2023年8月23日水曜日

シリーズ 自民党の人権思想 改憲草案に見る(1)~(2)

 しんぶん赤旗に連載記事「シリーズ 自民党の人権思想」が載りました。そのうちの
 「改憲草案に見る(1) 基本的人権の根本を否定」
 「改憲草案に見る(2) 多様な『個人』を否定」
を紹介します。
 ここでは自民党が12年にまとめた「自民党 日本国憲法改正草案(2012年公開版)」を見ながら、いまの日本の人権後進国というべき状態をもたらした根源を検証しています。自民党の改憲案が、いわば戦前の「大日本帝国憲法(明治憲法)」における国家観や家族観に忠実に即しているかが分かります。
 何故今さらそんなものに先祖返りする必要があるのか実に不思議なことで、もしもそこに精神的支柱を求めるしか立ち行かないのであれば、如何に貧しくまた時代遅れな精神に基づく改憲であるのかが良く分かります。
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シリーズ 自民党の人権思想 改憲草案に見る(1)
         基本的人権の根本を否定
                       しんぶん赤旗 2023年8月18日
 先の通常国会では自民、公明、維新、国民民主各党による改悪入管法や4党LGBT法など、人権を踏みにじる悪法が次々と強行されました。その背景には、政権党・自民党のゆがんだ人権思想があります。自民党が2012年にまとめた改憲草案を見ながら、いまの人権後進国というべき状態をもたらした根源を改めて検証します。
 改憲草案の決定以降、自民党は「戦争する国」づくりと一体に人権侵害を加速させてきました。草案の最大のテーマのつが、9条2項の戦力不保持規定の削除と国防軍の保持の明記による9条の全面的解体です。
 そのもとで、安保・外交に関する情報を行政の長の一存で秘密指定しアクセスするものを厳罰にする特定秘密保護法(13年)や、人々の「内心」にまで法が踏み込み処罰する共謀罪法(17年)を強行。米軍・自衛隊基地や原発などの周辺住民を監視する土地利用規制法(21年)も成立させ、国民の知る権利と表現の自由を破壊し、モノ言えぬ監視社会への動きを強めました。
 先の通常国会で強行された改悪入管法は帰国すれぱ迫害を受ける恐れがある難民認定申講中の外国人の送還を可能にするもので、命の危険を伴います。4党LGBT法は、多数派が許容する範囲内で性的少数者の人権を認めることになりかねない、差別助長の文言を握り込みました。こうしだ動きの根底には基本的人権の根本思想を否定する自民党改憲草案の立場があると言わざるを得ません。

永久不可侵性
 日本国憲法は、基本的人権の永久不可侵性を宣言しています。
 第10章「最高法規」の冒頭に掲げられる97条は、「この憲政が日本国艮に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたもの」と規定。筆法を「国の最高法規」と定める98条の前に置かれた97条は基本的人権を保障する法であるからこそ憲法は最高法規なのだということを示した重要な規定です。人間が人間である以上当然に人権を保障されるという天賦人権思想を受け継いでいます。11条の「基本的人権は‥国民に与へられる」との規定も、この思想によるものです。
 ところが自民党改憲草案は,11条を「基本的人権は…権利である」に改め、97条を全面削除,同党の『日本国憲法改正草案Q&A』は、「人権規定も、我が国の歴史、文化、伝統を踏まえたものであることも必要」とし、「天賦人権説に基づく規定振りを全面的に見直し(た)」と宣言しました。
 そもそも天賦人権思想は1776年のアメリカ独立宣言に源流があります。「すべての人間は平等に造られ、造物主によって一定の譲り渡すことのできない権利を与えられており、そのなかには生命、自由および幸福の追求が合まれている…」など、すべての人間は生まれながらに自由かつ平等で幸福追求権を持つとしています。自民党は、この近代の人権思想の根本を否定しているのです。

