2023年8月23日水曜日

23- 集中企画・マイナ狂騒(35)~(37)

 日刊ゲンダイの連載記事「集中企画・マイナ狂騒(35)~(37)」を紹介します。

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集中企画・マイナ狂騒(35)
「資格確認書」利用で窓口負担増の“ペナルティー”を政府検討 露骨な格差に識者も怒り露わに
                          日刊ゲンダイ 2023/08/16
 トラブル続出で悪評ふんぷんのマイナ保険証。こうした事態を受け、政府は軌道修正し、マイナ保険証を持たないすべての人に対して、職権で「資格確認書」が交付されることになった。ところが、転んでもタダでは起きないのか。資格確認書を利用した場合、窓口負担が割高になる「ペナルティー」が検討されていることが分かった。
 政府はマイナ保険証の普及を狙い、窓口負担の格差付けを進めてきた。いま、医者にかかると、マイナ保険証なら初診時の加算は20円(3割負担の場合6円)、再診時はゼロだが、現行の健康保険証を利用すると、初診時60円(同18円)、再診時20円(同6円)だ。現行保険証を割高に設定し、マイナ保険証へと誘導する作戦である。
 現行保険証が廃止される来秋以降は資格確認書が交付されるが、窓口負担はどうなるのか──。
 厚労省は「取り扱いはこれからの検討事項であり、今後、決めていく」とした上で、「マイナ保険証による診療では診療、薬剤、特定問診情報が閲覧できるため、医療機関の手間が省け、その分、患者の窓口負担も安くなっています。そういう制度の趣旨を踏まえ、資格確認書の場合の負担割合を検討していく」(医療課)と答え、資格確認書でも何らかの格差を付ける方向をにおわせた。
「マイナ保険証を使うと手間が省けるというのは設計段階の発想です。実際にはマイナ保険証の導入以降、多くの医療機関はトラブルに見舞われ、手間は膨れ上がっています。トラブルを踏まえれば、負担割合の格差は取りやめるのが当然だと思います。資格確認書でも格差付けを続けるのは、国民の理解が得られるとはとても思えません」(医療関係者)

野口悠紀雄氏が痛烈批判
 一橋大名誉教授の野口悠紀雄氏は、14日配信のビジネス関連ネットメディア「ビジネス+IT」に寄稿し、「資格確認書の場合は、本人負担額がマイナ保険証の場合より高く設定される予定だ。寝たきりなどでマイナンバーカードを取得できない人に対して、なぜこのようなペナルティーを課すのか、理解できない」と格差策を痛烈に批判している。
 資格確認書にペナルティーを課すことは多くの国民を敵に回すことになりそうだ。厚労省はマイナ保険証をいったん利用登録した後でも、解除を可能とし、資格確認書を交付することを決めた。資格確認書の利用者が増える可能性がある。
「マイナ保険証の登録者は、利用に不安を感じてもカードを自主返納しない限り、マイナ保険証から抜け出せなかった。厚労省の方針転換により、カードを保有したまま気軽に登録解除ができるので、資格確認書に切り替える人は少なくないとみられます」(霞が関関係者)
 ネット上でも〈朗報!マイナ保険証登録解除〉〈解除して資格確認書なら施設に預けられる〉との投稿がみられる。
 野口氏も「マイナ保険証にすでに切り替えている人も、それを取り消して、資格確認書にするかもしれない」と記している。 
 デジタル庁の公表データによると、8月6日時点のマイナ保険証の利用登録は6578万人。マイナ保険証からの乗り換えが相次ぎ、資格確認書の利用者が7000万、8000万人となれば、負担額格差への風当たりも強くなるだろう。それでも岸田首相はペナルティーを続けるつもりなのか。


集中企画・マイナ狂騒(36)
衝撃!ひも付けなしで利用不能40万人 来年秋は「マイナ保険証」保有者の無保険扱いラッシュ
                         日刊ゲンダイ 2023/08/19
 マイナ保険証の信頼をガタガタにするサプライズだ──。マイナ保険証が医療機関の窓口で使えないケースが少なくとも40万件に上ることが判明した。4日の会見で岸田首相は「マイナ保険証を保有していない方も、現行の健康保険証を廃止してもなお、これまでどおり保険医療を受けることができる」と強調したが、岸田首相が心配すべきは、むしろマイナ保険証の保有者のようだ。
 中小企業の従業員や家族が加入する「協会けんぽ」(全国健康保険協会)は16日、4000万人いる加入者の1%に当たる約40万人について、マイナンバーと公的医療保険情報のひも付けができず、マイナ保険証が利用できない状態になっていると明らかにした。
 協会けんぽは2016年にひも付け作業を開始。ひも付けは、中小企業の事業主から従業員のマイナンバーを入手して行うが、提出を求めても応じない事業主も少なくない。その場合、住民基本台帳のシステムを使い、氏名、生年月日、性別、住所の「4情報」が一致するマイナンバーを探し出してひも付けをしている。
 しかし、加入者が申告した住所とシステム上の住所が一致しないケースが多く、その時はひも付けしていないという。
 つまり、従業員本人は、マイナ保険証を取得したと認識していても、実際はひも付けされていないため、マイナ保険証としては機能しない状態になっているということだ。

