日弁連は、23日付けで「秘密保護法制定に反対し、情報管理システムの適正化及び更なる情報公開に向けた法改正を求める意見書」を取りまとめ、内閣総理大臣と特定秘密保護法案担当相に提出しました。
意見書では、「現在明らかにされている特定秘密保護法案の制定に強く反対することを表明し、重要な情報の漏えいの防止は、情報管理システムの適正化によって実現すべきであって、取扱者に対する深刻なプライバシー侵害を伴う適性評価制度や、漏えい等に対する広範かつ重い刑罰によって対処すべきではない。
今必要なのは、情報を適切に管理しつつ、情報の公開度を高め、国会が行政機関を実効的に監視できるようにするために、公文書管理法、情報公開法、国会法、衆参両議院規則などの改正を行うことである」と述べています。
以下に意見書の全文を紹介します。
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秘密保護法制定に反対し,情報管理システムの適正化及び更なる情報公開に向けた法改正を求める意見書
2013年(平成25年)10月23日
日本弁護士連合会
第1 意見の趣旨
当連合会は,これまでも秘密保全法制の制定に反対してきたが,現在明らかにされている特定秘密保護法案の制定にも強く反対する。
重要な情報の漏えいの防止は,情報管理システムの適正化によって実現すべきであって,取扱者に対する深刻なプライバシー侵害を伴う適性評価制度や,漏えい等に対する広範かつ重い刑罰によって対処すべきではない。
今必要なのは,情報を適切に管理しつつ,情報の公開度を高め,国会が行政機関を実効的に監視できるようにするために,公文書管理法,情報公開法,国会法,衆参両議院規則などの改正を行うことである。
第2 意見の理由
1 法案の問題点
現在,政府が公表している特定秘密保護法案では,①「特定秘密」の範囲が依然として広範(別表第1号)であり,また,極めて曖昧であること(同第2号乃至第4号),そのため,②「特定秘密」の指定に当たって,官僚の恣意が働く余地が極めて広いこと,③このような情報が漏えいすることに関して,処罰範囲が広く,かつ,刑罰が重いことから,言論の自由,知る権利を侵害するおそれが大きいこと,④取扱者の適性評価制度は,プライバシー侵害性が極めて高いことなどの問題がある。しかも,驚くべきは,行政機関から国会への「特定秘密」の提供の条件に関しても行政機関の広範な裁量が認められており,国会による行政機関の監視機能を空洞化させるものになっている。これは,国会の国権の最高機関性を著しく損なうものである。これでは,国会は,「特定秘密」の名を借りた違法秘密や擬似秘密を暴くことさえできず,国会の行政に対する監視機能が空洞化する。
2 情報の厳格な管理の要請
他方,当連合会は,国内外の諸情勢から,国の為政者として特に厳格に管理したい情報が存在すること自体を全否定するものではない。したがって,問題は具体的な対応策としてどのような方法を選ぶかという点である。
3 情報保全システムに関する有識者会議からの提案
民主党政権下では,情報漏えい対策として2つの有識者会議を立ち上げた。1つが,「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」であり,もう1つが「情報保全システムに関する有識者会議」である。いずれも,過去の漏えい事案をベースに対策を提案している。当連合会は,前者が作成し法案の前提となっている報告書の内容については強く批判をしてきたが,後者の報告書において,物的管理を中心に情報管理システムの適正化によって情報漏えいを防止しようとしていることについては,賛成するものである。情報管理システムの適正化は,過去の漏えい事例をふまえると有効性と合理性があると考えられる。このような情報管理システムの構築と実行がなされるなら,過去に発生した漏えいの再発を防ぐことができるはずである。それでもなお情報漏えいが生ずる場合でなければ,刑罰強化等による秘密保護策の検討はなされるべきではない。
この点については,情報管理システムの適正化に関する公明党の質問に対して,政府は,「それぞれ必要な取組を実施している」と回答しているだけで,具体的な取組を一切明らかにしないのは極めて問題である。
4 情報の厳格な管理と情報公開の充実
これまで公表されている情報漏えい事案の実態からすると,そこに共通するのは重要な情報の管理が杜撰であったことである。行政実務の便宜乃至都合上,一定期間,一定範囲の者だけの情報に止めておきたいことがあるとすれば,情報に相応しいランクをつけ,それぞれに相応しい管理システムを構築し,実行すればよい。
このようなランク付け及び適切な管理システムの構築・運用ができることは,同時に,情報公開の対象とすべき情報の範囲についても,適正かつ合理的な判断ができることに繋がる。情報公開も秘密情報の管理も,全体として情報管理の中に納まるべき問題だからである。
この点に関連して,国の行政機関の情報公開法の適用の実態はかなり消極的であるのに対して,情報公開訴訟においては原告の請求が認められることが比較的多い。これは,国の行政機関において情報公開法の規定の解釈が適正に行われておらず,一般国民の方が正しい法解釈をしていることを示している。
したがって,行政実務において重要な秘密情報が存在するのであれば,情報管理全体のあり方から見直すべきであり,その中で情報公開の積極的な拡大が求められる。
