2013年10月11日金曜日

【点検】 秘密保護法案

 東京新聞に「点検 秘密保護法案」と題した6日間にわたる連載記事が載りました。
 
 記事の項目と掲載日は下記のとおりです。
 
<1>厳罰化 懲役10年 市民が萎縮     (2013年10月4日)
<2>特定秘密 際限なく広がる恐れ      (2013年10月5日)
<3>知る権利 市民も処罰対象に       (2013年10月6日)
<4>適性評価 飲酒・借金・家族も調査    (2013年10月7日)
<5>情報公開 永久に秘密も可能       (2013年10月8日)
<6>国会 政府監視 自ら放棄         (2013年10月9日)
 
 以下に紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【点検 秘密保護法案】

<1>厳罰化 懲役10年 市民が萎縮
東京新聞 2013年10月4日

写真

 特定秘密保護法案の最大の特徴は、情報を漏らした際の罰則を厳しくすることだ。
 情報漏えいを罰する法律は、いまもある。国家公務員法は仕事を通じて知り得た秘密を守るよう義務づけ、違反すれば「懲役一年以下」。防衛に関する機密情報の場合、自衛隊法で「懲役五年以下」と重くなる。さらに別の法律によって、米国から提供された防衛装備品や在日米軍の情報については「懲役十年以下」と定められている。
 
 今回の法案では、秘密の対象を防衛や外交に限らず「国の安全保障に著しい支障を与える恐れがある情報」に広げたうえ、一律に最高十年の懲役を科す。政府が持っている情報に幅広く網をかけ、罰則を十倍に強化する。
 公務員らへの脅迫や不正アクセスといった「特定秘密の保有者の管理を侵害する行為」で情報を得た場合も、最高懲役十年。公務員に文書の持ち出しをそそのかすだけでも処罰の対象になる。
 
 この罰則は他国と比べても重い。
 欧米諸国もスパイなど「外国勢力への漏えい」に限れば、かなりの厳しい罰則を設けている。しかし、それ以外では、最高刑が懲役十年なのは米国だけ。英国は懲役二年にとどまる。日本では国民の「知る権利」が、より大きな影響を受ける。
 厳罰化は、公務員が報道機関を含む第三者と接触するのを過度に避けたり、情報を求める市民が萎縮したりして、本来なら国民が知るべき情報や、政府に不都合な情報が明らかにされにくくなる恐れがある。
 
 政府・与党内から秘密保護を強化する法整備を求める声は何度も上がったが、国民の反発で実現しなかった。
 安倍政権は、防衛・外交政策の司令塔となる「国家安全保障会議(日本版NSC)」をつくる法案とセットで秘密保護法案の成立を目指している。政府は米国から秘密保全の徹底を繰り返し求められ、NSCで緊密な情報共有をするには規制の強化が必要と判断した。「知る権利」よりも米国の注文を優先している印象はぬぐえない。(生島章弘)
 

<2>特定秘密 際限なく広がる恐れ
東京新聞 2013年10月5日
 特定秘密保護法案では、政府が持っている膨大な情報の中から「特定秘密」を指定し、それを公務員らが漏らしたり、不正に聞き出すと、最高で懲役十年という厳罰の対象となる。しかも、その範囲が際限なく広がっていく懸念もある。
 
 「特定秘密」とは何か。政府原案では、(1)防衛(2)外交(3)特定有害活動(スパイ行為などを指す)の防止(4)テロの防止-の四分野の情報のうち、「国の安全保障に著しい支障を与える恐れがあるもの」と定めている。
 原案には四分野ごとに項目も記され、「防衛」の最初の項目は「自衛隊の運用、これに関する見積もり、計画、研究」。このような抽象的な表現が多く、幅広い情報を「特定秘密」に指定できる余地を残す。「国の安全保障に著しい支障を与える恐れ」という条件も、「国の安全保障」にはさまざまな定義があり、広範囲な解釈が可能だ。
 
 さらに問題なのは、どの情報を特定秘密とするかは、大臣などの「行政機関の長」の判断に委ねられることだ。政府のさじ加減で、厳罰の対象になる情報が決まる。
 例えば、原発は、事故が起これば「国の安全保障」を揺るがす事態をもたらし、テロ組織に狙われる可能性も否定できない。それを口実に、原発に関する情報が「特定秘密」に指定されないとも限らない。外交でも、環太平洋連携協定(TPP)など、国民生活に影響が大きい情報が指定される可能性がある。
 
