いわゆる沖縄の「八重山教科書問題」は全国的にはまだそれほど知られていない筈ですが、文科省が竹富町に対して「是正要求」を出すという政治介入を決めたことで、にわかにクローズアップされました。
石垣、竹富、与那国の3市町で構成する八重山採択地区協議会(会長・玉津博克石垣市教育長)は2011年8月、極めて不明朗な形で中学校の公民教科書を選定し、3市町教委に答申しました。
玉津会長はまず役員会を経ずに教科書調査員を独断で決めたものの、その調査員ですら「新しい歴史教科書をつくる会」の流れをくむ育鵬社版を推薦しそうもないとなると、「調査員の推薦がない教科書も選定できる」と規定を変えたうえで、協議会を非公開にし、無記名投票として強引に育鵬社版を選定しました(琉球新報)。
これを受けて、石垣市と与那国町は育鵬社版を採択し、竹富町は東京書籍版の採択を決めました。その後に開かれた八重山地区3市町の全教育委員による協議では東京書籍版の採択を決めましたが、文科省はこの協議結果を認めず、育鵬社版を押し付けました。そこで竹富町では町民などからの寄付で東京書籍版を購入して、現在使用しています。(しんぶん赤旗)
育鵬社の教科書は、尖閣諸島の領有権について分かりやすく記述されている一方で、沖縄のアメリカ軍の基地問題には触れていないということです。
玉津氏の指南役で9月末まで文科政務官だった義家弘介参院議員は、3月に竹富町教委を訪ね育鵬社版に改めるよう強く迫りましたが、同町の慶田教育長は拒否しました(沖縄タイムス)。当時「義家氏が『恫喝』」と書いた地元紙もありました。
以上の経過ののち9月30日、下村文科相は記者会見で「違法状態が継続している」として、竹富町教委に地方自治法に基づく是正要求を含めた措置をとることを表明したものです。これは都合3回目の介入になります。
琉球新報は2日付で「是正要求 文科省は「恫喝」やめよ 教育への政治介入は暴挙」とする社説を、またしんぶん赤旗は「竹富町に『是正要求』 『つくる会』系 教科書押しつけ 文科省検討」とする記事を、また3日には、沖縄タイムスが「教科書是正要求 教育に政治介入するな」とする社説を掲げました。
以下に沖縄タイムスの社説としんぶん赤旗の記事を紹介します。
(関連記事)
9月26日 「石垣市で教育長発言に抗議 平和教育問題」
9月27日 「石垣市 玉津教育長に不信任 賛成多数で可決」
10月1日 「沖縄・竹富町独自の教科書採択 国が是正要求へ」
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(社説)[教科書是正要求] 教育に政治介入するな
沖縄タイムス 2013年10月3日
八重山地区の3市町で中学公民教科書が一本化されていないことについて、文部科学省が竹富町教委に、地方自治法に基づく是正要求をする方針であることが分かった。
教育に対するあからさまな政治介入というほかなく、文科省は是正要求の方針を直ちに撤回すべきだ。
石垣、竹富、与那国の3市町で構成する八重山採択地区協議会(会長・玉津博克石垣市教育長)は2011年8月、「新しい歴史教科書をつくる会」の流れをくむ育鵬社版を選定し、3市町教委に答申した。協議会の答申に強制力はない。竹富町教委は東京書籍版を採択した。
下村博文文部科学相は記者会見で「違法状態が継続している」と竹富町教委に地方自治法に基づく是正要求も含めた措置をとる意向を示した。
下村氏は、竹富町教委と県教委に対し、地区協議会の選定結果に基づいて教科書を採択するよう「指導」してきたと説明したが、そもそも地区協議会の選定手続きには正当性が認められない。
役員会を経ずに教科書調査員を委嘱したり、教科書の順位付けを廃止したりするなどした。地区協議会は調査員の推薦がなかったにもかかわらず育鵬社版を選定した。玉津氏主導の不透明で強引な手法をみると、最初から育鵬社版の選定に向けて手続きを進めていたことが明らかだ。
9月末まで文科政務官だった義家弘介参院議員は3月、竹富町教委を訪ね、育鵬社版に改めるよう強く迫った。慶田盛安三教育長はきっぱり拒否した。竹富町の教科書は寄付金で賄われ、来年度も東京書籍版を使用する意向である。玉津氏の指南役だったのが義家氏である。
