2023年8月28日月曜日

28- シリーズ「 戦争と人権」 (1)~(2) (しんぶん赤旗)

 しんぶん赤旗に「シリーズ 戦争と人権」が掲載されました。
 1回目は、「ナチスは良いこともした」といった一見「公平」で「客観的」に見える「ソフトな歴史修正主義」が広がってきていることについて、それを認めると、「戦争はいけない」「差別は許されない」といった民主主義社会の根幹をなす価値観ですら、「偏っている」「9条信仰」だとみなされてしまうことになるという警告です
 2回目は、ロシアのウクライナ侵攻を直ちに「台湾有事」の脅威に結びつけるなど、無関係なものごとを安全保障の問題にむすびつける「安全保障化」の問題です。外国人参政権は日本の「脅威」などと煽る論法は自作自演の「安全保障化」であると指摘します。
 いずれも「専門家に聞いて」解説記事にまとめるという手法ですが、大いに学ばされます。
(タイトルの (1)、 (2) 等の附番は事務局が便宜上行ったもので原記事にはありません)
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シリーズ 戦争と人権 (1)
ナチス、良いことも」は 民主主義掘り崩す危険
      甲南大学教授 (歴史社会学・ドイツ現代史) 田野大輔さんに聞く
                      しんぶん赤旗 2023年8月24日
 戦争は、多くの市民の命を奪うだけでなく、人権を踏みにじり、日常を破壊するものです。本シリーズでは、戦争をめぐって起こる人権侵害について、さまざまな角度から識者が語ります。「ナチス良いこともした」という歴史修正主義や人権侵害を助長するような発言、SNS上でまかり通っている問題について、ナチズム研究が専門の田野大輔・里吊大学教授に聞きました。

 SNSを見ていると、「ホロコーストはなかった」というような「ハードな歴史修正主義」ではなく、「ナチスは良いこともした」といった一見「公平」で「客観的」に見える「ソフトな歴史修正主義」が広がってきている様子がうかがえます。ソフトな歴史修正主義は「無害」に見えるので、多くの人に受け入れられやすい。ところが、この種の歴史修正主義は私たちの社会を支える根幹である「ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)」を弱め、民主主義社会の基盤を掘り崩している面があります。

ナチスの正体は
「ナチスは良いこともした」という人は、ナチスの政策を良い面と悪い面に切り分けて評価しています。しかし、ドイツの経済を急速に回復させたナチスの経済政策はいずれも軍備拡張に結び付いていましたし、その原資も巨額の負債や無法な略奪によるものでした。
 つまり、経済の回復だけを取り出して「良いこと」とするのは偏った見方です。また、「ホロコースや戦争は悪いことだけれど、良い面もあった」という主張にも問題があります。それは悪い意味での「価値相対主義」で、「物事には必ず良い面と悪い面があるから、それぞれ評価しよう」という姿勢のことです。
 こうした姿勢が行き過ぎると、例えば「戦争はいけない」「差別は許されない」といった民主主義社会の根幹をなす価値観ですら、「偏っている」「9条信仰」だとみなされてしまう
 良い面・悪い面を「是々非々」で考えることで、「戦争はいけないという意見も分かるし、戦争にメリットがあるという意見も分かる」といった価値相対主義に陥り、結果的にポリティカル・コレクトネスまでもが相対化されてしまうのです。

専門家が否定を
「民意」を背景に「左派的」な言説・態度への忌避感が強まる中、ポリティカル・コレクトネスに反発を抱く人が目立つようになってきています。その反発を利用する形で、マイノリティーを排除していく風潮も強くなっているように思います。
 性的マイノリティーや障害者排除の言説、生活保護バッシングといった「マジリティー(多数者)の民意」を背景にした差別的な言動が、SNS上などでまかり通っています。この状況は危険であり、看過できません。
 今、ポリテ才カル・コレクトネスヘの反発から生じる危険な言動に歯止めをかけることが求められています。「逆張り」の主張に「それもそうだな」となびいてしまう人を減らすには、各分野の専門家が「これは違います」とはづきり否定しなければなりません。正確な知識を提供することによって「逆張り」言説を抑えることが出来る筈です。 
                              (聞き手 島田勇登)

シリーズ 戦争と人権 (2)
外国人排外主義巡る 安全保障神話と現実
         早稲田大教授(社会学) 樋口直人気に聞く
                      しんぶん赤旗 2023年8月26日
 「外国人参政権を認めれば町が乗っ取られる」ー。排外主義による根拠のない外国人への人権侵害と安全保障の関係について早稲田大学の機□直人教授に聞きました。

 ロシアのウクライナ侵略以降、「台湾有事」が強調されるようになりました。ウクライナ戦争を受けて今度は台湾だというように、全く関係がないにもかかわらず安全保障の問題として対応することを「安全保障化」といいます。この「安全保障化」の□実に使われたのが南西諸島、とくに与那国などの八重山地方でした。

極右の自作自演
 極右政治家やネット右翼などの排外主義者たちは外国人参政権の反対キャンペーンを行った際、国境の町も反対していると根拠の一つにしました。国境は脅威にさらされていると主張したのです。
 与那国町議会では、外国人参政権反対の決議を採択していますが、極右団体「日本会議」が当時、与那国町議員だった糸数健一町長ら関係議員に、参政権に反対する意見書を採択しろと出した号令に従って行われた背景があります。い自作自演で安全保障の問題がつくられていったのです。
 外国人排斥を正当化する究極の論理は安全保障です。歴史を振り返れば敵性国」への処遇をめぐって多くの悲劇が引き起こされた史実からも明らかです。

根拠のない主張
 戦争による人権侵害を考える上で、本来主題としなければならない問題は、在日コリアンをめぐる差別がいまなお続いていることです。在日コリアンたちは、戦後補償の一環として外国人参政権を求めてぎました。          
 かつては、自民党の政治家でも戦争責任の文脈を無視できないとある程理解を示していました。しかし、民主党政権下で外国人参政権付与法案が提出されたとき、野党だった自民党は安全保障を持ち出し、外国人参政権は「脅威」になると主張し始めました。
 国境に隣接する与那国島は、牧畜と漁業、観光などの限られた産業しかなく人口は縮小する方でした。130票とれれぱ町議会議員になれるから、参政権が実現したら外国人が大量に移住し、島の政治を握らて国境の島を乗っ取れるというのです。
 この時に念頭に置かれたのは、在日コリアンではなくて基本的に中国籍の人です。政府が語る「脅威」は中国人民解放軍との関係ですが安全保障化}の中では「脅威」として日本に住む中国人が浮上してきたのです。
 安全保障と日本に住む外国人を結ぴつける根拠はありません。安全保障上の脅威などとして持ち出すこと自体が排外的な動きを促進します。要するに安全保障ゲームの中で人権をもてあそんでいるわけです。

 安倍政権以降極右の新興勢力が政権内部にいる中で必要以上に影響を持ち、外国人政策をゆがんだ方向に進めています。その勢力がいる限り、安全保障に関する神話のような主張がなくなることはないでしょう。ただ、長期的な視点で見れば、今国会で既立した改定入管法をめぐって、外国人政策を市民が監視し、一定の影響力を持つ前となった点で大きな意味があります。人権を掲げた市民運動が大きな力を持ったことに、私はかすかな希望を持っています。 (聞き手 田中智己)げた市民運動が大きな力を持ったことに、私はかすかな希望を持っています。 (聞き手 田中智己)