10月1日付の日本国会議員宛のローリー女史(米市民団体「国際貿易監視部門」代表)からのビデオメッセージの翻訳文が、2日付のブログ「マスコミに載らない海外記事」に掲載されました。
日本の国会議員がビデオメッセージを依頼したことに応じたものと見られ、TPPに関する国会議員の会合へのメッセージの形を取っています(9月24日収録)。
ローリー女史は、これまでもTPPに関して、しばしば日本に重要な情報や連帯のメッセージを寄せています。また5月末には来日して各地で講演をしました。
メッセージでは、TPPの主体は貿易の自由化ではなくて、食料安全、医薬品、外国企業の受け入れ、金融規制解除、田園地帯の土地利用、(技術)革新・改革、著作権政策、特許政策、移民政策等々全ての課題について取り決めるものである。それに署名すれば全加盟国が同意しない限り、一つの用語も変更することができず、自国の全ての国内法、規則及び手続きを、TPP協定のルールに適合するように変更させられることになると述べています。
そして交渉のテーブルに着く前に大部分の起草が終っていたTPPに、世界第三位の経済大国である日本がどうして合意できるのだろうかと、アメリカ国民は不思議に思っている。今度開かれる10月4日のTPP貿易閣僚会合と10月8日のAPECサミットでは、「TPPはもう合意された」ということが演出されるだろうが、実際には極めて重要な課題が未解決のまま残されているので、妥結しないで終わる可能性もあると述べています。
また日本の交渉担当者は、国内ではTPPの中にISD条項は入れるべきではないとされていた筈なのに、実際にはISD条項を全加盟国に適用すべきだと要求する動きを、アメリカと一緒になってしているとも述べています。これは信じられない背信です。
メッセージは、「TPPの真実を関係国の国民が知りさえすればTPP協定は成り立たない筈である。アメリカの議員たちや一般の人々、またTPP交渉国の活動家たちはTPPの本当の姿を知りつつある。私たちは国民にTPPの中身をきちんと知らせて、そのような協定は絶対に締結させないことが重要である」と結ばれています。
これを読むと私たちはまず安部政権が選んだ交渉担当者の売国奴ぶりに驚かされます。マレーシアやベトナムなど、これまでの交渉で敢然とアメリカと対峙してきた国々は、きっと日本が参加すればこれからは有利に展開すると期待したことでしょう。でも事実は正反対の結果になりました。どれほどの失望を買ったことでしょうか。
日本の交渉団は、ひたすらアメリカの言うがままに唯々諾々と、ヤクザも顔負けするような秘密協定の成立に励んでいる訳です。なんとも情けない限りです。
以下に、原文を一部要約した形で紹介します。詳細は原文をご覧ください。
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「TPPを考える国際会議」に向けたローリー・ワラック氏の日本国会議員へのメッセージ (要約版)
マスコミに載らない海外記事 2013年10月 2日 (水)
皆様、こんにちは。ローリー・ワラックと申します。米市民団体「国際貿易監視部門」の代表をしています。本日のTPPに関する会合の場で、発言の機会を与えて頂き大変感謝しています。日本や他のTPP交渉参加国で、皆様がこのような討論会を開催されることは、大変重要であると同時に喜ばしいことでもあります。
TPPは、文字通り、私たちの将来を書き換えます。TPPの影響はとても広範で、そのルールは恒久的なものです。
TPPの29の章の内、貿易に関するものはたったの5章です。残りの章は、貿易とは関係のない分野、すなわち食料安全政策の未来、医薬品の入手のし易さ、外国企業を規制する権利、金融規制と安定、田園地帯における土地利用の未来に関係しているものと考えられます。(技術)革新・改革、著作権政策、特許政策、移民政策、これら全ての課題がTPP(交渉)のテーブルに乗せられます。しかも、この協定が完成して、交渉国が署名した場合、全ての加盟国が同意しない限り、一つの用語も変更することができないものとなるでしょう。そして全ての加盟国は、「自国の全ての国内法、規則、及び手続き」を、29の章の協定のルールに適合させることが求められます。