戦前への逆行
 戦前の明治憲法下では「神聖ニシテ侵スヘカラス」とされた天皇が絶対的な権力を持ち、天皇に従属する「臣民」の地位に置かれた国民の権利は「法律ノ範囲内二於テ」しか認められませんでした。天皇絶対の専制国家のもとで、明治政府は西欧思想に由来し自由民権運動に影響を与えた天賦人権思想を敵視し、自由民権運動も徹底的に弾圧しました。
 自民党内では、戦前の日本を『美しい国」などと持ち上げる政治勢力が力を持っています。そのもとで、「人権より国家優先」という逆立ちした政治思想が支配的となっています。
 入管法問題でも、戦前の特高警察が担っていた入管実務が戦後も引き継がれたことに、人権侵害構造の根深さがあります。


シリーズ 自民党の人権思想 改憲草案に見る(2)
         多様な「個人」を否定
                       しんぶん赤旗 2023年8月21日
 性自認や性的指の多様性を人権として保障する動きは憲法13条の,「個人の尊重」に深くかかわる問題です。
 ところが先の国会で自民、公明、維新、国民民主の4党はLGBT法について「全ての国民が安心して生活できる」などの留意事項″を盛り込む「修正」を強行しました。これでは「多数派が認める範囲内」でしかマイノリティーの人権・尊厳は認めないとのメッセージになりかねません。失望や怒りの声が湧き起こっています。多様な「個人」のあり方を否定する重大な動きです。

そのらしさ
個人の尊重」をめぐり驚くべき事実がありまず。
 自民党改憲草案では、日本国憲法13条の「個人の尊重」規定において、「個人」の文言から「」の文字をとり去り.「人として尊重される」にすり替えています。これは人権保障の根本を破壊するものです。
 人は、一人一人それぞれの個性と固有の人格を持ち、そのらしさ、自分らしさを保持し自由に追求するにこそ「個人の尊重」の意味があり、人権保障の根本的意義があります
 憲法の英文でも13条は「All of the people shall be respected as individuals.」としています。ここで「個人」は「individualsJとされ、この単語は「分けることのできないもの」という意味も持ちます。一人一人が独立した存在であることをあらわします。人一般をさす「human beings」とは明確に区別されす。
 思想・信条、信仰、表現活動には、それぞれの人にとって固有の中身があります。13条の、「個人の尊重」・幸福追求権から、思想・儒教の自由(19、20条)や、表現の自由(21条)などの個別の人権保障が派生して出てくるのです。「個人」を否定することは多様性の否定、人権保障の否定に行き着く重大な問題です。

戦前の継続性
 こうした「個人」を否定、軽視する考えの根本には、戦前を「美しい国」とする自民党の保守派日本会議勢力の強い影響があります。明治憲法下の天皇絶対の専制支配のもとで「個人」の存在は杏定されていました。
 天皇支配の徹底を図る1937年に文部省が発行した『国体の本義』には次のように記されています(編集部の責任で現代表記に変換)。
「個人は、その発生の根本たる国家・歴史に連なる存在であって、本来それと一体をなしている。然るにこの一体より個人のみを抽象し、この抽象せられた個人を基本として、逆に国家を考え道徳を立てても、それは所詮本源を失った抽象に終わるの外はない」「抑々(そもそも)我が国は皇室を宗家とし奉り、天皇を古今に亙る中心と仰ぐ君民一体の一大家族国家である」「我が国民の生活の基本は、西洋の如く個人でもなければ夫婦でもないそれは家である
 こうして国民は「個人」として存在することは許されず、天皇絶対の国家体制=「一大家族国家」に溶け込んだ部分として、天皇に対する絶対的忠誠を強いられ、戦争に駆り出され、徹底的に搾取されたのです。
 ここに13条の「個人」から「個」を消し去る思想の淵源(えんげん)があります。自民党改憲草案は、「個人」のほか天賦人権思想を否定した一方で、「天皇は、日本国の元首」と明しました。
「日本は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴(いただ)く国家」と記され、戦前との歴史的継続性を前提に天皇の中心性″が強調されています