2013年10月28日月曜日

これが秘密保護法の実態

 しんぶん赤旗が「・・・これが秘密保護法案」の記事で、法案が成立した場合にどんなことが起きるかについて具体的な例を挙げて解説しています。
 憲法が保証している基本的人権が見るも無残に踏みにじられ、政府(と官僚)の思うがままの統制が行われ、それに違反すれば厳罰を科せられるという、恐るべき社会になることが実感できます。
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国民の目・耳・口ふさ これが秘密保護法案
しんぶん赤旗 2013年10月27日
 友好国ドイツの首相の携帯電話まで盗聴する米国。安倍内閣は、その米国から軍事情報の提供を受けるため、情報漏えいした国民を処罰する法案を国会に提出しました。「特定秘密保護法案」です。外交・防衛から原発情報まで、私たちの生活にも直接影響を及ぼす中身です。法案が国民にもたらす危険とは…。

何が秘密かも秘密 法案の仕組み
 安倍内閣が成立をねらう秘密保護法案とは、「国民の安全の確保」どころか、国民の目・耳・口をふさいで基本的人権をふみにじり、日本をアメリカとともに「海外で戦争する国」につくりかえるものです。

 秘密保護法案のおそろしさは、国民から見て「何が秘密かも秘密」になり、自分が接した情報が「特定秘密」かどうかわからないまま処罰されることです。「国民の安全」を最も脅かす〝戦争計画〟がつくられても、それを知ることが困難になってしまいます。
 法案は「特定秘密」の範囲として①防衛②外交③「特定有害活動」の防止④「テロリズム」の防止に関する情報を掲げています。
 しかし、「秘密の範囲」があいまい。たとえば「防衛」は、自衛隊の運用、装備、施設などあらゆる事項が対象です。「特定有害活動」には、核兵器、化学兵器、ロケット(ミサイル)、無人航空機(戦闘機)などの輸出入活動までが、秘密の範囲にされます。ある弁護士も「『日本が核兵器を持ちますよ』と言っているに等しい」と警告しています。

 重大なのは、「秘密」を指定するのが「行政機関の長」だということです。首相や外相、防衛相、警察庁長官らの勝手な判断で秘密の範囲をいくらでも広げることができます。
 「秘密」にしておく「指定期間」がありますが、期間は5年で何回でも更新・延長が可能。30年を超えても内閣の承認があれば更新可能です。しかも、法案を担当する内閣情報調査室は、文書の廃棄や秘密指定の更新も秘密にすると説明しています。
 公務員や民間業者らが情報漏えいをした場合、最高懲役10年以下で処罰されます。省庁間のやりとりで「特定秘密」を知った人も5年以下の懲役です。漏えいしなくても(未遂)、うっかり漏らしても(過失)、処罰されます。懲役10年に執行猶予は付きません。
 国権の最高機関である国会の調査権も制限しています。

突然逮捕 容疑は不明
 パソコンやスマートフォン(多機能携帯電話)で、ある情報を調べ、ブログ(簡易ホームページ)などに書き込んだら、ある日突然、事情聴取された―。
 偶然、ある情報に接触したというだけで逮捕されたり、家宅捜索される可能性があります。秘密保護法案では何が「特定秘密」にあたるかは、国民に知らされていないためです。
 たとえば、自衛隊基地の外から撮影した戦闘機の写真や、地方行事で展示されていた自衛隊の地対空誘導弾の詳細な装備を、ブログなどに写真つきで詳しく書き込んだ場合、秘密保護法案の情報漏えい容疑で処罰される可能性があります。
 法案を担当する内閣情報調査室は、ネット上での情報漏えいについて「取り返しがつかない事態になる」と強調しています。秘密保護法案では「不正アクセス行為その他の特定秘密を保有する者の管理を害する行為」として、最高懲役10年以下で処罰するとしています。

 日本には、すでに「不正アクセス禁止法」(最高懲役3年以下)があります。にもかかわらず、新たに「不正アクセス行為その他の特定秘密を保有する者の管理を害する行為」という処罰規定を設けたのは、「特定秘密」を知る行為を広く処罰することを狙っているからです。現在、法務省の法制審議会では、政府ができる盗聴の拡大、室内盗聴の合法化など、盗聴法のさらなる改悪が検討されています。
 秘密保護法案が成立すれば、「不正アクセス行為」の定義もあいまいになり、何が「不正アクセス行為」かの判定は、行政機関や捜査当局に決められてしまいます。