 米国では、国立公文書館の情報保全監察局が適切な機密指定かどうかを監視。局長は大統領の承認で任命され、監察権や機密の解除請求権が与えられている。だが、秘密保護法案には、こうした仕組みはない。
 政府は「原発やTPPは特定秘密保護法の対象外だ」と説明し、恣意(しい)的に指定しないように運用指針も定めるという。
 だが、上智大学の田島泰彦教授(憲法)は「原発や放射能などの情報は、国にとって重要度が高い。幅広く指定できる構造の法案が変わらない限り『対象にならない』といくら説明しても信用されない」と指摘。運用指針も守られているかチェックする仕組みがなく「実質的な意味はない」と批判する。(金杉貴雄)
 

<3>知る権利 市民も処罰対象に
 東京新聞 2013年10月6日
 特定秘密保護法案が成立すれば、広範囲な情報が「秘密」とされる可能性があり、漏らした公務員だけでなく、取得した側も処罰の対象となる。国民の「知る権利」が損なわれると指摘される。政府が不都合な情報を隠し、それを暴くことが罪になれば国民が政府の本当の姿を知ることはできなくなり、民主主義の根幹は揺らぐ。
 
 政府原案では、政府が持っている情報の中から「特定秘密」を指定し、それを漏らすと、最高懲役十年の刑が科せられる。秘密を扱う公務員も限定し、何重にも情報を国民から遠ざける仕組みになっている。
 もっと問題なのは、情報を知ろうとする行為が厳罰に問われかねないことだ。原案では「あざむき」「脅迫」などで特定秘密を聞き出した側も、最高懲役十年。情報漏えいと情報を聞き出すことを「そそのかし(教唆)」「あおり仕向ける(扇動)」行為にも最高懲役五年が科せられる。
 例えば、記者が特定秘密を扱う官僚と酒を飲みながら、言葉巧みに説得し、持ち上げたり、しつこく懇願したりして、情報を聞き出したとする。仮にそうしたやり方が行き過ぎだと判断されれば「そそのかし」や「あおり仕向けた」として処罰されるかもしれない。
 政府は「通常の取材行為は処罰対象外」と強調するが、どこまでが「通常の取材」なのかはっきりしない。
 
 新聞記者が沖縄返還をめぐる日米の密約情報を入手して報じた後、外務省の女性事務官に漏えいを働き掛けたとして、一九七二年に国家公務員法違反で逮捕、有罪になった事件があった。最高裁は処罰対象となるのは「社会観念上、是認できない」取材手法という判断を下し、政府もこの基準を一つの参考に挙げるが、「社会観念上」という言葉自体があいまいだ。
 処罰対象は記者に限らない。調査活動をする市民や研究者、情報公開を求める民間団体なども、罪に問われる可能性がある。文字通り、国民の「知る権利」にかかわる。
 政府は原案に「報道の自由に十分に配慮」との規定を入れた。「知る権利」を明記することも検討しているが、日本体育大学の清水雅彦准教授(憲法)は「(言葉を入れるだけでは)単なる宣言で、歯止めにならない。この規定を入れなければならないことこそ、逆に法案が人権侵害の可能性があることを示している」と指摘する。(清水俊介)
 

<4>適性評価 飲酒・借金・家族も調査
東京新聞 2013年10月7日

写真

 特定秘密保護法案では、「秘密」を扱うことになる公務員が情報を漏らす恐れはないか見極めるため「適性評価」を義務づけている。防衛産業など秘密を扱う契約業者の民間人も対象となる。調査する個人情報は多岐にわたり、プライバシーを侵しかねないと指摘されている。
 
 調査事項は(1)スパイ・テロ活動との関係(2)犯罪、懲戒歴(3)情報の違法な取り扱い歴(4)薬物乱用や影響(5)精神疾患(6)飲酒の節度(7)借金などの経済状況-の七項目。病歴や飲酒、借金など、極めて個人的な内容が含まれる。
 さらに公務員や民間人の家族も調査。親、配偶者、子、兄弟姉妹やその他の同居人の住所、生年月日、国籍まで確認する。
 家族の国籍までなぜ調査する必要があるのか。
 
 法案を担当する内閣情報調査室は「国籍だけで判断することはない」としつつも「国籍によっては、外国につけ込まれる要素があるかもしれない」という。例えば、政府は防衛白書で中国の動向を「わが国を含む地域、国際社会の懸念事項」と位置づけるが、親や配偶者が中国籍なら「つけ込まれる要素」と判断するのか。
 対象者は防衛、外務両省、警察庁などで六万四千人。他省庁や警視庁、道府県警、民間人、さらに、その家族まで合わせると、膨大な数に上る。
 