5 必要な法改正
(1) 基本的な考え方
そもそも,政府が保有する情報は主権者たる国民の共有財産である。重要な情報であればあるほど,国民に知らせるべきであり,国民は知る権利がある。
したがって,情報の公表乃至公開制度の充実こそが基本とならなければならない。そのためには,公的情報の保管が適切に行われていることが大前提となる。
秘密情報の取扱いについては,このような前提で考えるべきである。
(2) 公文書管理法の改正の必要
現在の公文書管理法では,「行政文書」の定義にこそ電子データを含んでいるものの,同法の規定全体に紙データを前提とする規定で構成されており,電子データを原則化するのか位置づけが不明である。国内の行政実務でも,国外との行政実務でも,情報のやりとりは電子データ化が原則化していることからすれば,このことを明確に意識した公文書管理法にする必要がある。
同法3条は,「公文書等の管理については,他の法律又はこれに基づく命令に特別の定めがある場合を除くほか,この法律の定めるところによる。」と規定している。同条に基づいて,現在,防衛秘密については,自衛隊法などで特別に定める命令で秘密情報を管理しており,防衛秘密情報を公文書管理法の適用除外にしている。このことは,政府関係者や行政法学者の逐条解説においても触れられていない。この適用除外によれば,同法8条2項で公文書を廃棄するにあたっての内閣総理大臣の同意手続が不要となる。特定秘密保護法案別表第1号の適用及び運用状況は,防衛省外部の監視を一切受けないことが可能になると考えられる。同様の状況が別表第2号乃至第4号についても生じるようなことがあれば,公文書管理法に基づく国政の最重要情報の管理に巨大な空白部分が生じることになる。公文書管理法第3条にいう除外の定めは削除されるべきである。
また,公文書管理法では,保存期間が1年未満の行政文書の廃棄は任意に行えることになっているが,電子データについては,日々のやりとりのような電子データについても相手側・相手国において半永久的に保存し,検索し利用できるようにしていることがあり得ることからすると,内部メモ的な位置づけで任意に廃棄する制度でよいのか再検討を要するというべきである。また,保存期間が満了した行政文書については,国立公文書館等に移管するか又は廃棄す
ることになっており,廃棄については内閣総理大臣の同意を要件にしているだけで,国会その他第三者の関与を認めていない点は,恣意的な運用のおそれがないとはいえない。
一定の情報を秘密指定した場合,10年後,20年後には,政治情勢は著しく変わっており,過去の為政者や官僚は当事者性を失い,むしろ,現在及び将来の国政を選択していく上での参考資料に供されることにこそ意味があるから,一定期間経過後は自動的に公表する制度を採用すべきである。公文書管理法に関連して,少なくともこれらについての再検討を先行させる必要がある。
(3) 情報公開法の改正の必要
現行法では,外交,防衛,警察に関する情報の不開示事由が極めて緩やかに規定されている。裁判規範としてほとんど機能せず,極めて広範な不開示処分が行われている。このような制度設計及び運用が,国の行政機関の情報公開に対する姿勢をきわめて消極的にしてしまっている。したがって,不開示事由を限定する必要がある。不開示事由を限定し公開度を高めてこそ,特に厳格に管理すべき情報を適切に判別できる能力も身につくのである。
また,現行法では,裁判所によるインカメラ制度がないため,国の行政機関はどのような主張をしても,裁判所によって主張の真実性をインカメラによって確認されることがない。裁判の進行上,必要に応じて,裁判所の裁量でインカメラができる制度にする必要がある。
(4) 国会法,衆議院規則,参議院規則の改正の必要
現行法では,開催要件(第52条2項,第54条の4第1項,第62条)や公表(第63条),委員会議録の配付制限(衆議院規則第63条但書,参議院規則第58条但書・第80条の8),官報への掲載制限(衆議院規則第206条但書,参議院規則第161条),懲罰委員会への付託(参議院規則第236条)などについて規定しているものの,秘密会の運用や,秘密会で扱った資料や議論の内容について各政党への持ち帰りの可否などについて規定されていない。しかし,特に重要な秘密情報について,議院あるいは委員会,調査会で議論する場合に,国会法あるいは各議院規則で特別な規定を設け,これに従って厳格に手続を行うならば,国会議員の自覚と責任意識を高めることになると同時に,行政機関側において提供する秘密情報の漏えいの不安を相当程度解消することに繋がる。特定秘密保護法案では,内閣府の政令などによる条件設定を予定しているが,これは議院の自律性を著しく損なうものであるから,各議院が自ら国会法乃至議院規則に規定するようにすべきであって,政府が自由に内容を決められる政令に委ねるべきではない。
6 結語
政府が提案しているような秘密保護法は,広範な秘密情報を生むおそれがあり,国会の国権の最高機関性を損ない,人権侵害性が高く,処罰によって議員活動や言論活動を過剰に牽制することに繋がるおそれがある。情報管理システムの構築及び上記の法改正が行われ,それが実行されるならば,重要情報の管理は従来よりもはるかに適切に行われるはずであり,秘密保護法を制定する必要はない。