原発情報も「特定秘密」
 原発の調査にでかけ、施設がのぞめる小高い丘から写真を撮り、ツイッターでつぶやいたら処罰された―。
 こんな事態も秘密保護法案で起こります。「テロ活動防止」という口実で、原発施設の配置や原子力規制委員会や原子力規制庁が持つ原発情報は「特定秘密」の対象となるからです。たとえば、福島第1原発事故で毎日のように続く汚染水漏れで、どこで漏れたかという情報も、場所が特定されるという理由で隠される恐れも十分あります。
 原発情報について、法案作成を担った内閣情報調査室も「特定秘密になりうるもの」と認めています。
 福島第1原発1号機は、2011年3月11日の地震発生から16時間後までにメルトダウン(全炉心溶融)を起こしていました。この事実を東電が明らかにしたのは2カ月後でした。
 原子力災害時に放射性物質の拡散状況を予測する「SPEEDI(スピーディ)」のデータを、政府は米軍に提供する一方、福島県民はじめ、国民にはすぐには公表しませんでした。それを知らされずに線量の高い地域に避難し、避けられたはずの被ばくをした被災者もいました。
 ただでさえ、情報が隠されているのに、秘密保護法案が成立すれば、国民にとって重要な情報はいっさい表に出てこないことになってしまいます。

「情報公開」の宣伝でも
 ある日、霞が関の官庁街で「情報を公開しろ」と集会を開き、マイクで訴えていたら、「秘密保護法違反(扇動)だ」と警察に逮捕された
 秘密保護法案では、「特定秘密」を持つ人に情報を求めることも「特定取得行為」として処罰対象です。情報を得ることができなくても、「共謀、教唆(そそのかし)、扇動(あおる)」として、罪に問われます。
 冒頭の事例のように集会での一言が犯罪にされかねません。
 新聞記者が関係者に〝夜討ち朝駆け〟で自宅を訪ねて取材することも問題にされそうです。
 また、ビラや宣伝を企画した仲間(共謀)や、記者に取材を指示した新聞社のデスク(教唆)も捜査対象となりえます。

 法案は、「取材行為については、法令違反または著しく不当な方法によるものと認められない限りは、これを正当な業務による行為とする」として、あたかも「取材の自由」があるかのように書いています。
 井上正信弁護士(日弁連・秘密保全法制対策本部副本部長)は「マスコミの取材といっても、『特定秘密』を得ようとする行為そのものは〝犯罪〟です。それが『正当な取材』か、判断するのは捜査当局や裁判所です。たとえ最終的に『正当な取材』と認められても、家宅捜索で記者のパソコンや携帯電話を押収するだけでメディアにとって大打撃になります」と指摘します。

家族・友人も身元調査
 自衛隊に装備品を納入する会社に勤めるFさん。本人だけでなく家族のプライバシーまで調べられていた―。
 秘密保護法案のもとでは、こんな事態が日常になります。「秘密」として指定された情報を取り扱う公務員や民間企業社員が情報漏えいをする恐れがないか、「適性評価」という名目で徹底的に調査するからです。
 調査事項は、住所や生年月日などの基本事項だけでなく、犯歴や懲戒歴、外国への渡航歴、精神疾患、飲酒、信用情報や経済状況…。人権侵害そのものの調査です。
 身辺調査は、本人だけでなく家族や父母、兄弟、配偶者の親族、同居人も対象とされています。
 すでに秘密保護法案をさきどりする形で、国の行政機関で働く職員を対象に「秘密取扱者適格性確認制度」が2009年から実施されています。本紙が入手した自衛隊の「身上明細書」では、思想・信条をふくむ19項目にわたる詳細な個人情報を自主申告するよう指示。家族や親族だけでなく知人の職業や勤務先の記入も求め、その交際の程度までたずねています。
 自衛隊では、「身上明細書」への記入に偽りがないかどうかを自衛隊情報保全隊が調査します。同隊は、市民の平和運動などを監視して記録することを主目的とした部隊で、その国民監視活動にたいし仙台地裁で違法判決が出ています。
 秘密保護法案が成立すれば、情報保全隊や公安警察のような国民監視組織が、いっそう不当な活動を強め、広範な市民の人権が侵害されるのです。

国会議員さえ懲役刑
 衆院安全保障委の「秘密会」で明らかにされた情報の是非を、専門家に相談した国会議員が懲役刑に―。
 秘密保護法案は、安倍晋三首相がオバマ米大統領との会談で「日米同盟強化を見据えたもの」と説明したとおり、海外で米国と一体に「軍事行動する国」へ日本をつくりかえる構想の一環です。
 自民党は昨年、集団的自衛権行使の具体的要件などを定める「国家安全保障基本法案」の概要をまとめました。「基本法案」は、国家安全保障会議(日本版NSC)設置法と秘密保護法の上に位置づけられる法律として想定されています。

