険証または確認書を交付した上で、『マイナ保険証の利用も可』という運用にしない限り、無保険扱いの事故もなくなることはないでしょう」(前出の埼玉協会の担当者)

 国民皆保険制度は崩壊寸前だ。