それらのルールは、公的な役割を果たす600人の企業の貿易アドバイザーによって、「密室で書かれ」ましたが、ついにアメリカ合衆国では、連邦議会がTPPの草案文面を見ることが許されました。その結果議会の中で警戒心が広がりました。議員が恐れていた全てのことが、「貿易協定」の名の下で行われつつありました。
実際に、次に掲げるようなことがTPP草案の中にあります。
•例えば、日本の医療制度で使用されている医薬品処方集の土台を損ない、医薬品価格を引き上げる、オバマケア(医療制度改革)以後、益々アメリカの医療保障制度でも使われるようになるはずの大手製薬会社向けのルール。
•著作権に関するルールであるかように偽装した、イノベーションやインターネット上の自由を損なうような不合理なルールの拡大。
•食品内容表示や食料安全(規制)に対する制限で、安全でない魚や、農薬に汚染された食品など、国内基準に合致しない食肉の輸入の強制。
•金融規制の制限:私たちの国々は、次の世界経済崩壊を避けるために必要なルールの適用の禁止。
こうしたルールは全て主としてアメリカ合衆国の企業が最も極端な条項を強力に求めているのに対し、TPP交渉国が抵抗したので未解決な課題として残されています。そこで、10月4日のTPP貿易閣僚会合と10月8日のTPP首脳会合が開催されるAPECサミットに向けて最新の情報を共有したいと思います。
第一に、ワシントンでは、一体何故、日本は、課せられている諸条件のもとで、TPP参加に合意するのだろうかと多くの人々がいぶかっています。特にほんの数週間前、マイケル・フロマン通商代表が訪日した際の記者会見で、TPPではなく二国間の交渉の中で、日本が譲歩した内容によって、日本がTPP交渉継続を認められるか否かが決まるだろうとTPP加入の条件を述べたことについて、ワシントンの多くの人たちは、ある国が交渉当事国である他の国について堂々と言うセリフだろうかと、大変に驚かされ大いに疑問を抱いています。
関連してワシントンの連邦議会議員や報道機関は、交渉のテーブルに着く前に大部分の起草がなされたTPPに、日本が何故加入に同意したのかについて不思議に思っています。しかし29章のうち半分は完成し、完成していない章についても条文の文言の大半は完成していますが、重要な課題が未解決なのでTPP交渉は妥結しないことになるかも知れません。
多くの文書が日本抜きにまとまりました。日本が世界第三位の経済大国であることを考えると、日本が初めて参加したのがブルネイ・ラウンドという最後の交渉の場であるというのに、この大規模な貿易協定に日本が何故合意できるのだろうかと、アメリカ人は疑念を抱いています。
「もはやこれまで。これ以上の交渉ラウンドはもうないよ!」というなかで、日本が進んで、他の国々が起草した文言に同意し、一つの用語も変更しないということに同意したということに、皆様はとても強い疑問を持たれるでしょう。日本は、このような屈辱的なプロセスにどうして同意するつもりなのでしょうか。単なる小国の交渉ではないのです。日本なのです! これには当地アメリカの人々が依然、大いに理解できずにいることです。
第二に、閣僚達がAPECで会った際には、「基本的合意」がなされ、国家首脳達が記者会見をする予定になっています。「成功を宣言」する記者会見という発想は、ある心理状態を作り出すためのものです。つまり、TPPは不可避だ、TPPは完了した、という心理を生み出そうということです。
しかしそれは勿論正しくないことで、たとえこの協定の大部分が起草済みであるとしても、悪い合意が数多くなされ、まだ合意に至っていない議論の多い課題も沢山あります。従って事実はTPPは完成間近ということではありません。
環境、医療特許、国有企業という、文書も少なく論争の的となっている3つ章があります。他にも、大変重要な課題が未解決となっている章があります。
これが、第三のポイントに繋がります。すなわち、日本の交渉担当者がTPP(交渉)の中で行っているように見えることは、日本の国会や自民党の決議が求めていることと、大きな隔たりがあることです。TPPに日本が参加するための五つの条件は、交渉担当者が述べていることと異なることを、私たちはワシントンで先週開かれた首席交渉官会合の報告書によって知りました。
