佐賀新聞が、「日本版NSC検証の仕組みづくりを」という論説を掲げました。それを読むと「安倍首相の悲願」といわれる日本版NSCのイメージが良く理解できます。
日本版NSCは、首相と外相、防衛相、官房長官の4者会議に、日本の安全保障と外交に関する最高の決定権が与えられ、それに必要な情報も首相に集中させるという体制です。国家安全保障局や内閣情報調査室も新設されます。
大統領制を敷き、全世界に諜報網を張り巡らしつつ世界各地で随時謀略まがいの作戦まで行うという、アメリカにとっては必要な体制かも分かりませんが、議員内閣制を取っている日本がそのまま真似る必要などはあるのでしょうか。日本には一刻を争って緊急に決断しなければならない事態などは何も考えられません。
それなのに4人というごく一部の人間たちで、国の対応を決めるシステムにするとは・・・何か物に憑かれたかのように見える安倍首相に、一体そんな決定権を与えてよいものだろうかという心配の方がにわかに高まります。マスメディアも大いに警告を発するべきです。
以下に佐賀新聞の論説を、朝日新聞の社説とともに紹介します。
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(論説) 「日本版NSC」検証の仕組みづくりを
佐賀新聞 2013年10月29日
日本版NSC(国家安全保障会議)創設関連法案の審議が衆院特別委員会で始まった。安倍晋三首相の悲願というべき政策で、官邸の外交・安全保障政策の司令塔機能強化を目指す。野党に異論が少ないとはいえ、国のかたちを大きく変える可能性もある。
一番の柱は首相と外相、防衛相、官房長官の4者会議を制度化するところ。これまでの安全保障会議があくまで「協議の場」で、閣議を経なければ決定されなかったのに比べ、国の意思決定が早まり、首相の権限も強化される。
そのために必要なのは正確な情報の集約である。内閣官房に事務局として「国家安全保障局」を新設、防衛や外務などの省庁からスタッフを集める。併せて各省庁に情報提供義務を持たせる構想だ。政策立案を含めて危機管理の専門集団になる点も大きな強みだ。
直接のモデルは米国の国家安全保障会議(NSC)である。ホワイトハウスの主要部局で、外交・安全保障に関する最高の意思決定機関。中国政策やアフガニスタンからの米軍撤退などが、NSCの検討を経て最終的に大統領の決断で決まっている。
重要政策は基本的にNSCにかけられ、会議日程や議題さえも機密指定されているという。国民に直接選ばれる大統領制と異なって、日本の場合は議院内閣制である。安保・外交の権限と情報を首相に集中させることの適否が、まず論点になる。
尖閣諸島周辺で繰り返される中国公船の領海侵入、北朝鮮のミサイル発射実験など、日本の安全保障をめぐる環境は厳しさを増している。この現実を踏まえた場合、迅速で合理的な意思決定が必要なのは確かだろう。
その半面、誤った判断になる可能性も否定できない。国益を追求したものであっても統治する側の都合を優先した発想が、国民の不都合を生み出すケースも想定される。判断の当否を含めて、歴史的な検証ができるように情報公開の仕組みを求めたい。
事務局は複雑な国際情勢を分析して政策を検討し、それを絞り込んだ形で首相に提示する役割を果たすことになる。組織構成や活動内容についても検討が必要だが、各省庁との職務分担など組織の制度設計はまだこれからである。
また、NSCは同盟国や友好国と高度な情報を交換することを想定している。このため、関係閣僚や職員に厳密な機密保持を求める「特定秘密保護法案」もセットで審議される。特定秘密の設定が国民の「知る権利」と対立するのは確実だ。
安全保障で情報管理が重要になっているのは分かるが、そこは厳密な歯止めが必要だろう。首相の権限強化の一方、外交や防衛すべてが機密の名の下に隠されては官僚の情報支配が進むばかりで、民主主義の危機である。
国会審議で組織や職務の詳細を明らかにしつつ、知る権利をどう保障するかの論議に重点を置いてほしい。
NSCは年内の発足を目指している。特別委員会は連日の開会が可能で、審議時間を確保しやすい。特別委を審議の場にしたのも、成立にかける首相の意志の表れだろう。ただ、臨時国会は会期が限られている。NSC設置とずれることになっても、特定秘密保護法案は慎重に審議すべきだ。(宇都宮忠)
(社説) 日本版NSC―軍事の司令塔にするな
朝日新聞 2013年10月29日
国家安全保障会議(日本版NSC)の設置法案をめぐり、衆院特別委員会の審議がきのう始まった。
米国などのNSCと連携しながら外交・安全保障の司令塔として省庁間調整にあたり、議長である首相を助ける。
扱うテーマは対中関係や北朝鮮の核・ミサイル問題、領土問題など。武装した漁民が無人島に来た場合、まず警察や海上保安庁が対応するが、エスカレートすれば自衛隊が出動し、短時間で切れ目のない対応をとる――。安倍首相が描くのはこんなイメージのようだ。
たしかに、こうしたケースも全く想定できないわけではない。省庁の縦割りが迅速な危機対応を阻んできた経験を踏まえれば、内閣の調整機能を高める狙いは理解できる。
だが、気掛かりな点は多い。
まず、軍事偏重の向きはないか。むろん侵略やテロへの備えは必要だが、それだけが安全保障ではあるまい。エネルギー問題や金融不安、食糧、災害、感染症といった多様な危機にあたっては、軍事、外交、経済などさまざまな角度から検討されなければならない。
軍事の司令塔のようになってしまっては、現代の複合的な危機には対処できない。
NSC法案とセットとされる特定秘密保護法案の問題もある。政府が常に正しい判断ができるとは限らない。失敗すれば特に、国民への説明責任が生じる。後世の歴史的な検証に付されるのは当然のことである。
だがNSCの議論に、米国などから得た機密情報が含まれ、それが特定秘密に指定されている可能性は高い。いまの特定秘密保護法案が通れば、どんな情報を得て、どんな議論が交わされ、その判断に至ったかを検証することは難しい。
さらに安倍政権の視線の先をたどっていくと、NSC法案は安保政策の大転換に向けた最初の一歩とも言える。
この法案が通れば、次に特定秘密保護法案の成立をはかり、日米同盟のさらなる強化に踏み出す。年末に策定する国家安全保障戦略には武器輸出三原則の見直しを盛り込む。集団的自衛権の行使をめぐる憲法解釈を変更し、来年末までに見直す日米防衛協力のための指針(ガイドライン)に反映させる。
政権が描くのはそんな道筋であり、NSC法案はその入り口になる。
日米同盟の軍事的な一体化をどこまで進めるのか。これからの論議が、日本の方向性を決めることになる。