2013年10月4日金曜日

日弁連 秘密保護法案反対声明

 政府が秋の臨時国会での成立を目指している「特定秘密保護法案」について、日弁連の山岸憲司会長は3日、これに反対する声明を出しました。
 
 声明では「秘密の範囲が広いうえに不明確で、罰則の強化によって取材活動が萎縮したり、知る権利が制約されたりするという問題がある」と指摘して特定秘密に関する国会への情報提供について、「行政機関の長の裁量権が幅広く規定され、行政によって国会が支配されかねない構造になっている」と国権の最高機関である国会を軽視する内容だと批判しています。
 そして、「この法案を提出する前に、重要な公的情報を適正に保管するための公文書管理法の改正や、国民の知る権利を満たすための情報公開法の改正こそ行われるべきだ」としています。

 政府は、法案には拡大解釈によって基本的人権を不当に侵害してはならないとの規定を設けるなどと、今は猫撫ぜ声を出していますが、「不当に」の範囲不明確で如何ようにも極めつけができるものです。

 歴史を顧みれば1937(昭和12)年2月、『軍機保護法改正案』が帝国議会に提出され、衆院が10日間のスピード審議で改正案を成立させた5ヶ月後に、日中戦争の発端となった盧溝橋事件が起こされました。
 3日付の「日本新聞協会が秘密保護法案に意見書」につけた説明を敢えて繰り返しますが、かつて1925年に制定され1941年に全面改訂された治安維持法は、制定時や全面改正時には、あれほどの凶暴性をもっていることは国民には知らされていませんでした。治安維持法と並び称される治安警察法(1926年に改正)についても同様です。

 何とか大いなる反対世論の盛り上がりで、この悪法を葬り去りたいものです。
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特定秘密保護法案に反対する会長声明

 政府は、9月26日、特定秘密保護法案(以下「本件法案」という。)の内容を明らかにした。この時期の公表は、秋の臨時国会への提出及び成立を目指したものである。

 当連合会では、民主党政権下において情報公開法の改正と併せて秘密保護法制に関する検討が始められた当初から、秘密保護法制の立法化に対しては疑問を呈し、法案の国会提出に強く反対してきた。そして、同月3日から始まった特定秘密保護法案概要に関するパブリックコメントにも、同月12日に当連合会として法案概要の問題点を詳細に指摘した意見書を提出した。

 本件法案には、手続面及び内容面において重大な問題がある。
 
 本件法案の内容は、統治機構の在り方、国民主権及び国民の諸権利に重大な影響を与えるものであるにもかかわらず、政府は、この問題について国民に秘したまま7年以上にわたり水面下で検討しながら、ようやく1か月前に突如法案の概要を示し、更にまたパブリックコメントの期間を僅か2週間しか設けないという国民不在の手続を強行した。国民主権の否定につながるこのような手法は断じて許されるべきではない。

 それにもかかわらず、パブリックコメントには、約9万件の意見が寄せられ、しかも、約8割が法案概要に反対するものであったとのことである。政府としては、パブリックコメントに寄せられた意見を分析し、法案の内容を再検討し、さらには法案の提出の断念をも検討すべきであった。ところが、パブリックコメント終了後わずか12日目に本件法案を公表した。寄せられた国民の意見を検討できるはずもなく、またこれを子細に検討し法案に反映させようとの姿勢は全く窺えない。

 そして、本件法案の内容をみても、当連合会が指摘した問題点がそのまま残されている。すなわち、特定秘密の範囲が広範かつ不明確で、違法秘密や疑似秘密(政府当局者の自己保身のための秘密)の危険性もそのままであり、適性評価におけるプライバシー侵害の問題や、重罰化、共謀・独立教唆の処罰による取材活動の萎縮や知る権利の制約の問題も解消されていない。

 また、行政機関の長が特定秘密情報を提供することができる要件について、国会の議院等(以下「国会等」という。)に対しては、行政機関の長の幅広い裁量権が規定されているのに対して、外国の政府や国際機関に提供する場合については、国会等への提供の場合よりも明らかに緩やかなものになっている。そのうえ、国会等に特定秘密を提供した場合に、議員がその情報を議員活動でどのように利用できるかについても不明確なままであり、これでは、国会が国権の最高機関であることを無視するものというほかない。全国民を代表する国会議員によって構成される国会が行政を監視するのではなく、逆に行政によって国会が支配されかねない構造となっており、わが憲法下の統治機構の在り方を根底から蝕むものである。

 また、警察庁長官が、都道府県警察が保有する特定秘密の提供を求めることができるものとしている。これは、警察組織の更なる中央集権化を推し進める役割を果たし、戦後の警察組織の民主化を大きく後退させることにつながりかねない。

 一方、法案の第20条に「報道の自由」に配慮する旨の規定が盛り込まれたが、「報道の自由」は判例上確立しているから、その文言を改めて規定する意味は特にないのであって、幅広い処罰規定を設け、過失犯まで処罰するという本件法案の重罰化がもたらす憲法の保障する自由権に対する深刻な萎縮効果は何ら拭えないのである。

 このような法案は、今国会に提出されるべきではない。その前に、重要な公的情報を適正に保管するための公文書管理法の改正、及び国民の知る権利を充実させるための情報公開法の改正こそが行われるべきである。
2013年(平成25年)10月3日
 日本弁護士連合会  
 会長 山岸 憲司