例えば、自民党の立場は、「投資家対国家紛争解決条項(ISD条項)はいらない。我々は、日本が当事国であるTPPの中に、ISD条項をいれるべきではない」というものです。最近の選挙で成立したオーストラリアの新たな保守主義政府でさえ、「オーストラリアは、ISD条項に縛られることを許してはならない」と繰り返し述べています。しかし、日本のTPP交渉担当者は、アメリカ合衆国とともにISD条項を存続させて、全加盟国をカバーすべきだと要求する動きを主導しています。ワシントンの日本国大使館には、各種イベントで、ISD条項を推進するためアメリカ合衆国と日本がいかに取り組んでいるかを自慢する人さえいるのです。更に、日本が五つの農産物聖域を勝ち取るという考え方については、会合で、他の首席交渉官達は正しくないと述べています。アメリカ合衆国、オーストラリア、シンガポール、ニュージーランドは、絶対的に例外はないことを大変明確にしております。従って日本が何とかして米や牛肉、豚肉などに対して例外を得られるとの考えは、絶えず関心を払わなければならない事柄です。
最後に、医療制度に関する文言と、医薬品に対するアクセス、あるいは日本郵政に対するガン保険のような保険の民営化に関する文言、そして、国会で公式に主張してきたにも拘わらず日本が大幅な譲許を行った場合にはそうした文言も重要な問題です。こうしたこと全てについて、ここワシントンでも盛んに議論がされています。
勢いが増しているTPP反対についても議論されています。私が皆さまと共有したかったことです。連邦議会では、今や民主党も共和党も、オバマ大統領に対し、ファースト・トラックと呼ばれる通商権限を与えることに、ますます「ノー」と言い始めています。
アメリカの政治システムでは、連邦議会が貿易に対する憲法上の権限を有しており、今回TPPの中身がどのようなものなのか、すなわち多くの人々の将来にとって大変危険なものであるということを知ってからは、連邦議会の民主党議員も共和党議員も皆こう言っています。「TPPのような協定に対し、大統領に通商権限を与えることはしない。我々には、完全な権限が必要だ。何故なら、この協定で扱われている事柄はが、とうてい受け入れられそうなものと思えないからだ。我々は、これを許容することはできない」と言い始めています。
この事実は大変重要です。何故なら、APECの場でも、アメリカ合衆国幹部達は、他国を説得しようと試みるでしょうから。すなわち、「これは公式なことです。これは完了している。ファースト・トラックは実現しつつある。我々は交渉中だ。TPP以外に望みはない。」というように。
もし全当事国の人々が、TPPの意味することを実際に知った場合には、太陽の光が、TPPを枯れさせてしまう可能性が非常に高いのです。アメリカでは、人々は「TPPは死んだ魚のようだ。太陽に長く曝されるされれば曝されるほど、臭いがひどくなる。」と言い始めています。TPPの中身がどのようなものなのかを明らかにすることは大変重要なことです。また、もしTPPが私たちの為にならないのなら、私たちは、人々にきちんと知らせ、そのような協定を絶対に締結しないことが重要です。
二つ目の大変重要な課題は、この協定が不可避だなどということは全くないことをはっきりさせることです。正に、心理ゲームなのです。ワシントンでは、ある言いまわしを使っています。日本ではとても良く使われるものですが、「歌舞伎のようだ」と言い合っているのです。APECでは、国家首脳は形だけ議論をしている演技をし、お互いに褒めあい、この偉大な協定について話すでしょう。しかし、議員達も、一般の人々も、世界中のTPP交渉国の活動家も、次第に本当の姿を知りつつあります。
(中 略) 私たちは皆、TPPが私たちの生活にどのような影響を及ぼすのかを知っています。確実に政府に説明責任を課しており、医薬品価格のつり上げ、安全でない食品、雇用の国外流出、金融サービスの規制緩和を推し進める企業について知っています。
以上述べたことが、TPPの本当の姿です。今このような会合が開かれましたことに、皆さまにはお慶びを申し上げます。この会場で、またマレーシア、カナダ、そしてメキシコの会場で起こっていることを全て一緒にすれば、必ず危険で非人間的なTPPを阻止することができます。
ここに改めて、本日の会議のご盛会をお祈りします。お招き頂き、どうも有難う御座います。近い将来、また皆さまとお目にかかれれば幸いです。