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混乱を招いた源は教科書採択をめぐる二つの法律の矛盾にある。地方教育行政法は、教科書の採択権限は各教委にあると規定する一方で、教科書無償措置法は、同一採択地区内では同じ教科書を使うよう定めているからである。
二つの法律は、今回の八重山地区のケースのように異なる結果を想定していない。
文科省が法律の矛盾の解消に努めることなく放置する自身の怠慢を棚に上げながら、竹富町教委に育鵬社版の採択を迫るのは、全く筋が通らない。
地方自治法に基づく是正要求に罰則はないが、ことし3月施行の改正地方自治法で、従わない自治体に対し、国が違法確認訴訟を起こすことが可能になった。
文科省がこの手法を選択するのであれば、離島の小さな町の教育行政に露骨に圧力をかけることになる。暴挙と言わざるを得ない。
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教育への政治介入はあってはならないことはいうまでもない。圧力や押し付けは、民主的な教育現場からは最もかけ離れた行為だ。
政治介入によって被害を受けるのは竹富町の生徒たちであり、教師である。文科省には生徒たちのことが念頭にあるのだろうか。
竹富町教委の採択には何の瑕疵(かし)もない。文科省は地方教育行政にこれ以上の混乱を引き起こしてはならない。
竹富町に「是正要求」 「つくる会」系 教科書押しつけ 文科省検討
しんぶん赤旗 2013年10月2日
育鵬社版の中学公民教科書を拒否して、東京書籍版の教科書を使用している沖縄県竹富(たけとみ)町教育委員会に対して、文部科学省が地方自治法に基づく「是正要求」を検討していることが1日、明らかになりました。
沖縄県八重山地区(石垣市、竹富町、与那国町)では2012年度から使用する中学校公民教科書をめぐって、採択協議会が十分な議論も合意もなく育鵬社版を答申。これを受けて、石垣市と与那国町は育鵬社版を採択、竹富町は東京書籍版の採択を決めました。
その後に開かれた八重山地区3市町の全教育委員による協議では東京書籍版の採択を決めましたが、文科省はこの協議結果を認めず、育鵬社版を押し付けました。そこで竹富町では町民などからの寄付で東京書籍版を購入し、使用しています。
文科省は竹富町に育鵬社版の使用を繰り返し要求。今年3月には義家弘介政務官が同町を訪れ、「是正」を求めていました。竹富町がこれを拒否し、来年度の使用教科書についても育鵬社版と報告しなかったことから、「是正要求」を出すことを狙っています。
「是正要求」が出されれば、教育行政に関しては初めての事態で、竹富町は「是正」する法的義務を負うことになります。
育鵬社版公民教科書は、「新しい歴史教科書をつくる会」から分裂した「日本教育再生機構」(八木秀次理事長)が主導してつくったもので、子どもたちを改憲に誘導する内容になっています。
解説
侵略美化の露骨な介入
地方自治法による「是正要求」は国が自治体に対して出す最も強い措置です。罰則はありませんが、自治体側は法的義務を負わされることになります。本来、現場の意向が尊重されるべき教科書採択について、法的措置をとってまで育鵬社版を押し付けようとする文部科学省の姿勢は異様で、教育の自由の侵害の最たるものです。
もともと文科省は「地方公共団体が自ら教科書を購入し、生徒に無償供与することまで法令上禁止されていない」(2011年10月26日、衆院文部科学委員会での中川正春文科相=当時=の答弁)としていました。その見解を覆し、竹富町に育鵬社版を露骨に強要するようになったのは、侵略戦争を正当化する「つくる会」系教科書の採択を推進してきた安倍首相が政権についてからです。
文科省による育鵬社版教科書の押し付けは、侵略戦争を美化する「靖国」派を中枢にすえる安倍内閣の立場を示しています。国家権力による危険な教育への介入を許してはなりません。 (高間史人)