解決できない致命的な欠陥
「住所が一致しない場合、協会けんぽはひも付けをしなかったようです。なかには、4情報ではなく、3情報以下でマイナンバーを入手しようとする健保組合もありますが、その場合は他人にひも付けするという誤りが起きてしまう。マイナ保険証の致命的な欠陥と言えます」(医療関係者)
 協会けんぽの40万人は氷山の一角とみられる。大企業のサラリーマンの健保組合(約2800万人)や公務員の共済組合(約900万人)でも同様の事態が起きている可能性が高い。
 協会けんぽの担当者も日刊ゲンダイの取材に「協会けんぽだけの問題ではなく、他の健保組合でも起こり得ることです」と答えた。
「40万人超がひも付けできない状態というのは、マイナンバー情報総点検で想定していなかったことです。すでに厚労省は健保組合などに対し、実態把握を要請しており、来週早々にも取りまとめるようです。数字いかんでは来年秋の保険証廃止の延期論が再浮上する可能性もあります」(霞が関関係者)
 しかし、延期してもひも付けの問題がクリアするとは思えない。全国保険医団体連合会(保団連)事務局次長の本並省吾氏が言う。
「事業主が全従業員のマイナンバーを漏れなく収集し、健保組合に提出することは難しい。また、健保組合が提出のなかった組合員のマイナンバーを4情報で検索すると、完全に一致しない場合も多く、正しくひも付けをやりきるのは不可能です。必ず、ひも付けの漏れや誤りが生じてしまいます。健康保険証の廃止時期を先延ばししても、マイナ保険証の利用者の中から、無保険扱いが一定数、出るのは避けられない。すべての人に保険医療を行き届けるには、現行の健康保険証の全員交付を続けるしかないと思います」
 来年秋に保険証廃止を強行すれば、マイナ保険証の保有者の無保険扱いが相次ぐのは必至だ。岸田政権はマイナ保険証と心中するつもりなのか。


集中企画・マイナ狂騒(37)
マイナ保険証ひも付け未了36万人の元凶はポイント事業 7500Pゲット=利用登録と勘違い続出?
                          日刊ゲンダイ 2023/08/19
 医療機関の窓口でマイナ保険証が使えないケースが少なくとも36万件あることが分かり、厚労省が18日、全国の健康保険組合などに調査を依頼したことを明らかにした。
 厚労省によれば、中小企業の従業員などが加入する「協会けんぽ」では7月末時点で、約4000万人いる加入者のうち、1%に当たる約36万人分は、マイナンバーと被保険者情報のひも付け作業が未完了だったという。
 ひも付けされていなければ、当然、マイナ保険証としては使えない。厚労省は全国の健保組合などに、同様のケースがないか報告を求める通知(16日付)を出し、結果がまとまり次第公表する。
 立憲民主党は18日の国対ヒアリングで、ひも付け未了問題を追及。明らかになったのは、マイナポイント事業が混乱を招いた元凶だった可能性が高いということだ。
 厚労省やデジタル庁の説明によると、マイナポータルからマイナ保険証の利用登録を行った場合、マイナンバーと被保険者情報がひも付けられていなければ、エラーメッセージが出るという。

■デジタル庁に疑問をぶつけると…
 問題なのは、加入者本人はマイナ保険証の登録が完了し、マイナ保険証を所持していると思っていても、実際は、マイナンバーと被保険者情報がひも付けされておらず、マイナ保険証としては使えないケースが出ていることだ。
 なぜ、こうした事態が起きているのか、議員がデジタル庁側に疑問をぶつけると、担当者は次のように回答した。
「マイナポイントの申し込みの流れの一環で、マイナ保険証の利用申し込みをすると、ちゃんと(マイナ保険証としての)登録が完了しているかどうかは、その流れでは分からない。そのため、利用登録ができていない方がいる可能性がある」
 つまり、マイナ保険証の利用申し込みをして、マイナポイントを受け取った段階で、マイナ保険証の利用登録が完了したと勘違いした人がいるのではないかというのだ。
 今年2月末までにマイナカードを申請した人はマイナ保険証の利用を申し込むと、7500ポイントがもらえる。ポイント欲しさにマイナ保険証を申し込んだ人も相当数いるはずである。“誤解”を招いた責任はマイナポイント事業にある、ということだ。ヒアリングに出席した山井和則議員が改めてこう言う。
「マイナ保険証の利用登録が完了してから、マイナポイントを配布する仕組みにしていれば、混乱は生じなかったのではないか。誰だって、ポイントがもらえたら、その時点でマイナ保険証の利用登録が済んでいると思うでしょう。多くの人が誤解するのも無理ありません」
 一事が万事、こんな調子なのに、現行の保険証の廃止は既定路線。正気の沙汰ではない。