2013年10月5日土曜日

ジェーン・ケルシー教授の指摘と日本のTPP交渉団

 オバマ大統領政府機関の一部閉鎖への対応のため急遽インドネシア・バリ島で開かれるAPEC首脳会合を欠席し、8日のTPP交渉首脳会合も欠席することになりましたこれにより、TPP首脳会合を主宰し交渉の大筋合意を目指していたオバマ氏の構想は、大幅に後退することになりました。
 そのことにはひと先ずは安堵したいと思います。

 ところでローリー女史のメッセージと平行して日本国会議員たちに送られてきた、ニュージーランドのジェーン・ケルシー教授からのビデオメッセージの翻訳文が、4日の「マスコミに載らない海外記事」ブログに掲載されました。
 この機会に同教授の指摘を踏まえながら、日本政府と交渉担当者の不可解な挙動について見てみたいと思います。

 メッセージを発する段階では教授は、APECTPP閣僚・首脳会合の議長を務めるのはオバマ大統領なので、彼の巨大な政治的圧力によって今年末までに強引にTPP協定を締結することが合意される可能性極めて高いと見ていました。しかし予期しないオバマ氏の欠席で、その可能性は非常に小さくなりました。

 TPP交渉は、「関税の撤廃・削減」「衣料品と繊維の取扱」「環境」「公的医療保険制度」「特許ルール」「製薬会社の権限」の分野で行き詰まっていることに加えて、まだ交渉が始まったばかりの「国有企業の運営と情報開示」の分野は、日本の、「日本郵政の保険銀行及び郵便業務」「日本放送協会」「地方行政機関」「地方政府所有の公益事業会社」「国立大学年金投資基金」「日本政府が創設した政府系投資ファンド」さらには「JRグループ」「農林中央金庫JA全中(全国農業協同組合中央会)に適用される可能性があると教授は述べています。

 それにもかかわらず、前回ブルネイ会議の最後の2日間にだけ出席した日本は、なぜか現地でいち早く10月中にTPP交渉を妥結させる必要があると叫び出しました。一体、紛糾のさなかにある膨大な課題を、闇雲に、近い将来において決着させなければならないとする主張に、どんな合理性があるというのでしょうか。反対を唱えている国に反対するのは止めろというに等しい行為です。
 いくらアメリカから強要されたとはいえ、まさにアメリカの驥尾に付しアメリカの言い分には何でも無条件で従うといぶざまさには、あきれるほかはありません。

 前述の、全参加国が関係する6分野も勿論ですが、日本だけが関係する10項に余る事柄についても、重大でないものはひとつもありません。それにもかかわらず交渉の早期妥結を主張するということは、取りも直さず日米2国間交渉のときと同様に、アメリカに対して「べた降り=100%承服」をしようとすることにほかなりません。
 日本の政府と交渉担当者たちの辞書には、そもそも『国益』という言葉がないのでしょう。一体どういうメンバーなのか? ここまでくればもはや「何をかいわんや」です。 
 
 教授はまた一部の国は代償が大き過ぎるとして、TPPから撤退していく可能性があるとも語っています。
 マレーシア政府は、形ばかりの期限など設けるべきではないと主張し、いくつかの項目において交渉の余地はないとの立場を示しました。チリもTPPで失うものの方が多く、特に知的財産に関するアメリカの要求は発展途上国にとって到底受け入れがたいコストを強いるものであると主張したということです。ベトナムも衣料品と繊維の取扱については譲りません
 それなのに彼らとは比較にならないほどのダメージを受けることが明らかな日本は、なぜ一言の反論もできないのでしょうか。不可解きわまる話です。

 ニュージーランドは、オーストラリアと同様に原住民をほぼ完全に排斥して占領した白人(アメリカと同じアングロサクソン民族)の国であり、両国とも実はTPPの妥結を望んでいます。
 しかし教授は、各国が自国の立場を主張することで、「WTOドーハ・ラウンド交渉」がそうであったように、結果的に「TPP交渉鈍化」していくのが理想的であると述べています。さすがは学者らしい態度です。

 以下に東京新聞の記事を紹介します。

   追記 同教授のメッセージの全文は下記URLでご覧になれます。
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米大統領 TPP首脳会合欠席 APECも 政府閉鎖対応で
東京新聞 2013年10月4日
 【ワシントン=竹内洋一】 米ホワイトハウスは三日、オバマ大統領が政府機関の一部閉鎖への対応を優先し、七~八日にインドネシア・バリ島で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会合を欠席すると発表した。並行して予定されている八日の環太平洋連携協定(TPP)交渉首脳会合も欠席する。オバマ氏はTPP首脳会合を主宰し、交渉の大筋合意を目指していたが、政府閉鎖の影響が外交・通商にも及ぶことになった。

 ホワイトハウスは声明で、外遊の取りやめは「下院共和党が政府を閉鎖した結果だ」と指摘。「避けられたはずの政府閉鎖のせいで、米国は世界で最も成長する(アジア太平洋)地域への輸出促進を通じた雇用創出、指導力や国益の増進を後退させている」と共和党を非難した。
 同時に、オバマ氏が九~十日にブルネイで行われる東アジアサミットも欠席することを表明。一連の首脳会合には、ケリー国務長官が代理出席することも明らかにした。
 オバマ氏はこれに先立ち、インドネシアのユドヨノ大統領、ブルネイのボルキア国王と相次いで電話会談し、一連の会合欠席に遺憾の意を伝えた。
 オバマ氏は東アジアサミット後に予定していたマレーシア、フィリピン歴訪も政府閉鎖の影響で中止するとすでに表明している。東南アジア歴訪全体が撤回に追い込まれ、政権が掲げるアジア太平洋重視戦略に打撃となった。