 日弁連の秘密保全法制対策本部事務局長の清水勉弁護士は「適性評価は五年ごとで、対象者の環境はその間も大きく変化する。妥当性は乏しい」と指摘。「家族の国籍や住所で何を判断するのか」と民間人を含めたリストを捜査機関が悪用するケースを警戒する。
 実際、政府が市民を監視していた事例が明らかになっている。二〇〇二年には防衛庁(現防衛省)が、自衛隊に情報公開請求した市民の身元を調査し、リストを作成していたことが発覚。〇七年には陸上自衛隊の情報保全隊が、イラクへの部隊派遣に反対する市民運動を監視していたことが分かった。
 
 今回の法案では、特定秘密を不正に取得する行為やそそのかしたりする市民も厳罰の対象にする。政府が情報を求める市民に対し、これまで以上に監視を強める恐れがある。 (横山大輔)
 

<5>情報公開 永久に秘密も可能
東京新聞 2013年10月8日
 政府が指定した「特定秘密」を国民が知るすべはないのか。特定秘密保護法案の政府原案では、特定秘密は裁判所も確認できず、将来、開示される保証もない。政府に都合の悪い情報も「秘密」として、永久に国民の目には触れず、葬り去られる可能性がある。
 
 政府が持つ情報を国民が得るには、いくつかの方法がある。
 一つは情報公開法による請求だ。だが、政府が「国の安全が害される」などと判断した情報は公開しない。「特定秘密」が非開示とされるのは確実だ。
 この法律では、国民が提訴しても、裁判所は情報の中身を確認できない。政府の非開示の判断が本当に妥当か見極めるのは難しい。民主党政権当時の二〇一一年に法律の改正案を提出し、裁判所が情報を確認できる仕組みをつくろうとしたが、国会で審議されず廃案になった。安倍政権では議論もされていない。
 もう一つは、公文書管理法による請求だ。各省庁の文書は、保存期間終了後に首相の同意で廃棄するか、国立公文書館に保存する。「特定秘密」がこの法律の適用対象にならなければ、各省庁だけの判断で廃棄される恐れもある。政府は適用するかどうか「検討中」と説明するが、適用されても情報公開法と同じで、公開しないこともできる。
 そもそも、特定秘密の指定期間は五年だが、更新は何度でもできる。政府が更新を繰り返せば、永久に指定は解除されない。
 
 米国では、非公開の機密でも原則十年以内、例外として二十五年以内で解除される。安全保障上、問題がある場合でも五十年、七十五年と期間を定め、それを超える場合は特別の委員会の承認が必要だ。国家機密も将来的な公開を前提にしているのに対し、秘密保護法案にそうした規定はない。
 政府はすでに外交文書を原則三十年で公開している。さらに、記録がない閣議や閣僚懇なども議事録をつくり、三十年後に公開する法改正を検討する。だが、いずれも「特定秘密」に指定されれば、期間に関係なく非公開とされ続ける。
 安倍政権は「秘密」の管理や漏えいの厳罰化に熱心だが、政府情報の公開には消極的だ。 (大杉はるか)
 

<6>国会 政府監視 自ら放棄
 東京新聞 2013年10月9日


写真

 政府が指定する「特定秘密」は、憲法で「国権の最高機関」と位置づけられる国会や国民の代表である国会議員でも原則として中身を知ることはできず、議論もできない。
 国会には憲法で定められた国政調査権があり、政府は「正当な理由」なく資料提出要求などを拒否できないが、今回の法案は国政調査権より「国の安全保障に著しい影響がある」として、秘密保全を優先している。
 閣僚などの政務三役は特定秘密を扱えるが、漏えいすれば罰則の対象になり、公務員と同じく最高懲役十年。同じ政党の同僚議員に教えることもできず、議論さえできない。
 
 法案では、例外として、非公開の委員会など(秘密会)に提供できるとしている。出席した国会議員がその情報を漏らせば、最高懲役五年だ。
 ただ、議員の調査活動を補佐する秘書や政党職員に伝えた場合が違法になるかどうかは決まっていない。
 
 さらに問題を複雑にしているのは、「両議院の議員は、議院で行った演説、討論について、院外で責任を問われない」と規定する憲法五一条との関係だ。
 例えば、秘密会で特定秘密を知った議員が国民に伝えるべきだと判断し、本会議や委員会で明らかにしても罪にならない。政府から見れば秘密会の意味がなく、最初から特定秘密を提供しなくなる恐れがある。
 
 法案に反対する伊藤真弁護士は「国会が行政を監督するのに必要な情報を得られなくなり、議院内閣制は崩れてしまう。情報を持つ者が、持たない者を支配する『官僚政治』が進み、国民が主人公の国ではなくなる」と警戒する。
 
 重要な情報が「特定秘密」にされてしまえば、国民の代表が政府を監視する国会の機能は削(そ)がれ、政府の歯止め役にならない。国会がこの法律を成立させることは、自らの手で憲法で与えられた役割や権利を放棄することになりかねない。 (生島章弘) =おわり