 自民党が最終的に目指すのは、総選挙と参院選公約で示したように、憲法9条改定と「国防軍」の創設です。しかし、安倍首相は改憲反対世論の広がりを受け、海外で戦争するための集団的自衛権行使を、9条改定(明文改憲)でなく憲法の解釈変更で可能にする方針に転換。現行憲法にもとづく法体系を、枝葉の法律から「軍事国家」仕様につくりかえる戦略です。この狙いそのものが立憲主義に反します。

 秘密保護法を繰り返し求めてきたのは国民ではなく、米国です。2005年には、日米両国間の部隊から首脳レベルまであらゆる範囲で軍事戦略や情報を共有することを日本は約束。その際、「秘密保護の追加的措置」、つまり米国の情報が日本から漏れないよう、対策強化を要求されています。
 イラク戦争で米国と英国は、ありもしない大量破壊兵器の存在を言い立て、国際社会の反対が広がる中、開戦に踏み切りました。米国の軍事情報に国の命運を左右される危険を示しています。

法案の狙い 戦争国家づくり
 秘密保護法案のもと、「国権の最高機関」であるはずの国会が行政府の監視下に置かれることになります。
 同法案は、秘密を国会に「提供」する前提として、非公開の「秘密会」であることを要求しています。「秘密会で知った秘密」を漏えいした場合には、国会議員さえも懲役5年の処罰を受けるのです。
 「秘密会」に参加した議員が、自分の所属する政党に持ち帰って議論することも、専門家に意見を聞くこともできません。当たり前の議会政治、政党政治がマヒしてしまいます。
 これだけ国会を縛ったうえで、なお「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼす」と判断すれば、結局、〝秘密〟を公開しないとしているのです。これでは、官僚・行政機関の判断一つで、国会に重要情報が全く出てこないことになります。

 国会は主権者国民の代表機関であり、行政を監視するのが仕事です。そのために憲法は、衆参両院に国政調査権を保障しています(62条)。少数党が政府与党を追及・批判することを通じて、国民の「知る権利」にこたえる重要な役割を果たします。
 秘密保護法案は国政調査権も形骸化させるだけでなく、国民の代表機関である国会が、行政府を監視する体制から、行政と官僚が国会を監視下におく「専制」へと逆転させるものです。

知る権利と両立せず
 政府・与党の「修正」協議を経て、法案に「国民の知る権利の保障に資する報道または取材の自由に十分配慮しなければならない」(21条1項)との文言が盛り込まれました。
 しかし、この条文は〝飾り〟以上のものではありません。報道・取材の自由は「保障」でなく「配慮」だけ。「知る権利」は、報道・取材の自由さえ確保されれば保障されるものではなく、必要な情報に自由にアクセス(入手、閲覧など)できる、国民一人ひとりがもつ権利です。
 出版・報道業務の従事者の取材行為について、「法令違反」「著しく不当な方法」によるもの以外は「正当な業務による行為とする」(21条2項)との条文も加わりました。取材を「処罰しない」とはどこにもありません。業務の正当・不当を判断するのは行政や司法。正当な取材でも処罰されうるあいまいさを残しています。
 「知る権利の保障に資する…」とは書けても、「保障する」とはいっさい書けないところに、「知る権利」とは両立しないこの法案の仕組みが凝縮されています。

戦前の日本 相互監視を強要・密告を奨励
 戦前の日本は、軍機(軍事機密)保護法、国防保安法、治安維持法などで侵略戦争の事実を秘密にし、国民生活のすみずみにまで監視を強めました。国民は相互に監視することを強要され、密告が奨励されました。
 たとえば、1938年、広島県呉市内の公園で酒宴を開いている仲間を写真撮影した料理人が検挙されました。「許可を得ずして水陸の形状を撮影」したことが軍機保護法に違反したとされました。
 1943年には、13歳の少女が「非国民」「国賊」と罵倒されて特高(特別高等警察)から殴る、けるの拷問を受けました。与謝野晶子著『みだれ髪』に収録された詩「君死にたまふことなかれ」を、赤線を引いて読んだことが治安維持法違反とされました。少女はこの本が政府から発売禁止とされていることや、治安維持法そのものを知らされていませんでした。